恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

小説を検索しやすくするためインデックスを作りました

インデックス 茶倉譲二ルート…茶倉譲二の小説の検索用インデックス。

インデックス ハルルートの譲二…ハルくんルートの茶倉譲二の小説の検索のためのインデックス。

手書きイラスト インデックス…自分で描いた乙女ゲームキャラのイラスト記事


他にも順次インデックスを作ってます。インデックスで探してみてね。



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『忍び寄る影』~その1~その4

2015-03-02 08:10:50 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

☆☆☆☆☆

 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


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『忍び寄る影』~その1


〈奈実〉

 伊藤くんからメールがきた。


『先輩、その後いかがですか?


 奈美さん(と呼んでもいいですか?)

あれから元旦那さんからは何かありましたか?

どうなったか、気になっていたのですが、仕事が忙しくて連絡できず、すみません。

もしよかったら、近況など教えてください。
                    伊藤』



『ごめんなさい


伊藤くんには心配してもらったのに、連絡もせずすみません。

今のところ、彼からは何の接触もないのでホッとしています。

あれから、家には近寄っていません。

とりあえず、すぐに必要な物もないので。

今はクロフネという喫茶店の二階に間借りしています。

                   奈実』


 伊藤くんのメールのことは譲二さんには話さなかった。

 メールが来たとき、お客さんが立て込んでいて話しそびれてそのまま忘れてしまった。

 思い出した時には譲二さんはちょうどお風呂に入っていてやはり話せなかった。

 そして、前に伊藤くんの話が出たとき、譲二さんはちょっとヤキモチを妬いたみたいだったから、話さない方がいいかもしれないと思い直した。

 男性は自分の前で他の男性の話をされると不機嫌になるみたいだし…。


その2へつづく


☆☆☆☆☆

『忍び寄る影』~その2

〈譲二〉

 朝食の時に奈実が自分の家に行って取って来たいものがあると言い出した。

 それも今日行って来るという。


譲二「明日では駄目なの?」

奈実「仕事に必要なものだから、どうしても今日行きたいの。
それにそろそろ秋冬物の服も取って来ないと」


 今日は昼から商店街の寄り合いがあって、どうしても彼女に付き合うことができなかった。

 しかし、奈実一人で行かせる気にはどうしてもならない。

 彼女を説得しようとあーだこーだと言っていると、ひょっこりと理人が現れた。

 



理人「あー、眠い…。マスター、コーヒーちょうだい」

 



俺はコーヒーを出しながら尋ねた。



譲二「りっちゃん、今日は暇?」

理人「今日は特に用はないけど…、マスター、なんかあるの?」


 俺は奈実が自分の家から取って来たいものがあるが、寄り合いがあって俺がついて行ってやれないという話をした。


理人「つまり、僕に奈実さんのナイトをして欲しいってこと?」

譲二「ああ、そうだよ」


 俺は気が進まないものの、そう答えた。

 寄り合いに行かないといけない時間はだんだん迫っているし、奈実を一人で行かせるのは心配だ。

 理人は奈実と2人で出かけるということで、妙にテンションが上がっている。


理人「奈実さん、僕と恋人のふりをして行こうね?」

奈実「恋人というより母親と息子のふりをしようよ?」


 俺はまたあのパーカーと野球帽を取って来た。


譲二「これを着て、りっちゃんの弟になりなさい」

理人「え?奈実さんが弟?」

譲二「そう。なるべく、女性には見えないように気をつけて。使い捨てマスクがあるからそれで顔を隠して」

奈実「ちょっと用心し過ぎじゃない?」

譲二「俺のいうことが聞けないなら、家に行くのは明日にしてもらうよ」

理人「奈実さんも大変だね。年下なのに亭主関白な恋人で」

譲二「りっちゃん!」


 奈実はお腹を抱えて笑っている。

 


その3へつづく


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『忍び寄る影』~その3

〈奈実〉

 自分の家から荷物を取ってくるために、りっちゃんと一緒に出発する。


譲二「俺も話しあいが終わったらなるべく早く帰ってくるから…。部屋への出入りはくれぐれも人に見られないように気をつけて…。
りっちゃん、頼んだよ」

理人「任せといて」

奈実「行って来るね」

理人「こういうの、探偵みたいで楽しいね」

奈実「そうでしょ?前の時は譲二さんも結構楽しんでたんだよ」

 


