恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

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秘め事~その6~その9

2014-12-02 08:18:13 | ハル君ルートで茶倉譲二

ハルルートの譲二さんの話の続編
『それぞれの道』で譲二さんがヒロインと別れて、七年が経ち、ヒロインはハルくんと結婚した。
☆☆☆☆☆

秘め事~その1~その5の続き



秘め事~その6

〈譲二〉


 美緒が帰る前に、いつものようにコーヒーを出した。

美緒「ありがとう。昔から譲二さんのコーヒーが好き。」

譲二「美緒ちゃん…。こういうことは今日で最後にしよう…。」

美緒「え?」

譲二「もちろん、ただコーヒーを飲みに来てくれるのは構わないし、ただのおしゃべりでも相談事でも俺は喜んで相手になる。
でも、もうこれからは二階に上がるのはやめよう…。」

美緒「…」

譲二「俺は美緒ちゃんのことを一生好きでいると言ったろ?」

百花「譲二さん…」

譲二「だから、美緒ちゃんと俺はそういう関係でいる必要はないんだ。
去年、7年ぶりに美緒ちゃんに会った時、俺は一目で美緒ちゃんの虜になった。
だから、今でも…そしてずっとこれからも俺は美緒ちゃんのものだと思ってくれていいよ。」

美緒「それじゃあ、譲二さんはもう誰とも結婚しないの?」

譲二「ああ、恋人も作らない。信じてくれていい。
だから…、体の関係は解消しよう。」

 美緒は俺にしがみついた。

美緒「でも、それだと私は譲二さんを縛り付けるだけになるよ…」

譲二「美緒ちゃんが縛り付けるんじゃないよ…。
俺がそうしたいだけ…。
自分の気持ちに素直になったら、美緒ちゃんを好きでいるしかない。
今まで何年もその気持ちを押さえ込もうとしてきたけど、それは不自然なことだとわかったから」

美緒「私はハル君の妻のままなのに?」

譲二「ああ、他人の妻を好きになるのは人の道に外れているかもしれないけど、思うだけなら許されると思う。
でも、今までみたいに体の関係を続けるのは良くないよ…。
美緒ちゃんは俺に『抱いて欲しい』と言ってたけど、きっと本心からじゃなかったと思うんだ」

美緒「本当にそう思ってたんだよ」

譲二「思っていたかもしれないけど、それだとずっとハルを裏切って苦しいままだよ。
俺に抱かれるのは、罰のつもりじゃなかったの?」

美緒「罰って?」

譲二「俺のこともハルのことも思い切ることができなくて、ズルズルとどっちも裏切って来たことへの罰…。
これは責めているんじゃないよ。
美緒ちゃんはハルの妻なのに俺に抱かれることで、わざと自分を苦しめているんじゃないか?」

美緒「譲二さんに抱かれることが罰だなんて…」

譲二「だって、このままこんな関係を続けていたら、美緒ちゃんが辛いだけだろ?」

美緒「…」

譲二「俺は美緒ちゃんが好きだから、何度でも抱きたいよ。
でも、美緒ちゃんが苦しむのを見るのは嫌だ。
美緒ちゃんには幸せになって欲しいんだ」

美緒「譲二さん…」


 俺たちはしっかりと抱き合った。




 チャイムと同時にドアが開き、数人の客がドヤドヤと入って来た。




 俺たちは慌てて離れたが、既に遅かった。



 俺と美緒が抱き合っている姿はしっかりみられたし、それを目撃したのは、一護と剛史…、それに春樹だった。



その7につづく

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秘め事~その7

〈春樹〉

 午後、仕事が一段落した頃に一護からメールが来た。

『やあ、元気か?

 最近、会えてないな。
今日たまたまタケと休みが重なって、一緒に過ごしているんだが、
お前はどうだ? 
仕事が早く切り上げられるなら夕方からでも会わないか?
夕方からならリュウ兄と理人も来られると言っていたぞ。
                     一護』


 大きな仕事が一段落していて、部下に任せてもよい仕事ばかりだったので、直ぐに一護に電話した。

春樹「やあ、メールありがとう。」

一護「ああ、元気か?」

春樹「ああ、今日はもう仕事を終わりにしてもいいから、すぐ合流できるよ。
どうすればいい?」

一護「今タケとも話してたんだけど、久しぶりにクロフネに行かないか?
おまえ全然行ってないだろう。」

春樹「…先週くらいに一度行ったよ。
譲二さんとしか会わなかったけどね」

一護「そうか。ま、俺たちは集まれてもお前がいないことが多いから、クロフネにいくぞ。
それでいま事務所なのか?」

春樹「ああ、ちょっと片付けたら出られるよ」

一護「それじゃあ、俺たちが事務所に寄るよ。
それで、一緒にクロフネに行こう」

春樹「わかった。じゃあ待ってる」

 美緒にも電話してみたが、留守電になっていた。

 そこで、『これから、みんなとクロフネに集まることになった』とだけメールして一護たちを待った。


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剛史「理人は直接クロフネに来るそうだ。
リュウ兄も学校が終わり次第、クロフネに来てくれるそうだ。」

