かおるこ 小説の部屋

私の書いている小説を掲載しています。

お詫び

2022-04-19 14:10:11 | 小説

これまで、このブログをお借りして、拙作「新編 辺境の物語」を連載形式にて掲載してまいりました。

しかしながら、続編の掲載は見合わせることといたしました。まことに申し訳ございません。

「新編 辺境の物語」は下記の小説投稿サイトにて全文を掲載しておりますので、ご興味をお持ちの方は各サイトにてご覧ください。

 小説投稿サイト

 エブリスタ

 Novelism   ノベリズム

  NOVEL DAYS  ノベルデイズ

 よろしくお願いいたします。かおるこ

 


新編 辺境の物語 続編について

2022-03-15 13:04:46 | 小説

新編 辺境の物語 カッセルとシュロス」を第一巻から三巻まで掲載してきました。この続編は「シュロスの異邦人」として二巻分を掲載する予定です。ただいま、一回ごとの掲載分の区分けがうまくいかず、連載の再開に時間がかかっております。申し訳ありません。

 その間に、小説の解説を書いてみました。


 第一巻、前編 プロローグの場面は、ここは短い文章で、スピード感を出せるように書きました。読者の方が映像化できるようにも工夫したつもりです。カメラが失踪するレイチェルを追う、足が止まる、次に目の前の木に刺さった矢が映り、後ろを振り向く・・・といった感じです。ここで登場する山賊は後に第二巻でローズ騎士団を襲撃する役目があります。
 物語の初めには人物の紹介をします。カッセル守備隊の隊員を紹介するときは、副隊長補佐のアリスが兵舎の廊下から見ているシーンとして描きました。アリスがダメな隊員ばかりだし、逃亡した隊員もいると嘆きます。逃亡したと思われているのはリーナで、実はシュロスの城砦に行っていました。そこへシャルロッテことロッティーが現れ、今度は監獄のシーンになって、正体不明の女が発見されることになります。これはエルダです。エピソードを書いて、何かそこで新しい事が起きる、なにかの進展があるようにしたいと思うのです。
 月光軍団の隊員を紹介する場面は会議のシーンです。そこからナンリが城壁に上って眺めていると怪しい女を発見する。これはカッセル守備隊のリーナです。

 出陣してからはずっと戦場の場面が続きます。あちこちで同時に起きていることを整理しながら書き分けるのが難しいところでした。

 第二巻、中編はかなり工夫してみました。
 冒頭の【フィデスの独白】は、話の流れからすればカッセルの城砦にある牢獄なのです。そう思わせておいて実はシュロスの城砦でしたというが私なりの工夫です。
 第二巻は時間が前後し、場所も変わるので手際よくまとめるのが大変でした。たとえば、チュレスタの温泉でレイチェルたち三姉妹が山賊にローズ騎士団を襲撃するよう頼みますが、そのエピソードの結果はしばらく間を置き、【スミレとナンリ】まで出てきません。しかも、襲撃は回想シーンとして描かれるので、少し分かりにくかったかと思います。作者としては分かっていることでも、独りよがりになってしまうと読む人には伝わらないことがあります。ことにブログでは分割して掲載していたので、すごーく前のことなど忘れられてしまうのではないかと心配してました。
 偵察員のミユウは、初めの構想にはなく後から書き加えた人物です。それが思いのほか活躍してくれて、シュロスの異邦人では主役級になりました。
 ミユウがエルダと対決するところは会話劇として書きました。二人は敵同士なので、ややもすると相手に反発したり、反対意見のオンパレードになるところを、できるだけ同調するように会話を進めました。ここは、真山青果の「頼朝の死」を参照しました。
 フィデスはここまで「独白」、すなわち一人称でしたが、シュロスの城砦に戻ってからは三人称になります。ここの書き分けはうまくいっているかどうか自信がありません。
 最後の【フィデスの独白ー4】で、実は冒頭の部分はシュロスの城砦であったことが明らかになります。このことにつき、ある人から、冒頭とラストの間に挟まっている長い部分の出来事は、ほんの一瞬だったのではないかと指摘されました。作者の意図を深読みしていただき、喜んでおります。

