恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

吉恋外伝~一乗谷

2014-07-25 10:00:00 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

 えー、吉恋ではいつもオジサン扱いされている譲二さんなので、あえて年上の女性との恋愛を描いてみた。

 男性がキスしやすい女性との身長差は12cmくらとのことなので、譲二さんにちょうどいい女性は171cmくらい。

 この話のヒロインはそこまではいかなくても、160cm代後半の細身の女性を想定しています。
 譲二さんと並ぶとお似合い?v(^-^)v

 それとクロフネでいるだけでは、女性との出会いもないので、相手女性を歴女にして、歴史関係の遺跡で出会わせることにした。

 一乗谷を選んだのは、超有名というほどの遺跡ではなく、でも歴オタにとってはとても魅力的な場所だからだ。

 私は一乗谷にはツアーで一回しか行ったことがないので、山城跡まで登ったことはありません。
 また行く機会があれば、ぜひ宿直跡からの展望を眺めてみたいですね。

☆☆☆☆☆

この話での譲二さんは25歳。クロフネのマスターとしても慣れて来た頃。



☆☆☆☆☆
吉恋外伝~一乗谷~その1

『 一乗谷は戦国大名・朝倉氏が越前を治めた際の政治・文化の中心となった城下町。

 朝倉氏は5代続いた名門だったが、天正元年(1573)織田信長に破れ、滅亡、一乗谷は戦火によって焼土と化した。

 敵から守りやすいように一乗谷は谷が最も狭くなっている地点2ヶ所に石垣や堀・土塁で城門を築いてある。
 上・下の城戸間は約1.7kmあり、「城戸ノ内」と呼ばれ、城主の居館、重臣の屋敷等が密集していた。

 守りを最優先にしていたため、交通の便が悪く、後の平和な時代には町が作られることはなかった。
 そのため400年以上も埋もれたまま残っていた。
 新しい町が出来ていればその遺跡を発掘することは出来なかっただろう
 しかし、その上には何もなかったために、朝
倉氏の館をはじめ、武家屋敷、寺院、職人達の町家が道の両側に所狭しと建てられていたことが発掘で明らかとなっている。