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 久しぶりに自分の家に入った。


奈実「なるべく早く荷物をまとめるから、テレビでも観て待ってて」

理人「お構いなく…。あれ?電子ピアノがあるじゃん?」

奈実「ああ、前に大人のピアノ教室に通うので買ったんだけど、最近触ってないから埃被ってるでしょ?」

理人「待ってる間、弾いててもいい?」

奈実「あ、どうぞ。好きに使って」


 私が荷物をまとめている間、りっちゃんは次々に曲を弾いて、リサイタル状態だった。

 プロの演奏をタダで聴いて得した気分。


〈譲二〉
 2人はまるで遠足にでも行くように楽しそうに出かけた。

 俺は一つ溜息をついた。

 心配だ…。

 すごく心配だ。

 奈実一人で行かせるよりはマシだけど…。

 どうせ任せるならハルあたりが一番信頼できるんだが…。抜かりもないだろうし…。

 だがまあ、仕方が無い。


〈奈実〉
 りっちゃんと何事も無くクロフネに帰ってきた。

 譲二さんはまだ帰ってなかったので、鍵を開け、りっちゃんにカフェオレを作って、飲んでもらう。

 その間に急いで着替えて降りてくると、譲二さんから電話が入った。

譲二「今どこ?」

奈実「もうクロフネに帰ってるよ。りっちゃんにカフェオレを飲んでもらってるとこ」

譲二「そっか。何もなかった?」

奈実「うん、大丈夫」

譲二「よかった。俺ももう少しで帰れるから。りっちゃんにはありがとうって言っといてくれる?」

奈実「わかった」


理人「マスター?」

奈実「うん。そうだよ」

理人「奈実さん、愛されてるね」

奈実「そう? 心配性なだけだよ」


そう言いながら、まんざらでもなくて、私はふふっと笑った。

その4へつづく


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『忍び寄る影』~その4

〈譲二〉
 奈実が荷物を取りに行ってから何日か経った頃だった。

 一護が自分の作ったケーキを持って来てくれた。ハルも一緒だ。


譲二「あ、いらっしゃい。いつもありがとう」

一護「マスター、向かいの角に見たことのない男が立ってたぞ…」

春樹「俺たちがジロジロ見たら顔をそむけてた」


 俺は店の奥を伺った。

 そこでは奈実が百花ちゃんと楽しそうにおしゃべりしている。


譲二「どこにいるか教えてくれる?」


 2人を伴って店の窓からそっと伺う。

 道の向こうの角にスーツ姿の男が立っているが、少し遠くて、顔はよくわからない。

 奈実の元旦那の顔を思い出そうとしたが、既にあやふやになっている。


一護「例の旦那なのか?」

譲二「いや、よくわからない」

春樹「俺、声をかけてみましょうか?」

譲二「いや、関係ない人間かもしれないし、俺たちが怪しんでいることは知られないほうがいいだろう」


 もう一度、窓から覗くと男の姿は消えていた。

 奈実には怪しい男のことはひとまず隠しておくことにした。

 俺たちの思い過ごしかもしれないし、あやふやな状態で話して奈実を怖がらせるのもかわいそうに思えた。


☆☆☆☆☆


 厨房の流しで、奈実と百花ちゃんが楽しそうにおしゃべりしながら食器を洗っている。

 それを横目で見ながら、ハルがそっと話しかけて来た。


春樹「譲二さん。さっきの男がストーカーで、もしストーカー行為がエスカレートしそうだったら、俺に相談してください。
弁護士として、色々アドバイスは出来ると思います」

譲二「ハル、ありがとう。何かあったらまた相談するよ」

一護「マスター、俺はハルと違ってあんまり役に立たないかもしれないが、出来ることがあれば言ってくれよな」

譲二「ああ、一護もありがとう。それと、二人とも奈実に黙っていてくれて助かった」

その5へつづく


『ふたり暮らし』

2015-02-27 07:48:35 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

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 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


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『ふたり暮らし』~その1


〈奈実〉

和成さんから隠れるためという理由で、クロフネでの同棲生活が始まった。

あれから和成さんからの接触は今のところない。

伊藤くんには「知り合いのところに下宿させてもらうことになった」とだけメールを入れた。



譲二さんのために色々してあげられるようになったのが、私には嬉しかった。

朝食の準備を2人でしたり、譲二さんのカッターシャツにアイロンをあてたり。

忙しい時間帯はクロフネの手伝いもした。

昼食は交代で賄いになるけど、夕食は2人で相談して作る。

同じメニューでもそれぞれのレシピは異なっていて、レシピの交換も楽しい作業だ。


常連さんからは

「あれ新しいバイトの子が入ったんだね」

「百花ちゃん以来だね」

「バイトは美人さんばっかりで、マスターも隅に置けないね」

と言われて、ちょっとくすぐったい。

譲二「奈実には自分の仕事もあるんだし、無理しなくてもいいのに」

奈実「ここに置いてもらうんだから、自分の食い扶持くらい稼がないと」


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ハルくんとタケくんに話を聞いてもらっている。

変装してクロフネまで来た話は2人にひどく受けた。


春樹「その2人の様子、見てみたかったなあ」

剛史「ニンジャの扮装が必要だったら、また貸しますよ」

奈実「え?ニンジャ?」

春樹「それなら俺も魔法使いの扮装ならお貸しできます」


私は吹き出してしまった。


奈実「それどういうこと?」


 笑いころげる私に2人は代わる代わる高校時代のクロフネでのハロウィンの話をしてくれる。


奈実「わあ、そのみんなの仮装ぜひ見てみたかったなあ。今年のハロウィン、仮装でパーティしない?」

春樹「ええ? 仮装ですか…」

剛史「いいですよ」

奈実「ふふっ。それで譲二さんは何の仮装をしたの?」

春樹「譲二さんはあの時仮装しなかったからなあ」

奈実「そうなんだ。じゃあ、今度は何を着せよう?」

剛史「マスターの仮装か…」


 その時チャイムがなった。


奈実「あ、りっちゃん」

理人「みんなで何悩んでるの?」

奈実「今年のハロウィン、譲二さんにも何か仮装をさせようと思って」

理人「ハロウィンの仮装なら、奈実さんは何着るの?」

奈実「私?」

理人「マスターはメイド服が大好きみたいだから、奈実さんもメイド服を着せられるよ」

奈実「ええ⁈40過ぎた女にメイド服なんて無理!」


 そこへ譲二さんが割って入る。


譲二「奈実にメイド服なんて絶対に着させません」

剛史「断言した…」

春樹「聞いてたんだ…」

理人「マスターずるい!僕らの百花ちゃんには『絶対メイド服だ』なんて言って着せといて、自分の彼女には着せないなんて」

譲二「ずるくありません」


その2へつづく


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『ふたり暮らし』~その2


〈奈実〉

 

