京都園芸倶楽部の元ブログ管理人の書笈

京都園芸倶楽部のブログとして2022年11月までの8年間、植物にまつわることを綴った記事を納めた書笈。

ユウかヨウか、それが問題……か?

2022-06-14 18:08:19 | 雑学・蘊蓄・豆知識
くろ谷さんで知られる金戒光明寺の塔頭のひとつで、紫雲石でも知られる西雲院の本堂前で咲き始めていた地湧金蓮の花。




数年前までは鉢植えで、本堂前へと続く参道の真ん中に置かれていたと記憶しているのですが、大きくなってきたからか、地植えにされていました。

花が咲いていると言っても、この金色に輝くように見える黄色は花弁ではなく苞と呼ばれるもので、その苞から雄しべが出てるように見えるものが本物の花です。名前に「蓮」とついていますがバショウ科に分類される中国雲南省からインドシナ半島の比較的標高の高い(1,000〜2,500メートル)ところが原産地の常緑多年草で、別属ですが科名となっているバショウ(芭蕉)やバナナ(甘蕉)に近い種ですので、英名ではチャイニーズ・イエロー・バナナと呼ばれ、園芸種としては耐寒バナナという流通名で呼ばれることもあります。



さて、冒頭ではあえて漢字で表記した「地湧金蓮」は中国での呼び名(正式には雲南地湧金蓮)でもあるのですが、この漢字表記を皆様はどのように読みましたか?

この植物を知っていらっしゃる方はおそらく「チユウキンレン」と読まれたかと思いますが、花を止血の生薬として使われることから薬草として取り上げられていることもあり、主に薬学系の生薬関連の紹介ページでは「チヨウキンレン」と読んでいることがあるように感じます。ただし、これはあくまで管理人が個人的に思っているだけのことなのですが……

この「湧」という漢字、たしかに「湧水」のように、訓読みの「わきみず」の他に音読みだと「ゆうすい」と呼ぶので「読みは『ユウ』が正しいんじゃないの?」となるかと思いますが、漢和辞典にあたってみると「湧」の異体字あるいは本字とされる「涌」の読みを見てみると「ユウ」は呉音(私の持っている三省堂の新明解漢和辞典第三版では慣用音)であり、漢音では「ヨウ」と読むようで、正式には「チヨウキンレン」が正しい読みとしていることもあるようです。

ちなみに原典にはあたっていないのですが、国際花と緑の博覧会記念協会が2003年に発行した『雲南花紀行』では、和名は「ジユウキンレン」となっているそうです。

主流の「ユウ」と読めばよいのでしょうが、ちょっと天邪鬼のきらいがある管理人はあえて「チヨウキンレン」と呼びたくなってしまいます。学名の「Ensete lasiocarpum」と書けば、問題になるようなことではないのですけどね。
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ナンジャモンジャでヒトツバのタゴなんだよね

2022-05-14 18:26:54 | 雑学・蘊蓄・豆知識
もう1週間ほど前のことになりますが、軒先に置かれた大きな鉢に植えられたヒトツバタゴが、大半は散り始めていたなかできれいに咲いている花序がひとつだけ残っていたので、とりあえず1枚パチリと撮影しました。



ナンジャモンジャやナンジャモンジャノキの名前のほうがよく知られているかもしれませんがその由来は諸説あるようで、有名なところでは、

・見慣れない木で名前がわからないのでぼかして呼んだことから
・神事で用いるため名前を呼ぶことが憚られたことから
・この木を見てよく尋ねられた「何の木じゃ」が転訛したことから
・水戸光圀公が将軍に「何の木か」と問われてとっさに答えた名前から

があるようです。ところでヒトツバタゴも初めて聞くとどこで区切りをつけるのか迷うかもしれませんね。私も初めて聞いたときは「ヒトツ+バタゴ」なのか「ヒトツバ+タゴ」なのか迷いましたが、漢字で書くと「一つ葉田子」なので「ヒトツバ+タゴ」が正しいということになりますね。

これはタゴ(田子)というのがトネリコ(十練子)の別名であるそうで、先日紹介したアオダモ(青梻)のダモもトネリコの別名になるそうですが、トネリコやアオダモなどモクセイ科トネリコ属の樹木が複葉であるのに対し、同科ヒトツバタゴ属と分けられているので同属ではないのですがヒトツバタゴはこのトネリコに似ているのに葉が単葉であることにちなむそうです。

アオダモの花と葉(過去記事より再掲。2022年4月撮影)


ふと「ヒトツ+バタゴ」が頭によぎったとき「バタゴって何」と思いましたが区切る場所が悪かったようですね。通常、植物名(和名)はカタカナで書き表すことが多いので、区切る場所があやふやだとその意味を掴み損ねることもありますね。たとえば、カラスノエンドウもその音から「烏の豌豆」と思いがちですが、正しくは「烏野豌豆」なので、このブログではちょっとうるさいし余計なお世話かもしれませんが、可能なかぎり漢字表記を併記するようにしています。
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髭? 鬚? 髯? 頾? 仙人のヒゲに見える?