春樹「本当に久しぶりだな。」

一護「美緒は来るのか?」

春樹「留守電だったから、クロフネに来るようメールだけしたよ。」

 そんな話をしながら、3人でクロフネに入った。



 そこには譲二さんに抱きしめられる美緒の姿があった。

 2人は慌てて離れたが、俺の目には残像のように抱き合う2人の姿が残った。

春樹「何してるんだ!!」

 俺は叫んで駆け寄ろうとしたが、一護とタケに両脇から腕を捕らえられた。


 美緒は顔を伏せて青ざめている。

 譲二さんは何事もなかったかのような表情で俺たちに「いらっしゃい」と言った。

 腕を振りほどこうと暴れる俺を押さえつけながら、2人は口々にいう。

一護「落ち着け、暴れるんじゃない。」

剛史「しっかりしろ。まずはマスターの話を聞こうぜ」

春樹「放せ! これが落ち着いていられるか。美緒は俺の妻なんだよ!」


 俺が叫んだ時、チャイムがなって、理人が入って来た。


理人「一体なんの騒ぎなの?」




その8につづく

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秘め事~その8

〈春樹〉

 俺はみんなになだめられて、ひとまずソファーに座った。

 リュウ兄も来て、その場の異様な雰囲気に盛んに理人を問いただしている。

 譲二さんはやはり何事もなかったかのように、みんなにコーヒーを出している。

 そんな譲二さんを俺は心底憎いと思った。

理人「それで、マスターが美緒ちゃんを抱きしめてたの?」

 みんな気まずそうに黙っている。

竜蔵「ジョージ、そんな人の道に外れたことをしたのか?」

理人「本当のとこどうなの?
 やっぱり抱きしめていたわけ? マスター?」

譲二「抱きしめていたのは…、本当だ」

 俺が立ち上がって殴り掛かろうとするのを一護と剛史が両脇から座らせる。

譲二「別に変な下心で抱き合っていたわけじゃなく、美緒ちゃんを慰めていただけだ」

春樹「単に慰めているようには見えなかった」

 俺は譲二さんを睨みつける。

譲二「ハル、この間来た時にも言ったけど、俺は時々美緒ちゃんの愚痴を聞いてあげている。
ただ話を聞くだけだけど、この頃美緒ちゃんは精神的に不安定みたいで、涙もろくなっているみたいだ。
今日も泣き出したので、背中を叩いて慰めていただけだ。」

春樹「美緒、そうなのか?」

 美緒は青ざめたままうつむいて、小さな声で「うん」と言った。

 「なんだそうだったのか」とみんな口々に言う。

 本当にそうだとみんな思ったわけではないだろう。

 俺たちの仲が気まずくなるのをいぶかって、慰めていただけということにしたいだけだ。

 俺はその場ではそれ以上問いただすことができなかった。

 ぎこちない笑みを浮かべ、みんなの話に加わった。

 美緒はそっと俺の隣に座って、時々心配そうに俺を見つめている。

 俺は美緒を安心させようと微笑んだ。


 3人の中で譲二さんだけは、まるで部外者のように何事もなかったかのような表情をしていた。

 譲二さんはいつも穏やかで落ち着いているが、今も動揺などしていないかのような顔をしているのは憎たらしかった。

その9につづく

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秘め事~その9

〈春樹〉

 俺が美緒と譲二さんの仲を疑うようになったのは、譲二さんがクロフネに帰って来てからだ。



 結婚前に一度美緒と喧嘩して、美緒が家出をした時にクロフネに泊まったことがあった。

 元恋人の譲二さんと2人きりということで気を揉んだが、美緒は何もなかったと言っていた。

 その後の美緒の様子も特に変わったことはなかったから、何もなかったのだろう。



 結婚式には譲二さんも来てくれた。

 だから、昔のことは昔のこととして、俺たちの結婚を祝福してくれているのだろうと思っていた。



 結婚後しばらくしてから、美緒の様子がおかしくなった。

 ひどく塞いでいたり、急に明るく朗らかになったり…。

 それは、2週間ごとくらいの周期で変わっていた。

 そして、その変わり目の時にどうもクロフネに行っているのではないかと疑うようになった。

 美緒がクロフネから出て来るのを見たという人もいたし、先週美緒自身の口から、「昼間時々クロフネを訪ねている」という話も聞いた。

 もちろん、なじみの喫茶店に行くくらい、好きにさせてもいいはずだ。

 理性はそう言っているが、感情はついていかない。

 クロフネには譲二さんがいる。

 しかも午後の客のいない時間帯だ。

 譲二さんは美緒の元恋人で、しかも俺のことを好きだった美緒を無理やり自分のものにしてしまった前科もある。

 何より、俺自身が当時恋人同士だった譲二さんから美緒を寝取ったという負い目があって、俺の心は穏やかではいられなかった。


〈譲二〉
 春樹たち3人に美緒と抱き合った姿を目撃されてしまった。

 ベッドで美緒を抱いている姿を見られた訳ではないのが、不幸中の幸いだろう。

 しかし、「もうこんなことはやめよう」と話し合った矢先だったのに…。

 そして、抱き合ったと言っても、それは恋人としてではなく、本当に美緒を慰めるためだったのに…。



 俺はみんなの前でしらを切り通した。

 美緒は青ざめているので、白状しているようなものだ。

 俺だけでもなんとか申し開きをしておかないと…。

 俺はともかくハルとずっと暮らして行く美緒が辛いだろう。

 動悸は激しかったが顔には出さずに済んだ。

 その前はともかく、その時は本当に慰めていただけだから嘘をついた訳ではない。

 みんなそれで一応矛を収めてくれた。

 もちろん内心は分からないし、ハルが納得していないのは顔を見ればわかる。

 早く1人になりたかったが、その夜は遅くまでみんなで盛り上がった。

 ほとんど貸し切り状態で、俺は厨房と店を何度も行き来した。



☆☆☆☆☆


 みんなを送り出し、やっと店を閉める。

 シャワーを浴び自分の部屋に戻った。



 シーツの皺が昼間の彼女との情事を思い出させた。

 疲れきっていた俺は、そのままベッドに潜り込んだ。

 彼女の匂いが残っていないか嗅いでみる。

(未練たらしいな、俺は…。自分から止めようと言ったくせに…)



