恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

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インデックス 茶倉譲二ルート…茶倉譲二の小説の検索用インデックス。

インデックス ハルルートの譲二…ハルくんルートの茶倉譲二の小説の検索のためのインデックス。

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誕生日の夜

2015-01-07 09:02:32 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

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 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


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誕生日の夜~その1


〈奈実〉
 5月1日。譲二さんの35歳の誕生日。

 約束の時間は4時だけど、少し早めに吉祥寺商店街についた。

 プレゼントは用意して来たけど、お花とケーキも買って行くことにした。

 フラワーショップタネムラという花屋さんで、フラワーアレンジメントを作ってもらう。

 譲二さんの好みはよくわからないけど、男性向けということで、ブルーと茶色とグリーンを主体にして作ってもらった。

 メッセージカードも用意してくれたので、

『譲二さん、お誕生日おめでとう。
 これで、私と9歳違いになったね
            奈実』

とメッセージを書き込んでいると、女性の店員さんの視線を感じた。

 このお店の人、もしかして譲二さんのこと知ってる?

 私は涼しい顔をしてアレンジメントを受け取った。


 
 次にサトウ洋菓子店というところに入って、そこにあった苺のホールケーキにメッセージを書いてもらう。

 『譲二さん、35歳のお誕生日おめでとう!』

 ここの店の女性も私の顔を意味有りげに見ている。

 ケーキの手配、近場すぎた? ま、いいや。



 4時少し前にクロフネに着いた。

 ドアにはcloseの札がかかっている。

 もしかして、私のために早めに店を閉めてくれた?

