吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二ルート続編のお話を彼氏目線で眺めてみました。
ネタバレありです。
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茶倉譲二 続編第八話~その6
〈譲二〉
まっすぐな瞳で俺を見つめる百花ちゃん。
譲二「…本当はね、ずっと迷ってたんだ」
譲二「百花ちゃんの卒業までは…必ずここで見守っていたかったから」
百花「はい…」
譲二「だけど…けじめをつけたかったんだ」
百花「けじめ?」
譲二「前にも言ったけど、俺はそろそろ実家の仕事を継がなくちゃって時に、中途半端に家を飛び出してクロフネのマスターになった」
百花ちゃんはそっと頷く。
譲二「今までどおり実家と距離をとって…茶堂院グループが無くなろうとも、俺には関係ないんだと、ずっとこのまま生きてくこともできたんだろうけど」
百花「けど?」
譲二「俺、百花ちゃんのおかげで、逃げないでちゃんと向きあおうって思えたんだ」
百花「私の…?」
百花ちゃんの頬にそっと触れる。
(こんなに柔らかくて、華奢で、ちょっと力を入れ過ぎたら、すぐ壊れそうに思えるのに…)
(なのにこの子はなんでこんなに強いんだろう)
コツン、とおでこを合わせて、小さくささやいた。
譲二「前に言ってくれたでしょ。『私を頼ってください』って」
譲二「あの瞬間、思ったんだ。ああ、もっとこの子に甘えていいんだって」
百花「譲二さん…」
あの時まで、ずっと、俺は百花ちゃんを一方的に守ってるつもりでいた。
だけど本当は、俺も、百花ちゃんの優しさに守られてたんだ。
明里に言われた言葉。
『百花さんはちゃんと譲二に頼られて、支えてくれてる』
それを実感した瞬間だった。
譲二「あの言葉がなかったら、クロフネを閉める決断はできなかったよ」
百花ちゃんの瞳から涙が、一気にあふれた。
ごめんね。
本当は泣かせたくはなかったけど。
俺はもうたまらずに彼女を抱きしめた。
百花ちゃんが俺の名前を呼びかけたが、後は嗚咽に変わってしまう。
二人でしばらく、抱き合っていた。
このまま、ずっとこうしていられたらいいのに。
譲二「ごめん…約束守れなくて」
譲二「高校を卒業するまで、クロフネは閉めないって言ったのに…」
百花「いいんです…」
百花「今度は…私が待つ番だから」
健気な彼女が愛しくて、腕に自然と力が入った。
譲二「ごめん…」
彼女の髪に頬ずりする。
柔らかくて、とてもいい匂いがする。
このまま…いつまでもこのままで。
時折、百花ちゃんの啜り泣く声が響いた。
俺は抱きしめたまま、彼女から身体を離すことが出来なかった。
そして……、いつしか眠り込んでしまった百花ちゃんを抱き上げ、彼女のベッドに寝かせる。
涙で汚れた彼女の頬にそっとキスをした。
譲二「おやすみ…」
このまま彼女の側にいたいという衝動を抑えて、そっと扉を閉めた。
その7へつづく