 もう美緒はクロフネに訪ねて来ることもないかもしれない…。

 今日のようなことがあったら、いくらなんでもハルが許さないだろう。



『秘め事』おわり


続きは『焦燥』~その1~その4です。

 


秘め事~その1~その5

2014-12-01 09:20:28 | ハル君ルートで茶倉譲二

ハルルートの譲二さんの話の続編
『それぞれの道』で譲二さんがヒロインと別れて、七年が経ち、ヒロインはハルくんと結婚した。
☆☆☆☆☆

『Je te veux (おまえが欲しい)~その2』の続き



秘め事~その1

〈譲二〉
 
 午後の時間、いつものように客足が途絶えた。

 洗った食器を拭いて片付けていると、チャイムがなった。

譲二「いらっしゃい」

 声をかけながら出て行くと、思い詰めたような美緒が立っている。

譲二「…どうしたの?」

 彼女が何をしに来たのか、分かっていて敢えて聞く。

美緒「…」

 美緒は無言で俺に抱きついた。

 彼女を抱きしめて、囁く。

譲二「また…、俺に抱いて欲しいの?」

 美緒がこっくりとうなづく。

譲二「じゃあ、俺の部屋で待っていて。closeの札をかけてくるから…」

 美緒は「うん」と小さな声で返事をすると二階に上がって行った。
 
 半年前に、美緒は春樹と結婚式をあげた。

 俺は結婚式にはでないつもりだったが、美緒に「でないとみんなに怪しまれる」と言われて、仕方なく出席した。

 ウエディングドレスを着た美緒はとても奇麗で輝いていた。

 春樹と並んだ姿はお似合いで、俺の胸はえぐられるように痛んだ。

 彼女は挨拶以外では俺に見向きもしなかった。

 その夜、美緒との永遠の別れを記念して、酒を浴びるように飲んだ。


 しかし…、






 美緒は結婚後、市の福祉課を退職した。

 家に入りたいと言うことらしかった。

 もちろん、春樹の稼ぎなら美緒1人ぐらい十分に養えるし、別に不自然なわけではなかった。

 その新婚間もない頃から、美緒は月に一、二度、俺の所を訪ねて来るようになった。

 最初は単にコーヒーを飲みがてら、話をしに来ているのだと思った。

 しかし、今日のように客が誰も入っていない時には、俺にしがみついて「抱いて欲しい」という。

 以前、まだ2人が結婚していない時に「美緒が抱いて欲しいなら、俺はいつでも抱いてあげる」と言ったことが確かにある。

 しかし、今は新妻。さすがの俺も他人の妻を抱く気はなかった。

 だが…、惚れた女に「抱いてくれ」と言われて拒める男はいないだろう。

 美緒が訪ねてくると、小一時間ほど濃密な時を過ごすようになった。



☆☆☆☆☆

 俺はcloseの札を架けると急いで2階にあがった。

 美緒は俺のベットに腰掛けて、俺を待っていてくれた。

譲二「美緒、どうしたの?」

 俺が抱きしめると美緒は俺にしがみついた。

 唇が重なり、キスは激しくなる。

 何も言わなくても、美緒は俺を求めているのだとわかる。

 美緒の服を脱がすと丹念に彼女を愛撫した。

 こうして美緒を抱いていると、昔のままで、時が経っていないかのように錯覚してくる。

 指で彼女をいかせると、俺は聞いた。

譲二「俺が欲しい?」

美緒「…うん」



 彼女の中に分け入って一つになる。

 俺はうわ言のように「愛してるよ、美緒」と何度も囁いた。

 美緒も「譲二さん」と応えてくれた。

 押し寄せる快感の中で、いつしか罪悪感も忘れていた。


その2へつづく

☆☆☆☆☆

秘め事~その2

〈譲二〉


 息を整えながら、美緒を抱きしめて優しく口づける。

譲二「…こんなことになるんだったら、どんなことをしてもハルから奪っておくんだった。」

美緒「そうしたら、私は時々ハル君のところへ行っていたかもしれないよ」

譲二「…それでもいい。美緒を自分のものにできるのなら…。
こんな風に泥棒猫みたいに美緒を抱くんじゃなく…」

 美緒は寂しそうに笑った。

譲二「ねえ、前にも聞いたけど…、ハルとうまくいっていないの?」

美緒「そんなことないよ…。ハル君は忙しいけど、ちゃんとお休みもとって私のことも考えてくれているし…。相変わらず優しいし…」

譲二「それならなぜ? 毎回美緒を抱く俺に言えた義理じゃないけど…。
なぜ、俺のところにくるの?」

美緒「どうしても、時々体が疼いて、譲二さんが欲しくなるの…」

譲二「…それは…。光栄ですって言うべきなのかな…」

 時計を見る。そろそろ客が戻ってくる時間だ。

譲二「シャワーを浴びておいで。
コーヒーを入れてあげるから、飲んでから帰るといいよ」

 美緒の額にそっと口づけた。

美緒「コーヒーは飲まなくてもいいよ。」

譲二「クロフネに来てコーヒーも飲まないなんて不自然だろ?
 美緒はクロフネに来てコーヒーを飲みながら、俺とおしゃべりをしたんだ。」

美緒「え?」

譲二「ハルには、時々クロフネに来て俺とおしゃべりをしていると話した方がいい。
ここに出入りしているところを誰かに見られているかもしれないし、人間、なるべく嘘はつかない方が気持ちが楽だよ。
わかった?」

