京都園芸倶楽部の元ブログ管理人の書笈

京都園芸倶楽部のブログとして2022年11月までの8年間、植物にまつわることを綴った記事を納めた書笈。

をみな良し? をみな圧し? 女飯?

2021-09-15 06:45:17 | 雑学・蘊蓄・豆知識
神楽岡通と今出川通や志賀越道をつなぎ、吉田山の北側をの縁に沿うように走る細道に続く住宅街の軒先で、プランターに植えられたオミナエシ(女郎花)が花を咲かせていました。

オミナエシの花(2021年9月撮影)


万葉集の巻八の一五三七と一五三八にあたる山上憶良が詠んだ二首の歌より「秋の七草」のひとつとして知られていますが、花は7月頃から咲き始めますので秋の花だけでなく夏の花という印象もあるかもしれません。でも、立秋前後が旧暦では秋が始まる頃(旧暦は7月〜9月が秋で、新暦の8月上旬から10月上旬に相当)になるので、早すぎるということもないでしょう。

オミナエシという和名ですが、歴史的仮名遣いで書けば「をみなへし」となりますが、読みだけ聞いても意味がわかりにくいとおり、語源は詳しくわかっていないそうですが、由来は諸説あるようですね。

由来としては、オミナエシより少し大きいオトコエシ(男郎花)と対比して、オトコエシよりも小さくて咲き姿が女性らしく見えること(をみな良し:えし=良しの読みの古形)からという説や、若い女性(をみな=若い女性)も恥じらい、圧倒する(へし=圧し)ほどの美しい花であることからという説があるでしょうか。

ちなみに岡崎疏水の熊野橋近くで咲いていたオトコエシの花はこちら。このオトコエシは、ちょっとオミナエシより花序が小さいようにも感じますが、草丈は高いようです。


オトコエシの花(2021年9月撮影)


オトコエシの花に脱線してしまいましたが、他には、餅米を炊いた強飯を「男飯」と呼ぶのに対し、アワ(粟)を炊いた粟飯のことを「女飯」とも呼ぶそうですが、小さな黄色い花がもこもこと咲く姿が粟飯に似ているということから女飯が転訛してオミナエシとなったという説もあるそうです。そう見えるかな?


オミナエシは女飯?


オトコエシは男飯?


なお、女郎花と書いて「おみなめし」と読むこともあるそうで、この読み方で有名なのは、能の演目のひとつである「女郎花」でしょうか。

京都府八幡市の石清水八幡宮や放生川を舞台にして、野原に咲くオミナエシの逸話として架空の人物である小野頼風と京のみやこの女との情欲や恋慕を描いた作品です。

じつは、この演目に出てくる男塚(頼風塚)と女塚(女郎花塚)は実存し、男塚(頼風塚)は八幡市民図書館近くの和菓子店の裏にある石でできた小さな五輪塔がそれで、女塚(女郎花塚)は松花堂庭園の西隅にあるこちらも石でできた小さな五輪塔がそれです。

この「女郎花」という能の演目は、オミナエシの花言葉のひとつである「約束を守る」の由来だとする説もあるそうです。

能の演目以外にも、この「女郎花」は重ね着の色目である「襲色目」のひとつになっており、表に経青緯黄が、裏に青が施された色合わせで、秋の色とされています。
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まさに「いろいろ」なアメリカアサガオ

2021-09-01 17:09:28 | 雑学・蘊蓄・豆知識
今日から9月。先月末から、朝晩は幾分涼しく感じられるようになり、夜も寝苦しさが少し和らいだように思いますが、それでも日中は汗が滴り落ちるほどの暑さになる京都です。

空を見上げると秋の到来を感じられるような「うろこ雲」も見られるようですが、まだまだ夏はすぐにどいてくれないでしょうね。

植物も夏と秋の花が混在しているように感じます。アサガオ(朝顔)と言えば、やっぱり夏の花でしょうか。道端であろうが原っぱであろうが、生育できるところであればそこかしこで野生化して咲いている姿を見かけるアメリカアサガオ(亜米利加朝顔)は、大きさは3センチメートル程度の、通常は青色もしくは水色の単色の花を咲かせることが多いのですが、まれに斑入りや絞りの入ったような花ができるようです。