 若い常連さんたちの中でも、剛史くんとは特に気があった。

 私がボケてみせると絶妙なタイミングで、突っ込んでくれるし、タケくんの好きなマンデーは昔少年マンガの方が好きだった私の愛読書だったから。

さすがに今は読んでないけど、今の作品でも気に入って単行本買いをしているものがあるので、マンガの話ではいつも2人で盛り上った。

 そんな時は後で譲二さんがヤキモチを妬くのでおかしかった。


譲二「奈実は若い男に囲まれてると、生き生きしてるんだよな。」

奈実「あらっ、私は若い男性の精気を吸って若返ってるのよ。知らなかった?」

譲二「え?」

奈実「今一番私が精気を吸い取っている若い男性は、クロフネっていう喫茶店でマスターをしている人なんだけどね」


 譲二さんは苦笑しながら私を抱きしめる。


譲二「奈実にはかなわないなぁ…。俺をこんなに夢中にさせて…」

 



〈譲二〉
 ひょんなことから奈実と同棲することになった。

 本当は彼女と早く結婚してしまいたいところだが、俺の不安定な収入を思うとプロポーズはためらわれた。

 だから、次善の策として同棲はずっと考えていたことだった。

 でも、彼女は一人立ちした大人の女性だし、俺より9歳年上というのをひどく気にしていたから、その話の持って行き方をどうしようかと悩んでいた。

 それが元夫から彼女を守るためという大義名分ができて、2人で暮らせるようになったのだ。

 今のところ元夫からの接触はなく、ちょっとホッとしている。

 大げさな逃避行も奈実の安全を考えてのことだったが、今は笑い話になっている。

 女性との二人暮らしは百花ちゃん以来だが、奈実と暮らすのは毎日が新鮮な驚きに満ちている。

…なんていったら大げさだろうか?

 今まで一人でしていたことを2人でするようになり、日々のちょっとした相談事も奈実には気軽にできる。

 俺はいろんなことを自分の中に溜め込んで、1人で解決しようとするところがあるが、奈実にはどんなことでもぽろっと漏らしてしまう。

 可愛らしく見えてもやはり年上の女性だから、俺はうまくあやされているのだろう。

 それでいて、奈実はまるで俺の力で解決しているようにうまく思わせてくれるのだ。

 俺はもう奈実に夢中だった。寝ても覚めても彼女のことを考え、彼女のために何かしたいと思っている。

 


その3へつづく


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『ふたり暮らし』~その3


〈譲二〉

 

 ハルやタケたちにせがまれて奈実を紹介した時には、彼らと奈実がここまで親しくなるとは思っていなかった。

 しかし、奈実がクロフネに毎日いるとなると、以前のように毎日集まることは無いとは言っても、彼らとの接触は多くなる。

 あいつらといる時の奈実は水を得た魚のように生き生きしていて、俺の嫉妬心をあおり立てる。


奈実「だって20歳も違うんだよ。譲二さんと違って、親子という可能性だってある年齢差なんだよ。
あの子たちだって、恋愛感情抜きで話せるから懐いているに決まってるじゃない」


 そういって、奈実は笑い転げる。


譲二「そうは言っても、奈実は俺といる時より楽しそうに見える…」


 なおも奈実は笑いながら俺を抱きしめた。


奈実「私が一番楽しいのは譲二さんと一緒にいる時に決まってるじゃない。
そんなの譲二さんが一番わかっているくせに…」


 そして、背伸びして俺の首に手を回すとキラキラした目で俺を見つめる。

 そうなると俺は彼女にキスせずにはいられなくなる。


 ただ、あいつらが俺たちの中に加わってよかったなと思うことが一つあった。

 20歳年下というあいつらがいるだけで、俺との9歳の年齢差をあまり気にしなくなったことだ。

 年齢という線引きで考えると、俺はどうもあいつらではなく、奈実と同じグループになるらしい。

 俺と付き合い始めたばかりの頃より明るくなった奈実をみて、ほっとしている。


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 窓からの月明かりの中、奈実と抱き合っている。素肌に奈実の柔肌が触れて心地よい。


奈実「私もう譲二さん無しでは生きて行けない…」

譲二「ありがとう…。俺も奈実無しでは生きて行けないよ…」

奈実「ずっとずっと一緒にいてね」

譲二「ああ、もう離さないよ…」

奈実「離れようとしても、しがみついて離れないから…」

譲二「それは嬉しいな…。俺、奈実が思っている以上に奈実に夢中だから…」


奈実が俺の胸に顔を埋めた。

 俺は奈実を妻にするために、実家の手伝いをすることも検討し始めた。

 


 

『ふたり暮らし』おわり。続きは『忍び寄る影』です。



思いがけないひと~その4~その6

2015-02-21 08:23:59 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

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 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


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思いがけないひと~その4


〈奈実〉
メールの着信音がした。


 届いたメールの発信者を見て驚いた。

 譲二さんにも話した以前の会社の後輩、伊藤くんからだった。

『先輩、お元気ですか?


ご無沙汰してます。

先輩が離婚され、会社も辞めてから随分立ちますね。

メアドが変わっているかもしれないと思いながらも、とりあえずメールを打ってます。

昨日、先輩の元旦那さんが俺を訪ねてきました。

先輩の住所や電話番号を聞かれました。

どうしても渡したいものがあるとかいうことでしたが、適当に誤魔化しておきましたよ。

確か先輩の離婚理由はDVだったですよね。

俺以外の人間にも聞き回ってる可能性があるので、気をつけてください。

                           伊藤』

 伊藤くんに電話してみる。


奈実「もしもし、伊藤くん?」

伊藤「あ、明石さん…いや、先輩は姓が変わってるんですかね?」

奈実「ううん。姓は明石のままだよ。今の仕事を始めたのは離婚前だったから、前の姓をそのまま使ってるの」

伊藤「そうですか…。じゃあなおさら特定されやすいですね…。
メールにも書きましたけど、ちょっとヤバいかんじがするんです。
あの旦那さん、俺と話す時笑ってましたけど、目は笑ってないというか…。
場合によったら警察に相談した方がいいかもしれません」