美緒「…うん」

譲二「俺に抱かれたことについてはただ黙っているだけだ…。
嘘をつくわけじゃない。」

 美緒はじっと俺を見つめた。

美緒「譲二さん。ありがとう」

譲二「俺は美緒を抱くのは一向に構わないけど…。
美緒の気持ちが落ち着いたら、ただのおしゃべりだけで済むようになるかもしれないよ…。ね?」

 美緒は涙を拭いてニッコリ微笑むとシャワーを浴びに降りて行った。

 俺は急いで服を着て、店に降りる。

 closeの札を取り、美緒のためにコーヒーを準備する。



 間もなく、少し落ち着きを取り戻したらしい美緒が現れた。

 それを見計らってカウンターにコーヒーを出した。

美緒「ありがとう、譲二さん」

譲二「ちょっとは落ち着いた?」

美緒「ええ。」

譲二「美緒ちゃん、本当にどうしたの? 相談ごとがあるなら、俺に話して?」

美緒「…」

譲二「美緒ちゃんが俺に求めているのは体だけ、というなら別だけど…」

美緒「そういうわけじゃないの。ただ、自分の気持ちがちゃんと整理できてなくて…。」

 美緒は職場を退職したわけを話してくれた。

 同僚とのトラブル。

 結婚の準備とも重なり、かなり心労が耐えなかったようだ。

美緒「譲二さんには本当に悪いと思ってる。
今まで散々振り回して、今もまた迷惑ばかりかけて…」

譲二「そんなの気にすることないよ。
俺は今も美緒ちゃんのことが好きなんだから。
好きな人のためなら、なんでもできる。
って、俺がこんなことばっかり言ってるから、美緒ちゃんが不安になるのかな?」

美緒「ううん。ありがとう。今日はもう帰るね。
コーヒーごちそうさま。」

譲二「あ、おごりだから、代金はいいよ」

美緒「でも」

譲二「いいから。また、来て。今度はおしゃべりで」

 美緒は少し微笑んで、出て行った。


 俺は大きくため息をついた。

 美緒が出て行った後に、次々と客が入り出し、深く考えることができなかった。


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 夜、店を閉めてから、シャワーを浴び、自分の部屋に戻った。

 体が少しけだるい。俺ももう年なのかもしれない。

 それにしても、美緒はどうしたのだろう?

 もしかして、美緒は心を病んでいるのだろうか?

 長年、俺とハルの間で取り合いになって、翻弄されて、俺にもハルにも罪悪感を感じているからだろうか?