 第三巻、後編はまたしても戦場のシーンばかりになってしまいました。戦闘の場面より、お嬢様が敵陣に薬草鍋を持って行くところの方が書きやすくて、こちらも楽しんでおりました。読み返してみると戦闘の場面の下手なことが目立ちます。恥ずかしい。
 マリアお嬢様が実は王女様であり、しかも、ギロチン好きだとわかります。ここでフィデスが、カッセルの城砦で、お嬢様の隣でマリアが人形の首を直していたことを思い出します。人形を大切にしていたのではなくハサミで切ってギロチンごっこをしていたのでした。このあと、第四巻でも、王女様のギロチン好きは遺憾なく発揮されます。


連載第64回 新編 辺境の物語 第三巻

2022-03-07 12:55:08 | 小説

 

 

 

 新編 辺境の物語 第三巻 カッセルとシュロス 後編 最終話

 第七章【終章】

 

 国境を越えてバロンギア帝国の領内に入ったところで一台の馬車が止まった。辺りは薄暗い山道だ。
 馭者台から降りたのは州都軍務部のスミレ・アルタクインである。馬で並走していた月光軍団の副隊長フィデス・ステンマルクが道の先を指差した。
 ここでローズ騎士団のローラたちの死刑を執行するのである。
 幌を捲った。
 そこには騎士団副団長ビビアン・ローラ、参謀のマイヤール、他にもシフォン、ハルナたちが乗っていた。誰もが縄で縛り付けられているので身動きが取れない。馬車に揺られている間にぶつかり合って手足が絡まっている。州都へ送られるはずが、まるで囚人のような扱いだ。
 スミレが縄を掴みローラを引きずり出すと、縄で繋がっていたマイヤールも一緒に転げ落ち地面に転がった。
「あなたたちを助けたのは裁判に掛けるわけじゃない。騎士団の隊員の手前があったから州都に連れて行くと言ったまでよ」
 スミレは残忍な笑いを浮かべた。
「州都にも王宮にも帰しません。ここがあなたの最後の場所になるの」
「ウッヒェ」
「先にクズどもを片付けてくる」
 スミレは爆弾を手にして荷台に上がった。
「爆弾の威力がどんなに凄いか、自分の身体で思い知るがいい」
 そう言って導火線に点火した。
「な、何をするの・・・」
 ローラが目を見張った。
「まとめてぶっ飛ばすに決まってるでしょう」
 スミレが荷台を蹴ると馬車は大きく傾き、そして崖を滑るように落下していった。
 ズドッ、ドッググワーン
 大きな爆発音が響き、騎士団の幹部をたちを乗せた馬車はバラバラになって崖下に消えた。副団長のローラは馬車が木っ端微塵に吹き飛ばされるのを呆然として見ているだけだった。
 部下を乗せた馬車が爆発した。あれでは誰一人として助からないだろう。辺境の部隊が王宮の親衛隊を殺害するなどが許されるはずがない。
 王宮へ帰って軍法会議で訴えてやる・・・王宮に戻れないのか・・・自分もここで殺される・・・
 王宮を出発する時は、まさかこんなことになろうとは想像もしなかった。

「いいことを教えてあげよう」
 スミレがローラを見下ろして言った。
「私は東部州都の軍務部からあなたたちの調査を命じられてきたのよ。チュレスタの温泉で待ち構えて、ずっと監視していたってわけ」
「何ですって」
「ミユウは私の部下。偵察が得意なのでメイドを装って騎士団に潜入させたの、それを知らずに雇ってくれてありがとう。ミユウのおかげで助かったこともあるわ。州都の軍務部から手紙が届いたでしょ、あれはミユウが書き換えてくれたニセモノよ。ホントの手紙がバレたらヤバかったわ」
「ちくしょう、騙したのね」
「これが仕事ですから。あなたたち金遣いは荒いし昼間から酒は飲むし、罪をでっち上げるし。全部、報告しておきますからね」
「スミレさん、報告書する事なんてないんじゃないの」
「そうでした、フィデスさん。ここで死んでもらうのだから。たった一行、事故で死んだって書くだけです」
「さあ、スミレさん、早いとこやってしまいましょう」
 最初は参謀のマイヤールからだった。
「シュロスの城砦には文官のニコレットが残っているわ。お前たちの好き勝手にはさせない」
「ニコレットさんの役目は、生き証人として『事故で死んだ』と証言してもらうこと。そのために手を打ってあるわ。今ごろは月光軍団のフラーベルさんと良い仲になって、こっちの言いなりでしょうね」
 スミレはマイヤールの喉元に槍を突き付けた・・・