2021-12-03 17:45:45 | 雑学・蘊蓄・豆知識
日が暮れると降り始め、一晩中降り続いた雨も止んだ今週の水曜日の早朝のこと。起きて「今日から師走か」と思いながら着替えなど身支度をしていると、朝ご飯となるものがないことに気づきました。買い出しがてらカメラを持って早朝の高野川河川敷を逍遥していると、見つけました。



御蔭橋付近の川縁に生える木に絡みついたセンニンソウ(仙人草)の痩果です。雨は降り止みましたが、空を見るとまだどんよりと曇っており、時折吹きすさぶ北寄りの寒風に押し流されるように雲が流れていく朝なのに、風に散ることなくまだ残っていました。

ふと、今夏にここで花を撮影したことを思い出し、帰宅後に探してみると、ありました。8月下旬(8月23日早朝)に撮影しており、3か月後にはこのような痩果をつけている姿になっていたのでした。

センニンソウの花(2021年8月撮影)


さて、このブログでも何度か紹介していますが、センニンソウとは日本に自生するクレマチスの仲間で、この痩果から伸びる綿毛を仙人の『ヒゲ』に譬えたのが和名の由来とされています。



この「ヒゲ」なのですが、漢字で書こうとして「たしか、いくつかあったよな?」と思い、頭に浮かんだのが「髭」「鬚」「髯」の3つです。おそらく意味が違うだろうと思い、ひさしぶりに漢和辞典(三省堂・新明解漢和辞典;1986年9月15日第3版第16刷発行)を取り出して調べてみると、なんと「頾」という字もありました。

それぞれ意味を調べてみると……

:ヒゲ。鼻の下のひげ。口ひげ
:ヒゲ。あごひげ/動物の口もとの毛/ひげの形をしたもの
:ヒゲ。ほほひげ
:ヒゲ。口の上のひげ

とありました。

漢和辞典に記載されていた「頾」は、部首(おおがい)の『頁(ケツ)』だけが右にあり、左上に『彡(サン)』と左下に「此(シ)」がある表記でした。意味からすると「髭」と「頾」は同じヒゲを指しているのでしょうか。ついでながら「髭」「鬚」「髯」の部首は『髟(かみがしら)』です。 

さて、仙人のヒゲだと「髭」「鬚」「髯」「頾」のどれになるのかなと思いましたが、一般的に想像される仙人だと「口ひげ」「あごひげ」「ほほひげ」があり、加えて「眉毛」も長いという姿を思い浮かべるだろうから、それらすべてのヒゲを表していると思えばよいのでしょうか。




皆さんは、どこのヒゲに見えますか。そもそもヒゲに見えますか?


追記(2021年12月4日10時45分)
そうか、痩果ひとつを仙人の顔に見立てれば、あごひげに見えるかな。だとすれば「鬚」か。逆に見れば白髪の「辮髪」になるかな。
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これが、かの悪名高き、あの植物の花だったのか……

2021-09-25 06:35:09 | 雑学・蘊蓄・豆知識
普段は鴨川河川敷といっても丸太町橋より北側を中心に散策することが多く、ひさしぶりに三条大橋から南へ、ちょうど師団街道の交通渋滞解消のために作られた鴨川東岸線(じつは都市計画上の川端通の路線名)の分岐点あたりまで往復してきました。

四条大橋を過ぎて、団栗橋もくぐり、松原橋に近づくにつれ、あまり見かけない植物が花を咲かせていました。



最初は何かわからず、見た目から連想される言葉を打ち込んでスマートフォンで検索してみましたが該当する植物は見つからず、当初の目的を果たすことを優先して、写真だけ撮影しておきました。