 だとしたら、美緒がああなった責任の一旦は俺にある。

 というより、元々ハルを好きな美緒を無理やり自分のものにした俺の責任が一番重いのだろう。


その3につづく

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秘め事~その3

〈美緒〉
 ハル君との結婚は、ハル君と付き合い始めてからの7年間ずっと望んで来たことだった。



 ハル君にロマンティックにプロポーズされ、それぞれの両親にも正式に挨拶し、みんなに祝福されて結婚したはずだった。

 結婚式には譲二さんさえ出席して祝福してくれた。

 嫌がっていたけど、私が少し脅したら出席してくれたのだ。

 譲二さんは元恋人だけど、吉祥寺での私の親代わりでもある。

 その譲二さんにはどうしても出席して欲しかったのだ。




 結婚前、一度だけ譲二さんに抱かれたことがある。

 ハル君とクライアントのことで喧嘩して家出した夜、クロフネに泊めてもらった時のことだ…。

 その時の私は精神的に不安定で、どうしても譲二さんに慰めてもらいたかった。

 独りになるのが怖くて怖くて、出来れば昔のように譲二さんに抱きしめてもらったまま眠りたかった。

 でも、元恋人の男女が2人っきりという状況では、ただ抱きしめ合うだけでは終わらなかった。

 「とんでもないことをした」と後悔して動揺する私に、譲二さんは「今夜のことは2人だけの秘密にしよう」と言ってくれた。

「ぐっすり眠って明日の朝には全て忘れなさい」とも。

 翌朝、迎えに来たハル君と仲直りして、譲二さんとはそれだけになった。

 だから、私たちが秘密を守れば、何も心配することはないはずだった。




 結婚するにあたって、私は仕事を辞めた。

 みんな「もったいない」と言ってくれたし、私もやりがいのある仕事は続けたいと思っていた。

 しかし、ハル君にプロポーズされる少し前から、職場の同僚と些細なことがきっかけでトラブルになり、それは感情のもつれから修復不可能なものになっていた。

 私の精神が不安定なのはその職場でのトラブルにも一因があった。

 結婚式の準備と職場でのトラブルに疲れ果てた私は、市役所を退職した。




 結婚後しばらくは幸せで充実した日々を送っていた。

 しかし、忙しいハル君を仕事に送り出し、日中独りで過ごしていると、だんだんいたたまれなくなって来た。

 そして、あの譲二さんとの一度だけの過ちが頭の中にもたげて来るようになった。

 譲二さんは私の初めての人で、3年間愛されて来たから、譲二さんのやり方が私には一番しっくりくるのだった。

 心はハル君のことが一番好きだし、恋人としての期間もいつの間にか譲二さんより長くなっていたのに、久しぶりの譲二さんとの出来事が私の体に火をつけてしまったのだ。

 結婚後、初めてフラフラとクロフネに行ったとき、譲二さんはコーヒーを奢ってくれて、たわいのないおしゃべりをした。

 その時も譲二さんに抱いて欲しいと思ったが、店には二組くらいのお客さんがいて、そんなことは言い出せなかった。

 それでも、譲二さんの笑顔をみて、声を聞いたことで、私の気持ちは安定し、その後半月くらいは平穏に過ごした。



 そして、また気持ちが塞いでイライラしたとき、クロフネにいってみた。



 その日はたまたま、お客さんは誰もいなかった。

 コーヒーを飲み、おしゃべりをして…。

 ふと会話が途切れた。

 譲二さんと見つめ合う。

 その時、なぜか私の目からは涙が静かに溢れ出た。

 驚いた譲二さんは私の手を握ってくれた。

 それでも泣き止まない私を慰めようと抱きしめてくれて…。

 その後は譲二さんの部屋で愛し合った。

 そして、それからはひと月に一、二度、クロフネに客足が途絶える時間帯に訪ねては譲二さんに抱いてもらうようになった。

 譲二さんに抱いてもらった後は気分が高揚し、しばらくは朗らかに過ごすことができた。

 しかし、日が経つにつれまた気持ちが塞いで…ということを繰り返していた。


その4につづく

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秘め事~その4

〈譲二〉


 美緒を抱いた数日後の夜、そろそろ店を閉めようと準備していると、ハルが店にやってきた。

 俺は努めて平静にハルを迎えた。

春樹「こんばんは、譲二さん」

譲二「やあ、ハル、久しぶりだね。結婚式以来じゃないか?」

春樹「そうですね…」

譲二「何を飲む?」

春樹「じゃあ、コーヒーを」

 美緒のことを聞きたいと思ったが、下手な言い方をするとやぶ蛇になりそうなので、違う話題をふった。

譲二「仕事の方はうまく行っている?」

春樹「ええ、クライアントも増えましたし、忙しくなってきたので、事務所に人も増やしました。」

 やはり俺は耐えきれずに美緒のことを聞いた。

譲二「そんなに忙しかったら、美緒ちゃんは寂しがってるんじゃないの?」

春樹「美緒のことはいつも気をつけるようにしてます。
昼も時間が取れれば、家に帰って食べるようにしてますし。」

春樹「それより、譲二さん。美緒が時々クロフネにお邪魔しているようですね。」

 俺はあえて、春樹の目をまっすぐ見つめて言った。

譲二「ああ、月に一、二度くらいかな。昼間に来てくれてるよ」

春樹「この間、美緒が自分から譲二さんを時々訪ねていることを話してくれました。」

譲二「色々と愚痴を聞いて欲しいらしいね。
仕事を辞めたのも、職場でのトラブルが原因だと言っていた。
本当はハルにもっと話を聞いて欲しいんじゃないのか?」

春樹「美緒の話は出来るだけ聞くようにしていますよ。
それより…」

春樹「譲二さんは美緒のことをどう思っているんですか?」

譲二「好きだよ」

春樹「!!」

譲二「といっても、今は妹のように思っているんだけどね。」

 俺は、少しだけ嘘をついた。

春樹「恋愛感情はもうないと?」

譲二「ああ。俺たちが別れて、もう8年になるんだよ。
お互いもう気持ちの整理はついてるさ」

春樹「譲二さん。譲二さんと美緒の関係は未だに続いているんじゃないですか?」

譲二「なんでそう思うの?」

春樹「ただ単に俺の勘です」

譲二「そんなこと疑ったら、美緒ちゃんがかわいそうだろ?」

譲二「美緒ちゃんは本当に一途にハルのことを思っているよ。
それは昔から変わらない…」

春樹「譲二さんは…、そんな美緒を自分のものにしたわけですか?」

 一瞬、ハルが言っているのは今のことかと思い動揺した。

 しかし、すぐに昔のことを言っているのだと気がついた。

譲二「ああ、そうだ。
その頃は俺も美緒ちゃんのことが大好きで、どうしてもハルより先に手に入れたいと思った。」

春樹「譲二さんが美緒との交際宣言をして、美緒が俺に別れを告げた時、美緒はすでに譲二さんとは肉体関係があるようなことをほのめかせました。
その時には美緒に手を出していたんですね。」

譲二「ああ。あれよりずっと前にね」

春樹「美緒が何かを悩んでいるように見えた時には既に…ということですか」

譲二「そうだろうね」

春樹「…」

 ハルが心底俺のことを憎いと思っているのが伝わった。

譲二「俺を殴ってもいいぞ。…それで気が済むなら」

春樹「…いいえ。やめときます。
何年も休んで体が鈍っているとはいえ、下手をすると譲二さんを病院送りにしそうですから…」

譲二「なら…。安心した」

 ハルはコーヒーを飲み干すと、

春樹「ごちそうさま…。」

と言って、代金を置くと立ち上がった。

 その後ろ姿に声をかける。

譲二「美緒ちゃんは…、ハルのことが一番好きだし、誰よりも大切に思っている。
昔から今までそれは変わらない。
それを分かってあげて欲しい」

 ハルは後ろを向いたまま答えた。

春樹「それは…言われなくても知っていますよ。」


 そして、そのまま立ち去った。




 春樹は俺を牽制に来たのだと、よくわかっていた。

 今の俺たちの間のことは何があってもしらを切り通さなければならない。

 美緒を守るためにも。

 そして、そのためには美緒が『抱いてくれ』と来ても追い返すのが一番だと分かっていた。

 しかし、いざ美緒が俺のところに来ると、彼女の望み通りに抱いてしまう俺がいる…。


 


 



 いや、「彼女の」ではなく、「俺の」望み通りに…だな…。



その5につづく

 

 

 


☆☆☆☆☆

 


ハル君も大人の男になり、こんな譲二さんとのやり取りが、これ以降も時々出てくる。
2人の緊迫した男同士のやり取り、自分で書きながら中々好きなんだよね。
ハル君は色々経験してピュアなだけの男では無くなり、譲二さんは自信満々に相手しているようで、内心は焦ってるというような…。
2人のやり取りもお話が進むに従って変わっていくので、そこにも注目してもらえるとうれしい。

 