 マイヤールは片付けた。次はローラの番だ。
「ローズ騎士団副団長、ビビアン・ローラ。あなたを処刑します」
 フィデスが最後通牒を突き付けた。
 牢獄に入れられ暴行され、自爆攻撃を強いられた恨みを晴らす時がきた。そして、カッセル守備隊司令官エルダを、大好きだったエルダを殺された仕返しをするのだ。
「何か言いたいことはありますか」
 月光軍団のフィデス・ステンマルクが騎士団のビビアン・ローラを尋ねた。
「こんなことが、許されると思っているの」
「許すもなにも、あなたには関係ないわ。騎士団の一行は馬車が転落して全員死にました、事故でしたと、そう報告するんですよね、スミレさん」
「そうです。検死の報告書はたった一枚で済みます。簡単だからミユウにやらせよう。というか、すでにミユウが馬車の中で書いているかもね。あなたが死ぬ前に」
「金か・・・金が欲しいなら、好きなだけ出す・・・だから助けて」
 この期に及んで金銭で命乞いをするローラであった。
「無実の罪を着せられたり、自爆しろと言われたりした。そればかりではなくて、あなたの最大の罪状は・・・エルダさんの命を奪ったことだわ」
「あいつは敵だ、敵の司令官だ」
「お黙り」
 ガツン
「ブゲッ」
 フィデスがローラの顔を蹴った。
「謝るのよ」
 ローラの頭を靴で踏みグリグリと地面に擦った。
「ウゴゴ、ゴフッ」
「謝れ、謝れって言ってるのよ」
 フィデスが剣を抜き頭上に構えた。
「エルダさんが大好きだった。大好きだったのに・・・エルダさんは私を助けてくれた。それなのに、ローラ、お前が、お前が殺したんだ」
「お、お助けを、フィデス様」
「エルダさんの仇だ」
 ・・・フィデスがエルダの仇を討った。
 ローラの処刑は終わった。
「さあ、行きましょう。急げばナンリたちに追いつけるわ」
 晴れ晴れとした表情でフィデス・ステンマルクが言った。
   
   〇 〇 〇
 
 月光軍団のトリルは伝令役として一足早くシュロスの城砦に着くと、城砦の文官のフラーベル、並びにローズ騎士団の文官のニコレットに勝利の報告をおこなった。騎士団のニコレット・モントゥーは副団長の一行がシュロスには戻らず州都へ向かったと聞かされて怪訝そうな顔をした。トリルは月光軍団のフラーベルにだけは、州都へ行く途中、ローラたちを殺害するのだと打ち明けた。そして、物見櫓に上がると月光軍団の旗を掲げた。役目を果たしたという合図である。
 その日の昼頃、月光軍団の本隊が城砦に到着した。物見櫓に翻る月光軍団の旗を見て誰もが勝利を確信したのだった。
 副隊長のフィデスを先頭に城砦の門を潜った。投獄されていたフィデスは自由の身になり城砦の広場を歩んだ。破れた戦闘服、乱れた髪、戦場帰りのその姿にローズ騎士団のニコレットはたじろぐばかりだった。
 州都のスミレ・アルタクインが、騎士団の乗った馬車は州都へ向かう途中に崖から転落し、ビビアン・ローラをはじめ幹部全員が死んだことを告げた。ニコレットがそれを信じないとみるや、月光軍団のナンリが力ずくでねじ伏せ、強引に事実と認めさせた。スミレは王宮へ帰って自分たちが話した通りに報告せよと命じた。月光軍団と騎士団の立場は完全に逆転したのだった。
 放心状態のニコレットを月光軍団のフラーベルがそっと抱きすくめた。
 月光軍団がシュロスの城砦を騎士団から奪還したのである。
 
