恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

小説を検索しやすくするためインデックスを作りました

インデックス 茶倉譲二ルート…茶倉譲二の小説の検索用インデックス。

インデックス ハルルートの譲二…ハルくんルートの茶倉譲二の小説の検索のためのインデックス。

手書きイラスト インデックス…自分で描いた乙女ゲームキャラのイラスト記事


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『さよなら』

2014-08-20 09:45:35 | ハル君ルートで茶倉譲二

譲二さんルートとの混乱を避けるため、ヒロインの名前は佐々木美緒とします。


☆☆☆☆☆
 好きになったヒロインに迷わず告白し、実力行使にでてしまう男らしい譲二さん。
 ただやっかいなのは、ヒロインが好きなのは譲二さんではなく、別の男の人だった。そう…、たとえばハル君。


☆☆☆☆☆
茶倉譲二: 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg

☆☆☆☆☆

『交際宣言』の続き



『さよなら』その1


〈美緒〉
 タコ公園のベンチに2人並んで座る。

春樹「…」

美緒「ハル君、ごめんね…。」

春樹「謝ることはないだろ…。もしかして、佐々木も俺のことが好きなんじゃないかと俺が勝手に思っていただけだから…。」

 私は小さく呟いた。

美緒「ハル君のことが好き」

春樹「え?」

美緒「ごめんなさい。今のは忘れて」

春樹「どういうこと? 佐々木はジョージさんが好きだから付き合うことにしたんじゃないの?」

美緒「今は譲二さんのことも好き」

 私の目から涙が溢れてくる。

春樹「佐々木…、泣くなよ。もう泣くな」

美緒「ごめんなさい。ハル君。今はハル君のことも譲二さんのことも同じくらい好きなの」

春樹「それなら…、俺にもまだ挽回の目はあるの?」

(ああ、いけない。また、ハル君に期待させるようなことを言ってしまった)

 私は流れる涙を飲み込んだ。

美緒「ううん。もう譲二さんと、って決めたことだから…」

春樹「それは…後戻りできないことなの?」

美緒「私…、譲二さんともう…」

 声が震える。ハル君はその一言で、全てを理解したらしかった。

春樹「佐々木、もうそれ以上言わなくていいよ…。もう言わなくていい…」

 ハル君が私を抱きしめる。温かいハル君の胸。ハル君の匂い。この優しい腕に抱きしめられるのは、これが最後なんだ…。


☆☆☆☆☆

『さよなら』その2


〈美緒〉
 ハル君に抱きしめられているうちに、私の気持ちは高ぶる。私はそっと囁いた。

美緒「ハル君。一つだけお願いを聞いて?」

春樹「なに?」

美緒「ハル君にキスして欲しい…」

春樹「…」

 ハル君は何も言わず私の頬を両手で持って上向かせた。

 私たちはじっと見つめ合う。ハル君の優しい目。

春樹「俺がキスしたら、佐々木はもう泣かない?」

美緒「うん。我慢する」

春樹「じゃあ、目をつぶって」

 私が目をつぶると、ハル君はそっと唇にキスしてくれた。

 一度触れると、それは何度も繰り返し、ついにハル君の舌が唇を割って入って来た。私はそれに応えた。

 長い長いキス。(ハル君、大好き。私はずっと、ハル君とこんな風にキスしたかったんだ…)