 ☆☆☆☆☆

秘め事~その5

〈譲二〉


 美緒がクロフネを訪ねて来ている。

 行為の後、彼女の体を優しく撫でていた。

美緒「私は、こうやって未だに譲二さんに愛されていることを確認しているんだと思う。」

譲二「え?」

美緒「ハル君と結婚した今でも、譲二さんを永遠に自分のものにして置きたいんだと思うの。」

譲二「俺は美緒を抱かなくても、ずっと美緒を愛してるよ。
それはきっと一生変わらない…」

美緒「でも、ずっと会わないままでいたら、その気持ちは薄らいで、私のことも諦めようとしたでしょ?」

譲二「そんなこと…ないよ」

 そう言いながらも、明里のことを思い出した。

 失恋して…、何年もかかったが結局明里のことは古い友人として心の中で整理することができた。

美緒「私は…いつか譲二さんが私を諦めて、別な人のものになってしまうのが耐えられないのだと思う。
自分はハル君と結婚したくせにね…。」

譲二「それは…もしかして俺に対する復讐なのかな?」

美緒「え?」

譲二「この間、夜にハルがクロフネに来たんだ…」

美緒「ハル君が…!」

譲二「それで、色々話していて、その時にハルは、ハルのことを一途に思っていた美緒を、俺が無理やり自分のものにしたことを責めて、俺を許せないみたいだった。」

美緒「…」

譲二「美緒もやっぱり同じなんじゃないか? 
あの時俺が手を出さなければ、美緒の『初めての人』はキスもセックスもハルだったろ?」

美緒「譲二さんに復讐したいだなんて、そんなこと思うわけないよ…。
だって、譲二さんのことも大好きなんだもの。」

譲二「俺はね、美緒を責めているわけじゃないんだ。
これが美緒の復讐だとしても、俺は甘んじて受け入れる。
一生美緒の虜のままでもいいと思ってる。」

美緒「譲二さん…」

譲二「それくらいひどいことを美緒にしたんだろ?
俺は…」

美緒「そんなことない…」

 美緒が俺にしがみついて来た。

譲二「そんなこと…あるよ…。
そうじゃなきゃハルのことが大好きな美緒が俺に『抱いてくれ』なんて言うわけないじゃないか」

 胸にしがみつく美緒を抱きしめ、…その日俺はもう一度、美緒を抱いた。



秘め事~その6~その9につづく




Je te veux (おまえが欲しい)~その2

2014-11-24 08:52:02 | ハル君ルートで茶倉譲二

ハルルートの譲二さんの話の続編
『それぞれの道』で譲二さんがヒロインと別れて、七年が経ち、ヒロインはハルくんと結婚した。
☆☆☆☆☆


「Je te veux」


作曲 Eric Alfred Leslie Satie  1866-1925  
作詞:Henry Pacory

おまえが欲しい(男声版)

黄金の天使 心酔わせる果実
魅力的な眼差し
それらをおくれ おまえがほしい
僕の恋人になってほしい
僕の苦しみを鎮めるために 来ておくれ
おお 美しいひと
僕は強く憧れる
僕たちが幸福になれるひとときを
おまえが欲しい

おまえの美しい髪の毛が
おまえを後光で飾る
優雅なブロンドの髪は 理想の人の髪
僕の心はおまえのもの
おまえの唇は僕のもの
おまえの身体(からだ)は僕のもの
僕の身体はおまえのもの

そう 僕はおまえの眼のなかに
確かな約束を見ている
恋するおまえの心が
僕の愛撫の不安を消してくれる
永遠に抱き合い 同じ炎を燃え上がらせ
愛の夢のなかで 僕ら二人の魂を交わし合おう





☆☆☆☆☆

Je te veux (おまえが欲しい)~その1の続き


Je te veux (おまえが欲しい)~その2


〈譲二〉
 
譲二「美緒…君が欲しい……。
…ごめん、変なことを言って」

 非常識なことを口にしてしまい、後悔する。

美緒「…私…、譲二さんに抱いて欲しい…」


譲二「え?」

 驚いてもう一度美緒の顔を見つめた。

 美緒は黙って上目遣いで見つめている。

 その瞳は潤んでゆれている。

譲二「本当に…本当に、いいの?」

美緒「うん」

譲二「それじゃあ、ちょっと待って…」

 俺はドキドキしながら、closeの札を出し、店のドアに鍵をかけた。

 そして、じっと座っていた美緒を抱き上げると2階に上がった。

 俺の部屋に入ると美緒をベッドの上に下ろした。

 胸の動悸が止まらない。

 (何をしているんだ! 人妻なんだぞ!)

 自分をののしりながらも、止めることが出来ない。

 彼女に覆いかぶさって、何度もキスをした。

 彼女の素肌を暴いて行く。

 数ヶ月前にも彼女を抱いたことを思い出した。

 美緒の白い乳房を愛撫して頬ずりする。

 彼女の甘い香りがする。

 彼女の肌が気持ちよくて俺の理性は飛んでいた。

 美緒も俺のシャツのボタンを外してくれる。

 肌と肌がふれあい、彼女の温かさが伝わった。

 
譲二「美緒…本当にいいの?」

美緒「うん…。譲二さんが欲しい…」

 俺は初めて女の子を抱く高校生のように余裕なく美緒の中に入った。

 何度も「美緒、愛してるよ」と呟く。

 美緒の喘ぎ声と「譲二さん」という声を聞くと、我を忘れて頭の中は真っ白になってしまった。




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 2人で荒い息を吐きながら、しばらく重なり合ったままでいた。

 俺は美緒の唇にそっとキスをした…。

譲二「ごめんね。…自分が抑えられなくなって…」

美緒「ううん。私…譲二さんに抱いて欲しくてここに来たから」

譲二「え? そうなの?」

美緒「うん。譲二さんとこうなりたかったの…」

 美緒はそういいながら、涙を流している。

譲二「ちょっ…、美緒!」

 美緒は俺の胸にしがみついて泣き続けた。



 泣き続ける美緒を落ち着かせ、顔を洗わせて送り出した。




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 美緒が帰ってからぼんやりと考える。

 今日は特に客が来ないから、考え事には好都合だ。

(美緒は一体どうしたんだろう?
結婚式でも、前回おしゃべりに来たときもあんなに幸せそうだったのに…。
ハルと喧嘩でもしたのだろうか?)

