眠たくって、うつらうつらしてる時にいつも思い出す光景がある。
大きくて温かい背中。
そこに私は負ぶさってる。
とにかく眠たくて、目は開けられないけど…、それが大好きな人の背中だってことはよく分かってた。
心地よいまどろみの中で、その人の匂いに包まれて、私は負ぶさってる。
時折、その人の声が聞こえた。
「…ったく…、なんで寝ちまうんだよ…。だから、さっきもう帰れって言ったのに…。風邪引いたらどうすんだよ…」
乱暴な口調とはうらはらにその声はとても優しかった…。
その声が子守唄のようで…、私の意識はまた遠のく。
チャイムの音がして、玄関のドアがガチャリと開く。
そして、もう一人の大好きな人の声が響く。
「あら、譲二くん…。百花、寝ちゃったのね…。ごめんなさい、重たいのに…」
「いえ…大して重たくないですから…」
手が伸びて来て、大好きな人の背中から引き剥がされそうになって、私は慌ててしがみついた。
「いやぁねえ…、百花ったら…しがみついて離そうとしないわ」
「っと…、良かったら、俺ベッドまで運びますよ?」
「ごめんね…、そうしてくれる?主人はまだ帰って来てないのよ…」
そして、私は温かい布団に寝かされる。
「行かないで」って言いたいのに、口はうごかない。
その人が優しく私のおでこを撫でてくれる感覚だけが分かった。
「じゃあな…ちび…。また公園でな…おやすみ」
私も動かない口で「おやすみ」と言った。
☆☆☆☆☆
「百花ちゃん…百花ちゃん」
優しい声がして、誰かが私の髪を撫でている。
「…そろそろ起きないと…学校遅刻しちゃうよ…」
目を開くと目の前に大好きな人の顔がある。
優しい瞳で私の顔を覗き込んでいる。
「あ、マスター、すみません…起こしていただいて…」
「おはよう、百花ちゃん」
マスターはにっこりと微笑んでくれた。
「おはようございます」
「そろそろ起きて。朝ご飯はもう出来てるから…、それにここのところ…。寝ぐせになってるから直さないとね」
「はい!すみません、マスター」
マスターはちょっと困ったような顔で微笑んだ。
「それと…、二人だけの時は俺のことなんて呼ぶんだっけ?」
「あっ!ごめんなさい…譲二さん」
大好きな人の名前を口にして顔が少し火照ってしまう。
「うん。正解…これはご褒美」
譲二さんは見事な早技で私の唇に軽いキスをした。
ますます真っ赤になる私に
「じゃあ、下で待ってるからね」と微笑んで、譲二さんは去って行く。
あの頃と同じ…大きくて優しい背中。
私はその背中を追いかけるために急いで着替えを始めた。
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