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タイの沼は海ですか?

金曜日のSpotify〜short story〜

休みの日はサブスクで音楽を聴きながら部屋の掃除をする。
俺は掃除は苦でない。
むしろ、部屋が汚いのが我慢できない。
体調さえ悪くなる気がする。

掃除機をかけた後、家具の上を愛用のハンディモップで拭いて仕上げ。
流れてきた曲にふと手を止める。
大学時代、よく車で聴いていた曲だ。
ちょっとセンチメンタルな歌詞とストリングスの入ったアレンジ。テンション高めのラブソング。柄じゃないけど好きな曲……。

以前、年の離れた恋人と、海沿いの道を車で走りながら、思わず口ずさんでしまった事があった。
「え?何その曲」
「知らないだろう。昔流行った曲だ」
「ん?……知ってるかも。おか……」
恋人はあわてて口をつぐむ。
「お母さんが聴いてたってか」
「……うん」
恋人は笑いながら光る海を見ていた。興味はまたたく間に消えていく。
そうだよな。今の若い子には刺さらないだろう。俺は苦笑したっけ……。

玄関のドアが開く音がした。
「あれ?早いな」
「うん。予定より早く終わった」
一緒に住んで2年になるパートナーは、在宅ワークを続けている。今日は週に一度の出勤日。荷物を置いて部屋に入ってくる。
「珍しい曲、聴いてるね」
そばに来てスマホの画面を覗き込む。
「昔の曲だよ」
「知ってる。流行ったよね。懐かしいなぁ……。でも、なんか意外」
「そうか?まあ、甘いラブソングだよな。笑える」
「そんなことないよ。良い曲じゃない」
「……そう?」
「うん」

少し笑みを浮かべ、耳を傾けているその横顔を見つめる。
どのタイミングで抱きしめようか……。
Aメロを奏でるストリングスを聴きながら、俺はハンディモップを手に考えている。





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