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米津玄師ファン時代としての記録

米津玄師の新曲「KICK BACK」、アニメ『チェンソーマン』主題歌の制作秘話に迫る!【メンズノンノウェブ限定インタビュー】

2022-11-19 09:15:24 | 米津玄師

https://www.mensnonno.jp/lifestyle/culture/253401/

ジェットコースターをつくるために
いろいろな意味の“転調”を入れた

 

──米津さんは過去に、アニメ『僕のヒーローアカデミア』のオープニングテーマとして「ピースサイン」をつくっています

。物語の世界観を示す看板ともいえるオープニングテーマを、どのようなものと捉えていますか?

オープニングテーマは、大前提としてその物語の要約でなければならないと思っています。ある一人のキャラクターに寄りすぎて視点が近すぎてもいけないし、離れすぎてもいけなくて、俯瞰で見て「この物語の大枠ってこういう感じだよね」と伝える性質がないといけないと考えていて。一方で、エンディングテーマは、逆に要約ではなく、いわゆる読後感を補強する役割じゃないといけないかなと。


 

──つまり、制作にあたって作品全体を俯瞰する作業が必要かと思います。「KICK BACK」は、アニメ『チェンソーマン』のオープニングテーマとして書き下ろされましたが、“チェンソーマンらしさ“をどうやって取り入れましたか?

そもそも作者でもない奴が「この物語がこうでしょ」って断定することがおこがましいと思いますが、アニメの中山(竜)監督のオーダーに応えながら、自分にとってのチェンソーマンの感覚を差し込みつつ、「こういうの、どうですか?」と提案しながらつくり上げていきました。

──なるほど。丁寧な意見交換をされていたんですね。

そうですね。デモを提出して、それをもとに「曲の雰囲気をもっとこうしてほしい」など細かく要望をいただきながら、仕上げていった感じです。当たり前ですけど、中山監督の頭の中に「こういうアニメにしたい!」という全体像があって、そのビジョンを音楽制作という作業を通して確認しあっていくという感覚があって。そこにかける時間は、他の作品に比べて長かったので、それだけ力を入れているんだなって伝わってきたし、この人たちは本気なんだなって実感がありました。

──製作陣からは、主にどんな要望がありましたか?

覚えているオーダーは、「ジェットコースターのような曲をつくってほしい」ですね。アニメのオープニングの90秒で流れる一曲の内に、とにかくいろいろな曲調に変わっていって、観る人が「なんだこの曲は?」って思うほど振り回すような曲をつくってほしいと言われて…。最初は「ものすごく難しいこといわれたな…」って感じでした。

──ゼロからジェットコースターをつくるのは、難しそうです…。

とにかく転調して転調してというようなオーダーがあって、その打ち合わせが終わった後にいざ制作に入るときに、「転調って、”転調”でいいだよな?」って思ったんです。転調は音楽用語で、「ひとつスケールを、他のスケールに変換する」という意味なんですけど、一般的に表現の仕方として「ガラッと曲の雰囲気を変える」という意味合いで使う人もいるんです。なので、「みなさんはどっちの意味で言ってたのかな…」と考えてしまって、でも考えてもわからないから、どっちもやりました。とにかくどっちも入れてみようってできたのが、この曲です。

──さきほど、オープニングテーマは「物語の要約」であることが重要とおっしゃっていましたが、制作においてどのような世界観を思い浮かべていましたか?

『チェンソーマン』は、グロテスクでシリアスな物語でありながら、主人公のデンジがめちゃくちゃにして、展開をどんどん裏切っていくことで、すべてがひっくり返ってポップになり、ギャグになっていく。これってものすごいバランスで成り立っていて、個人的に、綱渡りしながら空中分解しそうなストーリー展開をデンジがひっぱって繋ぎ止めている印象があって。そういう曲をつくらなければいけないなという意識でいました。


 

小津安二郎からモーニング娘。まで。
詞から垣間見える米津玄師の感性

──歌詞の中で、漫画やアニメの『チェンソーマン』を意識したところはありますか?

全部ですね(笑)。デンジの境遇って本当に壮絶で、まともな教育を受けてないし、お金も持ってないし、体も悪いし、絶望のど真ん中にいるじゃないですか。そういう状況の人間って、思考に具体性を失っていって、抽象的にしかものを考えられなくなる気がするんです。それこそ、「幸せになりたい」とか「楽しく生きていたい」とか「ラッキーで生きていきたい」という考え方で、そのためにはどうしたらいいかまでは思考が及ばないのではないかと。なので、抽象的で平坦な、ある種俗物的な言葉で歌詞を構築していくことに気をつけました。

