恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

キャンプへ行こう!~その6~11

2014-11-15 09:02:45 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

キャンプといえば…夏のイメージ。

いえいえ夏だけではありません。春夏秋冬、それぞれにキャンプの楽しみはあるものです。

今回は晩秋のキャンプを譲二さんたちと楽しみたいと思います。
キャンプでは男手が重要ですし、いつもとはひと味違う頼りがいのあるかっこいいカレが見られるかも。


☆☆☆☆☆

茶倉譲二プロフィール 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg
血液型:O型 特技:歴史語り、特徴:歴史オタク
ヒロインの初恋の人。公園でサンドイッチをもらったり、抱っこしてもらったりしてた。

 この話は続編の後で譲二さんがクロフネを閉めて実家に帰っている時期。
ヒロイン
は大学1年生。



☆☆☆☆☆
キャンプへ行こう!~その6


〈百花〉
 帰り道、寒さで目が覚めた。

 見上げると満天の星空だ。

百花「うわぁ、きれい。こんなにたくさんの星を見るのは初めてかも」

譲二「そうだね。都会じゃ周りが明るくて星はあまり見えないし、今の時期は空気が澄んで特に良く見えるからね」

 いつの間にか譲二さんは肩を抱いてくれていた。

譲二「寒くない?」

百花「譲二さんとくっついているから暖かいです。」

譲二「そう? 良かった」

 星空の下で譲二さんと2人きり…。

 譲二さんが立ち止まった。

譲二「ねえ、百花ちゃん」

百花「なあに?」

譲二「いつも寂しくさせてごめんね。」

百花「ううん。譲二さんはお仕事が忙しいんだもの。
それなのにいつも電話やメールをくれて、やっと取れた休みにはキャンプにも連れて来てもらってるし…。
この休みを取るのに無理したんでしょう?」

譲二「うん。ちょっとね。
でも、いつもの倍くらいの仕事をこなしたから、3日くらい休んでも大丈夫だよ。」

百花「ありがとう」

 私たちは薄明かりの中で見つめ合った。

 譲二さんの顔が近づいて、私は目をつぶった。

 最初は軽く触れ合うだけのキスがだんだん熱を持ってくる。

 私はまたぼーっとして、脱力してしまい、譲二さんに抱きとめられた。

譲二「大丈夫? ちょっと刺激が強かったかな?」

百花「ううん。大丈夫。星空の下なのがとってもロマンティックだから…、頭がぼーっとなっちゃった」

譲二「…そっか。じゃあ、冷えるといけないからもう戻ろう?」

百花「うん」

 譲二さんは私の手を引くとまた懐中電灯で足もとを照らしてくれる。



☆☆☆☆☆


 コンロの側で談笑している明里さんたちに挨拶すると、テントの中に入った。

 封筒型のシュラフを二枚つなげた中に、私と譲二さんそれぞれのシュラフが入っている。

譲二「シュラフの中は結構暖かいから、上の防寒着は脱いで入った方がいいよ」

 私がシュラフの中に潜り込むと顔だけが出るようにジッパーをあげてくれた。

譲二「お休み、百花ちゃん」

百花「譲二さんは?」

譲二「俺はもう少し貴志たちとあっちで話してから眠るから…。
そんなあからさまに拗ねた顔しないの。」

百花「だって、1人じゃ寂しい…」

譲二「テントのすぐ側にいるから…。用があったらすぐ呼んで? 」

 譲二さんはおでこにキスして微笑むと「お休み」と言って出ていった。



 テントの壁を通してランタンの灯りが漏れてくる。

(ホントだ。譲二さんたちの声がすぐ側で聞こえる)

