恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

怪談in吉祥寺恋色デイズ:6人目

2015-08-16 07:16:36 | 吉祥寺恋色デイズ

 

これは昨年の8月にupしたお話の再掲です。
去年からブログに来てくださっている方、もう読んだよ~って方はごめんなさい。
新規のお話はしばらくお休みしますね。

 

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暑い夏が続きますね。
そろそろ身体もこの暑さに疲れて来る頃です。
そんなあなたに、気分だけでも涼しさを味わってもらおうと怪談話を企画しました。


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6人目 種村春樹

春樹が肝試しを終えて帰って来た。

春樹「リュウ兄、二階の廊下に本が散らばってたよ。」

譲二「俺の本…」

春樹「危ないから横の方にまとめといたからね」

竜蔵「悪りい」

春樹「じゃあ、俺の話を始めるね」

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『食わず女房』

 
 むかし、ある高い山のふもとの村に、けちん坊な男が住んでいた。

 独り者で、飯は食ったり食わなんだリ、来ているものは汚れ放題だったから、まわりのものは「嫁でももらえ」と口々に勧めた。

 けれども男が、
「嫁の食う飯が惜しいわい。飯を食わん女ならもらおう」というので、みんなは呆れ返っていた。

 ところが、男はそのうちに「独り暮らしはつまらん」と思うようになった。



 ある日、男は山で仕事をしながら、
「おらも、かかぁが欲しい。ちょっとも飯は食わず、茶も飲まんでよう働くかかぁが貰いてえもんだ」と独り言を言った。

 さて、仕事が終わって、男が山をおりていると、スタスタ、スタスタと足音がして、だれかしらん後からついて来るものがある。

 男が立ち止まって、
「だれだ」と振り向いてみたら、口の小さいきれいな女が立っていた。

 女は
「おれは飯は食わん女だ。茶も飲まんでよう働くから、お前の嫁にしてくれんか」
と言った。

 男は願ってもない話だと大喜びで、女を連れて家に帰った。

 一緒に暮らしてみると、なるほど女は飯は一粒も食わないし、着物は着て来たときのまま、はだしで一日中働き通しだったから、人の二倍は仕事をした。

 男は、
「ええかかぁ持つのはええもんじゃな。これで米がたくさんたまるぞ」と、ホクホクして近所のものにも嫁の自慢をしていた。


 ところがある日、となりの男がこんな話を聞かせた。

「おまえの家は不思議だの。いつもおまえが家を出てしばらくしたら、煙り出し口から、もくもくと煙が出とる。おまえのかかぁは、留守になにしてるんだかわかったもんでねぇ。気をつけろや」

 男はそりゃあまた妙な話だなと、女が留守の時に、家の中を調べてみた。

 すると、たくさんあった米俵がおおかた無くなっていたから、男はたまげて、おらの留守になにしとるか、見届けてやろうという気になった。

 次の朝、男は
「今日は町へ行くから、日が暮れんと帰れん」と嘘をついて家を出た。

 それからすぐに引き返すと、家の横からこっそり入って、天井に上がり、下の様子をうかがっていた。

 女は、
「やれやれ、けちな野郎が出て行った。どれ、飯炊いて食うか」といって、米俵を担いで来ると、大きな釜にザーッと米をあけた。それからザクザクといでかまどにかけ、下からボンボン火をたいた。