 この一乗谷は前々から気になっていたのだが、思い立って小旅行することにした。

 吉祥寺から5時間かけて昼の1時過ぎに一乗谷に着いた。

 一乗谷の遺構は明日に譲るとして、とりあえず一乗谷資料館を見学する。
 気候の良い時期で、家族連れやツアー客などで結構込み合っている。

 展示品に見入っていると、
???「すみません。これを落とされたんじゃないですか?」
という声がする。

 振り返ると背の高い、ショートボブで涼しげな目元の若い女性が俺の手帳を差し出して立っている。

譲二「あ、すみません。」

彼女はにっこり笑うと立ち去った。

☆☆☆☆☆
吉恋外伝~一乗谷~その2

 翌日、いよいよ一乗谷の朝倉氏遺跡巡りをした。

 朝倉館跡の松雲院唐門の写真を構図をとりながら撮影していると、同じように写真を撮っている女性がいる。

 なんだか見覚えがあるなと見とれていると向こうから会釈してくる。

 あっと思った。昨日、落とし物を拾ってくれた女性だ。

 俺も会釈して、「昨日はありがとうございました」と言った。

彼女は微笑んで「あなたも今日朝倉館跡を回ってらっしゃるんですね。」と言った。

譲二「ええ、今日は1日かけてゆっくり回ろうと思っています。」

???「おひとりですか?」

譲二「はい。あなたも?」

 何となく2人で遺跡を回りながら、会話した。
 色々話してみると、彼女はかなり歴史にくわしいことが分かった。

それを誉めると
???「ええ、歴女なんです。それが高じて仕事にしちゃいました。」
と笑う。

 よく話を聞いてみると、彼女は『歴史散歩』という雑誌の編集に関わる仕事をしているということだった。

 彼女は杉田冴也香と名乗り名刺をくれた。

譲二「ということは雑誌の取材なんですか?」

冴也香「いいえ、取材というほどではないんです。でも、今回の旅行でいい記事が書けたら、雑誌に載せてもらえるかもしれません。」
と言って笑った。

 俺は「名刺など持っていないので…」と言いながら、茶倉譲二と名乗り、吉祥寺で「クロフネ」という喫茶店をしていることを話すと目を丸くした。

冴也香「『黒船』なら知っているわ。以前吉祥寺で住んでいたこともあるから、でもあそこのマスターはもっと年取った人だったはずだけど。」

譲二「ああ、前のマスターには俺もお世話になりました。3年ほど前に急に病気で亡くなって、その後を俺が引き継いだんですよ。店の名前も漢字からカタカナになりました。」

 冴也香さんは少し驚いて「そうなの?」と言った。

☆☆☆☆☆
吉恋外伝~一乗谷~その3
 館跡をほぼ見て回り、山城跡にも上って見ようと言うことになった。
 ガイドの人に聞いてみると、足元はしっかりした装備をした方がよいと言うので冴也香さんを気遣うが、本人は「スニーカーを履いてきましたから。」とけろりと言う。

 とりあえず、ペットボトルのお茶を2本ずつ用意して、朝倉館の後方から2人で上り始めた。

『 本丸跡には標柱が建っている。
 一七個の礎石の残る山上御殿(千畳敷)跡である。
 この付近に堀切や土塁によって区切られた観音屋敷跡・赤淵明神跡・宿直跡・月見櫓跡が集中する。
 観音屋敷は三方に土塁をめぐらし、枡形虎口も設けられている。宿直跡からの見晴らしは抜群で、福井平野を全部見渡せる、天気がよければ三国湊まで遠望できるといわれている 。
 本丸があるのは四一六mぐらいのところで、通常の山城と違って本丸があって、そこから東南の頂上に向かって尾根伝いに「一の丸」(標高四四三m)、「二の丸」(同四六三m)、「三の丸」(同四七三m)と続く。
 総延長は約 五百mに及ぶ。各郭がそれぞれ堀切によって区切られた連郭式城郭である。


 結構な山道で、運動不足の身には少しこたえた。
 しかし、冴也香さんの手前虚勢を張って平気な振りをした。

 ガイドブックの通り、宿直跡からの景色は素晴らしかった。

 そこで、宿直跡でお茶を飲みながら休憩する。
 用意のいい冴也香さんはチョコを出してきて俺に分けてくれた。汗をかいた後で、山風が心地いい。

 なんとなく、吉祥寺や喫茶店が『黒船』だった頃の話になり、俺が入り浸っていた頃に冴也香さんも時々『黒船』に来ていたことが分かった。

 そして年齢の話になり、俺が25歳だというと冴也香さんは驚いた。

冴也香「えーっ、私より年下なの? 落ち着いているからもう少し上かと思った。」

譲二「喫茶店のマスターが若造だと様にならないので、ヒゲも生やして老けて見えるように努力してますからね。
俺より年上って、冴也香さんこそ俺と同じ年くらいかと思ってましたよ。」