☆☆☆☆☆

 ハル君はクロフネまで送ってくれた。私は「いいよ」って言ったけど。

春樹「この前みたいに変なヤツに襲われたら困るだろ?ジョージさんにも申し訳ないから…」

 やっぱりハル君はそうやって、みんなに気を遣うのねと思った。
 でも、ハル君に送ってもらうのはやっぱり嬉しかった。

 別れる前、ハル君は唇にそっとキスしてくれた。



☆☆☆☆☆


最初ハル君との別れの場面では、抱きしめ合うだけでした。
 
でも、何度も手を加えるうちにキスもするようになりました。(;^ω^A
 
それが遠因となって、この後の話も転がり始めることになります。
 
☆☆☆☆☆

『さよなら』その3

〈譲二〉

 美緒が帰ってくるまでの時間は30分くらいだったろうか。

 その間、俺はじりじりとして待っていた。


 話し声が聞こえる。

美緒「ただいま」

譲二「おかえり」

 俺は美緒をすぐに抱きしめた。

譲二「ハルに…、ちゃんと伝えられた?」

美緒「うん…。好きだってことも伝えたよ」

譲二「え?」

 心臓が止まりそうになる。

美緒「譲二さんのことも同じくらい好きだってことも。それにもう私たちは普通の関係じゃないってことも」

 そこまで伝えてくれたのか。

譲二「…そっか。ハルは納得してくれたの?」

美緒「うん…。」

譲二「辛かったね。ごめんね」

美緒「…」

 美緒がしがみついてきた。

 美緒の顎を持って上向かせるとキスをした。

最初は軽く、でも止まらなくなって、深く深くキスをしてまう。

美緒も積極的に応えてくれた。


☆☆☆☆☆

 その夜はいつにも増して、激しく愛し合った。

 美緒の目からは絶えず涙が溢れて来て、俺は口づけで吸い取った。

美緒「私を…むちゃくちゃにして…」

 美緒の大胆な言葉に驚いた。

美緒「…ハル君のことを…忘れさせて」

 そうか。美緒はハルのことを忘れようともがいているのか。
 …俺のために。

 美緒を強く抱きしめた。

 美緒は自分だけのものだと信じたかった。

譲二「美緒は俺だけのものだ…」

  きっと、ハルに別れの言葉を告げたとき、2人は抱き合ったに違いない。いや、それだけじゃなくキスだって。

 頭に思い浮かぶそんな想像をふるい落としたくて、いつもより乱暴に美緒を扱ってしまった。

☆☆☆☆☆

『さよなら』その3

〈譲二〉
 翌朝、目が覚めると美緒はあどけない顔でまだ寝ていた。

 あまりに可愛らしくて、髪を優しくなでる。

 「う…うん」と可愛い声をあげて、美緒が目を開けた。

譲二「おはよう」

美緒「おはようございます」

譲二「体は大丈夫?」

美緒「え?」

譲二「えっと…その、昨夜は…結構ハードにやっちゃったからさ…」

 昨夜のことを思い出したのか、美緒の顔が赤らむ。

美緒「大丈夫。 …でも少しけだるいかな」

譲二「俺も少しけだるい」

 2人で顔を見合わせて笑う。どちらからともなく、唇を求め合った。

譲二「ねえ、美緒…。ずっと俺の側にいてくれる?」

美緒「うん」

譲二「ハルのこと…好きなままでいいから。」

美緒「…」

譲二「無理に忘れようとしなくてもいいから」

美緒「…ずっと好きかもしれないよ?」

譲二「…うん」

美緒「一生かも…」

 俺は自分に言い聞かせるように言った。

譲二「…俺は美緒さえ側にいてくれたら…それでいいから」

美緒「…私って譲二さんに甘えてばかりだね」

譲二「甘えてくれる美緒が可愛くて、愛しい」

 俺は美緒のおでこにそっと口づけた。

 そうだ。美緒がたとえハルを好きなままでも、俺の側にずっといて欲しい。

 美緒がハルを忘れようとして、悲しんだり苦しんだりするのに俺は耐えられない。

 ハルを好きな美緒をまるごと愛せるような男に、俺はなりたい。


『さよなら』おわり

☆☆☆☆☆

続きは『じーじ』です。



『交際宣言』

2014-08-18 09:35:48 | ハル君ルートで茶倉譲二

譲二さんルートとの混乱を避けるため、ヒロインの名前は佐々木美緒とします。


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 好きになったヒロインに迷わず告白し、実力行使にでてしまう男らしい譲二さん。
 ただやっかいなのは、ヒロインが好きなのは譲二さんではなく、別の男の人だった。そう…、たとえばハル君。


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茶倉譲二: 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg

☆☆☆☆☆

『全国大会』の続き



『交際宣言』その1



〈譲二〉
 クロフネで、『春樹全国大会ベスト4おめでとう会』を開くことになった。

 料理は俺だけでは手が足りないという理由で、美緒と一護に手伝って貰うことにした。


 本音は美緒だけに手伝ってもらいたいところだが、本当に時間がないので、料理のできる一護を外すわけにはいかない。


 タケとリュウにも飾り付けという口実で一緒に帰ってもらう。

 そして、りっちゃんにハルを待って、連れて来る役を頼んだ。



理人「美緒ちゃんが連れて来てあげなくていいの?」

美緒「今日はマスターも試合を見に来ちゃったから、今から料理を作らないといけないし、私も手伝った方が早くできるから…」

理人「それじゃあ、仕方ないね。ハル君はがっかりすると思うけど…」

〈美緒〉


 譲二さんは私と一護君に色々指示を出しながらも、一護君が私と2人だけにならないように目を配っている。

それでも、一護君は私の側に来て、囁いた。


一護「今日のマスター、なんか変じゃね?」

美緒「そう?」

一護「ずっと美緒の側にまとわりついてるよな? 俺が近づくと邪魔するし」

譲二「一護! そろそろオーブンの中を見てくれないか?」

一護「へー、へー」


☆☆☆☆☆

『交際宣言』その2



〈譲二〉
 りっちゃんに連れて来られたハルは少し冴えない顔をしていた。


 美緒を助けてくれた恩人にひどい仕打ちだとは思ったが、ライバルに情けをかけるわけにはいかない。

 みんなで盛り上がって、宴もたけなわのころ、俺は立ち上がって、手を叩いた。



譲二「ちょっと静かにしてくれ!」

みんな「なんだ、なんだ?」

譲二「本当ならハルのお祝いの席で言うことではないんだが、

ちょうどみんながそろっているし、この場で報告させてもらいたいことがある。」



 みんな口々に驚きの声を上げる。



譲二「美緒ちゃん、ちょっとこっちへ来て」


 美緒は引きつった顔で俺の隣に立てった。



譲二「俺たち、最近付き合うことになったから」

みんな「!!!!」

一護「…いつから?!」

譲二「俺が告白したのは一ヶ月位前だけど、ここ最近になって、美緒ちゃんにやっとOKをもらった」

理人「ハル君といっちゃんが美緒ちゃんの取り合いをしてるのは知ってたけど、まさかマスターが…」

剛史「まさにダークホースだな」

理人「マスター、美緒ちゃんに変なことしてないよね?」

譲二「さあ、どうでしょう」


 俺は余裕をみせて、不敵に微笑む。



竜蔵「俺はジョージを信じてるぞ」

剛史「もう最後まで行ってたりして…」


 タケは相変わらず鋭い切り込みで、俺に冷や汗をかかす。



理人「マスターに取られるんだったら、僕も美緒ちゃんに告白すれば良かった」

譲二「はいはい、そこまで。だから美緒には今後一切手をださないこと!」

剛史「呼び捨て…」



 その時一護が叫んだ。


一護「俺はぜってー納得できねー。美緒! お前ハルのことが好きだったんじゃねーのか?」

美緒「それは…。ハル君、一護君、2人ともごめんなさい」


 それまで、黙っていたハルが言った。



春樹「佐々木がジョージさんを選んだのなら…。俺たちには何も言う資格はない…。」


 口ぶりはいつも通り爽やかだったが、顔色はひどく青ざめていた。


 みんなが帰っていく中、ハルは少しグズグズとして、美緒をチラチラと見ている。


美緒「譲二さん…。ちょっと外でハル君と話をしてきてもいいですか? なるべく早く帰ってくるから…」


 俺は美緒に行って欲しくはなかった。


しかし、今回だけはしかたがないだろう。



譲二「そうだね。その方がいいね。」

美緒「ハル君、少し話をしてもいい?」



 黙って外へ出るハルに続いて、美緒も出て行く。



『交際宣言』おわり

☆☆☆☆☆

次は『さようなら』です。


『全国大会』

2014-08-06 09:50:23 | ハル君ルートで茶倉譲二

譲二さんルートとの混乱を避けるため、ヒロインの名前は佐々木美緒とします。


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 好きになったヒロインに迷わず告白し、実力行使にでてしまう男らしい譲二さん。
 ただやっかいなのは、ヒロインが好きなのは譲二さんではなく、別の男の人だった。そう…、たとえばハル君。


