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わかれ

2024-12-22 08:46:02 | 日記

桜のつぼみが膨らみ始めた三月の終わり、陽介と美咲は静かな公園のベンチに座っていた。卒業式を終えたばかりの彼らは、互いの未来を考えながらも、その時が訪れることを恐れていた。

「春になったら、東京に行くんだね。」
美咲がぽつりと言った。

陽介は軽くうなずき、目の前に広がる川の流れに視線を落とした。彼は東京の大学に進学することが決まっており、夢であるエンジニアになる道を歩み始めるところだった。一方、美咲は地元に残り、家業の花屋を手伝いながら専門学校に通う予定だった。

「応援してるよ、陽介。夢に向かって頑張って。」
美咲は無理に微笑みながら言葉を続けた。しかし、その声には少しの震えが混じっていた。

「ありがとう、美咲。でも正直、不安なんだ。」
陽介は思い切って自分の気持ちを口にした。
「君と離れるのがこんなに怖いなんて思わなかった。」

それを聞いた美咲の目に涙が浮かんだ。彼女も同じだった。二人は高校の入学式で初めて出会い、それ以来ずっと一緒だった。部活の帰り道や文化祭の準備、夜遅くまで一緒に勉強した日々。どんなに忙しくても、どんなに辛い日でも、彼が隣にいてくれるだけで安心できた。

「離れても、お互いに頑張ろう。」
美咲は涙をこらえながら言った。
「きっとまた会えるよ。」

陽介はその言葉にうなずきながらも、胸に込み上げる感情を抑えられなかった。何かを失うような感覚が彼を支配していた。

数日後、陽介が東京へ発つ日がやってきた。駅のホームで二人は最後の時間を過ごした。朝早い電車の時間にもかかわらず、美咲は小さな花束を持って見送りに来ていた。

「これ、持っていって。」
美咲が渡したのは、白いカスミソウと小さなピンクのバラで束ねられた花束だった。

「ありがとう、すごくきれいだ。」
陽介は花束を受け取り、彼女の目を見つめた。
「美咲、本当にありがとう。これからもずっと君のことを忘れない。」

電車が到着し、別れの時が迫った。二人はしっかりと抱きしめ合い、互いの体温を感じながら言葉を交わした。

「さようなら、陽介。」
「また会おう、美咲。」

その瞬間、電車のドアが閉まり、陽介は窓越しに手を振った。美咲も涙を流しながら手を振り返した。電車が動き出すと、彼女の姿は次第に小さくなり、やがて見えなくなった。

桜が満開になるころ、二人はそれぞれの新しい生活を始めていた。電話やメッセージで連絡を取り合いながらも、次第に忙しさに追われ、会話は減っていった。そして、いつしかそのやりとりも途絶えていった。

春風に揺れる桜の花びらは、彼らの青春の一部として心に刻まれたまま散っていった。新たな未来が二人を待っている一方で、かつての時間は静かに過去へと溶けていった。

 


卒業 さよなら またね

2024-12-08 09:37:10 | 日記

「さよなら、またね」

春風が吹き抜ける校庭で、咲き始めた桜の花びらが踊りながら、私は最後のホームルームに立っていました。卒業式を終えたばかりの教室は、まだ少し暖かい残りの韻が残っています。

「本当に卒業なんだな」
隣の席

「まだ気づいてないよね」
私は

陽太とは、入学式の今日隣の席になったのがきっかけで仲良くなった。 彼は不器用で、時々妙に真面目なところがあるけど、気さくで笑顔が絶えない人だった。も違うのに、別にいつも彼

「これでお別れかぁ」
陽太が笑いながら言う

「別れじゃないでしょ。『またね』だよ」
私はそう言います


夕暮れ時、校門の前で私は陽太を待っていた。

「お待たせ!」
後ろから見た


「まあ最後時間守りなよ」
陽太は頭を掻

歩き始めた二人の間に沈黙が訪れる。

「なあ、琴音」

「これからも、友達でいてくれる?」
その言葉に一


「もちろん。忘れるわけないじゃん」

陽太は


電車が来る


「ありがとう、陽太。三」
そう言うと、

「俺も。琴音と過ごした日々、忘れないよ」
彼の言葉に、胸

電車のド

ドアが閉まり、

「さ

私の未来がどこへ向かう


夏の終わり、君の音」

2024-12-01 07:22:20 | 日記

夏の終わり、君の音」

雨上がりの午後、僕は音楽室の前で足を止めた。窓から漏れるギターとシンセサイザーの音が、不思議なメロディーを紡いでいる。その音に引き寄せられるように、そっとドアを開けると、そこには彼女がいた。