冴也香「またまた、若く見えるってお世辞を言っても何もでないわよ。」

譲二「レディに年を尋ねるのは失礼ですよね。でも本当いくつ上なんですか?」

冴也香「ふふっ、いくつに見える?」

譲二「え? それを俺に言わせますか? っと、26歳?」

冴也香「いい気分にしてくれて、ありがとう。ほんとはね、譲二さんより4つ上なの。」

譲二「ええっ、とてもそんなには見えないな。」

 その後、また歴史の話で盛り上がり、東京に帰って、またいつかクロフネに来てくれたらコーヒーを奢るという約束をした。


 翌朝早くの電車で冴也香さんは帰るというので、俺も予定を切り上げて、同じ電車のチケットを買った。

帰りのJRの中でも話は盛り上がり、東京駅で別れた。

☆☆☆☆☆
吉恋外伝~一乗谷~その4
 それから2週間ほど経ったある日、クロフネに冴也香さんが訪ねてきた。

 冴也香さんは最近テレビでも紹介された有名店の焼き菓子をお土産に持ってきてくれた。

 冴也香さんは店の中をあちこちのぞいては、
冴也香「へぇー、前のマスターの頃とほとんど変わっていないのねぇ。」と笑顔をみせた。

 俺はとびきり美味しいコーヒーを入れてその焼き菓子と一緒に出した。

冴也香「コーヒーも同じ味がする。美味しい。」

譲二「よかった。前より味が落ちたと言われたらどうしようかとドキドキした。」

 冴也香さんはカウンターに座って、厨房での俺の動きを眺めている。

 ちょうど2組ほどのお客さんが入ったので、俺は忙しく動いていた。

 オーダーを出し終わって、冴也香さんの前に戻ると

冴也香「すごいわねぇ。譲二さんは1人でなんでもこなすのね。店の雰囲気やコーヒーだけでなく、メニューも昔のままなのね。」

譲二「前のマスターに色々仕込まれたんですよ。歴史好きと一緒に。」

 冴也香さんは「ああ、それで」と言いながらコーヒーを飲み干した。

 俺はコーヒーのお代わりと一緒に小さく切ったサンドイッチも出した。

冴也香「こんなにいただいてもいいの?」

譲二「ええ、俺のおごりです。」

冴也香「サンドイッチも昔と同じ味だわ」

 冴也香さんは懐かしそうにつぶやいた。

帰り支度をしながら、彼女が言った。

冴也香「もしよかったら、携帯とメールアドレスを教えてもらえませんか? あの時、聞き忘れたので、連絡の仕様がなかったから。」

 俺はいいですよと、携帯を取り出した。

☆☆☆☆☆
吉恋外伝~一乗谷~その5
 それから、時々冴也香さんはクロフネに訪ねてきてくれた。

 メールでも頻繁にやり取りをするようになった。ほとんどが歴史の話題だったから、いくら歴史好きとは言え、若い女性には物足りなかったかもしれない。

 ある時、思い切って彼女の休みの日にデートに誘ってみた。
 歴史関係は敢えて封印して、女性の好きそうな町ブラをしたり、映画を見に行ったり、買い物をして過ごした。

 夕方は予約してあったオシャレなイタリアンで食事をした。

 そんなデートが何回か続いた。

 彼女は俺のことをどう思っているだろう。
 快くデートに付き合ってくれているのだから、好意は持っているのだろう。

 そして大人の女性なのだから、もう少し踏み込んだ付き合いを求めているだろうか?

 単なるデートだけというのは物足りなく思われているだろうか? 

メール
『おはよう

この間借りた「幕末の志士列伝」は面白かったよ、ありがとう。

ところで、今度の水曜日の夜は空いているかな。

ちょっと感じのいいフレンチを見つけたので、付き合ってもらえる?

早めに店も閉められそうだし、冴也香さんの都合がつくようなら、ゆっくり出来るとうれしい。
返事待ってます。

 

譲二』

 



『連絡遅くなってごめんなさい

今日に限って携帯を持って出るのを忘れちゃってて、ごめんなさい。

譲二さんが気に入った店なら美味しいでしょうね。楽しみ。

翌日はゆっくり目の出勤なので、少々夜遅くなっても大丈夫です。

いつものところで、5時半に待ち合わせでも大丈夫かしら?

楽しみにしています。

 

冴也香』

 