 『俺に抱いて欲しくてここに来た』と言っていたけど…。

 今更、俺なんかに抱いてもらいたいなんて…どういうことなんだろう。

 美緒を抱けて、嬉しい筈なのに…。

 この気持ちは一体なんだ…。

 俺は自分も静かに涙を流しているのに気づいた。

(なんてことだ…。早く顔を洗って来よう)

 洗面所で顔を洗い、鏡に映った自分の顔を見つめる。

 そこには冴えない中年男が写っている。

(こんな風に自分の顔をじっくり観察するのは久しぶりだな…)

 俺は一体これからどうしたいんだ?

 美緒のことは諦めたはずなのに…。

 こんな風に簡単に彼女を抱いてしまって。



 美緒! ああ、美緒!!

 俺はやっぱり君のことが大好きだ!!


Je te veux (おまえが欲しい)』おわり

続きは『秘め事』~その1~その5です。

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リンク先の「Je te veux」を歌っている歌手。昨日はカウンターテナーの米良美一さん。今日は三大テノールの一人、ホセ・カレーラスさんです。
どちらも素晴らしい歌声ですね。

 


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Je te veux (おまえが欲しい)~その1

2014-11-23 09:35:18 | ハル君ルートで茶倉譲二

ハルルートの譲二さんの話の続編
『それぞれの道』で譲二さんがヒロインと別れて、七年が経ち、ヒロインはハルくんと結婚した。
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「Je te veux」


作曲 Eric Alfred Leslie Satie  1866-1925  
作詞:Henry Pacory

おまえが欲しい(男声版)

黄金の天使 心酔わせる果実
魅力的な眼差し
それらをおくれ おまえがほしい
僕の恋人になってほしい
僕の苦しみを鎮めるために 来ておくれ
おお 美しいひと
僕は強く憧れる
僕たちが幸福になれるひとときを
おまえが欲しい

おまえの美しい髪の毛が
おまえを後光で飾る
優雅なブロンドの髪は 理想の人の髪
僕の心はおまえのもの
おまえの唇は僕のもの
おまえの身体(からだ)は僕のもの
僕の身体はおまえのもの

そう 僕はおまえの眼のなかに
確かな約束を見ている
恋するおまえの心が
僕の愛撫の不安を消してくれる
永遠に抱き合い 同じ炎を燃え上がらせ
愛の夢のなかで 僕ら二人の魂を交わし合おう