奈実「でも、まだ何も実害がないから、相手にしてもらえないんじゃないかな…」

伊藤「だったら…友人の家かなんかにしばらく泊めてもらった方がいいかもしれないですよ」

奈実「そんなに…」

伊藤「俺の杞憂だったらいいですけど…」

奈実「わかった。泊めてもらう当てはあるにはあるから、伊藤くんのアドバイスに従うことにするよ」

伊藤「そうしてください」

奈実「ありがとう」


 この間、和成さんに偶然出会ったことを思い出す。

少し、寒気がした。


その5へつづく


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思いがけないひと~その5


〈奈実〉
元の仕事の後輩の伊藤くんから元夫が訪ねてきたと教えられた。

伊藤くんはしばらく友達の家に身を寄せたほうがよいとアドバイスしてくれた。

 直ぐに譲二さんに電話をかける。

奈実「譲二さん」

譲二「奈実、どうしたの?こんな時間に?」

奈実「あの…、この間話した後輩からメールが来て」

譲二「一緒にプロジェクトを担当したという人?」

奈実「うん。それで、あの…和成さんが伊藤くん、あ、後輩は伊藤くんというんだけど、その伊藤くんを訪ねて私の住所や電話番号を聞いたらしいの」

譲二「それで、その人は教えたの?」

奈実「ううん。うまく誤魔化してくれたらしいんだけど、伊藤くんが言うにはヤバい感じがするからしばらく家から離れて誰かの家に泊めてもらった方がいいって…。多分伊藤くん以外の人にも聞いて回っているだろうからって…」

譲二「そうか…」


 譲二さんはしばらく考え込んだ。


譲二「それじゃあ、うちにくればいい」

奈実「いいの?」

譲二「無理に俺の部屋じゃなくても、例の百花ちゃんの部屋も空いているし、そこを仕事場にすればいい」

奈実「ありがとう」

譲二「じゃあ、今から迎えに行くから、俺が着くまでに最低限の荷物を纏めといてくれる?」

奈実「今から? 明日の朝でも自分で行くよ?」

譲二「俺が心配だから…。こんな時くらい頼ってよ」

奈実「ごめんなさい」

譲二「謝ることなんかないよ…。家に着いたら、まず携帯を鳴らすから…。インターホンが鳴っても開けちゃダメだよ」

奈実「わかった」


 スーツケースにとりあえずの着替えを纏め、パソコンもカバンに入れた。

 そうこうするうち、譲二さんから携帯に連絡が入った。


譲二「今、奈実の部屋のドアの前にいるよ」


 私は直ぐに玄関を開けた。

 譲二さんがそこに立っていた。

 譲二さんは玄関に入ると後ろ手にドアを閉め、私を抱きしめる。


奈実「会いたかった…」

譲二「ごめんね。ちょっと遅くなって」

奈実「ううん。わざわざ来てもらってありがとう」


 譲二さんは屈み込み、私は精一杯つま先立ちしてキスをした。

 

 

 

その6へつづく

 

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思いがけないひと~その6


〈奈実〉

 私は改めて伊藤くんのメールを見せ、彼が電話で語ったことも話した。


譲二「俺もその伊藤っていう人の言うことに賛成だな。うちに来てしばらく様子を見た方がいい」


 譲二さんは私にジーンズを持っているか尋ねた。

 私が持っていると答えると

譲二「このパーカーとそのジーンズに着替えて」

と言った。


 よくわからないまま、言う通りにすると、譲二さんは私の頭に野球帽をかぶせる。


譲二「これで、よし」

奈実「これは?」

譲二「パーカーと野球帽は前にうちに来たお客さんが忘れて行った物なんだ。
小学生の男の子のものだから奈実なら入るかなって思って持って来た」


 姿見を見ると確かに少年のようにみえなくもない。


奈実「ここまでする必要があるかな?」

譲二「分からないけど、用心はしておいた方がいいからね。奈実は男性には化けられないけど、男の子には化けられそうだから…」


 私のことを心配してそこまで考えてくれたのが、嬉しかった。

 でも、素直にそうは言えず…。


奈実「絶対、楽しんでいるでしょ?」

譲二「分かった?」

奈実「もう」


 譲二さんは真面目な顔になった。


譲二「さ、そろそろ出かけよう」
 

 スーツケースは譲二さんが持ってくれて、私はスポーツバッグ(これも忘れ物らしい)に入れた荷物を持った。


 遠目にみれば、お父さんと男の子に見えるだろう。


譲二「これでバットとグローブを持ってたら完璧なんだけどな…」

奈実「それは忘れ物になかったの?」

譲二「ああ」

☆☆☆☆☆

 私たちは用心して、吉祥寺とは反対方向に向かう電車に乗った。

 幾つかの線を乗り継いで、念のため二駅手前で降りてタクシーを拾った。


奈実「絶対、楽しんでるよね?」

譲二「こんな探偵みたいなことをする機会なんて滅多にないからね」


 譲二さんは私の顔を覗き込んで微笑んだ。

 
奈実「ありがとう…。私のために」

譲二「当たり前だろ」


 譲二さんの大きな手が野球帽の上からポンポンと叩く。


☆☆☆☆☆


タクシーをクロフネから少し離れたところに停める。

辺りを伺いながら、裏口からはいった。


譲二「これでもう大丈夫」


譲二さんはため息をつくと、私を抱きしめた。


譲二「奈実…無事でよかった…」

奈実「譲二さん、ありがとう」

譲二「さあ、二階へ上がろう。荷物はとりあえずもう一つの部屋に置くよ」

奈実「私は譲二さんの部屋に置いてもらってもいい?」


 譲二さんはニヤッと笑った。


譲二「そんなの当然だろ?」



 その夜、ベッドの中で譲二さんは私をしっかり抱きしめた。


譲二「奈実に電話をもらって迎えに行くまで、生きた心地がしなかった。
もし、俺より先に元旦那が奈実の所へ現れたらって…」

奈実「だって、まだ住所だって突き止められたかどうかは分からないのに」

譲二「うん。でも、心配症かもしれないけど、俺にとって奈実は一番大切な人だから。絶対失いたくない」

奈実「嬉しい…」



『思いがけないひと』終わり。次は『ふたり暮らし』です。



思いがけないひと~その1~その3

2015-02-18 08:12:53 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

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 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