 譲二さんの声が子守唄のように聞こえて、私はすぐに眠ってしまった。




〈譲二〉
 百花ちゃんを寝かしつけると、貴志たちのところへ戻った。

明里「眠ったの?」

譲二「いや、でも眠たそうだったからすぐ寝付くと思うよ」

貴志「ほんと、お前べた惚れだな」

明里「ほらね、言った通りでしょ?」

譲二「なかなか会えなくて、いつも寂しい思いをさせてるからな」

 貴志が新しい缶ビールを渡してくれる。

譲二「ありがとう。でも、そろそろとっておきの焼酎を開けない?」

貴志「それもいいな。お湯割りにでもしようぜ?」

譲二「そこのポットに沸かした湯をいれてあるよ。」

貴志「さすが、お前は抜かりがないな。 明里は?」

明里「うすめのなら頂くわ」


 焼酎のお湯割りで乾杯する。

貴志「それでお前、彼女と結婚とかも考えてるのか?」

譲二「いずれはね…。でも、百花ちゃんはまだ未成年だからなぁ。
とりあえず、大学を卒業しないことにはね。」

貴志「そうか。先は長いな…。お前、じいさんになっちまうぞ。」

譲二「おどすなよ。」

明里「それでも譲二は百花さんがいいんでしょ?」

譲二「ああ」

貴志「お前あの子のどこが気に入ったわけ?」

譲二「百花ちゃんのことは子供の時から知ってるけど…、とにかく優しいところかな。
それに、気遣いができる子で、誰かのためにひたむきに頑張ったり、とにかく一生懸命で…そんな姿を見てるうちにこっちの心が鷲掴みにされてたというか…。
ピンポイントで心臓に矢が刺さってたというか」

明里「ごちそうさま。本当に譲二は百花さんのことになるとデレデレね」

貴志「ところで、彼女とはどこまでいってるんだ?」

明里「貴志!!」

譲二「どこまでって…、想像にまかせるよ」

貴志「ふーん」

 キャンプの夜は更けていく。

 テントの中で安らかに寝息を立てているだろう百花ちゃんに思いを寄せた。


☆☆☆☆☆
キャンプへ行こう!~その7



〈百花〉
 テントを通して朝の光が入ってくる。

 目が覚めて、一瞬ここはどこだっけ? と思った。

 横を見るとすぐ近くに譲二さんの顔がある。

(昨夜は遅くまで起きていたのかな?)

 シュラフから手を出して、そっと譲二さんの頬に触れてみる。

譲二「…ううん…」

 ハッとして手を離すと、譲二さんが眠たげに目を開けた。

譲二「おはよう。百花ちゃん」

百花「おはようございます。起こしてしまってごめんなさい」

譲二「ううん。うつらうつらしてただけだから」

 そう言って譲二さんは手を出して、私の手を握ってくれる。温かい。

譲二「…よく眠れた?」

百花「はい、ぐっすり。譲二さんは寝不足じゃないですか?」

譲二「ううん…。大丈夫、二時前には寝たから」

百花「え? それって大丈夫ですか?」

譲二「うん…、大丈夫だよ。いつもそんなもんだから…。
それより、今日は湖の向こう側にサイクリングに行かない?」

百花「サイクリング?」

譲二「うん。このキャンプ場でマウンテンバイクがレンタルできるらしいんだ…。
今日も天気が良さそうだし、きっと気持ちいいよ。」

百花「楽しそう」



☆☆☆☆☆

 私たちは顔を洗い、一緒に朝食の準備を始めた。

 昨夜、ペーパーで汚れだけを拭き取ってあった食器を洗い、昨日の残りのお汁を温める。

 いい匂いがし始めた頃、明里さんたちも起きて来た。

貴志「おっ、ホットサンドか…」

譲二「温かいものが食べたいだろ? 昨日の残りを挟んで焼いてみた」

明里「色々思いつくのねー」

譲二「もうすぐ食べられるから、顔を洗ってこいよ」



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 朝食の時に譲二さんは明里さんたちに今日の予定を聞いた。

貴志「そうだな、俺たちは車で下の道の駅に行ってみようかと思ってる。ちょっとした観光地もあるみたいだし」

譲二「そうか。じゃあ、お前らの昼飯はそこで調達できるな。」

貴志「ああ、確かレストランもあったと思う。」

譲二「それなら、帰りに保冷用の氷だけ買って来てくれるか? 持って来たのはもう溶けちまってるから」

貴志「いいよ。ついでにここ特産の酒も買ってくるよ。」

明里「譲二たちはどうするの?」

譲二「レンタサイクルを借りて、湖の向こう側まで行ってみようかと思ってるんだ」

明里「まあ、健康的」

譲二「だから、昨日の残りのご飯は全部俺らがもらうよ。
おにぎりにして弁当に持っていこうと思うんだ」

貴志「ああ、いいよ」


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 レンタサイクルを借りて来た。譲二さんは小さなリュックを渡してくれた。

