片田舎の春はまだ寒い。
早朝から晴美は気持ちよく眠っている子供たちを起こした。
長女の美香と長男の和樹を連れて夫の健太のいるロスアンゼルスへ一週間だけ遊びに行くために関空へと向かった。
バッグには魚の干物や海苔、醤油、味噌、かき餅など日本で食べているものを健太のために入れた。
同居している晴美の母は隣町に住む妹の千夏が留守中預かってくれるので、昨日千夏の家に車に乗せられて連れて行かれた。
夫の健太は二年前に勤めている会社のロスアンゼルス支社へ転勤になり、本来なら晴美も子供たちも付いていくはずであったが、晴美の母が脳梗塞を患い二人姉妹の姉の晴美が面倒を見ることになって、健太は単身赴任をせざるを得なかった。
子供の夏休みと春休みには一週間程度遊びを兼ねて会いに行くことにしている。
飛行機の中では小学1年の美香と幼稚園児の和樹が父親に会うことより外国旅行に行く方が嬉しそうで、持ち込んだ小さなゲーム機ではしゃいでいた。
それでも空港に着くと子供たちは、迎えに来てターンテーブルで荷物を探している健太を見つけ、走り寄って抱きついた。
健太も子供たちをかわるがわる抱き、頬ずりをして嬉しそうだ。
正月も仕事が溜まっていると帰ってこなかったので父子が会うのは昨年の8月の夏休み以来7カ月振りだ。
「大きくなったなあ。美香もおねえちゃんらしい顔になったね。
和樹もしっかりママのお手伝いをしているか。」
目を細めて子供たちに話しかける健太の顔を見て晴美は驚いた。
青白く痩せ細っているのだ。
彼のアパートメントホテルは広い通りに面していて、ダイニング、リビング、ベッドルーム全てが驚くほど広い。
大きな窓から明るい光が差し込むリビングにはソファーが対面して置かれ、その横の机にパソコンがある。
ここで健太は会社から帰ったら仕事をしているのだ。
この家族がここで生活をするには充分な広さである。
今、日本で住んでいる建て売りの一戸建て住宅は狭い部屋が数個あるだけで、この広々とした明るい部屋に子供たちは大喜びである。
翌日から健太は仕事に没頭し始めた。
朝は子供たちが目覚める前に家を出て会社に向かう。
夕方帰宅すると、リビングルームの隅に置かれている机のパソコンに向かって夜遅くまで仕事をする毎日である。
晴美は朝食と夕食はここのキッチンで作っているが、健太がこのキッチンを使った形跡がない。
昨年の夏に来た時、晴美が買い揃えた調味料が少しも減っていない。
ということは毎日健太は外食かファーストフードを食べているのだろう。
昼間、晴美は子供たちを近くのリトル東京やユニバーサルスタジオへ連れて行ったり、サンタモニカの市場やビーチを歩いたりして過ごした。
あっという間に一週間は過ぎてしまった。
健太が子供たちと接したのは夕食時だけだった。
「ああ、この子たちがいるから俺は頑張れるんだ。」
娘や息子の顔を見ながら言う健太が自分自身を元気づけているように晴美には見えた。
「楽しかったか?
ごめんな。パパが一緒に付き合ってやれなくて。
今どうしてもやってしまわなくてはならない仕事があるんだ。」
「いいよ。ママと一緒に行って遊んだから楽しかったよ。
またパパのところに遊びに来るからね。」
子供は屈託のない返事を返す。
しかし夫と離れ離れの生活がまた始まる寂しさで晴美は日本へ帰るのが辛かった。
出来ればずっとここにいたいと思う。
子供たちも本心は父親と一緒にいたいのではないだろうか。
幼心に親に気を使わせているのではと胸が痛くなる。
早朝から晴美は気持ちよく眠っている子供たちを起こした。
長女の美香と長男の和樹を連れて夫の健太のいるロスアンゼルスへ一週間だけ遊びに行くために関空へと向かった。
バッグには魚の干物や海苔、醤油、味噌、かき餅など日本で食べているものを健太のために入れた。
同居している晴美の母は隣町に住む妹の千夏が留守中預かってくれるので、昨日千夏の家に車に乗せられて連れて行かれた。
夫の健太は二年前に勤めている会社のロスアンゼルス支社へ転勤になり、本来なら晴美も子供たちも付いていくはずであったが、晴美の母が脳梗塞を患い二人姉妹の姉の晴美が面倒を見ることになって、健太は単身赴任をせざるを得なかった。
子供の夏休みと春休みには一週間程度遊びを兼ねて会いに行くことにしている。
飛行機の中では小学1年の美香と幼稚園児の和樹が父親に会うことより外国旅行に行く方が嬉しそうで、持ち込んだ小さなゲーム機ではしゃいでいた。
それでも空港に着くと子供たちは、迎えに来てターンテーブルで荷物を探している健太を見つけ、走り寄って抱きついた。
健太も子供たちをかわるがわる抱き、頬ずりをして嬉しそうだ。
正月も仕事が溜まっていると帰ってこなかったので父子が会うのは昨年の8月の夏休み以来7カ月振りだ。
「大きくなったなあ。美香もおねえちゃんらしい顔になったね。
和樹もしっかりママのお手伝いをしているか。」
目を細めて子供たちに話しかける健太の顔を見て晴美は驚いた。
青白く痩せ細っているのだ。
彼のアパートメントホテルは広い通りに面していて、ダイニング、リビング、ベッドルーム全てが驚くほど広い。
大きな窓から明るい光が差し込むリビングにはソファーが対面して置かれ、その横の机にパソコンがある。
ここで健太は会社から帰ったら仕事をしているのだ。
この家族がここで生活をするには充分な広さである。
今、日本で住んでいる建て売りの一戸建て住宅は狭い部屋が数個あるだけで、この広々とした明るい部屋に子供たちは大喜びである。
翌日から健太は仕事に没頭し始めた。
朝は子供たちが目覚める前に家を出て会社に向かう。
夕方帰宅すると、リビングルームの隅に置かれている机のパソコンに向かって夜遅くまで仕事をする毎日である。
晴美は朝食と夕食はここのキッチンで作っているが、健太がこのキッチンを使った形跡がない。
昨年の夏に来た時、晴美が買い揃えた調味料が少しも減っていない。
ということは毎日健太は外食かファーストフードを食べているのだろう。
昼間、晴美は子供たちを近くのリトル東京やユニバーサルスタジオへ連れて行ったり、サンタモニカの市場やビーチを歩いたりして過ごした。
あっという間に一週間は過ぎてしまった。
健太が子供たちと接したのは夕食時だけだった。
「ああ、この子たちがいるから俺は頑張れるんだ。」
娘や息子の顔を見ながら言う健太が自分自身を元気づけているように晴美には見えた。
「楽しかったか?
ごめんな。パパが一緒に付き合ってやれなくて。
今どうしてもやってしまわなくてはならない仕事があるんだ。」
「いいよ。ママと一緒に行って遊んだから楽しかったよ。
またパパのところに遊びに来るからね。」
子供は屈託のない返事を返す。
しかし夫と離れ離れの生活がまた始まる寂しさで晴美は日本へ帰るのが辛かった。
出来ればずっとここにいたいと思う。
子供たちも本心は父親と一緒にいたいのではないだろうか。
幼心に親に気を使わせているのではと胸が痛くなる。