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思いがけないひと~その1


〈奈実〉
???「奈実!」


呼びかける声に振り向いた。

譲二さんと食事をした後、ウインドショッピングをしながら、ぶらついていた時だった。

声の主に気が付いて、凍りついた。

中年のスーツ姿の男性。


???「やっぱり奈実じゃないか。久しぶり」


彼は懐かしそうに私を見つめる。

譲二さんが私の隣りに立って、訝しげに尋ねた。


譲二「この方は?」

奈実「彼は…」


私は口ごもる。


???「ああ、連れの人がいたのか。ごめん。つい懐かしくて…」

???「元気にしてた?」

奈実「ええ。和成さんは?」

和成「相変わらずさ。仕事の虫なのは変わらない」


和成さんはもっと話をしたそうにしていたが、譲二さんを見ると、会釈して「じゃあ、またね」と言って去って行った。

残された私たちは気まずい空気のまま、歩き出した。

私は和成さんのことを譲二さんにどう説明したらいいか、迷っていた。


譲二「それで…、彼とは一体どんな関係なの?」


いつも優しい譲二さんの声が冷たく聞こえる。

私は立ち止まった。


奈実「ごめんなさい…。私、今まで譲二さんに隠していたことがあるの」

譲二「それは大事なこと?」

奈実「ええ…。私、以前結婚していたことがあるの。
10年前に離婚したんだけど…。今の和成さんは元夫なの…」


譲二さんがため息をついた。


譲二「今まで、どうして話してくれなかったの?」

奈実「…譲二さんにはバツイチって知られたくなかったから」

譲二「年齢を正直に言う人がそんなことを隠すとは思わなかったよ」


譲二さんはとても悲しそうな目で私を見つめた。


譲二「それに、そもそも俺と結婚することになったら、隠し通せないだろ?」

奈実「ごめんなさい。譲二さんとは結婚なんてできないと思っていたから」

譲二「それはどういうこと?」

奈実「私は結婚しても、譲二さんの子供は産んであげられないし…。
譲二さんが結婚するのはもっと若い女性だろうと思ってきた。
だから、少しでも、譲二さんの前では背伸びして、かっこ付けようとしてた」

譲二「そんなの…。俺は奈実のことを全部知りたい。好きな人のことはみんな知りたい。そういうもんだろ?」

奈実「ごめんなさい」

譲二「それと…俺は奈実以外とは結婚しないから…」

奈実「え?」

譲二「今は…俺の方が結婚出来るような状況じゃないからプロポーズはしないけど…。
奈実以外の女(ひと)とは結婚しない」


私は譲二さんの顔を見上げた。

譲二さんは私を優しく見つめていた。


譲二「こんな道端じゃ、奈実にキスもできないな…。残念」


譲二さんは私の肩を抱き寄せた。


譲二「さ、行こうか?」

奈実「うん」


その2へつづく


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思いがけないひと~その2


〈譲二〉
奈実はバツイチだった…。

その事実よりも、奈実がそれを俺に隠していたこと、そして奈実の元夫に会ってしまったことが俺を動揺させた。

その夜、いつものように俺の部屋で奈実を愛した。

 彼女を抱きながら、心の中で彼女に問いかける。


 (あの男に抱かれる時もそんな可愛い顔をしていたの?

 あの男にもこの可愛い声を聞かせていたの?

俺はまだ薄暗い中でしか抱かせてもらえないけど…、あの男には眩しい光の中で抱かれていたの?

 あの男の背中にも爪を立てて、腰に足を回していたの?

そして…そんな潤んだ瞳でみつめていたの?)



 余韻にひたってボーッととしてる奈実を抱き寄せて、唇に軽くキスをした。


奈実「譲二さん…、怒ってる?」

譲二「どうして? 怒ってなんかないよ」

奈実「だって…いつもと違ってずっと黙ってた…」

譲二「…考え事をしていたから…」

奈実「私を抱きながら?」

譲二「ああぁ。ウジウジしててもしかたがないな。奈実の元旦那にヤキモチを妬いてた」


 奈実がクスクス笑い出した。


譲二「笑わないでよ…。みっともないけど…ちゃんと白状したんだから…」

奈実「ごめんなさい…。そんな譲二さんがヤキモチを妬くほどの人じゃないから…」

譲二「だって…あの男は奈実と何年も一緒に暮らしていたんだろ?」

奈実「そうだけど…」



 奈実はボツボツと結婚生活のことを語ってくれた。


 あの男性、明石和成さんという名だそうだ。

(ということは、奈実は元夫の姓を名乗っていたのか…)

会社の同僚の紹介で知り合ったのだそうだ。


 そして、奈実の結婚生活は8年間だったそうだ。

その頃やっていた仕事にやりがいを感じていたので、結婚後もすぐには子供を作ろうとはしなかった。

 30歳も過ぎたし、そろそろ子供を作ろうとしたら、なかなか出来なかった。

不妊治療も選択肢として上がって来た頃、会社の特別プロジェクトの担当に選ばれた。

 その時一緒に仕事をすることになった後輩の男性との仲を夫に疑われたのだそうだ。

 特別プロジェクトで難しい仕事だったから、深夜にかかる残業もあり、後輩は奈実が夜道を1人で帰るのを心配して毎日のように送ってくれたそうだ。


譲二「その人に恋愛感情は持ってなかったの?」


 俺はその後輩にも少し嫉妬する。


奈実「ぜーんぜん。だって4つも年下なんだよ! あ、ごめんなさい…」

譲二「俺より…5つも上なんだ…」


 奈実は俺の胸にしがみつく。


奈実「もう…。譲二さんは特別なんだから…」

 