☆☆☆☆☆
茶倉譲二: 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg

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『胸騒ぎ』の続き



『全国大会』その1


〈美緒〉
 翌日、ハル君の全国大会の日が来た。

 あれからハル君とは顔を合わさないままだ。

 助けてもらったお礼もちゃんとは言えていない。


 リュウ兄やりっちゃんが応援に行こうと誘いに来てくれた。

 どうしようと譲二さんを探すと、譲二さんはいつもの仕事着ではなく、普段着で降りて来た。

美緒「え? 譲二さん、お店は?」



〈譲二〉
 俺はハルの応援に行こうと決めた。

 美緒をハルとも一護とも2人っきりにしないために。

 俺が普段着で1階に降りていくと、リュウやりっちゃんが応援に行こうと誘いに来てくれていた。

美緒「え? 譲二さん、お店は?」

譲二「今日は臨時休業にするよ。ハルの晴れ舞台だものな。」

 みんなと会場に行く間にも、俺は常に美緒のそばを離れないようにした。

☆☆☆☆☆

『全国大会』その2


〈美緒〉
 譲二さんが一緒に行ってくれるのなら心強い。
 
 だけど、譲二さんの本心はハル君と私を2人だけでは会わしたくないのだろう。

 確かに、今の私はハル君に「好きだ」と言われたら、断ることはできないだろう。

 そうだ、譲二さんと別れて、ハル君と付き合うという道もある。

 …いやいや、私はもう以前の私ではないのだから。それにハル君と付き合ったとしても、今度は心の中の譲二さんがずっと私を責め続けるだろう。

 そんな私の心の中を見通したかのように、みんなと会場に行く間にも、譲二さんはさりげなく常に私のそばにいた。

美緒「一護君は一緒にいかないんだね」

剛史「ああ、だけど来るんなら自分で勝手に来るだろ」

 一護君もハル君と喧嘩してしまったから、気まずくて来ないのかな…。


 みんなでにぎやかに応援席に座っていると、ハル君が来てくれた。

竜蔵「ハルのために商店街の暇そうなヤツもみんな連れて来たぞ。がんばれよ。」

春樹「俺の試合はまだ3試合先だから…、今は他のヤツの試合の邪魔だから静かにしてくれよ。」

竜蔵「おい、ハルの試合が始まるまではお前らおとなしくしておけよ。」

春樹「佐々木、来てくれてありがとう。」

 ハル君はもっと他のことが言いたそうな目でじっと私を見る。

美緒「試合楽しみにしてるから、頑張ってね。それと…この間はありがとう」

春樹「うん。佐々木が無事でよかったよ…」

 譲二さんが割って入るかのように声をかけた。

譲二「ハルもがんばれよ。期待してるぞ」

春樹「あっ、ジョージさんもわざわざ来てくれたんですか?」

譲二「ああ、ハルの晴れ舞台だから店は休みにしたんだ。」

春樹「はい。頑張ります。…それじゃあ、佐々木も、後で」

 ハル君が去っていく。

☆☆☆☆☆

『全国大会』その3



〈譲二〉
 美緒がお手洗いに行くというので、俺もついて行った。
 それで正解だった。

 帰りの廊下で向こうから一護がやって来るのが見えた。

美緒「一護君!」

 美緒が叫んで小走りに駆け寄るので、俺も急いで近づいた。

一護「美緒!…と、マスターも」

 一護は美緒が俺といるのをみて、明らかにがっかりしている。

 俺はさりげなく、美緒の盾になって割り込む。

譲二「ハルの晴れ舞台だから、店は臨時休業にしたんだ」

一護「そんなことしてたら、数少ない客がますます逃げてくんじゃね?」

譲二「まぁな。」

美緒「一護君、みんな向こうの客席にいるから、一緒に応援しよう?」

 俺たちが歩き始めると、向こうからハルが来るのが見えた。

春樹「一護! 来てくれたんだ。ありがとう」

一護「ああ。…お前の試合はちゃんと見ておきたいからな」

春樹「じゃあ、また後で」

 ハルは何か言いたそうに美緒を見つめたが、俺たちがいるので、何も言わず去っていった。

美緒「頑張ってね!」

 美緒が叫ぶと、ハルは振り返って手を振った。


 ハルの試合が始まった。
 ハルは相手に一本取られることなく、勝ち進むことが出来た。

美緒「よかった!」

 ハルのかっこいい姿を見て美緒は素直に喜んでいる。

譲二「やっぱり、迫力あるな。いつものハルとは全然違う」

一護「今の相手は見たことあるから、去年もハルが勝った相手だ。」

竜蔵「今度はハルはいつ出て来るんだ?」

剛史「あと2試合後かな」

美緒「ドキドキするね」

理人「美緒ちゃん、ドキドキするなら手を握ってあげようか?」

美緒「もう、りっちゃんたら!」

 一護との間には入れたが、りっちゃんはノーマークだった。馴れ馴れしいので、気が抜けない。

 ハルはどんどん勝ち上がり、準決勝に進んだ。
 準決勝では2本先に取ったものの、そのあと相手に3本取られて、結局ベスト4で終わった。


『全国大会』おわり

☆☆☆☆☆

続きは『交際宣言』です。

譲二さんも必死だけど、玉の緒も必死です。
ああなって、こうなって、ハル君が記憶喪失になってしまったら、ハル君ルートの譲二さんでは全然太刀打ちできませんから。(^▽^;)


『胸騒ぎ』

2014-07-30 09:40:03 | ハル君ルートで茶倉譲二

譲二さんルートとの混乱を避けるため、ヒロインの名前は佐々木美緒とします。


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 好きになったヒロインに迷わず告白し、実力行使にでてしまう男らしい譲二さん。
 ただやっかいなのは、ヒロインが好きなのは譲二さんではなく、別の男の人だった。そう…、たとえばハル君。


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茶倉譲二: 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg

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『七夕祭りの夜』の続き


『胸騒ぎ』その1


〈美緒〉
 七夕祭りも終わった数日後、学校で変質者が出るというのが噂になっていた。

 あれからハル君とは話ができそうで、できていない。

 色々考えてながら彷徨って、土手についた。ぼーっとしていると辺りは暗くなっていた。携帯に着信やメールがたくさん来ていた。



〈譲二〉
 美緒が夜遅くなっても帰って来ない。クロフネに集まったみんなも心配して、メールや電話をするが、返事がない。

 ここにいないのは美緒だけで、ハルも一護もいるというのが心配だ。1人で何をしているのだろう。胸騒ぎがする。

 みんなで手分けして探しにいく。俺も店をcloseにして探しに出かけた。


 美緒の名を呼びながら、土手を歩いていると、争っているような声が聞こえて来た。

 走っていくと、ハルと一護がつかみ合って喧嘩をしている。その側に美緒がいて、少しホッとする。

 2人とも興奮していたが、もう遅いからと帰らせて、美緒をクロフネに連れ帰る。

 美緒がいなくなったことの心配と見つかった安堵、ハルと一護のただならぬ雰囲気。

 俺の心はいっぱいいっぱいだった。
 とにかく美緒を連れ帰り、何があったのかを問いただそう。

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『胸騒ぎ』その2


〈美緒〉
 ハル君と一護君の喧嘩を止めた譲二さん。私を連れてクロフネに帰ってくれた。

 2人で並んで歩く間、譲二さんはずっと黙っている。なんだかとても怒っているみたい。いつも穏やかで優しい譲二さんの怒った顔はとても怖かった。


☆☆☆☆☆

 クロフネに着くと、譲二さんは私のためにココアを作ってくれた。

 譲二さんは私と並んで腰掛けると、「まずはココアを飲んで気持ちを落ち着けて」と言った。

 私が飲み終わるのを見計らって、譲二さんは真剣な顔で尋ねた。

譲二「今日何があったのか、全部話してくれる?」

 私は譲二さんに今日の出来事を話した。
 考え事をしながら、何となく土手でぼーっとしていたこと。
 時計を見ると、遅くなっていたので、慌てて帰ろうとしたら、不審な男に襲われた事。
 ナイフをつきつけられて、茂みに連れ込まれそうになった時、ハル君が来て、助けられた事。

 そこまで話すと譲二さんは私を抱き寄せた。私の顔を覗き込むと聞いた。

譲二「それで…、怪我はなかったのか?」


☆☆☆☆☆

『胸騒ぎ』その3


〈譲二〉
 ナイフを持った不審な男、そこまで聞くと俺の心臓は止まりそうになった。

 あの胸騒ぎはあたっていたのか。

 とにかく美緒を抱き寄せ尋ねる。

譲二「それで…、怪我はなかったのか?」

美緒「うん。突きつけられたナイフをハル君が蹴り上げてくれたから…。」

譲二「よかった…。でも、ハルが来てくれなかったら、取り返しのつかないことになっていたんだな…。」

 まさに危機一髪だったようだ。

 もしハルが間に合ってなかったら…。

 男に乱暴され、ナイフで切り刻まれた無惨な美緒の姿が浮かんで来て、俺は心臓が凍り付きそうだった。

 (よかった。ハルが助けてくれて。それも最初に見つけたのがハルでよかった。俺や一護では美緒を怪我させずに、ナイフ男から助け出すことはできなかっただろう)

 俺は安堵のため息を漏らした。


 

〈美緒〉
  苦悩と安堵のまじった譲二さんの顔。

 それを見て、私は悟った。
 さっきの譲二さんは本当は私の事をとても心配して、余裕がなくて、それが怒っているように見えたのだと。

 そして、遊園地でデートをした日にも、今日のようなことがあったんじゃないかとすごく心配してくれていたんだということも。

(それなのに、私はわざと譲二さんに意地の悪いことを言って傷つけたんだ…)