 やがて飯が炊けると、女は戸板を一枚外して来た。

 そして釜の飯をピツッ、ピツッ、ピツッ、ピツッと全部握り、戸板のうえにずらりっと並べた。

 それから大鍋に野菜を投げ込んで、おつゆもたっぷりこしらえた。


 さて、支度がすっかり整ったので、女は髪の毛をほどいてザンとふった。すると頭のてっぺんに、すりばちのような大きな口がパカッと開いた。

 女は両手で握り飯を次々つかむと、お手玉みたいにポンポンポンポン投げ込んだ。

「そうら食え、ほら食え、そうら食え、ほら食え」

 すると頭の口が、ありったけの握り飯を食ってしまった。

 それから、柄杓でおつゆをザアザア流し込んだら、これも全部飲んでしまった。

「ああ、うまかった」

女はケタケタ笑いながら、髪の毛をよせて、元通りギリギリッとくくった。


 一方、天井からこの様子をすっかり見ていた男は、腰が抜けるほど驚いて、ガチガチガチガチ震えていた。

 それでも、日が暮れると知らん顔して降りて来て、

「かかぁや、今戻ったぜ」

と家に入った。


 そして、
「おまえもよく働いてくれて、ほんにありがたいが、おらはまた一人暮らしがしたくなった。すまんが別れてくれ」と言った。

 女は、はたと男をにらみつけ、

「おまえ、つらが真っ青だな。さては、おれの食うとこ見たな。見たからにはただではおかんぞ」

 言うが早いか、女は頭をブルッ、ブルッ、ブルッと三べん振った。すると見る間に図体が伸びて、でっかい鬼婆になった。

 鬼婆は男の首根っこをひょいとつまんで風呂桶に放り込んだ。それから桶を肩に乗せると、山に向かって急いだ。

「しっとり、しっとり、重たいわい、
しっとり、しっとり、重たいわい」

 鬼婆は、山越え、谷越え、ぐんぐん歩いた。男はもう生きた心地もなくて、桶の中で震えていた。

 ところがおかしなことには、鬼婆は菖蒲が茂ったところに来ると、

「刀の山だ、おっかねぇ」

といって、遠回りしていく。

 ヨモギがぼうぼう茂ったところに来ると、

「毒が生えとる、おっかねぇ」

といって、遠回りしていく。

 そのうちに、さすがの鬼婆もくたびれて、道ばたに腰を下ろすと、すぐにクランクランといねむりを始めた。

 そこはちょうど松の木の下で、枝が下がっていたから、男はしめたとばかり手を伸ばし、その枝をつかんでようやく木によじのぼった。


 しばらくすると鬼婆は目をさまし、また桶をかつぐと、

「休んだら軽いわい
休んだら軽いわい」

といいながら、びゅうびゅう走って、鬼の住処へ帰り着いた。

「おうい、子供らよ来い。けものたちもみんな出て来い。人間を取って来たぞう。包丁を研いで来い。まな板も持って来い」と叫んだ。

 その声を聞くと、鬼の仲間やけものたちは、ほいほい寄って来た。

 子供らは桶に這い上がって、

「やっ、おっかぁ、空っぽでねえか」と叫んだ。

 そこで、鬼婆が中をのぞいてみたら、もぬけの殻だったから、鬼婆は真っ赤になって怒り出した。

「よくも逃げやがったな。どこまで行っても逃がさねぇぞ」

と鬼婆はすぐに引き返し、山越え、谷越え飛ぶように走った。


 男も転がるように走って逃げたけれども、鬼の足にはかなわない。鬼婆は、あっという間に追いついて、男は今にもつかまりそうになった。

 その時ちょうど、菖蒲が茂ったところがあったので、男はその中に飛び込んだ。

 鬼婆も続いて飛び込んだが、菖蒲の葉が目に刺さり、
「あいたたたた」と地たんだ踏んだ。

「口惜しや、口惜しや、刀の山じゃ」

 鬼婆は泣き泣き這い回っていたが、目が見えないものだから、ヨモギがぼうぼう茂った中に転んでしまった。

 そこで、
「口惜しや、口惜しや、毒にやられた」とわめいているうちに、とうとう身体が溶けて、鬼婆は死んでしまった。


 こうして命拾いした男は、菖蒲とヨモギを頭にさして、やっと家にたどりついた。

 その日はちょうど五月五日の端午の節句だったから、それからのち、村では節句になると、菖蒲とヨモギを家の軒にさして、魔除けにすることにしたそうな。



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剛史「トリは俺だな。行ってくる」

百花「剛史くん、気をつけてね」

剛史「おう」


7人目へつづく



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