青いTシャツに黒髪がよく似合う、クラスメイトの夏目凛。いつも一人で音楽を作っている彼女の背中は、小さな音楽室の中でひときわ輝いて見えた。

「また聴きに来たの?」
振り向きもせず、凛が少しだけ口角を上げた。その声はどこかからかっているようだったが、僕は正直に頷いた。

「君の音楽、好きだから。」
そう答えると、彼女はようやくこちらを振り返った。大きなヘッドホンを首に掛けたまま、少し驚いたような表情を浮かべている。

「ふーん、本気で言ってるの?」
「本気だよ。」
僕が言い切ると、彼女は困ったように笑った。

「別にプロになれるほどの腕じゃないけどね。ただ、自分が好きでやってるだけだから。」
そう言いながら、彼女は手元のキーボードを軽く叩いた。新しい音が部屋に広がる。その音色に、僕は自然と引き込まれる。

「でもさ、いつかみんなに聞いてほしいと思わない?」
僕がそう尋ねると、彼女は一瞬黙り込んだ。窓の外から射し込む陽の光が彼女の横顔を柔らかく照らしている。

「どうだろうね。…自分でもよく分からない。」
凛はそう言って視線を窓の外に向けた。その横顔に、ほんの少し影が落ちている気がした。

「でも、僕は君の音楽をもっとたくさんの人に聴いてもらってほしいと思うよ。」
僕がそう言うと、彼女は少しだけ目を丸くした。そして、ゆっくりと微笑んだ。

「…変なやつ。でも、ありがとう。」
その笑顔を見た瞬間、胸がキュッと締め付けられるような感覚を覚えた。

しばらくの沈黙の後、彼女が突然立ち上がった。
「じゃあ、ちょっとだけ実験台になってくれる?」

「実験台?」
「新しい曲作ったんだけど、誰かに聴いてもらうのは初めてでさ。感想、聞かせてよ。」

彼女はヘッドホンを僕に渡し、キーボードを操作した。耳元から流れるメロディーは、さっきよりもずっと優しくて切ない音色だった。

「これ…君が作ったの?」
「うん。夏の空をイメージして作ったんだけど、どうかな?」
彼女の瞳が真剣に僕を見つめてくる。

「すごくいい。…本当に、夏の終わりみたいな感じがする。」
そう言うと、彼女は少しだけ頬を赤らめて目を逸らした。

「そっか、そう思ってくれるならよかった。」
そうつぶやいた彼女の声が、何よりも柔らかく心地よかった。

その日から、僕たちは放課後の音楽室で少しずつ時間を共有するようになった。彼女の音楽を聴くたびに、僕の中に何かが変わっていくのを感じていた。でも、それが何なのかは、まだうまく言葉にできなかった。

ただひとつ分かるのは、この時間がとても大切だということ。そして、その音楽が、彼女の存在そのもののように感じられることだ。

夏が終わり、秋が近づいてくる頃。彼女の音楽を通じて、僕の世界は少しずつ広がっていく。きっとこの先も、僕は彼女の音楽に寄り添いながら、その想いを胸に抱き続けるのだろう。


「冬の光、君の声」

2024-11-26 06:37:02 | 日記

 

 

「冬の光、君の声」

冷たい風が街路樹を揺らし、灰色の空が冬の終わりを告げるようだった。2月、受験シーズン真っ只中の放課後、僕は図書館で英単語帳とにらめっこしていた。周りは同じように参考書や問題集を広げた受験生たちで溢れている。静かな空気の中、鉛筆の走る音だけが響く。

そんな時、隣の席に小さな音を立てて誰かが座った。視線を上げると、そこには見覚えのある横顔があった。山下ひかり。クラスメイトで、席は遠いけれど、名前の通り光のように明るい笑顔が印象的な子だ。

「集中してる?」
僕が返事をする間もなく、ひかりは軽く笑いながら英語の参考書を開いた。その何気ない仕草が妙に印象に残った。

「今日は図書館?」
「うん、家だと弟が騒がしくてね。」
「そっか、大変だね。」

彼女とこんなふうに話すのは初めてだった。学校では友達に囲まれている彼女を遠くから眺めるだけで、接点なんてほとんどなかった。だけど、その日は不思議と会話が途切れることなく続いた。

それから何度か図書館で会ううちに、僕たちは自然と一緒に勉強するようになった。問題を解き終えた後の雑談がいつしか楽しみになっていた。

「ここ、分かる?」
ある日、彼女が数学の問題を指さして聞いてきた。得意分野だった僕は解き方を教えた。ひかりは感心したように目を輝かせ、「すごいね!」と笑った。その笑顔を見るたびに、胸がざわついた。