先月下旬のことですが、叡山電車の元田中駅近くで、線路沿いに続く道に設けられた侵入防止策に絡みついたアメリカアサガオの花をよく見ると……

少し斑の入った青花。



こちらは色が薄くなっており、このあたりになると斑入りか絞りか、わからなくなります。



こちらは絞りと言えるでしょうか。



本来の青色地ではなく白色地に青い斑入りのような花も。1枚目の花と逆バージョン?



この場所では昨年もこのような絞りの入った花を見かけましたが数は少しだけで、ほとんどが青色の花だったと思うのですが、今年はさらにバリエーションが増えているような気がします。

そして、このアメリカアサガオの近くで咲いていたのが、こちらの花。



大きさはアメリカアサガオと同じで、色もよく見られる青色の何の変哲もない、一見アメリカアサガオの花に見えるのですが、葉のかたちが違いました。おそらくマルバアメリカアサガオ(丸葉亜米利加朝顔)の花だと思います。分類上はアメリカアサガオの変種扱いです。

上の花の写真にも小さな葉が写っていますが、葉は心形です。

マルバアメリカアサガオの葉


ちなみにアメリカアサガオの葉は3裂から5裂し、このようなかたちをしています。


アメリカアサガオの葉


また、このマルバアメリカアサガオとよく似たアサガオにマルバアサガオ(丸葉朝顔)があります。葉のかたちなどはそっくりですが、一番の違いはマルバアサガオは花後に花軸が下向きに垂れ下がって果実をつけるのに対し、マルバアメリカアサガオは上向きのままでタコさんウインナーのように反り返った萼に包まれて果実をつける点だと言えるかと思います。

まさに「いろいろ」なアメリカアサガオに出会えた、先月下旬の早朝のひとコマでした。
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希望と勇気を与えた平和を象徴する花

2021-08-06 06:39:06 | 雑学・蘊蓄・豆知識
今夏は例年に比べて夕立となることが多いように感じますが、朝から暑いことには変わりない京都です。8月の初日となった日曜日、出町柳近くの本満寺の境内を歩いていると一重咲きの白花のキョウチクトウ(夾竹桃)が花を咲かせていました。



咲いていたのはこの花序と少し離れた場所にあったもうひとつの花序だけでしたが、白い色には爽快感があり、すっきりした一重咲きとあいまって一服の清涼剤になりました。

さて、このキョウチクトウはあまり知られていないかもしれませんが広島市の「市の花」です。76年前の今日、午前8時15分。B-29「エノラ・ゲイ」が投下した1発の「リトルボーイ」の閃光が広がると爆風と熱線、放射線が街を襲い、一瞬のうちに壊滅状態となった広島。

そして「75年は草木も生えぬ」と言われた広島の街でいち早く復活して花を咲かせたのが、このキョウチクトウでした。



また、国泰寺の大クスノキなど戦前は有名だったクスノキ(楠)も原爆でやられましたが、生き残ったクスノキもいち早く復活したことから、こちらが広島市の「市の木」となり、終戦から28年後の1973(昭和48)年11月3日に広島市基町の中央公園にある「花の精」前広場で広島市「市の木」「市の花」制定記念式が行われ、それぞれ制定されたそうです(広島市のホームページを参照)。

被爆3日後に、勤労奉仕に動員されていた少女たちに「地獄に電車は走らない。ここが地獄ではないことを皆に知らせるために電車を走らせてほしい」と指導教師が車掌として乗務するよう説得した逸話が残る、広島電鉄が走らせた「一番電車」と同様に、少なからず市民にとって希望と勇気の灯火となったのではないでしょうか。

さて、その「草木も生えない」と言われた75年目にあたる昨年は、想像もしなかった新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい始めました。コロナ禍と呼ばれる新型コロナウイルスとの戦いは、目には見えない相手を人類共通の敵に勃発した、まさに「第三次世界大戦」とも譬えられています。

でも、この75年で人間は何かを学び取ったのでしょうか。コロナ禍の対策を見ていても、どこか科学技術への過信と為政者による後手後手の対応で、過ちを繰り返してばかりのように思えなくもない?

