チュンサンはユジンの手を引いて島の中でも高い斜面にある建物に入っていった。その建物はうっそうとした森に囲まれているが、目の前には美しい海が広がり、遠くの島々がよく見えた。チュンサンは、そこは彼が島にいるときだけ身の回りの世話をしてくれる管理人がいる建物だと教えてくれた。しかし、今日は建物の中は無人で真っ暗だった。チュンサンは笑って、キム理事が管理人を島外の自宅に帰したのだろうと言った。それから少年のように目をキラキラとさせた。
「ここからは世界で一番美しい夕焼けが見えるんだ」
そして早く早く、とユジンの手を引っ張って階段を上った。チュンサンが勢いよく2階のバルコニーのドアを開けると、そこには一面の夕焼け空が広がっていた。二人は燃えるように赤い夕焼けをじっと見つめた。夕焼けは東海に浮かぶ小さな島々や船を照らし出し、美しく輝かせていた。寄せては返す波が、夕日を浴びて無数のグラデーションを生み出している。微かに聞こえる波の音が心地よい。ユジンはあまりの神々しい美しさに、感動して何も言えなくなってしまった。
「僕は、いつも君を思い出したくなると、ここに来て夕焼けや海を見ていたんだ。3年前の冬にと東海にいったよね。あの時、二人で海辺で寝ころんだことや、浜辺を走ったこと、コインを拾ったことを思い出して、いつも心の中で君と話してたんだ。だから今も心の目で真っ赤な夕日が見えるよ。」
「あの時のあなたは、私のことを妹だと思っていていたから、とても楽しそうなのに、同時にとても悲しそうだった。あの時の私はなぜなのかわからなくて不思議だったけど今ならわかるわ。あの時の旅行はとても楽しかったから、私もフランスにいた時に、よく思い出しては心の中であなたと話していたのよ。」
すると、チュンサンは顔を歪めて苦しそうに言った。
「でも、今の僕は昔のあの頃の僕じゃないんだ。視力をなくして、いろんなことを人に頼らなければならなくなった。僕といても君はとても苦労することになる。僕はそれだけは嫌なんだよ、、、ユジンは僕といては幸せになれないと思う」
ユジンは海に向かって立っているチュンサンを自分の方に向かせて、自分もチュンサンの方を向いた。そして、彼の心臓の上に手をそっと当てて言った。
「チュンサン、私があなたに不可能な家の模型を渡した時のことを覚えてる?」
「、、、うん」
「その時言ったことをもう一度言うわ。チュンサン、愛してる。今までもずっと愛してたし、離れていた3年間もいつもあなたのことを想ってた。そして、これからもずっと愛しているわ。それは永遠に変わらない」
そして、あのときの様に泣き笑いの表情を浮かべた。
チュンサンは彼女の手の温もりからユジンの真心を感じていた。彼は彼女の手を両手でそっと包み込みながら、うれしくてはらはらと涙を流した。そして、今度はチュンサンがユジンの頬に手を当てて言った。
「ユジン、僕が教会で言ったことを覚えている?」
「、、、ええ」
「神様、愛する女性がいます。その女性は自分よりも大切な存在です。彼女と髪の毛が真っ白な老人になるまで一緒に暮らしたいのです。彼女とそっくりな美しい目を持つ子供の父親になりたいのです。たとえ、この目が見えなくとも、愛する彼女とわが子のために温かい手になり、力強い足になりたいのです、、、、、愛しています」
今度はユジンが涙を流す番だった。ユジンはチュンサンの手を両手で包み込み、頬から伝わる愛情を感じていた。
「神様、こうして彼と再び会わせていただいたことに感謝します。彼が今生きていること、私を変わらず愛してくれていることに感謝します。ただ一つの望みは、彼と命尽きるまでともに過ごすことです。彼の目となり一緒に歩み続けたいのです、、、、、愛しています。
夕日は今まさに遠くの島の向こうに沈もうとしていた。2人は最後の日の光を浴びながら見つめ合った。今チュンサンの目にはユジンの姿がはっきりと見えていた。チュンサンはユジンの顔にもう一度触れた。髪の毛、眉毛、まつ毛、瞳、鼻、耳、そして唇、、、ひとつひとつ慈しむように触れていく。そして2人の影が重なり合い、そっと唇が触れ合った。一度離れてまた重なり合い、、、2人はもう2度と離れないと互いを固く抱きしめ合うのだった。
https://youtu.be/qU1P-A8wCtU?si=SQuKISkG33v6nRDg
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