眠れる小鳥

本とゲームの感想を書いたりします!!日々のことも書くかも…?

好きを語れるようになりたい…

『シロナガス島への帰還』のノベライズを読みました!

2024年01月06日 16時27分05秒 | 小説

鬼虫兵庫『シロナガス島への帰還』上下巻 感想を書きました!


まずはじめに、こちらはノベライズの感想です!原作はインディーアドベンチャーゲームです!!
ゲームもすでに購入済みですが、まだ遊べていないです…なかなか時間がつくれなくて。春までには余裕を作り出すので近いうちにします。ゲームも遊び終えたらまた感想書くかもです!!


タイトルにあるシロナガス島とは、アラスカの西側に広がるベーリング海のどこかにあるという架空の島のこと。その島を舞台にしたミステリでホラーでSFでグロ要素あってサスペンスな探索系アドベンチャーです!
めちゃ盛りだくさん!それでいて一つの作品としてごちゃごちゃしていないです。これらのどれかでも好きならきっとすごく楽しめるのでは……と思います!元はゲームなので雰囲気がゲーム寄り、同時に完璧に小説としてぐいぐい読ませます。すごくすごく楽しく読んじゃいました!!

主人公はアメリカで私立探偵をしている男・池田戦。裏でよくない連中と繋がっているとかなんとか黒い噂が絶えない探偵です。そんな彼のもとに、はるか日本から知人である少女・出雲崎ねね子が飛行機に乗って遊びにやってきます。
二人が合流していざ……というところで池田に依頼の電話が入ります。ねね子を置いていけないと思った池田、二人して取り急ぎ依頼者の家へと向かいます。
電話をかけてきた相手は、池田が取り掛かり中の仕事のお客さんの女性。素行調査対象の父が突然の自殺、その理由を池田たちは即座に探り出します。見つけたのは一つの島の名前、それがシロナガス島なのでした。
女性のお願いで、池田とねね子はその男性の死の真実を追うべく、謎のジャミングが覆う海域を船の移動でシロナガス島へと赴くのです。

池田戦は腕利きのおじさん探偵。客人との会話や容疑者の事情聴取で見せる鋭い指摘が超絶かっこいいです!だいぶ皮肉屋。おじさん感もたっぷりで実に良き主人公です!
出雲崎ねね子は十代の少女。根深いコミュ障で初対面の人とは会話ができない女の子。彼女のすごさは、見たものを完全記憶できるという天才的な能力です。親しい池田におどおどしたマウントを取る姿がかわいいです!

池田のキレッキレの推理力とねね子のスーパーな記憶力を駆使した謎解き探索が、緊張感と爽快感とタイムリミット迫る咄嗟の判断もいっぱいあってすごくおもしろいのです!

絶海の孤島で起きる殺人事件、屋敷に招かれた信用おけない客人たち、そして屋敷の管理者側も何かがおかしくて……島を密かにうろつく奇妙な生物、秘密裏に島の裏側で行われていたらしい闇のほのめかし。何者かに命を狙われるギリギリな渦中の謎解き、このスリルが心を躍らせるヒヤヒヤ感ですごく楽しかったです!
張り巡らされた島の管理網に後戻りは不可能で、池田たちは生き延びるため島の暗部へと踏み入れます。ついに知ることになる凄惨な事実、その事実に隠されて島で密かに生まれた、無垢に息づいていた心と心の強い繋がりを知ります……。
最初から長らく恐怖の連続に震えていたのが、明かされていく真実に対峙して沁みるような切なさと愛おしさが込み上げてきます。あまりにも痛ましくて、でもそこにはかけがえのない幸せの時間が根ざされています。
島の因縁と立ち向かい、願いと想いに心を添い寄せる終盤は涙がこぼれました。読み終えて、胸の奥がじーんとする深い余韻がありました。


ハラハラドキドキと切なさが込み上げるアドベンチャーゲームが好きな方に全力でおすすめしたい作品でした。
私はまだ小説版しか読んでいないため、近いうちに遊ぶつもりの原作のゲームで味わえるビジュアルとシーン演出、BGMなどなどをすごく楽しみにしています!
以上、『シロナガス島への帰還』のノベライズの感想でした!

ではです!!

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『平面いぬ。』 感想

2023年10月13日 19時48分29秒 | 小説

乙一『平面いぬ。』 感想です!