譲二「これ、俺のお古なんだけど、細々したものを入れて背負うといいよ。
リュックは持って来てなかったでしょ?」

百花「え? いいんですか? ありがとう。譲二さんのリュックは大きいんですね」

譲二「ああ、おにぎりと水筒も入れたからね」

百花「重くないですか?」

譲二「うん。これくらいは大丈夫。それより、これを左足首に巻いておくといいよ」

 バンドのようなものを渡される。

百花「これは?」

譲二「マウンテンバイクはチェーンがむき出しになってるから、ズボンの裾を引っ掛けやすいんだよ。
これを巻いておくと引っ掛けずに済むからね」

 譲二さんは自分の左足首を見せてくれた。


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 山の紅葉を映す湖を横に見ながら、マウンテンバイクを走らせる。

 譲二さんはマウンテンバイクのギアの調節の仕方も教えてくれた。

 秋の日差しは優しく、風は心地よい。

譲二「百花ちゃん…大丈夫? 疲れてない?」

百花「はい。大丈夫です。」

譲二「あそこに見えてる東屋らしきもののところで、一度休憩しよう」

百花「はい」




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キャンプへ行こう!~その8



〈百花〉

 東屋からの湖の眺めは素晴らしかった。

百花「うわぁ! 向こうの山の紅葉が映って、きれい!」

譲二「本当だね。今が一番みごろだな…。」

百花「サイクリングも楽しいですね」

譲二「そうだろ? 歩くよりも結構遠くまでいけるしね。
それと、以前来たときよりも遊歩道が整備されていて、走りやすいね」

百花「前にも来たんですか?」

譲二「ああ、その頃は自分のマウンテンバイクを持ってたので、車に積んで来てたんだ。
今は使わないから手放したけど…」

 譲二さんは水筒を渡してくれる。

譲二「水分補給。インスタントのレモネードだけど…。
汗をかいてないつもりでも、結構かいているからね。」

百花「ありがとうございます。うわぁ。酸っぱいのが美味しい」

譲二「あの道を回り込んだあたりにアスレチック広場があって、テーブルやベンチもあるはずだから、そこでお昼にしようか?」

百花「はい。なんだか、お腹が空いて来ちゃった」

譲二「俺も…。けっこういい運動になるよね」



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 アスレチック広場には駐車場もあり、親子連れがたくさん来ていた。

譲二「うわぁ、これはベンチに座れそうもないな」

百花「どうしましょう?」

譲二「こんなときのために…」

 譲二さんはリュックからレジャーシートを取り出した。

譲二「この木の陰あたりにしこう。そっちを持って広げて」

百花「はい。リュックからなんでも出てきますね」

譲二「そうでしょ?」


 レジャーシートに2人で並んで座る。

 譲二さんはお手拭きも用意してくれていた。

譲二「オカカと梅干し入りのおにぎりと卵焼きだけど、あ、温かいお茶は用意して来たよ。」

百花「譲二さんと一緒に食べられるならおにぎりと卵焼きで十分です。」

 卵焼きは甘くって懐かしい味がした。

 レジャーシートはそんなに大きくなかったので、譲二さんと腕や肩が触れ合って少し照れくさい。

 目の前にゴムボールが転がって来た。

親子連れ「すみませーん」

 譲二さんはゴムボールを拾って投げ返した。

百花「いいですね。小さな子と親子でボール遊びなんて…」

譲二「憧れる?」

 それって、譲二さんと私の子供ってことだよね…。照れくさい。

百花「すこし…」

譲二「いつか、また来ようね。今度は3人以上で…」

百花「はい…」

(うわぁ、頬が熱いよ)



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キャンプへ行こう!~その9



〈百花〉
 キャンプ場に戻ってみると、明里さんたちも戻って来ていた。

貴志「おーい。言われてた氷買ってきたぞ」

譲二「サンキュ」

明里「でね。下の道の駅のところに温泉があるのよ! 夕食前にその温泉に入りにいかない?」

百花「温泉?」

譲二「おっ、それはいいねー。前に来たときはなかったから、新しく出来たんだな」

明里「そうよ。なんだか、とってもいい雰囲気のところよ」



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 私たちはお風呂の用意をして、一台に乗り合わせて温泉に出かけた。

