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冬のソナタに恋をして

外島




ユジンを物陰から見たその足で、チュンサンはキム理事と一緒に外島に来ていた。キム理事はチュンサンに、『あと二日でチュンサンがアメリカに帰るので、どこか行きたいところはないか』と聞いたのだった。そこでチュンサンは迷わず『外島にある不可能な家に行きたい』と答えた。

サンヒョクとユジンが結婚した今となっては、もう自分に残されているのはユジンとの思い出だけだった。それでもユジンが愛する人のために設計した心の家があるので、チュンサンはいつでもユジンとの思い出の中に包まれることができた。この家の設計を本格的に手直ししたのは、アメリカに帰国する前の数日間と、アメリカに帰国して手術を受ける前のわずかな日程だけだった。それでも、手術の時に命を落とすかもしれず、目も見えなくなる可能性があることから、チュンサンは必死になって設計図を見直し、立体化し、韓国のどこに建てるのか、また立地が決まると具体的な建築の指示をを考えた。

手術は無事に終わり、血腫は取り除かれて命の危機はだっした。ミヒは今度こそ、自分の息子のそばにとまり込みでなるべくいるようにしてくれた。そして、チュンサンが一心不乱に不可能な家を建てようとしてることを必死で止めた。これ以上体を酷使したら、本当に目が見えなくなると泣いて懇願したが、それでも息子は何かにとりつかれるように作業を続けていた。病身を押しながらも韓国に出向き、低下する視力と闘いながら建築現場に足げくかよった。でも不思議なことに、そんな息子は今まで見たことがないくらい、満ち足りた穏やかな表情をしているのだった。まるで終の棲家を見つけたように、どんどんと安らかな表情になっていく。そしてついにミヒは息子を止めることをあきらめ、全てを受け入れるしかなかった。『ああ、この子は自分の命を懸けてこの家を建てているのだ。この家こそがチュンサンの命そのものなのだ』と思うのだった。

やがて、外島にその家が完成したころに、チュンサンの視力は著しく低下し、ほとんど見えない状態になっていた。チュンサンは家の一つ一つを全てを記憶して、頭の中の引き出しからいつでも取り出して、心の目で見れるようになっていた。そして、ユジンと話したくなるとその都度アメリカから帰国して、数日から数週間をここで過ごすようになっていたのだった。

チュンサンは今、家の中を歩き回っていた。両足で一歩ずつ踏みしめて、何歩で縁に到達するかを確認していたのだった。こうすることで、構造を確認して家の中を自由に動き回ることができるのだ。家の管理人があと1時間で来てくれて、港ではキム理事が待機してくれているはずだった。アメリカに帰る前に、もう一度この家を感じていたかった。

『左足、右足、左足、右足』遠い昔、倒れた木の上をそう言いながら歩いていたユジンに手を差し伸べた自分を思い出した。その時、彼女は自分の手を取って飛び切りの笑顔で笑っていたっけ。


今、彼女はいなくても、思い出の中でいつでも会うことができる。チュンサンは縁まで来た足をの向きを変えると、今度はそろりそろりと壁の方に向かって歩き出した。そして壁を感じると今度は反対方向の壁のまでいき、ヨーロッパの古城のパズル壁画に手を触れた。

それはキム理事がプレゼントしてくれたものだった。しかし、チュンサンが触れた拍子に1ピース落ちてしまったので、床をしばらく探していたが、見つけることができないため、そのままにするしかなかった。チュンサンは海風を頬に感じ、テラスの椅子に座った。そして冷めてしまったコーヒーを飲みながら、海の方向へ顔を向けるのだった。この家は南側に広いテラスがあり、屋根が付いているが窓ガラスがなく開放的な空間にテーブルと椅子が置いてある不思議な造りになっていた。家は海に面した高台にあるため、海や近くの島々がよくみえるのだった。チュンサンは潮風を顔に浴びてうららかな冬の終わりを楽しんでいた。
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