譲二「でも、ホントによかった。美緒に何もなくて。もし、美緒が傷つけられていたら…俺は…」

美緒「ごめんなさい。譲二さん、ごめんなさい、いっぱい心配をかけてしまって。」

譲二「美緒が謝る事はないよ。俺が心配したことなんかどうでもいい…。美緒が無事で、美緒の身に何もなかった事が一番大事なんだから…。もう、そんなに泣かないで。」

譲二「美緒、本当に怖かったね。それなのに、俺は美緒が一番大変な時に側にいて、守ってやる事ができなかった…。」

 譲二さんは泣き続ける私を黙って抱きしめてくれた。

 私が少し落ち着くと、譲二さんは腕をほどいて、私を見つめた。

譲二「それで…。その後何があったの? 俺が行った時、どうしてハルと一護が喧嘩していたの?」

☆☆☆☆☆

『胸騒ぎ』その4


〈譲二〉
美緒「怖くって泣きじゃくる私を…、ハル君が慰めてくれて…。そこへ私を探しに一護君が来てくれて…。ハル君は私に一護君に送ってもらえって、一護君がいるなら安心だからって。」

譲二「…うん。それで?」

 美緒の話によると、自分が身を引いて一護に送れというハルに、一護は怒ったらしい。

 ハルは欲しいものを欲しいと言わないし、美緒に期待させては突き放すような無神経さを一護は怒ったというのだ。

 一護は『今だって、お前が出てくるから』といい、売り言葉に買い言葉で、ハルは思わず『好きな女を守って何が悪いんだよ』と叫んだらしい。

 それを話す美緒は心なしか嬉しそうだった。

譲二「…」

美緒「ハル君は一護君に『お前こそ、何やってんだよ。佐々木の事守れないで』って。
『俺はそんなつもりでお前に佐々木をまかせたんじゃない』って。
それで、二人とも取っ組み合いの喧嘩を始めたから…。
なんとかやめさせようとしてたところに、譲二さんが来たの」

 俺は美緒の頭を優しく撫でた。

 ハルの『お前こそ、何やってんだよ。佐々木の事守れないで』という言葉は俺の心にも鋭く突き刺さった。

譲二「…俺も一護と同じで美緒を守れなかったんだよな…」

 守れないばかりか、いつも美緒を傷つけている…。

美緒「!」


 それにしても、あまりにハルの『好きな女を守って何が悪いんだよ』というくだりを話す美緒が嬉しそうだったので、疑問に思った俺は聞いてみた。

譲二「それで、もしかして美緒は、それまでハルが美緒のことを好きなことに気付いてなかったの?」

美緒「だって、ハル君は七夕祭りの時も一護君に『好きなヤツはいるのか』って言われて、『いない』って答えたり、『一護と佐々木が幸せになればいい』って、言ったり…。」

譲二「…七夕祭りの時って? 何があったの?」

 やっぱり俺のいないところで、3人の仲では色々なことがあったみたいだ。
 それをはっきりさせようともう一度聞いてみた。

譲二「それで? 何があったのか話して。」

美緒「一護君が先に『2人だけで七夕祭りに行こう』って、誘ってくれたので、みんなで行くのを断って、一護君と七夕祭りに出かけたの…」

譲二「…一護と?」

 なんてこった。

 ハルのことばかり警戒している間に、一護も美緒に手を出して来ていたとは。

 一護は昔の七夕祭りで美緒が迷子になったときの話をして、告白をしたらしい。
 そこへ偶然ハルが通りかかったそうだ。

美緒「一護君がハル君に『聞きたいことがある。おまえ好きなヤツはいるのか』って。ハル君がいないって言ったら、一護君は『俺はいる。ハルも同じかと思ってたら違うんだな』って。」

美緒「『俺がもらうぞ』って言った一護君にハル君は『それは佐々木が決める事だ。俺は口出しできない』って…」

 美緒は話しながら、涙を流す。俺はティッシュを渡した。

☆☆☆☆☆

『胸騒ぎ』その5


〈譲二〉
美緒「そんな風だから、ハル君は私の事は好きじゃないって思ってた。一護君もいつも意地悪ばかりだし…、私を好きなわけじゃないって思ってた…。」

 美緒は自分がどれだけモテているか全然わかってないらしい…。

譲二「男がそんな風に言うってことは、その子が好きだって証拠だよ…」

美緒「…そうなの?」

譲二「そうでなくても、ハルも一護も端から見て、美緒が好きなのは一目瞭然だったよ。」

美緒「…気付かなかった。」

 俺は大きなため息をついた。

譲二「なんで俺は、自分の好きな子に他の男の気持ちを教えるはめになってるんだろうか…。」

譲二「美緒は天然というか…鈍すぎだよ…。」

美緒「…ごめんなさい」

譲二「美緒はハルに好かれているのを知ってるんだと俺は思ってた。知ってて、その上で俺を受け入れてくれてるんだと…。でも、ずっと片思いだと思っていたんだな…」

美緒「…」

譲二「それで…。これからどうするの?」

美緒「え?」

譲二「ハルと両思いだと分かって、ハルと付き合うの? それとも一護の方にする?」



 俺の言葉に美緒は動揺した。

美緒「譲二さん…」

譲二「俺は…。美緒を抱いて自分のものにしたと思っていたけど…。
自分のものに出来たのは美緒の体だけだったんだな…。
美緒の心まで自分のものにすることはできなかった…。それが今日良く分かった。」