奈実「こんにちはー」

 そっとドアを開けると、「いらっしゃい」と言いながら譲二さんが奥からでてきてくれた。

奈実「ちょっと早かった?」

譲二「大丈夫。ほぼ料理もできているよ」

 誕生祝いの本人に料理を作らせるなんて、どうかと思うけど、譲二さんは料理が得意だし、気軽に『料理は俺が用意するから』と言ってくれたのでそれに甘えたのだ。

 簡単なものを想像していたのに、結構本格的なメニューが並んでいる。

 私が恐縮すると、

譲二「いいから、いいから。俺、こんなの慣れてるから」

と気安く言ってくれた。

 私がアレンジメントとケーキを手渡すと無邪気に喜んでくれた。

 でも、それぞれの店での店員さんの様子を話すと、譲二さんは苦笑した。

譲二「次の商店街の会合の時にみんなに冷やかされるかな…。ま、いいか」

奈実「ごめんなさい…」

譲二「なんで? 奈実さんは何も知らなかったんだから仕方ないでしょ?」

 私のプレゼント、これからの時期に使えそうな男物の半袖のポロシャツも喜んでもらえた。

 2人で乾杯して、お祝いをする。

 いつにも増して、おしゃべりが止まらない。

 特に歴史の話では、一度スイッチが入ると譲二さんの話は滔々と続き、それをまた私はうっとりと聞いていた。


その2へつづく

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誕生日の夜~その2


〈譲二〉
 奈実さんが俺の誕生日のお祝いに来てくれて、2人で乾杯したり、俺の料理を食べたり、奈実さんの買って来たサトウ洋菓子店のケーキを食べたり…。

 それよりも、2人でのおしゃべりが盛り上がって、気がつくともう8時近くになっている。

 実は6時過ぎてから、「もうこんな時間」「そろそろ帰らないといけないね」というのを何度も繰り返していたのだが、2人とも本気でお開きにしようとはしていなかったのだ。

 でも、これ以上遅くなると奈実さんの帰りが心配だ。

譲二「俺、家まで送るよ」

奈実「悪いし…、駅まででいいよ」

譲二「でも、その後は? 駅からしばらく歩かないといけないんでしょ?」

奈実「若い子じゃないんだし、こんなおばさんなんか誰も襲わないよ」

譲二「また、そんなこと言う。
奈実さん、自分がどんなに魅力的かわかってないでしょ」

奈実「またまた」

譲二「奈実さん、明日は仕事あるの?」

奈実「ううん。連休に入るし…。明日は休み」

譲二「それじゃあ、もう遅いし…、よかったら今夜は泊まって行かない?」

奈実「え?」

 俺は慌てて否定した。

譲二「いや、変な意味じゃなくて…。
うちには奈実さんを泊められるような部屋がもう一つあるから…。
ベッドもちゃんと使えるようになっているし…」


奈実さんはその部屋を見てみたいと言った。

二階に行き、百花ちゃんが元住んでいた部屋をみせる。

奈実「うわー、可愛い。まさに女の子の部屋って感じね。
ここって譲二さんの妹さんの部屋だったの?」

譲二「俺に妹はいないよ。ほら、前に話さなかったっけ?
人に頼まれて高校生を下宿させていたって。
彼女が大学を卒業するまでここに住んでいたんだ」

奈実「譲二さんの10歳下の常連さんの幼なじみだっけ?」

譲二「ああ、そう」

奈実「譲二さん、その子のことを好きだったんじゃないの?」

 奈実さんはいたずらっぽい笑みを浮かべて、俺の顔を下から覗き込んだ。そんな仕草が本当に可愛らしい。

譲二「その子は今、幼なじみの1人を恋人にしている。
10歳も年上の俺みたいなオジサンを選ぶわけないじゃない」

 そう言ってしまって後悔した。

 奈実さんは微笑んでいるが、明らかに傷ついた表情をしている。

 俺は彼女を慰めたくて抱きしめた。

譲二「ごめん。そんなつもりじゃないんだ…」

奈実「いいよ。そんなに気をつかわなくて…」

譲二「…ねぇ、奈実さんは俺のことをどう思っているの?」

 


その3へつづく

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誕生日の夜~その3


〈奈実〉
譲二「…ねぇ、奈実さんは俺のことをどう思っているの?」

 譲二さんにそう問われて、頭に浮かんだままの言葉をいう。

奈実「10歳も年上の私をなぜだか気にせずに相手してくれる人」

譲二「コラ」

 譲二さんはちょっと怒ったような口調で言う。

譲二「10歳も年上じゃないよ。
今日からは9歳しか違わないだろ…。
それに…そんなことじゃなくて…」

 譲二さんは上から私の顔を覗き込む。

 その瞳はいつになく真剣だ。

譲二「奈実さんは俺のことを好き?」

(譲二さんのことは大好き…)

 でも、そんなこと、とても口には出せない。

 10歳、いえ9歳も年下の男性に夢中だなんて…。

 私がだまっていると、譲二さんは思い切ったように言った。

譲二「俺は奈実さんのことが好きだ。
初めて会ったときから可愛らしい女(ひと)だと思ってた」

奈実「うそ…」

譲二「嘘じゃないよ…」

譲二「ねえ。俺のこと嫌い?」

奈実「ううん…。私も…譲二さんのことが好き…。」

 小さく呟いた。

譲二「よかった。
『こんな若造なんか相手にできない』なんて言われたらどうしようとドキドキしてた」

 私は思わず吹き出してしまった。

奈実「譲二さんは大人の男性で…とても頼りになるし。
それに、こんなに男の人を好きになったのは初めて…」

 最後の言葉は尻すぼみになってしまう。

譲二「嬉しいな…。奈実さんにそんな風に言ってもらえて…」

 そしてかがみ込むようにして私にキスをした。

譲二「うーん。身長差がありすぎて、キスしにくい」

 そして、私を抱き上げるとベッドに腰掛け、私を横向きに膝の上に乗せた。

 譲二さんは軽く私の口元にキスを繰り返しながら囁いた。

譲二「うん…。これなら…キスも…しやすい…」

奈実「…くすぐったい…」

譲二「くすぐったくてもやめないよ」

 譲二さんは私にまたキスをする。

 今度はとても情熱的で…私もそれに応えた。

 


 

〈譲二〉
 奈実さんに「好きだ」と言ってもらえた。

 …というより、半ば強引に言わせたわけだけど…。

 何度もキスをしていると、だんだん自分の気持ちが抑えられなくなって来た。

 今日はこれ以上は手を出さないつもりでいたんだけど…。

 思い切って奈実さんの耳元に囁く。

譲二「ねぇ…。今夜はやっぱりこの部屋ではなく、俺の部屋に泊まらない?」

 奈実さんはちょっと困ったような顔で俺を見つめた。

 そんな顔も可愛らしい。

奈実「…それって…。一夜だけの大人の関係ってこと?」

 奈実さんの言葉に俺は驚いた。

 確かに俺たちは告白しあったけど、まだ恋人ではない。

 もしかして、奈実さんは俺が遊びで誘ったように思ってる?