ホラー×切なさが心を打つ短編集。
初期の乙一作品の良さがぎゅっと詰まった4編です。


「石ノ目」

地方に古くから伝わる昔話・石ノ目は、暗い夜道で背後に感じる気配に対し、つい振り向いて目にするとその途端に石と化してしまう…という怖い話。和風メデューサのような怪奇が、山間で迷った男性教師2人に降りかかります。彼らは無事に帰還できるのか…
年老いた女性が暮らす、古民家に滞在する教師2人。生物を石に変える力を目の当たりにして女性の怪奇性が増す、背筋のぞぞぞっとなる嫌な感じがあります。ここでホラーの枠にとどまらず、心痛ましいある事情を融合させてくる技巧がさすがです…。恐怖心が哀切さへと変わる、その不思議な感覚がすごくよいです。
思い返せば人の思いが年月を交差する、悲しい物語でした。


「はじめ」

小学生の耕平と淳男が不都合を理由に生み出した、はじめという名の女の子。彼女は擦り切れた格好をしていて抱える環境も良くなくて、という設定をつけ人身御供にしていたら、なんと2人の前にはじめが現れて…どうやら幻覚のよう。耕平と淳男とはじめ、行動を共にするうちに3人は徐々に友情で結ばれていくのでした。
私の一押し短編です。はじめの存在が、2人にとって幻覚でありながら心の底から大切なものになる、絆の繋がりがとにかく愛おしいんです。
関係は悪友に近い3人。年を重ね中学生になり、高校生になり…変わると変わらないの間でたゆたう友情が、たどり着く場所。一介の幻であることを承知の上で2人の男子に寄り添うはじめ、明かされるその理由に思いが込み上げてきます。


「BLUE」

ぬいぐるみが5体、それぞれ王子と王女と騎士と白馬、そしてブルーという端切れでできた女の子。買われてやってきた家で愛を向けられますが、ただ1体ブルーだけが皆からはぶられてしまい。彼女は同じく嫌われる男の子の遊び道具になり散々な目に陥りますが、少しずつお互いに思いを向け合い始めて…
ぬいぐるみが動く恐怖、ファンタジックにはなれないのがリアルです。ブルーの視点が多い物語。家に住む面々の疑念が、いつ膨らんではじけるかとヒヤヒヤします。
底意地悪い登場人物の多さに目が行き、それに対応してブルーの純粋性が眩しいです。でも彼女は心がきれいすぎるんです…結末にはあまりの悲しみでした。


「平面いぬ。」

クラスメイトの縁で、腕に刺青の犬を彫ってもらった女の子・鈴木。可愛らしい犬は、なぜか動き出し、気ままに体中を転々とし始めます。うなったり吠えたり、言うことを聞かなくて、すっかり飼い犬を世話する気分で愛着に心躍ったり。そんな彼女は家族との不和が著しく、反抗的振る舞いをする日々に、衝撃の事実である両親と弟の余命僅かの宣告を知ってしまうのでした。
家族との深いすれ違いが、犬の刺青のユーモラスに程よいバランスで微笑ましく読み進められます。
刻々と迫る命の終わりに悔いを捨てていく家族と、一人残されるのが確定している鈴木。このままそのときを迎えることを考え始める、彼女の不器用な心の揺れ動きが真っ直ぐに伝わります。迷える彼女の決心とその終着に、心からの優しさが溢れました。


乙一先生の小説、あれやこれやの過去作品も新装版で再集録されないかなと思いつつ、心ゆくまで楽しめました。

コメント (2)
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『田舎教師』 感想

2023年10月08日 14時49分02秒 | 小説
 

新潮文庫 田舎教師 (改版)

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田山花袋『田舎教師』 感想です。


若い野心の行く先に待つ、大人の纏う諦念との衝突がとても苦い作品でした。

田舎の学校の教師に就いた青年・清三の、貧乏を身に背負いつつも若き情熱を持った日々が、俗な世の中に堕ち、迷い立ち行かず、心に陰りが生まれていく物語。


先生になったばかりの清三は、住み家を探したり友人との交流に笑ったりと暮らしを固め、その志と思いはまだ上向きでした。しかし気づけば霧中におり、見えない前途が立ち塞がり、繰り返される女性との一夜と流れ出ていくお金……迫りくる行き場のない鬱屈が不安を誘います。挫折してわが身を省みて、一心になって生きる彼の、ある種の純粋性を感じさせる終盤、たどり着いた結末に胸を衝く悲しみがありました。