 俺の突き放したような言葉に不安を覚えたのか、美緒は俺の手を掴んだ。

譲二「美緒。俺たちの仲をどうするかそろそろ真剣に考えないといけないみたいだ。
俺と別れてハルと付き合うか…。それとも俺との仲を続けるなら、そろそろみんなに付き合っていることを話した方がいい…。
秘密にしていたことが間違いだった。
もっと前にみんなに公表していたら、こんなややこしいことにはならずに済んだんだから…」

美緒「みんなに…話すの?」

譲二「秘密にしたのは、俺に後ろめたい気持ちがあったからだ。10歳も年下の未成年を無理やり体を奪ってまで恋人にしたから…。でも、このままじゃ美緒が辛いだけだろ?」

美緒「…」

譲二「それとも、やっぱり俺とは別れる?」

 美緒は黙ったまま考え込んだ。しばらくして、決然と俺を見つめた。

美緒「譲二さん。今の私の気持ち、はっきり言うね。
私がハル君のことが好きな気持ちは変わらない。
諦めようと何度も思ったけど、諦めることは出来なかった。」

 当たり前にわかっているつもりなのに、何度聞いてもその言葉は俺の胸をえぐる。

美緒「でも、譲二さんのことも好き。今はハル君とどっちの方がたくさん好きなのかわからないくらい。私の心の中で譲二さんはだんだん大きくなって…。でも、これではだめなんだよね?」

 俺の心臓がドクドクと胸を打つ。

 俺のことも好きだって??

 いや、好きでいてくれることは知っていたけど、ハルには遠く及ばないものだと諦めていた。

 それが、ハルと同じくらい俺を好きなんだって?

☆☆☆☆☆

『胸騒ぎ』その6


譲二「今は…俺のことをハルと同じくらいには好きでいてくれるんだ…。」

美緒「うん。」

 美緒は俺をじっと見つめた。

 心の中に嬉しい気持ちがわき上がってくる。

 美緒が俺をもっと好きになってくれるなら、それが期待できるなら、俺は何も怖くない。

譲二「それは…いつか俺の方が大きくなって…。俺だけが美緒の心の中を占めることがあるって期待してもいいってことかな?」

美緒「きっと…」

譲二「それなら…。俺たちが付き合っていることをみんなに公表しよう。少なくともハルと一護にははっきり言った方がいい。」

美緒「えっ!」

譲二「ハルも一護も自分の気持ちを美緒に伝えたんだから、美緒の答えを聞きたがっていると思う…。
もし、美緒がその2人のどちらかの気持ちに応えたいと思っているなら、今のままでもいいと思う。
でも、いずれ俺を選ぶのなら、ズルズルと引き延ばすのはみんなが苦しむだけだ。」

 今までの俺の臆病さがこんなややこしい事態を招いて来たんだ。もう逃げるのはやめよう。

 いつみんなに公表するかを話し合う。俺は出来るだけ早い方がいいといった。

 しかし、ハルに未練のある美緒はなかなかうんと言わない。

 俺から言うからと押し切った。

☆☆☆☆☆

『胸騒ぎ』その7


〈美緒〉
 私はまだ好きな気持ちの残るハル君にはっきりと拒絶の言葉を伝える勇気が持てなかった。

 ハル君の空手の全国大会が二日後にある。

 みんなへの交際宣言はそれが終わってからにしようということになった。


☆☆☆☆☆

 翌朝、ハル君から「話したいことがあるから井の頭公園にきて」というメールがあった。

 私は譲二さんとも相談して、
「今日はどうしてもいけない。でも、明日の空手の全国大会が終わったら、話したいことがある」
と返信した。

 本当は飛んででも、ハル君に会いに行きたかった…。

でも、今ハル君に会いに行くことは、一護君がハル君に言ったように『期待させるばっかり』なんだと思う。

譲二さんを選ぶと決めたのだから、ハル君に期待させて、苦しめるのはイヤだ。



〈譲二〉
 翌朝、ハルから「話したいことがあるから井の頭公園にきて」というメールがあったと美緒が教えてくれた。

 今までだったら、俺に内緒で会いに行っていたことだろう。

 危なかった。

 ハルはきっと美緒にもう一度告白するつもりだろう。

 美緒は大好きなハルから告白されたら、決してことわれないだろう。

 俺たちのことを公表するまで、ハルとも一護とも2人っきりにさせてはならない。決して。




『胸騒ぎ』おわり


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この続きは『全国大会』です。


『七夕祭りの夜』

2014-07-26 10:00:45 | ハル君ルートで茶倉譲二

譲二さんルートとの混乱を避けるため、ヒロインの名前は佐々木美緒とします。


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 好きになったヒロインに迷わず告白し、実力行使にでてしまう男らしい譲二さん。
 ただやっかいなのは、ヒロインが好きなのは譲二さんではなく、別の男の人だった。そう…、たとえばハル君。


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茶倉譲二: 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg

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『クロフネ勉強会』の続き



『七夕祭りの夜』その1

〈譲二〉
 七夕祭りがもうすぐ始まる。七夕祭りのポスターを美緒に貼るよう頼んだ。

 あいつらは七夕祭りの話題で盛り上がっていた。

 俺は美緒を連れて行けないから、みんなで行ってくれればいい。それぞれが牽制して、まあ大丈夫だろう。



〈美緒〉
 七夕祭りのポスターを貼るのを譲二さんに頼まれた。
 みんなが集まった夕方。七夕祭りの話題で盛り上がる。

春樹「そういえば、ここ何年か行ってないな」
一護「祭りで騒ぐような歳でもねーだろ」

(…一護君、この前2人で七夕祭りに行こうって誘ってくれたけど、あれは本気じゃなかったのかな?)