その3へつづく


☆☆☆☆☆

思いがけないひと~その3


〈譲二〉
奈実はバツイチだった…。

 

そして、なぜ離婚したかを話してくれた。

 


仕事上のパートナーの後輩との仲を疑われたのだと奈実は言う。

 


 

 しかし、その後輩が奈実に全く好意を持っていなかったとは考えられない。

 それから10年経った今だってこんなに魅力的なんだから…。

 だから、元夫の直感は正しかったのだろう…。

 奈実のことを信じることはできなかったみたいだけど…。

 そんな時に諦めていた赤ちゃんを授かった。

 だが、ギクシャクしていた夫にはなかなか言い出せないうちに、夫が泥酔して帰って来るということがあった。

 些細な言い合いから喧嘩になり、そんな時に言うつもりではなかったのに妊娠したことを口にしたそうだ。

 夫は後輩との不倫の子だろうとののしり…、誤って奈実を突き飛ばしてしまった。

 打ち所が悪く、奈実は肋骨にヒビが入り、子供も流産した。



 その後色々と揉めて、夫への愛情が冷めた奈実は離婚を求めたが、奈実を愛していた夫はなかなか離婚してくれなかった。

 調停を1年ほど繰り返し、やっと離婚したそうだ。


奈実「だからね。私は男なんてもうコリゴリ、恋愛なんてしないって思ってたの…。譲二さんに会うまでは…」

譲二「ありがとう」

奈実「え?」

譲二「そんな嫌な思い出があったのに、俺のことを好きになってくれて」

奈実「だから…譲二さんは特別なの…」

 俺は奈実に『好きな人のことはみんな知りたい。そういうもんだろ?』と言って責めてしまったけど…。

 奈実がどうして言いたくなかったのかがよくわかった。

 俺だって、明里のことを『振られ続けた子供の頃からの元婚約者』と面白おかしく話したけれど、明里への失恋の苦しみについては奈実に語っていない。

 奈実は結婚生活の話をさらっと語ってくれたけど、本当は地獄のような苦しみを経験したんじゃないだろうか?

 そんな苦しい体験を話してくれなかったと責める気持ちになっていた自分を恥ずかしく思った。

 もし、まだ奈実が話せていないことがあったとしても、それは自然に奈実が話したくなるまでまとう…。

 それぐらい許せる余裕のある男になろう。

 

 

 

〈奈実〉
 譲二さんに離婚経験があることがばれてしまった。

 なんだか騙したみたいで申し訳ない。

 9歳も年上なだけでなく、結婚の経験もあることを知られたくなかった…。

 だけど、辛かった結婚のことを正直に話すと譲二さんは、隠していたことを優しく許してくれた。



 ごめんなさい。もう、隠し事なんてしません。

 譲二さんには誤魔化してもすぐ見透かされてしまう。

そして、何もかも頼り切ってしまっている私がいる。


 本当は私の方が年上なのに…。

 


 


その4へつづく


年上の彼女

2015-01-31 08:47:33 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

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 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