譲二「違う、違う!そういう意味じゃなくて…」

奈実「じゃあどういう意味なの?」

 奈実さんは少し傷ついたような目で俺を見つめてる。

譲二「俺の…恋人になって欲しい。
俺と付き合って欲しいんだ…。イヤ?」

 恐る恐る聞いてみる。

奈実「イヤ…じゃない。でもこんなおばさん、譲二さんが嫌でしょ?」

譲二「またそんなこと言う。
奈実さんは可愛い女性だし、俺はそんな奈実さんが好きになったんだから、年なんか関係ないよ。
それとも…、やっぱり他に付き合っている人でもいるの?」

 彼女は消え入りそうな声で呟いた。

奈実「…いないよ。私が好きなのは譲二さんだけだから…」

譲二「よかった」

 俺は彼女の返事はOKなんだと決めつけて、彼女の唇を奪った。

 


 

その4へつづく


☆☆☆☆☆

誕生日の夜~その4


〈奈実〉
 結局、譲二さんの部屋に泊めてもらうことになり、先にシャワーを浴びさせてもらった。

 譲二さんのパジャマの上だけを借りて羽織り二階の譲二さんの部屋で待つ。

 譲二さんの部屋には本棚だけでなく、床にも歴史関係の本がところ狭しと置いてあった。

 私も歴史は好きだけど、本をこんなにたくさん読んでいる訳じゃないので、譲二さんの博学さに頭が下がる思いだった。

 それらの本の題名を読んでいると、パジャマ姿の譲二さんが部屋に入って来た。

 タオルで拭いただけなのか、髪は少し湿気ている。

譲二「お待たせ」

 2人で向かい合って見つめ合う。

 なんだかとっても照れ臭い。

 


 

〈譲二〉
 部屋に入ると、ダボダボの俺のパジャマを着た奈実さんが立っていた。

 パジャマの間からほんの少しだけ見える彼女が愛しい。

 しばらく無言で見つめあった後、彼女をベッドに横たえると覆いかぶさって、何度もキスをした。


 小柄で華奢な奈実さんは乱暴に扱うと壊れてしまいそうに思えて、優しく愛撫する。


奈実「お願い。恥ずかしいから明かりを消して」

 部屋は少し暗くしてあったが、彼女は真っ暗にして欲しがる。

譲二「ダーメ。俺は奈実さんをよく見たいから」

奈実「だって、若い子とは違うから、胸もお腹も崩れてるもの…。
譲二さんには見られたくない」

譲二「俺以外の男には見せるの?」

奈実「譲二さんのイジワル」

 俺の愛撫に合わせて、可愛い声を上げる。

 奈実を抱いたことがあるだろう見知らぬ男に微かな嫉妬を感じる。


 こんなに小柄な女性を抱くのは初めてなので、あまりの身長差にいろいろと戸惑うようなこともあった。

 頭があるだろうと思うところになかったり…。

 時々苦笑しながら抱いた。

 奈実さんからみたら俺は大き過ぎて、恐ろしく見えないかなということも心配になる。

 でも、彼女は俺の背中に手を回し精一杯しがみついて、応えてくれた。


譲二「奈実、とってもきれいだったよ」

 彼女を腕の中で抱きしめてそう囁くと、奈実ははずかしそうに俺の胸に顔を埋めた。


☆☆☆☆☆

 