美緒「あの…私、このポスター貼って来るね!」

ポスターを貼ろうとしたら、上の方まで手が届かない。その時、頭の上から誰かの手が伸びてきた。

春樹「ははっ、そんな背伸びして…早く呼んでくれればよかったのに」
美緒「ハル君!ありがと…」

振り返るとハル君の顔がすぐ近くにあった。

美緒「わっ!」
(なんか…これって、壁に追いつめられているみたい…!)
春樹「あ…ご、ごめん!」
美緒「…」
春樹「なんだか、佐々木と最近、こんなんばっかりだな」
美緒「そう言われると、そうかも…」
春樹「気をつけないと!一護に誤解されたら、困るだろ?」

 え?一護君? 譲二さんではなく?
 もちろん、譲二さんとのことは気をつけて秘密にしてるから、ハル君は気付いてないんだろうけど…。
 でも、どうして一護君? 一護君に七夕祭りに誘われたことを気付いているのかな?


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『七夕祭りの夜』その2

〈美緒〉
 みんなのところへ戻ると、みんなで七夕祭りに行こうという話になっていた。

美緒「みんなで?」

みんな口々に盛り上がっている。
(…そっか、みんなで行けば、一護君と2人っきりで行くっていう話もなくなるよね。譲二さんもみんなで行っておいでって言ってくれたし…)

一護「…俺は先約があるから」

(えっ!? 先約って私のことだよね?)

理人「あれ?もしかしていっちゃん、ついに彼女できちゃったの!?」
竜蔵「おお!やったな!」
一護「うるせーな、関係ねーだろ」

一護君の顔が赤くなった。

春樹「そっか、先約があるんじゃ仕方ないよな…」
春樹「あ、佐々木は?」

 ハル君に聞かれてドギマギしてしまう。

美緒「あ…えっと…私も、用事があって…」
春樹「…え?佐々木も?」
美緒「うん…」

一護君と先に約束したんだから、守らないといけないよね?

春樹「誰かと一緒に行くの?」

 ハル君に聞かれて言葉に詰まった。
美緒「え?えっと…」

まさか「一護君と行く」なんてとても言えない。ハル君は畳み掛けるように聞いて来る。

春樹「それとも…用事で祭り自体に行けないとか」

美緒「えっと、実は」

どう答えたらいいか分からなくなって、一護君を見た。

一護「美緒だって用事くらいあるだろ。べつに行けるヤツだけで行けばいいんじゃね?」

春樹「あ…そうだよな。ゴメン、佐々木」

美緒「ううん…私こそごめんね。せっかく誘ってくれたのに」

ハル君は気を取り直したように爽やかに言う。
春樹「ま、祭りなんてしょっちゅうあるし。また別の機会にみんなで行けばいいよな。」

私は必死で相づちを打った。
美緒「今度なんかあったら絶対いくから」
本当はハル君と一緒に行きたかった…。

一護「…」

ハル君はちょっと何かに気をとられているようだった。
春樹「…うん。そうだな」

春樹「じゃあ、祭りは4人で行こっか。たまには男4人で遊ぶのも悪くないだろ」

一護「…」

理人「美緒ちゃんが来るまでは、いっつも男ばっかりだったじゃん」

竜蔵「今年こそ射的の景品全部撃ち落としてやるぜ…」

剛史「…リュウ兄、そろそろ出入り禁止になるんじゃない?」

竜蔵「上等だ。毎年レベルあげてくるからな、あのテキ屋」

みんなが盛り上がっている横で、一護君をそっと見た。

一護「…ブサイクな顔」

一護君は相変わらず、意地悪だ…。直ぐに言い返した。

美緒「う、うるさいなー」

一護「…祭り…時間とか、メールするから」

美緒「あ…うん…」

一護「じゃあな」

一護君はどうして私を誘ってくれたんだろう。『みんな一緒に』ではなく、私だけを。


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『七夕祭りの夜』その3

〈譲二〉
 七夕祭り当日。
 美緒はおしゃれをしていそいそと出掛けていった。

 この頃、美緒が少し明るくなって来たことを思って、嫉妬心を押さえ込む。


〈美緒〉
 一護君とは土手で待ち合わせした。

 2人で笹を見て回る。一護君は相変わらず意地の悪いことばっかり言ってる。
 ハル君はどうしているだろう? もう、みんなと集まってお祭りを見に来ているだろうか?
 ぼんやり考えていると、一護君が立ち止まった。

一護「なあ?」
美緒「何?」

 私が何気なく返事すると、一護君はとても真剣な顔で話しかけて来た。

一護「前、話したよな。七夕祭りでお前が迷子になった話」

美緒「うん…紗枝ちゃんの誕生会の時だよね」

一護「…ああ。お前が迷子になった時…俺が、こいつ守んねぇとって思った」

美緒「…一護君…」

 なんだか、譲二さんに告白されたときと似ている。もしかして、一護君も…?

一護「あん時から、俺…お前のことが」

 一護君はその言葉を最後まで言えなかった。ちょうどその時、ハル君の声がした。

春樹「リュウ兄ー!」

私は思わず、振り向いた。
美緒「え…ハ、ハル君!?」

春樹「あ…佐々木と一護…」

ハル君は驚いたように私たちを見つめた。一護君がバツ悪そうに声をかけた。

一護「…よう」

春樹「…そっか、やっぱり2人で来てたんだ」

(やっぱり、って…ハル君、気づいてたの!?)