 城砦の広場で月光軍団の凱旋祝賀会が開かれた。
 副隊長のフィデスが壇上に上がった。
「みなさん、月光軍団はカッセル守備隊を撃破し、捕虜を取って凱旋してきました」
 シュロス月光軍団がカッセル守備隊に勝利したことを宣言した。
「そして、ローズ騎士団は王宮へ帰ったのです。シュロスは、シュロスの城砦は、これまで通り月光軍団が守ります」
 月光軍団の隊員からはもちろん、居合わせた住民からも怒涛のような歓声が上がった。
 次に、スミレが前へ進み出て、東部州都の軍務部所属だと名乗ってから、捕虜の処分を言い渡した。
「カッセル守備隊の捕虜を三人連行してきました。捕虜はこの場で鞭打ち刑に処し、その後、州都へ連行して裁判に掛けることとします」
 再び群衆から大きな歓声が上がった。

 凱旋の祝賀会が続く中、フィデスは一人その場を離れた。
 重い足を引きずるようにして歩いた。向かったのは城門の塔。塔の下層の一室、そこは何段も石を積み重ね、壁の厚さは人が三人手を繋いでも届かないくらいの厚みがある。壁をくり抜いた奥に小さな窓があるのみ、昼でも暗き室内は夕暮れが近づいてさらに暗さを増している。
 監禁、暴行、そして戦場へ・・・フィデスにはシュロスの城砦を奪還できたことの喜びなどどこにもない。
 思い起こすのはただ一つ。
 フィデスはほの暗い窓辺に佇み、エルダの形見となった右手を抱きしめた。
「エルダさん・・・」
 その右手の、腕に繋がっていた辺りからは金属の線が見えていた。

       ・・・・・・・

 

 新編 辺境の物語 第三巻 カッセルとシュロス(後編) 終わり
 カッセルとシュロス 全巻 完結しました。
 続編 シュロスの異邦人(前・後)へと続きます。

 これまでお付き合いくだり、ありがとうございました。


連載第63回 新編 辺境の物語 第三巻

2022-03-06 12:52:54 | 小説

 新編 辺境の物語 第三巻 カッセルとシュロス 後編 12話

 第六章【ギロチン好きの王女様】② 

 

 ローラをはじめ騎士団の身柄は州都に送られ、軍事法廷で裁かれることになった。だが、それは表向きのことで、月光軍団の手によって制裁を加えるのである。しかし、気が収まらないのは守備隊だ。アリスはベルネたちにローラを痛め付けろと命じた。処刑を止めたフィデスもこれは認めざるを得なかった。
「ローラ、あんたはフィデスさんに命を助けてもらったんだ、よーく礼を言うのよ」
「ううう・・・」
「罪をでっち上げて投獄したんでしょ、そのことを謝りなさいよ」
「く、悔しい」
 なかなか謝罪しないので、アリスはローラの頭を踏み付けた。
「謝れっ」
「すみませんでした・・・」
 ついに騎士団のローラが謝罪した。
「州都に身柄を預けるのは、ボコボコにしてからでも遅くない。みんな、好きなようにやりなさい」
 ローラに対する報復が始まった。
 ベギッ
 守備隊のスターチのパンチがローラの顔面をヒットした。ローラは捩じれるように倒れ込み、メイドのレモンの足元に転がった。。
「助けてください」
 恥も外聞もなく、人間椅子にしたレモンにまで助けを求めるのだった。
 守備隊のリーナは鋼鉄の膝当てを巻いた膝にマイヤールの顔面を叩きつけた。ガギッと膝当てが顔に食い込んだ。

 カッセル守備隊のアリスはロッティーに命じてリュメックたちを馬車から引きずり出し王女様の前に跪かせた。
「お前たちに言って聞かせる。こちらは、恐れ多くも、ルーラント公国のマリア・ミトラス王女様なのです」
「ええっ」
 リュメック・フロイジアは王女様と知って震え上がり這いつくばって土下座した。
「そうとは知らず、申し訳ございませんでした」
「この者たちはシュロスへ差し出すこととします」
 隊長のアリスが王女様に進言した。
 エルダはフィデスを救い出すために、前隊長たちを交渉の道具にしてもよいと考えていたのだった。せめて、その意志を実現してやりたい。元々は戦略を誤り、捕虜になっていたはずの者たちなのである。
「この三人は王女様を馬車から突き落とすという大罪を犯しました。本来ならば処刑されるところ、捕虜になるのでしたら、かえって感謝することでしょう。王女様はカッセルの城砦でも、また、宮殿にお帰りになっても、慈悲深い王女様と呼ばれることでしょう」
「宮殿に帰れるって、いつの事になるやら」
 お付きのアンナが大きなため息をついた。
 どうやら、マリア王女様はいろいろと「ワケアリ王女様」のようである。
 シュロス月光軍団にとって、これは思ってもみなかった戦果となった。前回の出陣ではあえなく敗退を余儀なくされ、この戦いでも特に成果は上げられずに撤退するところだった。それが、カッセル守備隊の前隊長を捕らえたのだから大勝利にも等しい。
 