 道の駅には温泉があって、たくさんの人で賑わっていた。

百花「感じのいいところですね」

明里「そうでしょ。キャンプ場のシャワーではね。寒いし」



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 男女に分かれて、入浴している。

 露天風呂もあって、山の紅葉も見えるようになっている。

明里「今日は百花さんも一緒で良かったわ。
だって、3人で来ると、お風呂は私一人で入ることになるんだもの」

百花「キャンプではこんな風にお風呂にもよく来るんですか?」

明里「そうね…。キャンプ場の近くに温泉があれば入りに来るわね。
それに私たち結構3人でどこかに出かけることも多かったけど、温泉に入るとなると男女に分かれるでしょ。
だから結局私は1人になるのよね」

百花「明里さんたちって本当に仲良しですね。」

明里「そうかな。私と譲二は腐れ縁みたいなものだけど…。」

 明里さんは言葉を切って、微笑んだ。

明里「百花さん。譲二のこと本当にありがとう。
私がお礼をいうのも変だけど…。
あなたと付き合い出して、譲二は明るくなったわ」

百花「そうなんですか?
譲二さんは昔からいつもニコニコしているように思いますけど…」

明里「譲二はポーカーフェイスだからね。
でも、あんな感じになったのは大学時代からで、前は結構ブスッとしてたのよ。」

百花「大学時代に何かあったんですか?」

明里「うーん。途中から私は留学したから、よくは知らないけど…。
突然軽い感じになっちゃったのよね。
とにかく譲二は辛いことがあっても、自分の中に溜め込んで人からは隠そうとするところがあるから、百花さん、支えてあげてね。」

