真理の家のリビングでは刺しゅうや編み物など手芸の材料をメンバーが片付け始めた。
庭から真理の夫、敏之の声が聞こえてきた。
「やあ、暫くです。お元気でしたか」
真理が窓の外を見て、「えっ!」と大きな声を出した。
他の者もみな外を見て、驚いた様子で口をぽっかり開けている。
敏之の前に笑顔で立っているのは、あの駆け落ちをしためぐみなのだ。
真理が慌てて玄関へ迎えに出た。
リビングに入ってきためぐみは大きな紙袋を提げて明るい表情だ。
「こんにちは。お久しぶりです。
何の連絡もしないで休んでしまってごめんなさい。
やっと昨夜帰って来ることが出来ました。」
紙袋から菓子箱を取り出してテーブルの上に置いた。
何と声を掛けて良いのか、皆一瞬言葉が出ない。
「あのう・・・ぶしつけでごめんなさい。
彼はどうしたんですか?」
秋絵が皆が思っていることを代弁した。
「彼? ああ、息子ね。
あまり傍にいると甘えすぎるので、思い切って帰ってきたんですよ。」
「息子?」
その場の皆がキツネにつままれたような顔になった。
「まあ、息子だなんて。
みぐみさんたら、ごちそうさま。
でも彼とは7つしか違わないのに・・・」
美代子は彼のことを息子と無神経に呼ぶ めぐみに不快感をあらわにした。
「思い切って帰ってきただなんて、貴女が彼を捨てたの?」
詰問するように真理が単刀直入に尋ねた。
「あら 真理さん、さっきは彼が奥さんや子供さんのところに帰ってきて良かったと言っていたんじゃなかったかしら。」
百合子はめぐみの悪びれない様子に不信の念を抱いたが、事情も聞かないでめぐみを責めるような口をきく真理たちにも同調できない。
実際、百合子にはこんな駆け落ち話はどうでもよい気がする。
それより自分の家の経済の方が心配なのだ。
「7つ違うとか、捨てただとか、みんな何を言っているのかしら。
彼、彼って一体誰のこと?
私は息子と7歳どころか24歳違いますよ。」
「はあ?
めぐみさんはダンス教室で知り合った男性と、ずっと一緒ではなかったの?」
秋絵の言葉に真理も続けた。
「そうよ。
7歳年下の彼と駆け落ちしたって聞いていたわよ。」
「まあ、とんでもないことになっているのね。」
「違うの?」
真理、秋絵、百合子が情報もとの美代子の顔を一斉に見た。
顔を赤くして、目を泳がせていた美代子が暫くして口を開いた。
「だって、私の友達の話では、その男性とめぐみさんはとても親しかったって聞いたわ。
同じ時期から二人が教室に来なくなったし、家も雨戸を閉めたままだから、二人はきっと駆け落ちをしたのだろうと噂になっていたのよ。
私、その話を信じてここで話してしまったの。」
「ところでめぐみさんは今までどこへ行っていたの?」
真理の質問に答えるめぐみに もう笑顔はない。
「私の息子が東京で就職しているのは皆さんご存知よね。
その息子が交通事故で大怪我をして、東京の病院に入院していたんです。
知らせを聞いて、取るものも取りあえず駆けつけたもので、こちらには連絡が出来なくて・・・
その子が退院して一人で生活できるまで回復するのを待っていたら、こんな時期になってしまったんですよ。」
「あら、そんな大変なことがあったの。
それで息子さんはもうすっかり良くなられたんですね。
良かったわ。
何も知らずに不謹慎な噂話を信じてごめんなさいね。」
真理が謝ったのに続いて美代子もごめんなさいと頭を下げている。
「それで例の男性はどうしてダンス教室に姿を見せなくなったのかしら。」
秋絵がまだしつこく訊ねている。
「ああ、あの人は福岡に転勤になったらしいの。
子供さんの学校や持ち家のこともあるので、単身赴任だと言っていたわ。
連休ぐらいしか、こちらには帰れないそうよ。」
美代子も秋絵も、めぐみの息子の不幸中に、不謹慎な噂話をしていたことは申し訳ないと思う反面、ここで盛り上がった話が全くの想像話だったことに気落ちしている。
百合子とめぐみは他の者のより一足先に真理の家を出て行った。
「今のめぐみさんの話本当かしら」
残っていた秋絵と美代子はまだ疑っている。