小説の前半、中盤、後半でそれぞれ雰囲気が異なる、おもしろい特徴のある物語でした。純文学でありながら、一人の青年の苦心の生を描いた青春小説とも読めます。
書かれたのは明治42年(1909年)、その当時の風俗も垣間見えて興味深かったです。

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『ブルターニュ料理は死への誘い』 感想

2023年10月02日 19時27分53秒 | 小説
 

二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション ブルターニュ料理は死への誘い

フランス、ブルターニュ地方のリゾート地ロクマリア村。51歳、バツイチのカトリーヌは心機一転、この地で元公爵邸を購入し、レストランを開くことにする。社交的な彼女は...

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マルゴ・ル・モアル&ジャン・ル・モアル『ブルターニュ料理は死への誘い』 感想です。


フランスのミステリ小説です。ル・モアル夫婦が作品を書かれています。古典ではなく現代小説というところに興味をもち読みました。
現代のフランスを垣間見ることができたのかはフィクションなので定かではないのですが、馴染み無い人間関係の構築や織り成す文化に触れることができました。ははあ……とか、えっ、とかいろいろありました!

フランスの北西の端にあるブルターニュ地方、その中の一つの村であるロクマリアが舞台。村に建つ立派なお屋敷は、住む人不在……そこに遠方から引っ越してきた五十代の女性カトリーヌが主人公です。
彼女はとても社交的。人々との交流に赴き熱い歓迎を受けるのですが、よそ者をよく思わない方々も当然いて。彼女が開いたレストラン、嬉しいことに大きな賑わいを見せるのですが、そんなある日の夜、なんと死者が出てしまうのでした。


ミステリ的な謎解きは薄いですが、地方の暮らしを味わえたり人々の込み入った面倒な関係性を楽しめたりと深く楽しめました。結末は苦くもあり温かくもあり……でした。
カトリーヌがわりとぐいぐいいくタイプなので次々に波乱を呼び、見ているだけでも楽しいです。彼女は一見して積極的、でも心の奥には過去の男女関係の傷を持っていて、ふとしたときに彼女を不安に落としたりもして。カトリーヌの成長譚というと少しずれてしまいますが、心の揺れ動きと歩み出しをじっと見守ることができました。
人間というものの一筋縄ではいかない厄介さ。年を重ねいくつになっても女は女で、男は男なんですね……。彼女がいつか、澄んだ笑顔を浮かべられる日が来ることを祈って。

私的には、もう一人の主人公というべき男性エルワンが大好きでした。彼は素行不良で態度もよくないです。でも、それには確固とした理由があり、同情を禁じ得ないんです。そんな彼が、カトリーヌのレストランでシェフをすることに。
彼の表面のひねくれと心のうちの真っ直ぐな芯が、場を荒らしもし、熱い勇気をくれたりもします。村人から問題児扱いで馬鹿にされて、それでも折れずに立つエルワン、かっこいいです。彼の未来、ずっと応援してます!


悲しい出来事も、負った傷も、手にすることができた宝物も。最後にはしんみりしつつも笑顔になれる物語でした。純粋に頑張っている、カトリーヌとエルワンのこれからにいっぱいの幸せを願っています。

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『黄金蝶を追って』 感想

2023年09月26日 21時42分05秒 | 小説
黄金蝶を追って

黄金蝶を追って

内容紹介
もしも日曜の次の日が“自分だけの一日”だったら?(「日曜日の翌日はいつも」)
買ったマンションに前

honto

 

相川英輔『黄金蝶を追って』 感想です!