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年上の彼女~その1


〈奈実〉
 とうとう譲二さんと恋人になった。

 昼のデートはなかなか難しいけど、夕方からクロフネを訪ねて、一緒に食事をしたり、夜のデートに出かけたりした。

 彼の部屋には私の着替えも置くようになって、時々は泊めてもらうこともある。
 
 そんなデートで、エスニック風の雑貨屋さんに2人で立ち寄った時、可愛らしいビーズ細工の指輪を見つけた。

 譲二さんがそれを私に買ってくれたので、店から出た後、私は半分冗談で、「左手の薬指にはめてちょうだい」と言った。

 譲二さんは少し戸惑った顔をしたけど、

譲二「いいよ」

とはめてくれた。

譲二「でも、こんなのでなく、いつかもっとちゃんとしたのを買ってあげたいな」

 でも、私はそれを本気にはとらなかった。

 だって、いくら恋人にはなったとはいえ、10歳も年上の女性を本気で妻にするほど物好きではないだろうと思っていたから…。

 彼はまだまだ若いのだから、もっと若い女性との出会いがあるに違いない。

 だから…。

奈実「この指輪で十分」

 ビーズの指輪の入った左手をそっと撫でた。


 クロフネの厨房で食器の後片付けを手伝いながら、先のことが不安になる。

 今はこうしていられても、10年、20年経った時、おばあちゃんを相手することになる譲二さんは後悔するんじゃないかと…。

 その時のことを思うと涙が溢れそうになる。

 私は慌てて目をしばたたかせて、涙を引っ込めた。

 譲二さんが後ろから私を抱きしめる。

譲二「奈実。どうしたの? 悩みがあるなら俺に言ってよ…」

奈実「…」

譲二「それとも、俺では頼りにならない?」

奈実「そんなことないよ。私、譲二さんに頼り切ってるもん」

譲二「なら…、今なぜ泣きそうになったのか話してよ」

奈実「泣きそうになんかなってないよ…」

 譲二さんは私の顔を覗き込んだ。

譲二「うそ。俺の目は誤魔化せないよ」

 譲二さんは私の手を引いて、店のソファーのところに連れて来ると、いつものようにソファーに腰掛け、私を横向きに膝の上に乗せた。

 こうすると私たちの顔はとても近くなって…私を見つめる譲二さんの目から逃れられなくなる。

 今まで何度こうして、気持ちを白状させられたことだろう。

譲二「さあ、俺に話してみて?」

奈実「私、譲二さんより九つ上だから…譲二さんより早くおばあちゃんになっちゃうなって…」

譲二「うん」

奈実「それで、もっと先になった時、10年、20年経った時、譲二さんは私を恋人にしたことを後悔するんじゃないかって…」

譲二「…それで、悲しくなってしまったの?」

奈実「うん…なんか、言葉にするとバカみたいだね…」

譲二「そんなことないよ。言葉にしないと、奈実が何で悩んでいるのか俺には伝わらないからね」

 譲二さんはそっと唇に軽いキスをした。

譲二「ねぇ、俺のこと…もっと信じてよ」

奈実「…」

譲二「自分で言うのもなんだけど…、俺は女(ひと)を一度好きになったら、そんなに簡単に気が変わったりしないよ。
他の女(ひと)に目移りしたりもしない。
奈実のこと、一生愛するって誓ってもいい」

 譲二さんの心を信じていないわけじゃない。

 でも、私を一生愛するなんて誓わせて、後で譲二さんが後悔することを恐れた。

 だけど…、これ以上譲二さんを心配させてはだめ。私はにっこり微笑んだ。

奈実「ありがとう。譲二さんの気持ちはしっかり受け取ったよ」

譲二「そうか。…ならよかった」

 しかし、譲二さんには私が無理に笑顔を作ったのを見透かされている気がした。


 その夜、譲二さんに誘われてクロフネに泊まった。

 譲二さんに優しく愛されながら、私はもうこの人から離れることはできないと、確信した。

 例え、彼を失うのが怖さに無様な姿を晒したとしても、私は彼から離れることはできない。



その2へつづく


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年上の彼女~その2


〈譲二〉
 奈実と恋人になった。

 初めて会ったときから心引かれる女性だったから、恋人になれて俺は有頂天になった。

 だが、彼女はどうなんだろう。

 時々、心ここにあらずという時もあれば、静かに涙を流しているときもある。

 最初は俺に強引に押し切られたのが不本意なのかなと心配したが、どうもそういうことではなさそうだ。

 彼女は俺より9歳年上だということをひどく気にしている。

 初めてあったときに、あんなにあっけらかんと自分の歳をバラした女性とは思えないくらいだ。

 あの時は、俺は単に初めてあった男というのに過ぎなかったから、10歳差があっても気にならなかったのだろう。

 しかし、今は…。恋人より9歳も年上というのが彼女の心に重くのしかかっているようだ。

 俺はそんなことを気にしていないと何度も言って聞かせたが、彼女はもっと先のことを気にしていた。

 彼女に10年先、20年先のことを言われた。

 俺の気持ちは変わらないつもりだが、確かに彼女がいうように奈実が本当におばあさんのようになってしまっても、俺は彼女を愛せるだろうか?

 今、俺が彼女を好きなのは、彼女の女性らしい愛らしさ、朗らかで気取らない性格、そして俺のことを一途に思ってくれる気持ち…そういうところがいいのだと思う。

 そして、今、彼女が俺を失いたくなくて苦しんでいる気持ち、老いに対する恐怖で怯えている姿も愛しくてならない。

 おばあさんのようになってしまった奈実というのは想像できないけど…、でもそうなった時は俺だっておじいさんになっているんじゃないだろうか?

 俺だって奈実より9歳若いだけで、10年先、20年先には確実に歳をとっている。

 それを彼女に分からせてあげたいけど…。

 今はもう少しそっとしておこう。

 


その3へつづく


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年上の彼女~その3


〈奈実〉
譲二さんからメールではなく電話が入った。

譲二「ごめん、奈実。忙しい時に。今、大丈夫?」

奈実「うん、大丈夫だよ。何?」

譲二「デートの約束をしてあった今度の土曜日なんだけど…」

 ああ、何か予定が入ったんだ…。残念だけど仕方が無い。夕方からだけでも会えるかもしれないし…。

譲二「クロフネで過ごすということでも、いいかな?」

奈実「え? 何かあるの?」

譲二「うん。それがね…」

 譲二さんによると、例の10歳下の常連さんたちが譲二さんに恋人ができたことを知って、どうしても会わせろと言われたらしい。

譲二「この前の俺の誕生日、花とケーキを買ったろ?」

奈実「うん」

譲二「あの花屋とケーキ屋の息子がそれぞれメンバーにいてね。それで、他の奴らにも知れ渡ったらしい」

奈実「あちゃー、ごめんなさい」

譲二「いや、俺は平気なんだけど、奈実に申し訳なくて…。せっかくのデートの予定だったのに…」

奈実「私は大丈夫だよ。いつも話だけで聞いている元気な常連さんたちに私も会ってみたいし…」

譲二「よかった! あいつらみんな気のいい奴らだから…、奈実はきっと気に入ると思うよ」

 


 

〈譲二〉
奈実への電話を切った。

理人「マスター、彼女OKしてくれた?」

譲二「ああ、かまわないって言ってた」

百花「マスターの彼女に会えるなんて楽しみです」

竜蔵「ジョージにもやっと春がきたんだなぁ」

剛史「彼女とはどこまで進んでるんだ?」

譲二「さあ、それは想像にまかせるよ」

一護「それで、彼女との馴れ初めは?」

春樹「それは俺も是非聞きたい」

譲二「異業種交流会というのに参加しているんだけど、そこで知り合ったんだ。会のイベントを彼女と一緒にすることになって、それで親しくなった」

理人「ねぇねぇ、どっちから告白したの?」

一護「どうせ、マスターからちょっかい出したんだろ」

譲二「ちょっかいを出したわけじゃない。気が合っただけで…」

竜蔵「ジョージもすみに置けないな。」

百花「きれいな人なんですか? それとも可愛い系?」

譲二「うーん。どっちかな? 俺は可愛い系だと思うんだけど…。一応、大人の女性だから…」

剛史「大人の女性…」

理人「タケ兄が言うとなんかやらしい響きだね」

譲二「さあさあ、俺の彼女の話はそれぐらいにしといてくれる?どっちみち、土曜日には本人に会えるんだから…」

 