小津安二郎監督の『東京物語』という映画が好きで。内容は、老夫婦が東京に住んでいる子供たちに会いに上京する物語。でも、実際行ってみたら忙しくする子供たちに邪険にされ、「旅行にでも行ってきたら?」と言われて送り出された旅先の旅館では、夜中まで周りの客たちがどんちゃん騒ぎしていて全然寝られない。散々な目に遭う中で、その老夫婦は、この旅自体をすごくありがたがるんですね。「ありがたい出会いだね、得難い旅だね」って。完全に個人的な意見ですが、このとき老夫婦は、一連の旅路を“子供たちに会う幸せな旅行”という様式になぞる選択肢しかなかったんだろうなという気がしたんです。そう思わないとやりきれないというか…それ以外の具体性はいっさい目に入らなくて、ただ一点を見つめるしかない状況なんだなって思ったんです。そんなことを思い出していたから、こういう歌詞になったのかもしれませんね。


 

──米津さんが感じた『チェンソーマン』と『東京物語』のつながりはとても興味深いです。今作の歌詞では、モーニング娘。の「そうだ!We’re ALIVE」のフレーズ「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」が使われています。取り入れた理由を教えてください。

自分が小学生のころ、いろいろな場面で曲がかかっていて、避けて通ることができないくらい音楽の流行のど真ん中にいたのがモーニング娘。。その中で、「そうだ!We’re ALIVE」を聴いていたときに、「幸せになりたい」の歌詞を「しやわせになりたい」と歌っていて、「“しやわせになりたい”ってなんだろう」って、耳にずっと残っていて。当時、友達とそのフレーズをずっと歌い合うみたいなことをしていました。

今回オープニングテーマをどうつくろうかと考えているときに、その当時のことを思い出したんです。それで改めて「そうだ!We’re ALIVE」を聴き返したら、「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」という出だしで、「これしかないな」って思って。どうしてもこれじゃなきゃいけない、この歌詞を使いたいと思い、つんく♂さんに相談しました。本当に懐が深い方で、快く許可をくださり、この言葉を使えることになって本当によかったです。

──「KICK BACK」の中でも印象的に使われていて、改めてフレーズの強さを感じました! タイトルの「KICK BACK」の意味や、込めた想いについて教えてください。

チェンソーの使用中に意図せず起こる「バチンッ!」という跳ね返りを指しつつ、バックマージンの他にスラングとして賄賂とかの意味もあって、「『チェンソーマン』のアニメの曲をつくるなら、タイトルはこれしかないだろうな」って決めました。

──タイトルでもある種の直感が働いたのですね。曲が出来上がってすぐ決まったんですか?

曲をつくっている間、タイトルは「KICK BACK」しかないなとずっと思っていて。今回、アニメにはいろいろなアーティストが関わっていて、エンディングテーマも毎週変わっているので、タイトルが被らないか心配でした。結果、被らなくてよかったなって。


 

盟友・常田大希とつくり上げた
不良感漂う唯一無二のサウンド

──共同プロデューサー、アレンジャーとしてKing Gnu、millennium paradeの常田大希さんが参加されています。お二人でどんな話をしてつくっていきましたか?

もともと二人で「チェンソーマンって面白いね」って話をしてたんです。今回、オープニングテーマ制作のお話をいただいたときに、「(常田)大希を呼んだら、みんなハッピーじゃない?」って思ったし、彼の作風が今回の曲に合うとわかっていたし、必然性みたいなものを感じました。さらっと「やってくれない?」って聞いたら「やるやる!」って軽く決まって。

最初はまず自分がイントロのベースから、ドラムの手数が多いドラムンベースで曲の骨組みをつくって、それをどうぞって大希に投げて、返ってきた曲がすでになんだこれはって仕上がりで。自分ではつくれないような、ある種の不良感がブーストされていて、すばらしい才能を改めて感じました。

──ブーストされていたと感じた部分は、どんなところですか?

Bメロの「幸せになりたい 楽して生きていたい この手に掴みたい」部分のアレンジのニュアンスって、俺の中にないんですよね。スタジアムっぽいロックバンドのサウンドで、パワーコードでジャーンッと鳴らす感じは、自分だったらやらなかっただろうなと思いながら、この曲にとても似つかわしいニュアンスがあって、純粋にいいな〜って思いましたね。

──これまでつくられた曲と比べて、「KICK BACK」で取り組んだ新しい試みや挑戦はありますか?

やっぱりサンプリングですね。モーニング娘。という文脈を丸ごと持ってきて、こんなに意図的につくるのは初めてでした。本当はもうちょっと挑戦したい部分があったんです。最後の落ちサビ後の「ハッピー ラッキー こんにちはベイビー」の部分を、本当は「こんにちわ赤ちゃん」にしたかったんですけど…。深作欣二監督の『県警対組織暴力』という映画で、あるマンションの一室で血みどろの戦いが繰り広げられる中でブラウン管のテレビから「こんにちは赤ちゃん」が鳴り続けているというシーンがあるんです。物語と音楽の対比が非常に印象的な場面で、それを「KICK BACK 」でもやりたかったというのもあって。いまも空気感は残っているけど、本当はもっとやりたかった。ただ、いろいろ詰め込みすぎるとぐちゃぐちゃになりすぎるかと思って控えました。


 