百花「はい。気をつけてあげるようにします」



☆☆☆☆☆

 私たちが髪を乾かして外に出ると、譲二さんと貴志さんは休憩室で缶コーヒーを飲んでいた。

百花「遅くなってすみません。」

譲二「いいよ、いいよ。女性は色々時間がかかるからね」

明里「夕食はどうするの?」

譲二「ベタだけど、カレーにでもしようかと思ってるんだけど」

貴志「いいよ。それだと炭は使わないのか?」

譲二「必要はないけど、また長話をするなら暖をとるために少しは焚いた方がいいかな」

貴志「だな」



☆☆☆☆☆

 夕食のあと、バーベキューコンロを囲んでおしゃべりをする。

 譲二さんと貴志さんは焼酎の梅干し割りを飲み、明里さんは缶チューハイ、私は譲二さんの作ったココアを飲んでいる。

貴志「チューハイくらい飲ませてあげればいいのに…」

譲二「ダメダメ! 百花ちゃんはまだ未成年なんだから」

貴志「お前、堅いなー。未成年だと言っても、19才で、大学生なんだろ?
俺らその頃既に飲んでたじゃないか」

譲二「俺らと女の子じゃ違うよ」

貴志「お前過保護過ぎ~」

譲二「黙れ」


 明里さんは2人のやり取りを見ながら笑っている。

百花「明里さん、譲二さんと貴志さんて本当に仲良しなんですね。」

明里「小学校以来の付き合いだものね。
時々2人の中に入れなくて疎外感を感じることがあるわ」

 明里さんは冗談ぽく付け加えた。



貴志「明日はとうとう撤収だな」

譲二「ああ。二泊三日は長いようで短かったな…」

 そうだ。

 明日の夕方にはもう譲二さんとお別れなんだ。

 昨日からずっと一緒だったから、また離れてしまうのは辛い…。

 そんな私の気持ちを察したのか、譲二さんは私の手をそっと握ってくれる。

譲二「疲れた?」

百花「ううん。この二日間本当に楽しかったなと思って…」

譲二「俺も楽しかったよ。また来ようね」

百花「はい」

 私は譲二さんの手を握り返した。


☆☆☆☆☆

 明日は撤収だからということで、12時前にはお開きになった。

 譲二さんと一緒にテントの中に入る。

 灯りを消すと、近くの街灯からの光で薄ぼんやりしている。

 テントの中は天井が低いので、シュラフの上に向かい合って座る。

 譲二さんは私を抱き寄せしっかり抱きしめてくれた。

譲二「明日帰ったら…、またしばらく会えなくなるけど…。
俺はいつも百花ちゃんのことを思っているからね。
寂しくさせてごめんね」

百花「譲二さん…。私はずっとクロフネで待っているから、心配しないで。」

譲二「うん」

 譲二さんは私のあごを持って上向かせると優しくキスをした。

 何度も、何度も…。

 熱いものが唇を割って入って来る。

 私はドキドキしながら譲二さんにしがみついた。

 長いキスが終わって、おでことおでこをくっつける。

譲二「これ以上は限界だな…」

 私はキスの余韻に浸っていた。

譲二「さあ、明日は撤収で忙しいし、もう寝ようか?」

百花「…うん」

 譲二さんはシュラフに入った私がちゃんとくるまれているかを確かめると、自分もシュラフにはいった。

譲二「おやすみ、百花ちゃん」

百花「おやすみなさい」

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キャンプへ行こう!~その10



〈百花〉
 翌朝もテント越しの明るい日差しで目を覚ました。

 隣のシュラフを見ると、もう既に譲二さんはいなかった。

 目を擦りながらテントから出ると、やかんから湯気が出て、コーヒーのいい香りがしている。

譲二「おはよう。百花ちゃん」

百花「おはようございます。譲二さん、早かったですね。」

譲二「何だか早くに目が覚めてね。
コーヒーが飲みたくなったもんだから…。
百花ちゃんも飲む?」

百花「はい」

 譲二さんはテーブルの上に私のコーヒーを置くと、辺りを伺ってから、私の唇に軽いキスをした。

百花「!」

☆☆☆☆☆


 朝食は軽く焼いたロールパンにハムと野菜を挟んで食べる。

 昨日のカレーの残りは薄めてスープになっている。

明里「カレーって結構残るものだけど、うまく使ったわね」

譲二「人数分、計算して作っているからね。昼までには鍋も洗っときたいし…」

貴志「さすがプロ! いや元プロか…」

譲二「プロでいいよ。クロフネのマスターをやめたつもりはないからね」

貴志「会社の方は順調なのか?」

譲二「ああ、なんとかな。
戻るのがもう少し遅かったら、手遅れだったと思う…」

貴志「そうか。それで、やっぱりいつかはクロフネのマスターに戻るのか?」

譲二「ああ、そのつもりだ。待ってる人もいるしね」

 譲二さんは私を見て優しく微笑んだ。

(譲二さんが必ず戻って来てくれると約束してくれているのだから、私も信じて待っていよう…)