 

その4へつづく

 

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年上の彼女~その4


〈奈実〉
次の土曜日、昼前にクロフネを訪ねた。

奈実「こんにちは」

譲二「あ、いらっしゃい」

奈実「みんなは?」

譲二「まだ来てないよ…というか、あいつらには3時過ぎに奈実が来るからっていってある」

奈実「え? そうなんだ」


 譲二さんは私を抱きしめて、額にキスをした。


譲二「だって、あいつらが来る前に奈実と2人だけで過ごしたいから…」

奈実「譲二さん…」


 私も譲二さんを抱きしめる。


譲二「しばらくぶりだね…。会いたかったよ…」

奈実「私も…」


 譲二さんはカウンターの椅子に座り、私は立ったままで何度もキスを繰り返した。


譲二「…ねぇ、ちょっと二階に行こうか?」

奈実「いいの?」

譲二「このままだと夜まで我慢できそうにない…」


 ドアに鍵をかけると、私たちは二階に上がり、愛し合った。


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 2時半すぎると、常連さんたちがボチボチ現れ始めた。

譲二さんは一人一人を私に紹介してくれる。

みんな譲二さんほどではないけど、背が高い。

 百花ちゃんという女の子はとても可愛らしかった。若さが溢れて、肌も20代の子らしく輝いている。

(譲二さんはこの子のことが好きだったんだろうな…)

 少しだけ嫉妬する。

譲二「あと来てないのは…リュウか」

春樹「もうそろそろ来るんじゃないかな。俺が店の前を通った時、もうすぐ行くって言ってたから…」

剛史「あ、来た」


チャイムがなって、譲二さんと変わらないくらい大きな人が現れた。


理人「リュウ兄、遅いよ!」

竜蔵「悪い悪い」

譲二「リュウも来たから改めて。こちらが明石奈実さん。俺の恋人」


 譲二さんは『俺の恋人』という言葉をとても優しく発音してくれた。


奈実「初めまして。明石奈実です。皆さんのことはいつも譲二さんから聞かされてました。今日お会いできてとっても嬉しいです」


 拍手が起こる。ピーピーという口笛も。


理人「マスターにはなんて口説かれたんですか? 痛い! いっちゃん、やめてよ」

一護「このエロガキ」

春樹「もう少し、デリカシーをもって尋ねようよ、初対面なんだから」

理人「じゃあ、どんな風に聞けばいいのさ? ハル君が聞いてよ」

春樹「ええっ、俺?」

剛史「マスターのどこが気に入ったんですか?」

奈実「優しくて、男らしいところかな」

理人「わぁ、直球」

一護「マスターは?」


譲二さんは私の答えで照れていたらしく、耳が少し赤い。


譲二「んー。可愛らしくて、その上気取りの無いところかな」

剛史「マスターとは9歳違いという噂がありますが…、上か下かどちらに違うんですか?」

譲二・春樹「タケ!」

私は思わず吹き出した。

誕生日のメッセージに自分から書いたのだから、これはバレてもしょうがない。

奈実「実は…私、譲二さんより年上なんです」

あちこちから「うそーっ!」「信じられない」という声が上がる。

剛史「マスターの方が老けてる」

 みんなは私たちのために花束とパティシエの一護君が作ったというケーキを用意してくれていた。

 譲二さんの手料理が運ばれて(今回は私も手伝った)、宴会が始まった。


その5へつづく

 

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年上の彼女~その5

〈奈実〉
 話には聞いていたけれど、みんなのやり取りが本当に面白い。

 そして、譲二さんはなんだかんだとみんなにからかわれているけど、みんなに慕われているのがよくわかった。


奈実「百花ちゃんて、高校、大学とここに下宿していたんですって?」

百花「ええ、マスターには本当にお世話になりました。
だから、マスターに素敵な恋人ができて嬉しく思ってます」

奈実「素敵な恋人だなんて、照れくさいな。
どっちかというと、私の方が素敵な恋人を捕まえたってところだし」

百花「明石さんて、きれいなのに面白いことをいいますよね?」

奈実「そうかな? それより名字じゃなくて奈実って呼んでもらってもいい?」

百花「奈美さん? いいんですか?」

奈実「うん。その方が年齢差を感じずに若いつもりでいられるから」

百花「奈美さんは十分若いですよ」

奈実「百花ちゃんも師匠に似てお世辞が上手ね」

百花「師匠ってマスターのことですか?」

奈実「そう。あなたたちみんな譲二さんの影響を結構受けてるなって思った」


 私たちは顔を見合わせて笑った。

 百花ちゃんはちょっとおっとりしたところがあって、可愛い。

 さっき少し感じた嫉妬が消えて行くのを感じた。

 私たちは譲二さんのあれやこれやをこっそりと情報交換した。


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 夜もふけ、お開きになった。

 譲二さんはまだ残っていたリュウくんとタケくんを追い出した。


奈実「そんなに手荒く追い立てなくても…」

譲二「あいつらが残っていたら、奈実と2人きりになれないじゃない」


 譲二さんは私をしっかりと抱きしめた。


譲二「今日は俺の我がままに付き合ってくれてありがとう」


奈実「ううん。私もとても楽しかった。いいね、ああいう若い人たちと過ごすのって…」

譲二「奈実にそう言ってもらえてよかった…」


 後はキスの微かな音だけがクロフネの店内に響いた。


『年上の彼女』おわり

続きは『思いがけないひと』です。