大濱普美子『猫の木のある庭』 読みました!
日常生活の中でひそかに介在する幻想的事象、切迫と不安に導かれ露出する精神性と見えざるに在る愛の所在を感受する6篇の物語。
「猫の木のある庭」
猫たちが地面の下に眠っている木と正体不明に聞こえてくる鈴の音、引っ越した先で飼い猫と暮らす日々の始まりから終わりまでを描きます。
生きとし生ける誰もがみんな、夢を見ているのかも。あなたとの別れも、夢だったなら。
癖のある老いた家主が強烈な印象を残した物語でした。
「フラオ・ローゼンバウムの靴」
お隣さんのローゼンバウムさんが亡くなり、受け取った遺品の靴。一見変わりのないその靴に、呪いのような影響を与えられてしまいます。
それは怨念のようでありながら、秘められているのは一人の人間のべったりとした思いであり。
それを悪と捉えないことの大切さですね。
「盂蘭盆会」
古い家に暮らすのは姉家族と妹。妹の視点から、家に芽吹いた幸せと平穏とおしまいと、そして今、彼女は死した人を迎える準備をしています。
床の軋みに柱の色合い、家に漂う空気が心に感じられる物語。
積もり続ける時間の蓄積がつながり、再び会えること、彼女の本心は何を思うのだろう……。
「浴室稀譚」
入浴施設を持つ大家さん。部屋を借りた二人の女性が生活のためにお金を稼ぐべく、公衆浴場の掃除を請負います。
相手の心が見えなくても仲良く過ごせるのは素敵なこと……?
わかっているはずだったのに、何もわかっていなかったと気づいたら。急角度の暗転。
「水面」
医院で勤めた経歴で就いたのは、一人の女性の生活のサポート。その女性が大切に抱く赤ちゃんは、どこか不思議なところがあって。
生まれいずるとはかけがえなく、運命はたくさんの人で共有されるもの。希望の表現が美しいです。
誰もがみんな、最初の初めはきっと眩しい世界のはず。
「たけこのぞう」
絵描きのお母さんと幼少から暮らす娘さん。いつもぶっきらぼうだったお母さんとの思い出は、思い返せば不思議なことがいっぱいで。
大切に思う気持ちが一方通行ではないとするのなら。好きなんだって伝えることができたら。
二人それぞれの視線に映るもの、美しい余韻がありました。
純文学のような表現と恐れ怖さが忍び寄る、深みをもって醸成された幻想小説でした。6つの短篇は、どれも静謐な筆致で語られ、感情の滴が心の中に沁み渡ります。
表題作の「猫の木のある庭」が一番のお気に入り。珠玉の短篇集でした。
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