☆☆☆☆☆



 予約した店はムードたっぷりで、冴也香はとても喜んでくれた。

 食事のあと、夜の公園を散歩した。

 夜景の美しいポイントで冴也香の肩をそっと抱き寄せた。
 冴也香はそのまま俺の肩に頭をもたれさせる。

 俺は彼女の額にそっとキスをしてその瞳をみつめた。冴也香も俺をみつめ、2人の視線がからみあう。

譲二「冴也香さん。俺に好意を持ってくれていると思っていい?」

 冴也香はいたずらっぽく微笑む。

冴也香「それを女の方から言わせる気?」

 彼女の瞳に元気づけられて、思い切って声にした。

譲二「冴也香のことが大好きだ。こんな風に会うたびに、ますます好きになってる。」

 冴也香はそっと目を伏せた。

冴也香「私も譲二さんが大好き。」

 冴也香の顎を持って上向かせると、そっと唇にキスをする。触れた途端に吸い付くように唇は唇を求め、舌を入れて絡ませる。

 長いキスのあと、冴也香を抱きしめると囁いた。

譲二「今夜は帰さないよ。」

 冴也香もそっと頷いた。


☆☆☆☆☆
吉恋外伝~一乗谷~その6

 近くのホテルにチェックインする。

 部屋の鍵を閉めるとお互いに強く求め合うように抱きしめてキスをした。

 唇を離すと冴也香を抱きしめ、「シャワーを浴びよう」と誘った。
 俺からシャワーを浴び、冴也香に交代する。

 冴也香を待つ間、バスタオルを巻いたままの姿で、ハイボールを用意する。

 女性を抱くのは何年ぶりだろう。焦って早まらないようにと心を落ち着けた。

 冴也香がしっかりバスタオルを巻いて現れるとそのまま強く抱きしめた。

譲二「ハイボールを作ったよ、一緒に飲む?」
冴也香「ええ、ありがとう。いただくわ。」

 2人で乾杯して、一口ずつ飲む。冴也香は茶目っ気たっぷりに微笑んだ。

冴也香「次は私が譲二さんに飲ませてあげる。」

 冴也香はハイボールを口に含むと、俺の首根っこに抱きついてキスをしてくる。

 彼女の温かい唇の間からハイボールが流れ込み、それを飲み干すと彼女の舌が入ってくる。
 積極的な彼女に応えると、彼女のバスタオルをはぎ取った。


☆☆☆☆☆


 2人で荒い息を吐きながら横たわる。

 今度は俺がハイボールを口に含んで、彼女に飲ませた。

 彼女が飲み切る前に舌を入れてしまったので、ハイボールがしたたる。
 俺はそれを舐めながら舌を彼女の胸まで這わせていった。

 今まで、手をつなぐこともキスすることもなく過ごしていたせいか、一度タガが外れると欲望は留まることを知らなかった。

 お互いの体を温め合い抱き合って、何度も交わった。

 朝、ホテルを出て、近くのファストフードで軽い朝食をとり、別れた。

 名残惜しかったが、冴也香は一旦家に帰ってから会社に出勤するということだった。



メール
『昨夜はありがとう

冴也香はとてもきれいだったよ。
冴也香のすべてが見られて、とても嬉しかった。
愛してるよ。

譲二』       


『私も愛してる

昨夜のことを思い出すと、顔が火照って来るのを止められません。
ちょっと恥ずかしいことばかりしてしまったかも。
またお休みの日に会いたいな。
                              冴也香』