でも、同時に分かっていた。受験が終われば、僕たちは違う道を進む。僕は地元の大学を志望していて、ひかりは東京の美術系の学校を目指していた。

「ねえ、受験終わったら何がしたい?」
図書館の帰り道、彼女が突然聞いてきた。夕方の光がオレンジ色に染まり、ひかりの横顔を優しく包んでいた。

「うーん…とりあえずは寝たいかな。ずっと勉強ばっかりだし。」
「確かに、それはあるね。」

彼女は少しだけ笑ってから、遠くを見つめるように言った。
「私は…東京に行ったらいろんな絵を描きたいな。好きな風景とか、知らない街の人たちとか。」

その時、どうしても言葉が出てこなかった。彼女が輝いて見えた一方で、僕はその輝きから遠ざかるような気がしていた。

そして、3月。受験結果が発表された。僕も彼女も第一志望に合格した。だけど、嬉しさと同時に訪れたのは、避けられない別れだった。

最後に彼女と会ったのは、卒業式の日だった。みんなが記念写真を撮ったり、涙を流したりしている中、僕たちは校庭の隅で静かに話していた。

「おめでとう、第一志望合格。」
「そっちこそ、おめでとう。」

お互いに少し照れくさそうに笑った。僕たちは結局、告白も何もせずにここまで来た。でも、それでよかったんだと思う。

「東京でも頑張ってね。」
「ありがとう。そっちも。」

握手を交わしたその瞬間、僕は彼女の手の温かさを覚えた。

彼女が校門を出て行く後ろ姿を見送りながら、心の中で小さく呟いた。
「ありがとう、ひかり。」

春の風が吹き抜け、彼女の髪を揺らしながら遠ざかっていった。彼女の後ろ姿が小さくなるまで、僕はずっとその場に立ち尽くしていた。

そして、僕は新しい季節を迎える準備をするために、前を向いて歩き出した。

 

雨上がりの空の下で

2024-11-21 08:52:40 | 日記

雨が上がったのは昼過ぎのことだった。窓際に置かれた観葉植物が、濡れた葉を光らせながら太陽に向かって背伸びをしているように見える。美咲は窓を開け放ち、吸い込むように外の空気を胸いっぱいに取り込んだ。湿り気を帯びた風には土の匂いが混ざり、どこか懐かしさを感じさせる。

スマートフォンが震え、画面には「翔太」からのメッセージが表示された。

「雨、やんだね!これから散歩しない?」

美咲は微笑みながら返信を打つ。
「うん!ちょうど外に出たい気分だった。」

翔太とは大学時代の友人で、気づけばいつもそばにいる存在だ。特別な感情を抱いているわけではないと自分に言い聞かせてきたけれど、最近、彼の一言一言が心に残るようになっていることに気づいていた。

待ち合わせは近所の公園だった。家を出ると、雨で洗われたアスファルトが光を反射して美しく輝いている。歩きながら、道端の花が鮮やかな色を取り戻しているのに目を奪われた。

公園に着くと、翔太がベンチに腰かけて待っていた。彼の手元には缶コーヒーが二本。美咲を見つけると、翔太はにこりと笑い、一本を差し出した。

「来たね。これ、飲む?」

「ありがとう!」

受け取った缶コーヒーの温かさが、雨上がりの少し冷えた空気に心地よかった。二人は並んで歩き始める。晴れ間から差し込む光が、葉の間からこぼれ落ちるように地面を照らしている。

「雨上がりの空って、なんか特別な感じがするよね」と翔太が呟く。

「うん、全部が新しく見えるよね。空気も綺麗だし。」

翔太は少し黙った後、美咲の方を向いて言った。
「実はさ、今日どうしても美咲と会いたかったんだ。」

「え?」美咲の胸が高鳴る。

「最近、美咲と過ごす時間がすごく大事だって気づいてさ。前はただの友達だと思ってたけど、もっと近くにいたいって思うようになったんだ。」

その言葉に、美咲は驚きと戸惑い、そして嬉しさが入り混じった感情を抱いた。ずっと自分の中で隠してきた気持ちを彼が代弁してくれたように感じた。

「私も……最近、翔太のことを考えることが多くて。なんでだろうって自分に問いかけてたんだ。」

「じゃあ、俺たち……これからもっと一緒にいられるかな?」

美咲は頷き、空を見上げた。澄み渡る青空が広がり、どこまでも続いているように見える。翔太と手を繋ぎながら歩き出すと、足元には雨の残した小さな水たまりが光を映して揺れていた。

雨上がりの空の下、新しい二人の関係が静かに動き始めたのだ。