今年は七夕のお話書けるかな…と思い、書き始めたものの。
何しろ取り掛かりが遅かった。
思いついたのが7月入ってから。
「七夕までに書ければいいや」と暢気に構えていたら、パソコンの機嫌が悪くなるわ、雑事が入るわ。
言い訳がましいけど、なんとか七夕当日に間に合ったので、許してね。
さて、七夕のお話で以前書いたのは『七夕』in〈吉祥寺恋色デイズ〉
恋人同士の譲二さんとヒロインのお話でした。
今回は恋人になる前の二人の話。
だから、ラブラブのシーンというのは特にないのですが、子供時代も挿入して作ってみました。
☆☆☆☆☆
七夕〜その4
〈百花〉
七夕の日。
幼なじみのみんなとクロフネに集まって七夕パーティーをした。
笹飾りにはそれぞれの願いごとが吊るされている。
ただし、名前は書いてないから誰が書いたかはわからない。
理人「これは絶対にリュウ兄だよね『美味しい野菜がたくさん育ちますように』」
竜蔵「おう、美味しい野菜がたくさんできねぇと、うちの店が困るからな」
理人「だからって、わざわざ短冊に書かなくてもいいのに」
一護「そういうお前は何書いたんだよ」
理人「へへっ、内緒」
一護「これか? 『百花ちゃんともっと仲良くなりたい』」
理人「どうだろうね。もしかしてそれ書いたのはいっちゃんなんじゃないの?」
一護「俺がそんなこと書くかよ!」
春樹「こんなのもあるよ『百花に悪い虫がつかねーように』」
理人「あっ、ソッチの方がいっちゃんらしいな」
一護「うるせー」
理人「『漫画を読む時間がもっと欲しい』…これはタケ兄だな」
剛史「まあな」
竜蔵「まんまじゃねぇか。ていうか、漫画読む以外に時間の過ごし方はねぇのか、タケ」
剛史「……」
竜蔵「だめだ…もう自分の世界に入ってやがる」
理人「コレ絶対ハルくんでしょ。『みんなが仲良く暮らせますように』」
春樹「だってさ~、佐々木がせっかく吉祥寺に戻ってきてくれて、みんな一緒に過ごせるようになったんだから、ずっとこのままでいて欲しいじゃん」
百花「そうだよね。来年も再来年もみんなで楽しく過ごしたいよね」
理人「僕は百花ちゃんと二人だけで過ごしたいな、イテッ!」
私の肩を抱いたりっちゃんをいっちゃんが引き剥がす。
一護「百花に気安く触るな! エロガキ」
理人「いっちゃんだっておんなじこと思ってるくせに」
剛史「ここにもあるぞ『大好きな人とずっと一緒に過ごせますように』」
理人「え! これ誰?!」
春樹「大好きな人と…なんだから、誰でも当てはまるよね」
理人「誰でもって……もしかして百花ちゃん?」
りっちゃんに名指しされてドキッとした。
百花「う、うん」
一護「大好きな人って誰だよ?」
いっちゃんが怖い顔して覗きこむ。
百花「…えっと。みんな…かな?」
りっちゃんが口を尖らせる。
理人「みんな? そこは僕でいいじゃん」
春樹「そっか。結局、佐々木は俺と同じ願いなんだね」
ハルくんが私にニッコリ微笑む。
春樹「いてっ、一護! 背中押すなよ!」
ずっとみんなで暮らしたい。
ハルくんの言うとおり、ここに戻ってきてから、私もそう思うようになった。
そして、子供の頃の『みんな』には入ってなかったけど、今はそこにもう一人入ってる。
ううん。
みんなの中の一人というより、誰よりもずっと一緒にいて欲しい人。
それは…。
譲二「百花ちゃん。みんなの飲み物ができたから、運ぶの手伝ってくれる?」
百花「はい! マスター」
私は急いで厨房に入りマスターを手伝った。
譲二「サンドイッチも作ったからそれも運んでね」
百花「はい」
その後はマスターも私たちの仲間に加わり、いつもの楽しい集まりになった。
みんなと軽口を叩きあうマスターをぼんやりと眺めた。
マスターは大人の男性で、私みたいに子供じみた高校生は恋愛対象にはならないのかもしれない…。
時々湧き上がる諦めに似た感情が私を落ち込ませる。
譲二「百花ちゃん、どうしたの? さっきから大人しいね」
百花「あ、いえ。ケーキとサンドイッチでお腹いっぱいになっちゃって…」
譲二「そっかぁ。あいつらと同じペースで食べてたらすぐお腹いっぱいになっちゃうよね」
あ、また、マスターの笑顔。
私の願い。
マスターのこの素敵な笑顔をいつも見られますように。
ずっとずっとこの人と一緒に暮らせますように。
心の中で思っただけなのに、頬はほんのりと染まってしまった。
☆☆☆☆☆
〈譲二〉
百花ちゃんは覚えているだろうか?
子供の頃いっしょに七夕の短冊に願いごとをしたじーじのことを?
臆病な俺は彼女に子供の頃のことを言い出せずにいる。
笹飾りを見上げる彼女の白い横顔を見つめながら、短冊に書けなかった願いごとを心の中でつぶやいた。
『七夕』おわり