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『祝婚の続き


Je te veux (おまえが欲しい)~その1

〈譲二〉
 
 午後、客足の途絶えた時間に美緒がやってきた。

 半月ぶりかな。

 美緒が結婚してからは2回目だ。

 美緒に会えるのは嬉しいけど…、少し複雑だ。

 美緒とハルの結婚を機に美緒のことはもう諦めようと決心していたからだ。

 前回来たときは、コーヒーを出して近況(ハルとののろけ話が多かった)を話した。

 あの時は二組くらいお客が入っていたので、そこまでじっくり話せたわけではない。

 今日は美緒と2人きり…。

 少し緊張している俺がいる。

 カウンターの美緒にコーヒーを出し、俺も隣に座った。

譲二「あれから元気にしてた?」

美緒「はい。譲二さんは?」

譲二「俺? 俺は相変わらずだよ。うだつの上がらないまんま」

美緒「みんなは来てるのかな?」

譲二「一護やタケたちのこと? そうだなあ、時々は来てくれているよ。
全員一緒じゃなく、バラバラに来ることが多いけど…。
集まれば賑やかだ」

美緒「ハル君は…来てないよね…」

譲二「うん。うちでそんな話はでないの?」

美緒「一護君たちの話題はでるけど…クロフネの話題はでないかな…」

譲二「そっかぁ…。やっぱり、ハルにはわだかまりがあるのかな…」

 俺は少し寂しくなった。

 恋敵とは言え、ハルのことは純粋に好きだったからだ。

 ふと、美緒を見ると静かに涙を流している。

 俺は慌てた。

譲二「ちょっ…美緒ちゃん。どうしたの?」

 美緒を元気づけようと手を握った。

 しかし、美緒は泣くのをやめない。

 戸惑った俺は美緒を抱き寄せて、背中を優しく叩いた。

譲二「美緒ちゃん…。どうしたの?
何か悩みがあるなら俺に話してみて…。
解決はできないかもしれないけど、気持ちは楽になるよ」

美緒「譲二さん…」

 美緒はそのまま泣き続けた。

 美緒の柔らかい体を抱きしめていると…俺の中の眠っていたものに火がついた。

譲二「…美緒…」

 俺は美緒の顎を持って上向かせるとその瞳を見つめた。

 美緒の瞳は俺の顔を写してゆれている。

 俺はどうしても自分を抑えられなくなって、美緒にキスをした。

 優しく…そっと。

 でも、一度キスするともうダメだった。

 貪るように何度も美緒の唇を奪ってしまう。

 真っ昼間から…誰が来るか分からないクロフネの店内で…。

 美緒を抱きしめて囁いた。

譲二「美緒…君が欲しい……。
…ごめん、変なことを言って」

 非常識なことを口にしてしまい、後悔する。

Je te veux (おまえが欲しい)~その2へつづく


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祝婚

2014-11-19 09:25:16 | ハル君ルートで茶倉譲二

ハルルートの譲二さんの話の続編
『それぞれの道』でヒロインと別れた後、七年経ってクロフネに帰って来た譲二さん。

『秘密』の続き
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祝婚

〈譲二〉
 今日はハルと美緒の結婚式だ。

 俺は2人の結婚式になんか出たくはなかった。

 しかし、美緒に「みんなに疑われるよ」と脅されて招待状を受け取った。

 一度弾みで美緒を抱いたことがあり、それが弱みとなって、はっきり断ることができなかった。

 しかし、今日は俺にとって耐え難い一日になることは確実だった。



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 教会の新婦側の席で、式が始まるのを待つ。

 俺は美緒の吉祥寺での親代わりなのだから、新婦側でいいのだろう。

 一護たちは反対側の新郎側の席に座り賑やかに話している。

 タキシードを来たハルがまず入場し、父親と腕を組んだ美緒が入って来た。

 ウエディングドレスに長いベールを被った美緒は輝くように美しかった。

 式の間、新郎新婦は頬を染めながら見つめ合っていた。

 ベールを上げ、ハルが美緒に誓いのキスをした。

 俺はそれらの儀式を無表情のまま見ていた。

 俺は…どうしてこんな残酷なものを見つづけているんだろう…?



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 教会を出て、渡されたバラの花びらを新郎新婦に投げ掛ける。

 ブーケを投げる花嫁。

 大きな歓声。

 俺はそれらすべてを無声映画でも見るように眺めていた。




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 披露宴が始まった。

 俺の席はリュウ、一護、タケ、りっちゃんと同じテーブルだ。

 みんなで嘆きながらも、会話はいつもの調子で弾んで行く。

 テーブルにはメッセージビデオの撮影も回って来て、何かしゃべらないといけない。

(美緒、俺は…。)

 とりあえず『幸せな家庭を築いてください』とかなんとか、無難な台詞をしゃべる。


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 シャンパンもワインもビールも出てくる酒はすべてガンガン飲んでいく。

竜蔵「ジョージ、そんなに飲んで大丈夫か?」

譲二「ああ」

理人「やけ酒も飲みたくなるよね…。
いっちゃんもいつもよりペース速いじゃん」

一護「これぐらいじゃ大したこと無いさ、な、マスター」

譲二「ああ、全然酔えない…」

剛史「もう少し、2人の邪魔しとくんだった」

竜蔵「俺もやけ酒飲んでいいか?」

理人「ダメ!」
剛史「飲まなくていい!」
一護「飲むな!」

 3人の声がハモる。

竜蔵「俺も今日くらいは飲みたい…」

理人「リュウ兄が飲んじゃったら、僕たちだけでは対処できないから…。
これでも飲んで我慢して」

 りっちゃんはリュウにオレンジジュースを手渡した。

 リュウは情けなさそうな顔をしてそれを飲み干した。



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 キャンドルサービスでは、うちのテーブルのロウソクにはメロンの皮だのオレンジの皮だので芯に蓋がしてあった。

 ハルは自分のロウソクの角を上手に使って払いのけ、時間はかかったが、俺たちのテーブルにも無事火が点った。

竜蔵「くそッ、つけやがった!」

理人「だからお手拭きも乗せようって言ったのに…」

一護「ハルは昔からUFOキャッチャーだの金魚すくいだのが得意だったからな…」

剛史「どうやったらロウソクに火がつかないか、家で研究してくればよかった」

 俺はあいつらの子供っぽいイタズラに苦笑しながら、美緒が俺のことを一瞥もしてくれなかったことに落ち込んでいた。



 美緒がもし一瞬でも俺を見つめてくれたら…。

 そしてその瞳の中にほんの僅かでも俺への想いを見つけることができたら、俺は…。

 俺はなんてバカなことを考えているんだろう…。

理人「マスター、今日は無口だね」

譲二「ああ、ちょっと飲み過ぎたかな。…眠たくなってきた」

 本当は眠たくもなく、酔いもまわっていなかった。



☆☆☆☆☆

 披露宴がお開きになり、出口で並んだ新郎新婦、それぞれの両親に一言ずつ挨拶を交わして行く。

 ハルは幸福と自信に満ちあふれた花婿だ。

春樹「ジョージさん、ありがとうございます」

譲二「おめでとう、いい式だったよ」

 美緒は幸せという輝きを身にまとって、女神のように美しく微笑んだ。

美緒「マスター、来てくれて、ありがとう」

譲二「とても綺麗だったよ。お幸せにね」

 それらの拷問を済ませるとやっと会場から外に出られる。



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一護「二次会では朝まで飲んでやる!」

理人「みんなハル君を捕まえて、絶対に美緒ちゃんと二人にしちゃダメだからね」

剛史「おう!ハルにとにかく飲ませて、酔い潰してやる!」

竜蔵「お前ら、ヤケ酒が飲めていいよなあ…」

理人「リュウ兄はしらふなんだから、ハル君を見張って絶対逃がさないようにしてよね」

竜蔵「お、おう」

一護「ハルの奴絶対許さねー」

剛史「絶対阻止するぞ!」

竜蔵「おう!」




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 二次会に行くという一護たちと別れてクロフネに帰る。


 もう一度一人で飲み直しだ。

 明日は二日酔いで酷いことになるだろが、今夜はとにかく潰れるまで飲みつづけたい。

 花嫁姿の美緒は輝くように美しかった。

 そしてハルと美緒は本当にお似合いだった。

 …俺は完敗だ。

『祝婚』おわり

次はJe te veux (おまえが欲しい)』~その1になります。


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どのルートでも、誰かの結婚式での幼なじみたちはこんな感じじゃないかな。
そして、譲二さんは自分の式以外では、ひたすら泣き崩れていると思う。




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