 朝、眩しい光の中で目を覚ます。

 間近にあどけない奈実の寝顔がある。

 そうだ。昨夜は奈実を俺のものにしてしまったんだ。

 何より最高の誕生日プレゼントだったな。

 腕の中の奈実の唇にキスを落とした。

 奈実はぱっちりと目を開け、俺としばらく見つめあった。

 突然、「いやー!」と叫ぶと布団を被った。

譲二「え?どうしたの?」

奈実「だって、こんな明るい光の中でスッピンの顔なんか譲二さんに見せられないよ」

譲二「どうして?」

奈実「だって、シワもシミも凄いんだもの。いつから起きてたの?」

譲二「ついさっき…って、そんなシワもシミも気になるほどなかったよ。
とっても可愛い顔してるのに」

 奈実は布団の間から目だけ覗かせて聞く。

奈実「え?見たの?」

譲二「うん」

奈実「いやー!」

 今度は布団ごと向こうに向いてしまう。

 俺は背中から抱きしめて耳元で囁いた。

譲二「いつもの化粧している顔もきれいだけど、スッピンの時のも可愛いくて好きだよ」

 奈実はイヤイヤをしている。

 なだめて、俺の方に向かせるのに随分時間がかかった。

 


 

『誕生日の夜』おわり

 


続きは『年上の彼女』です


気になるひと

2014-12-23 08:02:51 | 年上の彼女

 男性が10歳上の恋愛がアリなら、女性が10歳上の恋愛というのもアリなんじゃないかと考えたのがこの話の発端です。

 女性の年齢ですが、「最後の恋、僕にください」のヒロインが34歳なので、敢えてアラフォーの女性にしてみました。

 そして、譲二さんルート以外の譲二さん(つまり彼女無し)で、年齢は35歳の時ということにしてみた。

 ということなんですが、この話を書いた後に『ひとつ屋根の下』でヒロインの母親、16歳上の女性と譲二さんを結びつけちゃったので、もう10歳上なんて年の差、大したことない…と思えるようになりました。

 そして、この話のヒロインにとって、譲二さんは10歳も年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。


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 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