 守備隊のベルネはマリア王女様の前に土下座して手を付いた。
「王女様と知らぬこととはいえ、数々のご無礼、申し訳ありませんでした」
「ベルネさん、あなたは戦場で何度も私を守ってくれました。盾になって助けてくれました。その恩は決して忘れてません」
「では、これまでのご無礼をお許しいただけるのですね」
「許してあげるから、今後は私の身辺警護をしなさい」
「はい、命を懸けて王女様をお守りいたします」
「王女様にはベルネさんのような、命も惜しまず身辺警護をしてくれる強い騎士が必要なのです」
 お付きのアンナが言い添える。
「それならお任せください。この身を投げうってでもお助けいたします」
「よろしい・・・あと、暗殺も」
 王女様が不穏なことを口走った。
    *****
 それから、カッセル守備隊司令官エルダを見送る儀式をおこなった。守備隊と月光軍団が揃って手を合わせエルダの冥福を祈った。
 いまや、全員で帰るという夢は断たれてしまった。ローズ騎士団を追い返し国境線は死守したというのに、カッセル守備隊には徒労感だけが残る結果となった。
 エルダの足首の一部分、「蓋」が付いた部分は白い布で丁寧に包まれ、守備隊の馬車に積み込まれた。また、手首も遺体から取り外されて、こちらは月光軍団のフィデス・ステンマルクに渡された。
 フィデスはエルダの指を握りしめた。
 戦場で初めて会ったこと、宙吊り地獄で失神したエルダ、荒ぶるエルダ。そして、カッセルで激しく抱擁したこと。キスしたこと・・・
 爆弾から救ってくれて、ついに帰らぬ人となってしまった。
 さまざまなことが思い出されて涙が頬を伝った。

 シュロス月光軍団が撤収作業を開始した。
 数台の馬車に分乗し夜を徹してシュロスへ駆けていくのである。撤収は部隊長のナンリと州都のミユウに任された。守備隊の前隊長など三人を捕虜として連れて帰るのである。今回は敗戦ではなく凱旋になった。堂々と胸を張ってシュロスの城砦に戻ることができるのだ。伝令役には月光軍団のトリルが任じられた。一足先に戦果を伝えるため、そして、シュロスを奪還するための重要な役目である。州都のミユウは慣れた手つきで報告書を書き上げるとトリルに持たせた。
「ナンリさん、ミユウは私の部下なのですよ」
 スミレがミユウの正体を明かした。
「そうか、ただのメイドではないと思っていたよ」
 州都のスミレは騎士団のローラ、参謀のマイヤールたち幹部数人を馬車に乗せた。守備隊に痛めつけられたローラは傷痕も生々しくグッタリしている。スミレはローラを馬車の荷台の木枠に縛り付けた。これでは王宮の親衛隊には見えない、どう見ても囚人の護送だった。スミレには州都まで護送するつもりなどはないのである。