と言うより駆け落ち話が事実でないことが残念でならないようだ。
庭から真理の夫、敏之の声が聞こえてきた。
「やあ、暫くです。お元気でしたか」
真理が窓の外を見て、「えっ!」と大きな声を出した。
他の者もみな外を見て、驚いた様子で口をぽっかり開けている。
敏之の前に笑顔で立っているのは、あの駆け落ちをしためぐみなのだ。
真理が慌てて玄関へ迎えに出た。
リビングに入ってきためぐみは大きな紙袋を提げて明るい表情だ。
「こんにちは。お久しぶりです。
何の連絡もしないで休んでしまってごめんなさい。
やっと昨夜帰って来ることが出来ました。」
紙袋から菓子箱を取り出してテーブルの上に置いた。
何と声を掛けて良いのか、皆一瞬言葉が出ない。
「あのう・・・ぶしつけでごめんなさい。
彼はどうしたんですか?」
秋絵が皆が思っていることを代弁した。
「彼? ああ、息子ね。
あまり傍にいると甘えすぎるので、思い切って帰ってきたんですよ。」
「息子?」
その場の皆がキツネにつままれたような顔になった。
「まあ、息子だなんて。
みぐみさんたら、ごちそうさま。
でも彼とは7つしか違わないのに・・・」
美代子は彼のことを息子と無神経に呼ぶ めぐみに不快感をあらわにした。
「思い切って帰ってきただなんて、貴女が彼を捨てたの?」
詰問するように真理が単刀直入に尋ねた。
「あら 真理さん、さっきは彼が奥さんや子供さんのところに帰ってきて良かったと言っていたんじゃなかったかしら。」
百合子はめぐみの悪びれない様子に不信の念を抱いたが、事情も聞かないでめぐみを責めるような口をきく真理たちにも同調できない。
実際、百合子にはこんな駆け落ち話はどうでもよい気がする。
それより自分の家の経済の方が心配なのだ。
「7つ違うとか、捨てただとか、みんな何を言っているのかしら。
彼、彼って一体誰のこと?
私は息子と7歳どころか24歳違いますよ。」
「はあ?
めぐみさんはダンス教室で知り合った男性と、ずっと一緒ではなかったの?」
秋絵の言葉に真理も続けた。
「そうよ。
7歳年下の彼と駆け落ちしたって聞いていたわよ。」
「まあ、とんでもないことになっているのね。」
「違うの?」
真理、秋絵、百合子が情報もとの美代子の顔を一斉に見た。
顔を赤くして、目を泳がせていた美代子が暫くして口を開いた。
「だって、私の友達の話では、その男性とめぐみさんはとても親しかったって聞いたわ。
同じ時期から二人が教室に来なくなったし、家も雨戸を閉めたままだから、二人はきっと駆け落ちをしたのだろうと噂になっていたのよ。
私、その話を信じてここで話してしまったの。」
「ところでめぐみさんは今までどこへ行っていたの?」
真理の質問に答えるめぐみに もう笑顔はない。
「私の息子が東京で就職しているのは皆さんご存知よね。
その息子が交通事故で大怪我をして、東京の病院に入院していたんです。
知らせを聞いて、取るものも取りあえず駆けつけたもので、こちらには連絡が出来なくて・・・
その子が退院して一人で生活できるまで回復するのを待っていたら、こんな時期になってしまったんですよ。」
「あら、そんな大変なことがあったの。
それで息子さんはもうすっかり良くなられたんですね。
良かったわ。
何も知らずに不謹慎な噂話を信じてごめんなさいね。」
真理が謝ったのに続いて美代子もごめんなさいと頭を下げている。
「それで例の男性はどうしてダンス教室に姿を見せなくなったのかしら。」
秋絵がまだしつこく訊ねている。
「ああ、あの人は福岡に転勤になったらしいの。
子供さんの学校や持ち家のこともあるので、単身赴任だと言っていたわ。
連休ぐらいしか、こちらには帰れないそうよ。」
美代子も秋絵も、めぐみの息子の不幸中に、不謹慎な噂話をしていたことは申し訳ないと思う反面、ここで盛り上がった話が全くの想像話だったことに気落ちしている。
百合子とめぐみは他の者のより一足先に真理の家を出て行った。
「今のめぐみさんの話本当かしら」
残っていた秋絵と美代子はまだ疑っている。
と言うより駆け落ち話が事実でないことが残念でならないようだ。