気を取り直して、ハル君に話しかける。
美緒「ハ、ハル君はどうしたの?リュウ兄を探してるの?」

春樹「あ…うん。リュウ兄、射的の景品でブレステ当てたのが嬉しかったらしくて、そのまま走ってどっか行っちゃって…」

 リュウ兄らしい…。

一護「どんだけだよ」

一護「…ちょうどいいや。ハルに聞きたいことあんだよ」
春樹「…なに」

一護「ハル…お前、好きなヤツとかいんの?」

(一護くん!?いきなり、どうしたの!?)

春樹「俺? 俺は…いないよ」

美緒「…」
ハル君の言葉を聞いてショックを受けた…。

一護「俺はいる…すぐ近くに」
 えっ。胸がドキドキする。それは…私のことだよね?
春樹「…うん」

一護「ハルも俺と同じだと思ってたけど…違うんだな」

春樹「…」
一護「だったら、俺がもらってもいいだろ?」

 一護君、やっぱり本気なんだ…そんな顔、初めて見た。

春樹「…俺に聞かれても困るよ。佐々木が決める事だし」

美緒「…!」
 ハル君はやっぱり私のことはどうでもいいんだ…。

一護「お前…いいのかよ、それで」

春樹「…いいも何も…俺は口出しする権利ないし。別にみんなの関係が壊れるわけでもないし。俺は一護と佐々木が幸せになれればいいって思う。」

 何か…胸が痛い…どうしてこんなにショックなんだろう…

春樹「えっ」
一護「…美緒」

2人が驚いたような顔で私を見ている。

美緒「な、なに?」
一護「泣いてる」

美緒「あ…」

 ハル君に言われたことが辛くて、私の目からは涙がこぼれていた。
 ハル君のことはもう諦めて…しまったはずなのに。はっきり拒絶されるとどうしてこんなに辛いのだろう?

美緒「ご、ごめん、ちょっと!」

 いたたまれなくなって、私はこの場を逃げ出した。

一護「お、おい!どこ行くんだよ!」
春樹「佐々木!」

 2人の叫ぶ声が追いかける。
 その声を振り切るように、必死で走った。

 ハル君に想われていない事は、どうしようもないのに…。むしろ踏ん切りがついてよかったじゃない。


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『七夕祭りの夜』その4


〈美緒〉
春樹「佐々木!」

 後ろからハル君の声がしてびっくりした。

美緒「きゃっ」

 そして、ハル君に手首を掴まれる。

百花「ハ、ハル君!?」

 追いかけて来てくれたんだ。

春樹「あの、さっきのだけど…俺…」

美緒「いいの!気にしてないから!」

 ハル君のことはもうキッパリ諦めよう。独りで悩んでばかみたい。

春樹「え…」

美緒「ごめんね、急に泣いたりして…あれは、その…」

 なんとか泣いたわけを誤魔化そうと言い訳を考える。

春樹「佐々木!聞いて、俺は…」

♪~
春樹「あ…」

美緒「…ハル君、携帯鳴ってるよ…出た方がいいんじゃない?」

春樹「…ちょっと待って。絶対、逃げるなよ!」
 ハル君はちょっと怖い顔で念を押した。

美緒「…うん」

春樹「もしもし」

 あれ? ハル君のポケットから何か落ちた。あ、これ、私と撮ったプリクラ…なんで今、これを持ってるんだろう。

 プリクラをハル君に手渡すとハル君は真っ赤になった。

美緒「もしかして、それいつも持ち歩いてるの?」

春樹「えっ、あっ、そうだけど」

美緒「ほ、ホント?}
 なんだか嬉しい。ハル君は私とのプリクラをいつも持ち歩いてくれていた!

春樹「あー、もう!俺、女々しいよな」

美緒「女々しいって…」

春樹「このときの佐々木、すげー可愛いんだもん。だから、なんか持ち歩いちゃって…。うわー、俺、変態みたいじゃん」

 私との思い出、大切に思っていてくれたんだ。
 
春樹「ごめん、気持ち悪くて」

美緒「そんな風には思わないよ」

 でも、それ以上何を言えばいいのかわからない。気まずくて、無言で立ち尽くす。

春樹「あのさ、さっきの一護が言ってたヤツだけど…」

春樹「佐々木が決めればいいというのは、本当で。ただ、そう言ってる俺が、佐々木の気持ち無視してて、一護とくっつくんだろうなとか勝手に想像しちゃってたからっていうのもあるんだけど…。とにかく、ごめん!」

春樹「俺が中途半端なことしたから、泣いちゃったんだろ?」

美緒「ううん…私も、いきなり泣いたりしてごめんね?」

春樹「いや、それは俺が悪いからって、堂々巡りしちゃうね」

美緒「うん。ふふっ」

春樹「あっ、その笑顔。やっぱり佐々木の笑顔、安心する」

 やっぱりハル君、天然のたらしだ。ハル君を諦めようと思った気持ちが薄れていく。

春樹「じゃあ帰ろうか?クロフネまで送るよ」

美緒「もう、お祭りはいいの?」

春樹「俺はもういいよ。佐々木は?今から戻ってみんなで回る?」

美緒「ううん、もう帰る」

 目の前にある段差を上る時、ハル君は手を貸してくれた。でも、その後、ハル君はすぐに手を離した。
 前のようにはずっと繋いでくれたりはしないんだ…。
 



譲二〉
 思っていた時間より早く、美緒は帰ってきた。

 ハルに送ってもらったといいながら、今日もなんだか上機嫌だ。

 ひとしきり七夕祭りが懐かしくて嬉しかったという話をしてくれる。

 あまりにも饒舌で、やはり何か隠し事をしているのではないかと不安になった。


『七夕祭りの夜』おわり

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この続きは『胸騒ぎ』です。