「王女様、お元気で」
 月光軍団の隊員はルーラント公国第七王女様に別れの挨拶をした。
「そうだ、お土産にレモンを貰っていくわ」
「メイドのレモンちゃんですか」
「そうよ、私の召使いにするのです」
 王女様はすでに自分の召使いになると決めているかのようだ。
「よろしいでしょう、マリア・ミトラス王女様、どうぞレモンをお持ち帰りになってください」
 州都のスミレ・アルタクインは騎士団のメイドのレモンを差し出すことを認めた。レモンは騎士団の食事の中に毒草を入れることも承知していたし、このままシュロスへ戻ると、問い詰められて、うっかり本当のことを喋ってしまうかもしれない。むしろカッセルにいた方が安全だと思った。
「王女様、奴隷とか召使いはいけません。城砦のメイドとして雇ってあげてください。レモンは働き者ですから、きっとお役に立つでしょう」
「カッセルに行くのはいいけど、給料は出してくれるんでしょうね」
 レモンがちゃっかりお願いした。
「王女様には、さらに素晴らしいプレゼントをご用意しております」
 スミレが新しい提案を持ち出した。
「よいでしょう、聞かせてください」
「ロムスタン城砦は貴国の防衛にとって重要な要衝だと思われます。ここを他国が占領してしまうと、ルーラント公国の守りが破綻するのではないかと懸念しております」
「それは我が国の一大事だわ」
「そこで、提案なのですが、カッセル守備隊がロムスタン城砦に進駐したとしても、当方は、即ち、バロンギア帝国東部州都といたしましては、それを黙認するということで、いかがでしょうか」
「なるほど・・・ルーラント公国がロムスタンを占拠してもよいということなのですね」
「そう受け取っていただいて結構です」
「これで我がルーラント公国は安泰です」
 マリア・ミトラス王女様はこの申し出に大満足であった。

<作者より>

  本日もご訪問くださいまして、誠にありがとうございます。


連載第62回 新編 辺境の物語 第三巻

2022-03-05 12:54:02 | 小説

 

 新編 辺境の物語 第三巻 カッセルとシュロス 11話

 第六章【ギロチン好きの王女様】①

 こうしてカッセル守備隊はバロンギア帝国のローズ騎士団と副団長のビビアン・ローラを打ち負かした。
 しかし、隊長のアリスには勝利の喜びなどはなかった。司令官のエルダを失ってしまったのだ。その復讐のため、エルダの命を奪った張本人ビビアン・ローラを処刑することにした。それも、この場で首を斬り死体を晒し者にするのだ。
 たちまち攻守逆転、今度はローズ騎士団の副団長ローラが首を刎ねられるのを待つ身となった。カッセル守備隊のベルネが死刑執行人となり、ローラの背後に回って首に剣を宛がった。
「その首が繋がっているのも、あと少しだけよ」
「はあ」
 逃げきれないと観念したのかビビアン・ローラは力なく俯いた。こうなっては騎士団にも月光軍団にも止める術がなくなった。
「アンナ、首を斬るのですか・・・もしかして、ギロチン?」
「そうです、ズバッと切り落としますよ。一秒もかかりません」
「切ったら血が出ませんか」
「もちろん。生きているんですから、ドビューと盛大に血が吹き出します。執行人は腕の立つベルネさん、剣は切れ味がいいとくれば、見事に頭と胴体がちょん切れます」
「ちょん切れる!」
「王女様、死刑はちょっとばかり怖いでしょう。お下がりになって、できれば後ろを向いてください。血が飛びますよ」
 ギロチン刑を間近で見せるのは王女様には刺激が強い。そのうえ、高価そうなドレスに血が飛んではいけないと死刑執行人のベルネが心配した。
 だが、
「いえ、見たいでーす」
 と、マリア・ミトラス王女様はにこやかに笑った。
「生処刑とあれば見逃せません。ギロチン、サイコー」
「首を切るんですよ、それでもいいんですか」
「でも、切った首は、また繋がるんでしょう」
「いえ、繋がりません。死ぬのですから」
「あら、アンナはこの間、人形の首が取れちゃったのを、針と糸で縫って直してくれたではありませんか」
「人形とはわけが違います。そもそも、あれは王女様が人形の首をハサミで切って、ギロチンごっこをしたから取れてしまったのではありませんか。私は王女様のイタズラの後始末をしただけです」
 ハサミで人形の首を切った・・・
 月光軍団のフィデスはカッセルで捕虜になっていたとき、アンナが人形の首を縫い付けていたのを思い出した。人形の首は取れてしまったのではなく、お嬢様がギロチンごっこをして切り落としたのだった。まさにギロチン好きの王女様だ。
 もしかしたら捕虜だった自分の首も・・・
 捕虜になっていたカッセルから無事に帰れて良かったとつくづく思った。