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気になるひと~その1

〈奈実〉
 もう恋など諦めて久しいのに、好きな人ができた。

 その人の名前は茶倉譲二さん。

 クロフネという喫茶店のマスターだ。

 年は34歳、私より10歳年下になる。




 譲二さんと初めて出会ったのは、異業種交流会でだった。

 同じグループで席が隣りになって、いろいろ話していたら、お互い歴史好きなことが分かって2人で盛り上がった。

 しかも、譲二さんと私では好きな時代に微妙な差があって、彼の話には私の知らないこともたくさんあって、とても楽しかった。

 その時、たまたま年齢の話になって、歳を誤魔化すのが嫌いな私は正直に自分の歳を言った。

 譲二さんはとても驚いたようだった。

譲二「え?そうなの?奈実さんは俺と同じくらいかと思ってた。」

 私は小柄で童顔だから歳より若く見えることはたしかだけど、流石に10歳も若く見えるなんてことはない。

 だからそれは彼の精一杯のお世辞なんだと受け取ることにした。

譲二「でも、それだと、タメ口じゃなくて敬語を使わないといけないかな?」

奈実「敬語なんか使ったら、話しかけられても返事しないから」

譲二「それは困るなぁ」

 譲二さんの笑った顔はまるで少年のようで、なんだか心惹かれた。

譲二「でも奈実さんは変わってるね」

奈実「どうして?」

譲二「だって、奈実さんは若く見えるんだから、サバをよんでも誰にも気づかれないでしょ?
大抵の女性はサバをよむか誤魔化して自分の歳なんか言わないよ」

奈実「だって。その時は誤魔化せても、学校時代の話や子供時代の話題を話したらすぐにばれちゃうでしょ?」

 譲二さんは感心したように微笑んだ。

奈実「それに歳をバラしてあったら、自分より若い人たちの中でいるとき、自虐ネタで話を盛り上げることが出来るもの」

譲二「あっ、それ、俺にはよく分かるかも。
うちの常連で10歳年下の奴らがいるんだけど、そいつらと話す時は口癖のようにオジサンて言ってしまうんだよね」

奈実「譲二さんと10歳違い?
譲二さんがオジサンなら私はおばあちゃんになるわね」

と、いつものノリで返したら、譲二さんはちょっと困ったような顔をした。

譲二「奈実さんはおばあちゃんなんかじゃないよ…」

 ともかく、その歳を誤魔化さなかったと言うのは、大きなポイントになったようだった。


 異業種交流会ではちょっと大きな記念行事があり、その企画をくじ運の悪かった私と譲二さんが担当することになった。

 イベントが終わるまで、私たちは毎週顔をあわすことになり、メアドも交換した。

 みんなからは凸凹コンビとからかわれた。

 そう、譲二さんは183cmもあるそうで、自称151cm(多分150cmには届かない)の私は絶えず上を向いて見上げないと、譲二さんの顔も見ることができない。

 とにかく、私たちはイベントを成功させるべく、2人で頑張った。

 クロフネにおじゃまして、打ち合わせしたり、メールでも頻繁に連絡をとった。

 何かと協力しているうちに、私たちは結構気が合うことに気づいた。

 譲二さんは私のことをどう思っているのだろうと思う。

 私が小柄なせいか、譲二さんはよく「奈実さんは可愛いね」と言ってくれる。

 でも、10歳も年上の女性のことを本気で好きになるとは思えないから、それは単にお世辞なのだろう。


その2へつづく

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気になるひと~その2
〈譲二〉
 異業種交流会で一人の女性と知りあった。

 初めて会ったとき、彼女は俺の隣りに座っていた。

 随分小さい可愛らしいひとだなぁというのが、第一印象だ。

 話してみると、実は俺と同じ歴史好きで、何だか気が合いそうだった。

 話し出すと止まらない俺の歴史ネタを楽しそうに聴いてくれる。

 しかも、それに対する質問が的確だ。

 彼女は明石奈実と名乗った。

奈実「そんなに歴史に詳しいなんて、譲二さんはいくつなの?」

 俺が34歳だと答えると、にっこり微笑んで「あら、じゃあ私の10歳下なのね」と言う。

 俺は驚いた。とてもそんな風には見えなかったから。


 可愛らしくて女らしい、それでいて気取らない彼女に俺は惹かれた。

 そして、幸運なことに俺と彼女は異業種交流会のイベントの企画担当にくじであたった。

 彼女とメアドも交換した。

 それから彼女と週に一度は会ってイベントの企画をし、メールも頻繁にやり取りした。

 俺より10歳上だと言ったが、そんなことは全く気にならないほど彼女と過ごす時間は楽しかった。

 そのうち打ち合わせ以外にもクロフネに訪ねて来てくれるようになった。

 彼女は俺のことをどう思っているのだろう?

 彼女は独身だとは言っていたが、恋人はいるのだろうか?