☆☆☆☆☆

 撤収が始まった。

 私と明里さんが食器を洗いにいっている間に、ポールとポールの間に渡されたロープにはシュラフが掛けられ、干してあった。

 フライが外されたテントはジッパーが開いて逆さまになっている。

 初めて見る面白い光景に見とれていると、譲二さんに声をかけられた。

譲二「おかえり百花ちゃん。
テントの底は湿気ているからね。こうやって日光に当てて乾かすんだ。
本当は帰ってからもう一度乾かすと完璧なんだけどね。」

百花「逆さになったテントって初めて見るかも」

明里「ほんとあっという間ね」

貴志「だから、三泊くらいはしたいよな」

譲二「大学時代はそれくらい泊まれたけどな。
ところで、昼飯はどうする?昨日の冷やご飯でおにぎりは作ったけど、それだけじゃ足りそうにないし…」

貴志「他の材料はなんか持って来てないの?」

譲二「パスタでも茹でようか? 
残った野菜とベーコンでナポリタンとか?」

明里「わーい。譲二のナポリタン! 」

譲二「なんだかクロフネに戻った気がする…」

百花「本当ですね」

 私は譲二さんと顔を見合わせて笑った。

 そう言えば、この三日間、毎日譲二さんの料理を食べている。

 譲二さんがクロフネにいた頃は、当たり前のように譲二さんの作る料理を食べていたったけ。



 昼食が終わるといよいよ片付けに入る。

 干していたシュラフを丸めて袋に詰め、テントも2人で畳んでいく。

 洗った食器や鍋は布で拭いてしまい、後はテーブルと椅子を畳むだけになった。



☆☆☆☆☆

 明里さんたちと別れて車に乗り込んだ。

 あっという間の三日間だった。

 もうすぐ譲二さんとも別れなくてはならない。

 このまま一緒にクロフネに帰るんだったらいいのに…。

譲二「百花ちゃん、さっきから静かだね」

百花「あっという間でしたね」

譲二「短かったけど、百花ちゃんと一緒にたくさん過ごせてよかったよ…」

百花「私も…。譲二さんのかっこいいところをたくさん見れたし」

譲二「…」

 譲二さんをそっと伺うと顔が少し赤かった。


☆☆☆☆☆
キャンプへ行こう!~その11



〈百花〉

 とうとうクロフネに着いてしまった。

 譲二さんは私の荷物を下ろしながら言った。

譲二「シュラフとかの大きなものは俺が保管しておくね」

百花「いいんですか?」

譲二「俺のキャンプ道具と一緒にしておくよ。
今度出かける時にそのまま積み込めばいいし…」

 じっと見つめ合う。

 まだ、このまま別れたくない…。

譲二「あ、荷物、中まで運ぶよ」

 譲二さんは私の部屋まで荷物を運んでくれた。

百花「ありがとうございます」

譲二「百花ちゃん…。またしばらく会えなくなるけど…」

百花「譲二さん…。さみしい」

 譲二さんは私を抱きしめた。

譲二「…俺も、さみしい」

 譲二さんの匂い。

 譲二さんの体はなんて温かいんだろう…。

 ずっとこのままでいられたらいいのに。

 譲二さんは私の顎を持って上向かせるとキスをした。

 優しく優しく何度も。

 壊れ物を扱うように…。

 それでも、繰り返すうちにだんだん熱を帯びて来る。



 その時チャイムの音がして、店の中に誰かがドヤドヤと入って来た。

「百花ちゃーん」

「百花いるかー!」

 私たちは熱いものに触れたようにパッと離れた。

譲二「あいつらに見つかったみたいだな。下に降りよう」

百花「はい」


☆☆☆☆☆

一護「やっぱりマスターかよ」

理人「やっぱり!マスターが来てたんだ」

剛史「俺が言った通りだ」

竜蔵「ジョージ久しぶりだな」

春樹「見たことの無い車が止まっているから、誰だろうってみんなで話してたんだ。」

百花「みんないらっしゃい」

理人「それにしても、百花ちゃんこの連休中はどこへ行ってたの?
まさか、マスターと泊まりがけの旅行?」

一護「なんだよ、それ」

竜蔵「ジョージ、百花、まさかお前ら」

譲二「泊りがけは泊りがけだけど、キャンプに行っていたんだ」

一護「2人だけでか?」

譲二「俺の親友夫婦と一緒にね」

理人「ずるーい。なんで僕らを誘ってくれなかったの?」

剛史「そうだ。俺たちも行きたかった」

竜蔵「ジョージ、水臭いぞ」

春樹「ジョージさんにはジョージさんの都合があるんだよ。」

一護「お前は行きたくなかったのか?」

春樹「…。そりゃ俺も一緒に行きたかったけど…」

 譲二さんはやれやれという顔をした。

譲二「わかった。キャンプにはまた行けるから…。
今度はお前らも誘うようにするから」

 まるで譲二さんがいた頃のクロフネに戻ったみたい。

 私はみんなのやり取りを見ながらにこにこしていた。



☆☆☆☆☆


『大好きな百花ちゃん

 この間はキャンプに付き合ってくれてありがとう。
 俺の仕事の都合がついたら、また一緒に出かけようね。
 貴志が俺たちのツーショットを撮ってくれてたので、
それを待ち受け用に加工したものを添付します。
 結構良く撮れていたので、俺は待ち受けにしました。
 百花ちゃんもよかったら俺とお揃いにしてね。

 仕事頑張って、また百花ちゃんに会いたい。
                    譲二』



 ツーショットの待ち受け画面を見る度に、キャンプの時のことを思い出して頬を染めている。

 今度はどんな所に連れて行ってもらえるんだろう?

 毎日会えないのは寂しいけど…こんな風に譲二さんとの思い出を少しずつ増やして行きたいな。


『キャンプへ行こう!』おわり

 



 



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