 そこへマギーとパテリアがツッコミを入れてきた。
「王女様はギロチンごっこをしているんですか」
「子供の頃から、ギロチンごっこが一番好きでした」
「悪い子、じゃなかった・・・活発だったのですね」
「じゃあ、二番目は何ですか」
「いい質問ですね。教えてあげましょう。二番目は牢屋ごっこです。家来を閉じ込めて棒で突いてイジメてました」
「ますます酷いじゃないですか、家来の人は嫌がってたでしょう」
「いえ、そんなことはありません、みんな泣いて喜んでました。感謝されたのですよ。いいことをしたのです」
「それは、王女様の個人的な感想です。相手の身になったら気の毒に決まってます」
「ふむ、そうだったのか。どうりで、みんなすぐにやめたと思った」
「そりゃあ、逃げたくもなるわ」
「ギロチン、牢屋とくれば・・・次は奴隷ごっこもしてたんじゃないの」
「残念。奴隷はごっこ遊びじゃないもん、本物の奴隷がいるんだから」
「ヤバイよ、マジの奴隷だと」
「子供の時から王女様だとかナントカ甘やかされ、我儘に育ったんだ」
「そうです、パテリアちゃんは人を見る目があるんですね」
「そこは感心してるところじゃない」

「いいですか、王女様。安泰の世の中に見えていても、公国の庶民の間には不平不満が溜まっているかもしれません。王政に反対して民衆が立ち上がったらどうするんですか」
 調子に乗ってふざけ過ぎの王女様をお付きのアンナが厳しく諭した。
「お菓子ばっかり食べて、遊び呆けている王女様などは、真っ先に断頭台に懸けられるでしょうね。国民が望んでいる如く、処刑台の王女様になる日が来ないとも限りません」
「ギクリ」
 いずれ「処刑台の王女様」になるだろうと言われてしまった。
「ご自分の時にジタバタしないように、この処刑をよーく見学してください。それでなくても、王女様はこの辺境に追放になって・・・」
「はいはい、分かってます」
 マリア・ミトラス王女様が慌ててアンナの言葉を遮る。
「明日は我が身ということですか」

「すみません、王女様」
 痺れを切らしてアリスが言った。
「王女様、お忙しいこととは存じますが、そろそろ死刑を執行してもよろしいでしょうか。ローラも焦らされているのは心臓に悪いはずです。早く首を斬って安心させてやりましょう」
「やっと処刑できるわ。ギロチン好きの王女様の目の前に首が転がるように斬りますので、よろしければ生首を拾ってください。そこですよ、そこ」
 ベルネが王女様の足元を指差した。
「さあ、1、2の3で行きます。バシッ、ドビュー、ゴロンですからね」
「あわわ」
 生首が転がると脅されてマリア王女様がアンナの背中に隠れた。
「それでは、ローズ騎士団副団長を処刑する」
 カッセル守備隊隊長アリスが処刑を宣言した。
「罪状は、カッセル守備隊司令官のエルダさんの命を奪ったこと。ルーラント公国第七王女様に剣を向けたことである」

 ところが、ここで思わぬところから死刑を止める声が掛かった。
 制止したのは月光軍団の副隊長フィデス・ステンマルクであった。フィデスは部下のナンリ、州都のスミレ・アルタクインに何やら囁くと王女様の前に跪いた。
「お待ちください。ローズ騎士団副団長の首を斬るのは、思い止まっていただけないでしょうか」
 フィデスは守備隊のアリスに向けて言い、さらに、月光軍団とローズ騎士団にも聞こえるように大きく声を張り上げた。
「私だけでなく、ナンリも州都のスミレさんまでもがローラには酷い仕打ちを受けました。ですが、王宮の親衛隊ともあろう者が、戦場で首を刎ねられたとあっては名誉に関わります」
 フィデスが切々と話している間に月光軍団のナンリがアリスに近づいて囁く。
「あたしたちがローラを殺す」

 フィデスが続けた。
「こちらの東部州都軍務部のスミレさんに身柄を預け、州都の軍事法廷で公正な裁判に掛けてもらうことにします。ローラの処刑はおやめください。いくらギロチン好きとはいえ、ルーラント公国の第七王女様がご臨席いただいている場で、死刑を執行したならば王女様にも累が及びかねません。それこそ両国の全面戦争に発展するでしょう。王女様を巻き込むことがないようにしてください」
 かくして、ローズ騎士団副団長ローラのギロチン刑は直前で取りやめとなった。

<作者より>

本日もお読みくださり、ありがとうございます。

あと二回で完結する予定です。