☆☆☆☆☆
吉恋外伝~一乗谷~その7

 それから、1週間に1度くらい冴也香がクロフネを訪ねたり、俺が出かけて待ち合わせてデートをしたりした。

 彼女の仕事は忙しくて、それくらいが限度だった。

 冴也香がクロフネに来たときは、店が終わるまで彼女はカウンターの隅で俺と話したり歴史の本を読んだりして過ごした。

 その後、俺が夕食を作り、俺の寝室で朝まで過ごした。

 俺が出かけてデートをした時は歴史館や博物館巡りの後、食事をし、ホテルに泊まったり彼女の部屋に泊めてもらったりした。

 なかなか会えない分、夜は熱く激しいものになりがちだった。

 常にメールや携帯でやり取りしていたので、俺は寂しくはなかったが、果たして彼女はどうだっただろう。

 今から思えば、結婚の「け」の字も言い出さない俺に不安を覚えていたかもしれない。

 俺はまだ25でクロフネの経営にもやっと慣れてきたばかりだったから、結婚など考えるのはまだまだ早いと思っていた。

 しかし、彼女は29歳。女性だから色々焦っても仕方なかったのかもしれない。


☆☆☆☆☆

 ある日、クロフネで2人っきりの食事をした後、冴也香は突然ポツリと言った。

冴也香「私…、お見合いを勧められているの。」

譲二「…」

 唖然として、何も言えない俺に畳み掛けるように。

冴也香「相手は同じ出版関係の人なの。1つ年上なんですって。」

譲二「俺は…」

「お見合いなんかするな」と言う言葉がのどまで出かかって、しかしその言葉を口にすることができなかった。

 俺のような不安定な仕事の人間より、しっかりした所に勤めている男の方が冴也香を幸せにできるのではないかという気持ちが俺の舌を重くした。

冴也香「譲二さんは…、私を引き止めてくれないの?」

譲二「俺は…、冴也香に見合いなんかしてもらいたくない。」

冴也香は嬉しそうに俺をみつめ返す。

譲二「俺はまだこんなだけど、いつか冴也香と一緒に暮らしたい。」

 それまで、冴也香との将来のことは特に考えてはいなかった。

 ただ漠然と結婚するなら冴也香とだろうと考えていたが、具体的な準備というものは何もしてこなかった。

 しかし、冴也香はその「一緒に暮らしたい」という言葉にすがりついたのだった。

冴也香「うれしい。譲二さんは私のことを単なる遊び相手としてしか見てくれていないのじゃないかと時々不安になっていたの…。」

譲二「冴也香が遊び相手なんて思ったことはないよ。俺にとって一番大切な人なんだから。」

 その言葉に嘘はなかった。

 本当にそう思っていたから。

 しかし、正式には明里という婚約者がいる以上、茶倉の家族に冴也香を紹介するわけにもいかず、なんとなく宙ぶらりんなままなのはどうしようもなかった。

☆☆☆☆☆
吉恋外伝~一乗谷~その8



 その夜、冴也香はいつになく積極的に挑んできた。

 俺もなんだか盛り上がっていつになく熱い夜になった。

 荒い息をして横たわる冴也香を優しく愛撫しながら囁いた。

譲二「冴也香、とってもきれいだったよ。」

冴也香「…譲二さん…。私なんだか今日はとっても変。あんないやらしいことをしてしまって…。」

譲二「愛してるよ冴也香。」

 俺は彼女を抱きしめるとまた熱いキスをした。

☆☆☆☆☆

 なんとなく冴也香のことを思い出しながら、食器を拭いていると、百花に声をかけられた。

百花「譲二さん、何を考えているの? 同じお皿ばかり拭いてるよ。」

 俺はポーカーフェイスで百花をみつめると答えた。

譲二「あっそうだった? ちょっと昨夜の百花のことを思い出してたんだ。」

 百花は真っ赤になって、あっちを向く。

 百花の肩を持って振り向かせると、額にキスをして抱きしめた。



 あの後、結局、冴也香は煮え切らない俺に愛想をつかせてお見合いをし、 3ヶ月後にはその相手と結婚したのだった。

 あの時冴也香の言った通り、俺は彼女をただの遊び相手にしていたのだろうか?

 いや、あの時は本当に彼女に夢中だった。
 その証拠にあの頃から明里のことは何とも思わなくなったのだから。

 しかし、冴也香に振られても、明里や未希に振られたときほどの悲しみは感じなかった。仕方ないなと思い、彼女が幸せになったことを心から喜んだ。

 百花が俺の前からいなくなったときのようなショックを受けたわけでもない。

 最初に冴也香が見合い話のことを持ち出した時に覚悟していたんだろう。

 でも、冴也香のことは百花には絶対に話せないなと思う。

 明里とのことは話せたけれど、冴也香のことは百花を嫉妬に駆り立て苦しめるだけだろうから。

 整理していた棚から出てきた一乗谷のパンフレットや資料館のチケットを眺める。

 いつか、もう一度一乗谷に行きたい。

 その時は百花を連れて行こう。
 宿直跡からの眺めを百花に見せてやりたい。

 …もちろん、冴也香の思い出話は封印して…。

 俺も悪い男だなと苦笑した。


吉恋外伝~一乗谷~おわり



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