帰りにちょっと寄り道して、河原町三条近くの京都BAL地下にある丸善京都店で帰化植物の本を立ち読みで(丸善さん、ごめんなさい)探してみたら、ありました。こやつが、かの悪名高き、ナガエツルノゲイトウ(長柄蔓野鶏頭)の花だったのか。南米原産のヒユ科ツルノゲイトウ属の多年草で、外来生物法では特定外来生物に指定され、その被害から新聞記事で「地球上で最悪の侵略的植物」とも紹介された植物です。

球状の花序から変なミゾソバ(溝蕎麦)という印象でしたが、花のかたちも違い、ミゾソバは三角形の葉が互生につき、こちらは倒広披針形とでもいう葉が十字対生についています。鴨川にも広がっていることは聞いていましたが、これまでに実際に見たことはなく、これが初めてです。

3年前の6月頃に、ほぼ同じ場所で同じく特定外来生物のオオバナミズキンバイ(大花水金梅)を見つけましたが、ナガエツルノゲイトウも広がっているのですね。

オオバナミズキンバイの花(過去記事より再掲。2019年6月撮影)


先ほど述べた優先させたい当初の予定のひとつとは、こちらの花を見てみたいことでした。



メリケンムグラ(米利堅葎)の花です。こちらも北アメリカ原産のアカネ科オオフタバムグラ属の一年草もしくは多年草です。おそらく先月中旬の戻り梅雨のような長雨による増水で水没したのでは思われる場所でも繁茂しており、花を咲かせていました。帰化する植物は、すさまじく逞しいと感じます。

その近くでは、こちらも北アメリカ原産のアカバナ科チョウジタデ属の一年草であるヒレタゴボウ(鰭田牛蒡)が花を咲かせていました。




鴨川の河川敷に限ったことではありませんが、何かたくさんの花が咲いていると思って近づいて確認すると、その多くが外来種といったことが増えてきていると年々強く感じるようになってきました。
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雑草? それとも野菜?

2021-09-22 06:47:10 | 雑学・蘊蓄・豆知識
あちらではひっそりと、こちらでは蔓延るようにと、そこかしこで咲き続けているニラ(韮)の花。



八百屋さんやスーパーマーケットの生鮮品売り場の野菜コーナーに置かれているニラと同じということは頭でわかっていても、どうしてもこれを採って食べようと思わないのは、ちょっともったいないでしょうか。

この花が咲いているところを覚えておけば、初夏から今頃にかけて摘んで食べればよいだけのことなのですが……

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ところで、このニラですが、日本では古くから知られており、じつは古事記や万葉集にもその名前が出てきます。ただし、ニラとは呼ばれていません。古名は「みら」とされていますが、それぞれでの呼び名は以下のとおりです。

まず、古事記では神武天皇の東征に関する記述の箇所で詠まれた歌に、賀美良(かみら)という名前で出てきます。

 美都美都斯(みつみつし)
 
 久米能古良賀(久米の子らが)
 
 阿波布爾波(あわふ粟生には)
 
 賀美良比登母登(かみら一本)
 
 曾泥賀母登(そのが元)
 
 曾泥米都那藝弖(その芽繋ぎて)
 
 宇知弖志夜麻牟(討ちてし止まむ)

天下を治める立場から見るとニラは雑草にしか見えないのか、敵を討ち取ることを雑草のニラを刈り取って根こそぎ抜き取ることに譬えられています。

また、万葉集では作者不詳の一首だけですが、東歌のひとつとされる歌に、久君美良(くくみら)という名前で出てきます。

 伎波都久乃(きはつくの)
 
 乎加能久君美良(岡のくくみら茎韮
 
 和礼都賣杼(われ摘めど)
 
 故尓毛美多奈布(籠にも満たなふ)
 
 西奈等都麻佐祢(背なと摘まさね)

野に出て、おしゃべりしながらニラを摘み取る女性たちが、誰とはなしに「せっせと摘み取ってるのに籠いっぱいに全然ならないわ」と言えば、それに答えるように「じゃあ、あなたの好い人と一緒に摘んでもらいなさいな」という風景を詠んだ歌とされます。

見る人によって雑草に見えたり野草に見えたりということは、今も昔も同じようですね。

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ちなみに、現存する日本最古の薬物辞典である本草和名では、次のように書かれています。

 韮(揚玄操音九)一名白蒻、一名豐本(已上二名出兼名苑)
 
 一名寒菜(出千金方)一名草鍾乳(言其宜人也故以名之出拾遺)
 
 和名古美良

と、古美良(こみら)という名前で紹介されています。
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