ひょっとしたら、人間に本当に大切なことを気づかせ、考えさせるきっかけ(もしかして最後通牒?)が新型コロナウイルスであり、その対策においては、希望と勇気を与えてくれた植物であるキョウチクトウが同時に伝えようとしている、過去と同じ過ちを犯してはならないことを肝に銘じなければならないのではないでしょうか。
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元祖!?救荒植物の花

2021-07-13 06:48:59 | 雑学・蘊蓄・豆知識
京都御苑に植えられていることは以前から知っていたのですが、毎年見たいと思いながら、他の花に気に取られていつも見逃してしまっていた花を、念願かなってようやく観賞することができました。



リョウブの花です。アオバズクが営巣している木の近くに植えられており、営巣時期は人が近づかないよう柵が廻らされるのですが、今年はその柵のぎりぎり内側になってしまったため、こちらは柵越しに撮影できた花です。

リョウブは北海道南部から九州にかけての山地の日当たりのよい場所や乾いた林内に分布するリョウブ科リョウブ属に分類される落葉小高木で、見た目には何の変哲もない総状花序で、梅に似た白い花を咲かせます。

また、葉は互生なのですが、枝先に固まってつくため、見た目には輪生のように見えます。葉は若芽もしくは若葉のときは甘みがあって食用になり、摘んで生で食べてもおいしいそうです。ただし、ここまで大きく葉が成長すると甘みもなくなりおいしくはないようです。



じつは、このリョウブという和名は漢字で「令法」と書きますが、律令時代の頃に飢饉に備えて葉を備蓄させるため、田畑の面積に応じてリョウブを植えるよう命ずる官令が発布され、一文字目の「令」は備蓄する基準量を指し、二文字目の「法」は発布された官令のことを指すそうです。

飢饉等で食糧が不足したとき、間に合わせの一時しのぎの食料として利用できる植物を『救荒植物』と呼びますが、リョウブはその救荒植物の代表的な植物とも言えるでしょうか。

じつは昨年9月にこちらの記事を投稿しましたが、何かひとつ大事なものを取り上げるのを忘れているのでは……と思っていて、投稿後に思い出したのがこちらのリョウブでした。
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さて、来年は若葉を食べてみたいと思うのですが、京都御苑のリョウブの葉を食べるのは駄目ですから、どこか山で生えているのを見つけないといけないかな?
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もうちょっとよい名前はなかったのだろうか……

2021-07-09 12:59:18 | 雑学・蘊蓄・豆知識
先週から今週にかけては連日の雨降りの天候である京都ですが、先週土曜日はひさしぶりの梅雨の中休みでした。そこで、お天気のよい午前中にカメラを持って散策していると、御蔭通に植えられた街路樹のエンジュの根元でハキダメギク(掃溜菊)が花を咲かせているのを見つけました。




例年この花を見つけるのは秋、それも晩秋が多いので、この時期に咲いていることにびっくりしたのですが、花期は6月から11月とのことで特段珍しいことではないようですね。

北米原産の帰化植物のハキダメギクは、牧野富太郎博士が世田谷の掃き溜め(ゴミ捨て場)で咲いているのを見つけたことが和名の由来とのことですが、近縁種のコゴメギク(小米菊)のような、もうちょっとかわいらしい名前がつけられなかったのかなとも思います。

かわいそうといえば、こちらのヘクソカズラ(屁糞葛)もそうですね。




こちらは茶花にも利用されることもあり、その際はサオトメバナ(早乙女花)と呼ばれますので、ハキダメギクよりは救われているかでしょうか。でも、花を正面から見た姿からお灸を据えた痕に譬えたヤイトバナ(灸花)という別名も持ち合わせていますが……
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