異才・藤本タツキとの共通点を
道標に制作作業に向き合った

米津玄師の新曲「KICK BACK」、アニメ『チェンソーマン』主題歌の制作秘話に迫る!【メンズノンノウェブ限定インタビュー】

──お話を聞けば聞くほど、何度も曲を聴き直して噛み締めたくなります。楽曲に加えて、ジャケットのイラストも米津さんが描かれています。絵の構図や色彩など、こだわった点を教えてください。

ジャケットを描くときは、いつも曲をつくり終わった後に考えます。最初ラフを描いているときは、いまジャケットにいるチェンソーマンと、その奥に(早川)アキとパワーの3人がいたんです。でも、よくよく見たらファンアートっぽすぎるかなって。これは公式でやることじゃないと思い直して、チェンソーマンとスターターロープを引っ張る腕だけにして、いわゆる映画のポスタービジュアルみたいな方向に持っていきたいなと思ったんです。フレームインする腕は、ポン・ジュノ監督の映画『パラサイト』のポスタービジュアルから着想を得ています。家族写真の手前に、倒れている人の足が見切れているっていうの構図が、不穏な空気を醸し出していてカッコいいなと思って、影響を受けました。

──今回のインタビューでは、キャラクターの心情からビジュアルまで、映画のお話がたびたび出てきました。制作活動において、映画がインスピレーション源になることも?

映画はけっこう好きで、去年はコロナ禍ということもあり、一日に三、四本観る時期があって、映画からインスピレーションを受けることも結構ありました。『チェンソーマン』の作者である藤本タツキさんも映画好きとのことで、その共通点も「KICK BACK」をつくるにあたって、大事にしたいと思ったんです。


 

──米津さんは『チェンソーマン』を愛読しているとのことで、アニメのオープニングテーマの制作の依頼が来たとき、どんな気持ちでしたか?

本当に願ってもない話で、うれしいと思うと同時に、生半可なものはつくれないなという気持ちがありました。終始、肩肘を張っていた部分もあったと思います。

──そもそも『チェンソーマン』との出会いは?

『チェンソーマン』の前にやっていた長編漫画『ファイアパンチ』から入りました。第一話が公開されてすぐに読んだとき、とんでもないものが始まったと驚きました。よく調べたら作者が俺と歳がそんな変わらない。自分と同じ世代の漫画家でこんなすごい人が出てきたという、とてつもないインパクトがあって、それから作品を読み続けています。先ほども言いましたが、グロテスクでシリアスな環境の物語が、主人公のデンジによって裏返ってポップに、ギャグになっていくという新しいヒーロー像を作り上げた、一つの発明みたいな作品だなって思っています。

──漫画がアニメになると、読みながら脳内補完していたコマとコマの間の部分が実際に動くことに感動します。ご自身がつくられた曲と動いているアニメが融合した映像を観たときの感想は?

『チェンソーマン』の映像は本当にすばらしいですね。特にオープニングは、自分が関わっていることを抜きにして、これまで観てきたアニメの中で圧倒的一位だと思います。オープニングの監督を務めた山下清悟さんの映像とご一緒できて、本当によかったなって心から思います。

とにかくギャグにしたかったMV
でも、監督の大胆な構想に目がテン!


 

──映像の話といえば、「KICK BACK」のMVも度肝を抜かれました…。感動を超えて面白い。面白いを超えて感動、です! コンテやストーリーを見聞きしたときの感想を教えてください。

今回のMVは、自分の曲でいうと「感電」のMVを手がけてくれた奥山由之さんに監督をお願いしました。最初打ち合わせしたときに、こちらから「ギャグに振り切りたい。とにかくめちゃくちゃなギャグをやりたい」というアウトラインだけ要望として話して。次の打ち合わせのときに、奥山さんが申し訳なさそうな顔をして、「これちょっと見せるのが…ん〜〜…」なんて言いながら、プロットをくれて。読んでみたら、俺がひたすら筋トレをして走って、常田大希とバトルしていて、こっちも目がテンになる感じでしたけど、プロットの文章がもう面白すぎて「よしこれでいこう!」って即決しました。

──かなりこだわった設定や撮影だったと思うのですが、制作は順調に進みましたか?

いや、本当にしんどくて。とにかく本編に使われなかったアウトテイクを含めると、めちゃくちゃ走ったんですよ。走って走って、一回肉離れになっちゃったくらい。ずっとデスクワークをしている人間が、急に走ったから体がボロボロになって、それで一回撮影が飛んだりして。さらに、撮影期間中に三回雨天中止になってるんですよ。MVを一本撮るのに四回飛ぶことって過去になかったですし、思い出深すぎて一生忘れないと思います。ほんと波瀾万丈でした。

──MVには常田さんも出られていますが、どんなお話をされましたか?

「MVも出てよ」って言って「ぜんぜんいいよ」って感じで、二人とも大希はカメオ出演くらいのノリだったと思うんですけど、いざ企画書を読んだらけっこう内容がハードで。ただ、MVの中ですごく重要な役割を担ってくれたので、俺としては結果良かったと思っています。

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