今年は七夕のお話書けるかな…と思い、書き始めたものの。
何しろ取り掛かりが遅かった。
思いついたのが7月入ってから。
「七夕までに書ければいいや」と暢気に構えていたら、パソコンの機嫌が悪くなるわ、雑事が入るわ。
言い訳がましいけど、なんとか七夕当日に間に合ったので、許してね。
さて、七夕のお話で以前書いたのは『七夕』in〈吉祥寺恋色デイズ〉
恋人同士の譲二さんとヒロインのお話でした。
今回は恋人になる前の二人の話。
だから、ラブラブのシーンというのは特にないのですが、子供時代も挿入して作ってみました。
その1より続き
☆☆☆☆☆
七夕〜その2《子供時代の思い出》
〈譲二〉
カランカラン~♪
チャイムの音をさせて黒船の店内に入ると、涼しげな笹が飾られている。
マスター「いらっしゃい、譲二くん」
譲二「こんちは…。これ、どうしたんですか?」
マスター「明日は七夕だからね。たまには季節の行事をやってみたくなってね」
色とりどりの短冊がすでに何枚か飾ってある。
その一枚を手にとって眺めた。
知らない人の名前が書いてある。
譲二「この短冊は?」
マスター「お客さんに書いてもらったんだよ。よかったら、譲二くんも書いてくれるかい?」
譲二「え? 俺が?」
マスター「このままだとちょっと寂しいからね」
マスターは眼鏡の奥の優しい瞳を瞬かせて微笑んだ。
短冊に願いごとを書くなんて何年ぶりだろう。
小学校の頃以来かな。
悩んだ挙句、『成績があがりますように』という無難な願いをひねり出して、短冊を笹に吊るした。
いつものようにコーヒーとサンドイッチでひとしきりお喋りしたあと、俺は黒船を後にした。
マスターは「七夕はまだ明日だから」と言って短冊を何枚か持たせてくれた。
他にも願いごとが書けたら、明日笹に吊りに来たらいいということらしい。
その短冊とサンドイッチのおみやげを持って、またあの児童公園に足を向けた。
あいつはいるだろうか?
足を止めて公園を見回すと後ろから軽い足音が聞こえてきた。
百花「じーじ! お腹すいたー!」
(あいかわらず、こいつは元気だな)
小さな百花ちゃんがお約束のように俺の背中をパンと叩いた。
譲二「ほら、いつものヤツ」
マスターに作ってもらったサンドイッチを百花ちゃんに渡す。
百花「ありがとう! 」
百花「わぁー。ハムとトマトが入ってる」
譲二「今日はちょっと豪華版だからな」
百花ちゃんはサンドイッチをぱくつきながら、俺の左手に目を止めた。
百花「ほれは?」
譲二「これか?」
俺は黒船のマスターにもらった短冊を百花ちゃんに見せた。
譲二「七夕の笹に飾るやつ」
百花「七夕……百花知ってる! それに書くとお願いごとが叶うんだよね!」
俺はちょっと苦笑いした。
確かに願いごとを書いて笹に吊るすわけだけど、必ず叶うとは限らない。
明里と一緒に吊るした短冊に書いたことを思い出して、少し胸が痛んだ。