 あんなに魅力的な女性だから、きっと恋人はいるんだろうな…。



 夕方から奈実さんがクロフネに来ていた。

 いつものごとく彼女に上手くのせられて、俺は歴史の話を1人でしゃべっていた。

 にこにこと微笑む彼女があまりに可愛くて、見とれてしまう。

奈実「私の顔に何か付いてる?」

譲二「いや、奈実さんて、本当に可愛いなって思って」

 奈美さんはふふっと笑った。

奈実「譲二さんて、本当にお世辞がうまいよね。本気にしちゃう。
それで何人の女の人を泣かせて来たの?」

 からかうように俺を覗き込む瞳がキラキラと光った。

譲二「嫌だなぁ。俺は本当のことしか言ってないのに…。
それに俺はそんなにモテないよ。振られてばっかりだ」

奈実「うそ。譲二さんを振る女の人がいるなんて信じられない」

譲二「じゃあ、奈実さんは俺が好きだって告白したら、振ったりしない?」

奈実「え?」

 いつもなら適当にジョークで返す奈実さんが、大きな瞳を見開いて俺を見つめる。

 本心ではあるけれど、軽いノリで言った言葉をそんな風に返されて、俺はドギマギしてしまった。

譲二「…あのさ、失礼なことを聞いてもいい?」

奈実「何? 大抵のことは平気だよ」

 ああ、いつもの奈実さんに戻った。

譲二「奈実さんて…独身だって言ってたよね…」

奈実「そうだよ。だから一人暮らし」

譲二「でも、恋人はいるんでしょ?」

 突然、奈実さんは笑い出した。

譲二「え? 俺、そんなにおかしな質問した?」

奈実「ごめんなさい。譲二さんが急に改まってそんなことを聞くから…」

譲二「もう、そんなに笑わないでよ。
そんな風に誤魔化すってことは、やっぱりいるんだ」

奈実「いないよ、恋人なんて…。いない歴だって長いんだから」

譲二「本当に?」

奈実「本当だよ。恋人がいたらもっと見せびらかしてる」

 言いながら、なおも笑いこけている。

譲二「じゃあ、俺、エントリーしてみようかな…」

奈実さんは戸惑ったように、笑うのを止めた。

奈実「譲二さんて、たらしだよね」



その3へつづく

 

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気になるひと~その3
〈奈実〉
 私は輸入雑貨を無店舗でネット販売しているのだが、経営についての相談を時々譲二さんにするようになった。

 彼は単なる喫茶店のマスターかと思っていたら、実家はあの茶堂院グループということで驚いた。

 子供の頃からグループで重要な役割を担えるような英才教育をさせられていたそうで、今も時々実家の経営の手伝いをさせられているという。


奈実「それなのになんで喫茶店のマスターなんかやってるの?」

譲二「それも枕詞に『はやらない』がつくんだけどね」

譲二「先代の黒船のマスターが突然亡くなって、あの店を潰したくなかった俺が名乗りを上げたってわけ…」

奈実「でも、実家の方達はそれで納得されているの?」

譲二「納得はしてないでしょ?
でもまあ、跡継ぎは兄貴がいるし、俺は次男だから…。
いなけりゃいなくてもいいってところかな」

奈実「そうなんだ。でも、経営を手伝っているっていうのは?」

譲二「手伝うというか相談を受けてるっていうか…。
兄貴はなぜだか俺のアドバイスが欲しいらしい。
といっても無報酬で…。おかげでクロフネの経営だけだとカツカツなんだけどね」

奈実「それだと、いずれは実家の会社を手伝ったりするの?」

譲二「どうだろう。俺1人の食い扶持だけならクロフネで十分だし…。
家族の増えるあてもないしね」

 譲二さんは苦笑いした。

 『家族の増えるあてはない』という言葉を聞いて、とても喜んでいる私がいる。

 なにバカなことを考えているんだろう。

 譲二さんの家族のなり手に10歳も年上の女が名乗りを上げても、譲二さんが困惑するだけだろう。

 バカな考えを振り払おうと頭を振ると、面白そうに私を見つめる譲二さんと目が合った。

奈実「えっと、スケジュールに確かミスがあって、直さないと…」

 私は白々しく話題を変えた。


その4へつづく

 

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気になるひと~その4
〈譲二〉
 イベントが無事に終わった後、俺は思い切って奈実さんを食事に誘った。

 これからは2人で会う理由がなくなってしまうのが、寂しかった。

 奈実さんは少し驚いた顔をしたが、微笑んでOKしてくれた。

 夜景の見えるホテルの最上階のレストランでの食事。

 彼女との会話は楽しかった。

譲二「奈実さん、またこんな風に時々会ってくれる?」

奈実「え?私でいいの?もっと、若くてきれいな女性といた方が楽しいでしょ?」

譲二「奈実さんは若々しいし、きれいだよ…」

奈実「またまた、譲二さんはお世辞がうまいよね」

 俺の言葉ははぐらかされてしまう。

 そのうち、俺の誕生日の話題になった。

 来月、5月1日だと言うと、

奈実「それはぜひお祝いしましょう」

と言い出した。

奈実「だって、誕生日がくれば、譲二さんは私と9歳違いになるんだもの」

と嬉しそうに笑う。

奈実「私は早生まれだから、来年の私の誕生日までは9歳違いのままよ。
こんなめでたいことは無いわ」

 本気なのか冗談なのか…彼女はそう言って俺の顔を覗き込んだ。


『気になるひと』おわり


続きは『誕生日の夜』です。