吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二ルート続編のお話を彼氏目線で眺めてみました。
ネタバレありです。
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茶倉譲二 続編第三話~その6
〈譲二〉
翌朝、朝食の用意をして、百花ちゃんを呼んだ。
百花「おはようございます」
譲二「おはよう」
百花「……」
挨拶もなんだかぎこちない。
譲二「あ、冷めるといけないから座ってね」
いただきますをした後、無言で食事をとった。
(あ~あ、やっぱり許してもらえないのかな…。いや、まずは俺から)
譲二「あのさ」
百花「…あのっ」
二人同時に話しかけてしまった。
俺は百花ちゃんから話を聞こうと促した。
百花「えっと…あの…一昨日はごめんなさい」
百花「うまくはいえないんですけど、私は譲二さんの役に立てないのかなって、ちょっと寂しかったというか…」
譲二「俺の方こそ、ごめんね…もう泣かせないって決めたのに…」
自分の愚かさに、ため息がでる。
譲二「大人げない態度だったって反省してる…」
百花「大丈夫です、もう泣きませんから」
譲二「百花ちゃんはこれ以上無理しなくていいよ」
譲二「俺がもっとがんばらないと」
百花「譲二さんこそ…あまり無理しないでください」
百花ちゃんの優しい言葉にぐっと胸が熱くなった。
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俺は子供の頃のことを語った。
物心ついた時から、勉強や習い事で毎日スケジュールがびっしりで、友達と遊ぶことすらできないような状態だったこと。
茶倉家の跡を継ぐためだけに生きてるような生活が嫌でたまらなかったが、兄貴はそれをなんの疑いもなく受け入れていたこと。
ちょうどその頃に明里に失恋したこと。
俺はがんばれば明里が認めてくれるかもしれないと思っていたけど、明里が選んだのは、俺の親友だった。
譲二「今考えると、そうなったから今の俺があるわけだし、むしろそれでよかったと思うけどね」
譲二「とにかく、ただただ勉強ばっかりの毎日がすごく窮屈だったんだ」
百花ちゃんは俺の話に耳を傾けてくれる。
今まで、あの頃のことを思い出すのはとても苦痛だった。
思い出すと、あの頃の苦しくて切ない気持ちが蘇って、いつも俺を苛んだ。
だけど今、なぜだか、百花ちゃんには素直に話すことが出来た。
そして、思い返すのがちっとも苦痛ではなかった。
譲二「百花ちゃんに会ったのは、その頃だよ」
百花「え…?」
譲二「学校が終わって、校門の前にいつも迎えに来てる車に見つからないように、こっそり、いつもとは違う道から帰ったんだ。で、あの公園にいたら……百花ちゃんが来た」
百花「ふふっ、じーじと初めて会った時ですね」
百花「サンドイッチもらったこと、よく覚えてます」
譲二「サンドイッチね…百花ちゃん、おいしそうに食べてくれたからなぁ」
あの頃の小さくて可愛い百花ちゃんが目に浮かんで、笑みがこぼれる。
だけど、俺は今の百花ちゃんの方が何倍も好きだけどね。
微笑んだまま、百花ちゃんと視線を交わした。
譲二「兄貴たちが帰って来いっていうのもわかるけど…今は、まだ決心がつかない。実家でのことは別に楽しい話じゃないし、思い出したくもなくてどうしても、百花ちゃんに話すのを避けてたんだ」
百花ちゃんがそっと頷いた。
譲二「そのせいで不安にさせて、ごめんね」
百花「いえ…私こそ、一人で考え込んじゃって」
譲二「百花ちゃんにそんな顔させるのも嫌だったしね」
譲二「いつも笑っててほしいから、もう寂しい思いなんてさせないよ」
そう言うと、百花ちゃんの手をとって隣に座った。
譲二「それに……もっと頼ってもいいんだよね? もっと抱きしめて甘えさせてくれるんだろ?」
その言葉通り、彼女を抱きしめた。
百花「や…あれは忘れてください」
譲二「嫌だよ、オジサン、しっかり覚えてるからね」
そっと耳元でささやくと百花ちゃんは身をすくめ、俺の胸に顔を埋めた。
俺は彼女の顎をそっと掴んで持ち上げ、その瞳を覗きこんだ。
そして……。
何度味わっても、彼女の唇は甘くて柔らかかった。
その7へつづく