普通からずれた少し不思議の世界の介在と、人々の生を現した短篇集。6つの物語。
心に切に伝わる語りがとても魅力です。文学性とSF・ファンタジー要素の融合が好きな人に超絶おすすめかも!
以下、短編ごとの感想です。


「星は沈まない」
コンビニ業界で日々奮進した年月が、いまや過去に。左遷されて60歳近くにしてコンビニ店長を務める男性・須田が、コンビニに実験的に初導入されることとなったAIと出逢います。
須田が駆け抜けているのは、1980年代から今現在にあたる2020年代まで。時間が流れ続け、時代がいくつも重なっては地層となり、そして今に至っていること。
広がり続けるこの世界は輝きに満ちていて、そのことが目がくらむほど眩しくて美しいです。
AIがいる世の中に、希望を抱かずにいられない、力を出し合って未来へと続いていくと信じられそうな……そんな素晴らしい物語でした。

 

「ハミングバード」
お値段的によかったマンションで、幽霊が生活している事実に困惑する裕子さん。その幽霊・大江さんは自分の前にここで暮らしていた男性で……。
何事もなしにマンションの一室で暮らす幽霊の大江さんの日常が、自分の日常を視覚的に邪魔をするというのはかなりの恐怖かも。風呂の時間に寝る場所など避けるようにする裕子さん、自分の住処なのに気を使うのも大変ですね。
この物語の焦点は、惹かれる、ということかなって。大江さんの抱える事情も、裕子さんの若さ溢れる男の子に揺れる淡い想いも、全部が愛しいです。
終わり方も光さすようで素敵でした。

 

「日曜日の翌日はいつも」
水泳にひたむきな北村は、最近なぜか日曜日のあとに月曜日が来なかったりする。その日は、自分以外が存在しない世界。そんな一日を、彼はプールで水泳の上達を目指し特訓を続けます。
北村の中に根差す悩みは、自分のせいで将来有望とされた一人の女の子の水泳の未来を奪ってしまったこと。彼はひどく後悔し、贖罪として重く責任を抱えています。
自分が水泳を成すことで、女の子・谷川への罪滅ぼしをしているともいえます。谷川のことを心の奥でずっと追いかける北村。ないはずの日に囚われて、それでも彼女を、と。
北村が追いかけるという構図が、最後までたどり着き知る事実に、熱が込み上げました。こういうエンディング、もの凄く好きなんです!

 

「黄金蝶を追って」
表題作です。小学校にて描いた絵、そこで見つけた金色の蝶に見惚れた誠。描いた本人である達也に会いに行って、親しくなり育まれた友情は唯一のもので。しかし年を経て大きくなり、二人はいつしか変わっていきます。
絵を描くことを共通点に繋がる友情が、とても深いかけがえのなさを感じさせます。誰も入り込めないような特別な関係性、大好きです。
危ない方向へと進む達也と、絵を描いて暮らすようになる誠。交わりの一度途切れた二人が、再び引き寄せられていく様と、大切な言葉だけで綴られたやり取りに胸が締め付けられました。
あの日固く結ばれた友だちに、永遠というものを信じたくなる物語でした。

 

「シュン=カン」
悪さをしたとみられ投獄されたシュン=カンは、遠い星で労働の日々を送っています。彼の仲間も一緒に労働。そんな環境下でも、互いに抱く親愛の念は変わらないままで。そんなおり、仲間だけに帰還の令が下ります。
「星は沈まない」との関連性ありなので、こちらはのちに読むのが推奨とのことです。この繋がり、じーんとしますね。
自分をなげても親しき人の幸福を願うこと。正しさなんてゴミのような世界におかれたシュン=カンが、自身の気高い心を捨てない姿、人間とは、信念とはと考えさせられます。
未来への道を繋ぐのは、切れないくらいの愛のかたちなのかも。

 

「引力」
ノストラダムスが世を暗中にしていた頃を思う葉子。ご飯をあげていた猫が裏庭に亡くなっているのを埋葬すべく、彼女は一人の男の子を呼び出します。合コンをきっかけに親しくなった彼と、車で山中へと向かうのですが……。
日常が終わるかもしれないことを、恐怖の大王が教えてくれていたのが、実は無意味なことではなかったのかもしれないと思わせますね。
何かを恐れるというのは、予防といえますし、危機意識といえば響きもよくて、穏やかな日々に遠のいていた不安の意味をはっと気づかされた物語でした。
猫の死が日常を壊すものだと、すぐに気づけない。
強く叩けば割れる世界にいることを、思い出します。そして、終わりを拒絶しない人も、おそらく世には少なくないのでは。


びっくりするほど楽しめた短編集でした。
語られることにより、自分の中で精算されていない感情が少しだけ言葉にできたような、そんな心持ち。伝うることって、すごく大切ですね。

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