恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

優しい背中

2015-02-15 08:09:52 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

眠たくって、うつらうつらしてる時にいつも思い出す光景がある。


大きくて温かい背中。

そこに私は負ぶさってる。

とにかく眠たくて、目は開けられないけど…、それが大好きな人の背中だってことはよく分かってた。


心地よいまどろみの中で、その人の匂いに包まれて、私は負ぶさってる。


時折、その人の声が聞こえた。

「…ったく…、なんで寝ちまうんだよ…。だから、さっきもう帰れって言ったのに…。風邪引いたらどうすんだよ…」


乱暴な口調とはうらはらにその声はとても優しかった…。


その声が子守唄のようで…、私の意識はまた遠のく。




チャイムの音がして、玄関のドアがガチャリと開く。

そして、もう一人の大好きな人の声が響く。


「あら、譲二くん…。百花、寝ちゃったのね…。ごめんなさい、重たいのに…」

「いえ…大して重たくないですから…」


手が伸びて来て、大好きな人の背中から引き剥がされそうになって、私は慌ててしがみついた。


「いやぁねえ…、百花ったら…しがみついて離そうとしないわ」


「っと…、良かったら、俺ベッドまで運びますよ?」


「ごめんね…、そうしてくれる?主人はまだ帰って来てないのよ…」


そして、私は温かい布団に寝かされる。


「行かないで」って言いたいのに、口はうごかない。


その人が優しく私のおでこを撫でてくれる感覚だけが分かった。


「じゃあな…ちび…。また公園でな…おやすみ」


私も動かない口で「おやすみ」と言った。


☆☆☆☆☆


「百花ちゃん…百花ちゃん」


優しい声がして、誰かが私の髪を撫でている。


「…そろそろ起きないと…学校遅刻しちゃうよ…」


目を開くと目の前に大好きな人の顔がある。

優しい瞳で私の顔を覗き込んでいる。


「あ、マスター、すみません…起こしていただいて…」

「おはよう、百花ちゃん」


マスターはにっこりと微笑んでくれた。


「おはようございます」

「そろそろ起きて。朝ご飯はもう出来てるから…、それにここのところ…。寝ぐせになってるから直さないとね」

「はい!すみません、マスター」


マスターはちょっと困ったような顔で微笑んだ。


「それと…、二人だけの時は俺のことなんて呼ぶんだっけ?」

「あっ!ごめんなさい…譲二さん」


大好きな人の名前を口にして顔が少し火照ってしまう。


「うん。正解…これはご褒美」


譲二さんは見事な早技で私の唇に軽いキスをした。


ますます真っ赤になる私に

「じゃあ、下で待ってるからね」と微笑んで、譲二さんは去って行く。



あの頃と同じ…大きくて優しい背中。


私はその背中を追いかけるために急いで着替えを始めた。



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