京都園芸倶楽部の元ブログ管理人の書笈

京都園芸倶楽部のブログとして2022年11月までの8年間、植物にまつわることを綴った記事を納めた書笈。

開けてよい戸や蓋と、開けてはいけない戸や蓋

2022-03-05 17:18:28 | 歳時記・文化・芸術
今日は二十四節気のひとつ「啓蟄」ですね。土の中に隠れ住んでいた虫(=蟄)が閉じこもりを開けて(=啓)出てくるという意味になるそうですね。

残念ながら土から出てきた虫は見つけられませんでしたが、今朝早くに訪れた京都御苑の九條邸跡ではムラサキサギゴケ(紫鷺苔)が花開き始めていました。仲良く並んで記念撮影みたいになりましたが、よく見ると真ん中で一人だけ後ろを向いています。小学校や中学校の頃、仲間で記念撮影する際に顔を横に向けたりして「おちょける」子がいましたが、そんな感じでしょうか。



ひょっとしたらと思い、同じ頃に咲き始めるカキドオシ(垣通し)やキランソウ(金瘡小草)も咲いていないかと探してみましたが、これらはまだのようです。4年前に撮影した写真を過去記事で投稿していましたので再掲します。

カキドオシ(過去記事より再掲。京都御苑の母と子の森で2018年3月に撮影)


キランソウ(過去記事より再掲。京都御苑の母と子の森で2018年3月に撮影)


このキランソウは匍匐性があり、冬の間はロゼット状で蓋のように地面にへばりついていることと春の彼岸の頃に花を咲かせることからジゴクノカマノフタ(地獄の釜の蓋)という別名もありますね。春と秋のお彼岸の中日やお盆には地獄の釜の蓋を開けるという言い伝えに由来するそうですが、この「地獄の釜の蓋を開ける」という意味は「蓋が開いて地獄に落ちた人が現世に戻って悪さをする」ということではなく「毎日罪人を釜茹でする地獄ですら彼岸の中日やお盆には釜の蓋を開けて休むのだから、この世の人間も休息しましょう」ということだそうですね。

戸や蓋がらみで言えば、二十四節気のそれぞれをさらに3つに分けた七十二候では今日から3月9日頃まで初候「蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)」となるそうで、七十二候でも「啓蟄」と同様の内容が配されているようです。

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これらの戸や蓋は「開いて」もよいのですが、いま世界では開けてはいけない「パンドラの箱」を開けてしまったようですね。現代の「火薬庫」の戸を開けて火をつけてしまったとも言えるのでしょうか。誰が火をつけたのかは諸説ありそうですが……だからと言って武力行使に手を染めたことは責められるべきことです。
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やっぱり「陰暦」で祝うのがぴったりなのでしょうね

2022-03-03 19:26:03 | 歳時記・文化・芸術
今日は3月3日で五節供のひとつ「桃の節句」ですね。本来はお正月のおせち料理の語源でもある「節の日に神様にお供えする供御」である『節供』という表記だそうですが、節目でもあることから『節句』という表記に変遷してきたようですね。

で、桃の節句といえば花はやっぱり桃の花。そこで京都御苑の桃林へ花桃の状況を見に行ってみたのですが、今年はやっぱり咲いていません。全般的にこのような枝振りです。



毎年、白花のほうが咲き始めが早いことから、ほころび方も白花のほうが花弁の見えている蕾は多く、紅花のほうは蕾がうっすらと紅を差しているような感じでした。

白花の花桃の蕾


紅花の花桃の蕾


白花は、こちらのほうが少しほころびが早いかな?



でも、昨年はというとこちらの投稿記事でも紹介していますが、2月下旬には咲き始めていたのですよね。



毎年同じようでいて、咲き始める時期はちょっとずつ違いますね。花桃は咲いていませんでしたが、その代わりにこちらが二輪だけ咲いていました。



バッタが原の北側、ちょうど京都御所の猿が辻の近くに植えられた薩摩寒桜です。でも、薩摩寒桜もこちらの投稿記事で紹介しているように昨年は2月中にたくさんの花が咲いていたのですよね。



一昨日の記事で椿の開花状況にも触れましたが、年末年始に寒波がやってきたという点においては昨年も一昨年も似たような冬だったように思いますが、一昨年にはなかった『戻り梅雨』のような8月の長雨が昨年はあったり、記録としては修正されましたが一昨年は当初5月に近畿地方が梅雨入りしたと発表されたりと、年間を通しての気候変化の仕方が違えば、花芽の形成や休眠にさまざまな影響が出てくるのでしょうね。

今年の陰暦3月3日は4月3日。その頃になると桃の花のことなんぞ頭の片隅に追いやってしまい、桜の花に浮かれているかもしれませんね。
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梅は咲いたか『椿』はまだかいな?

2022-03-01 18:08:19 | 歳時記・文化・芸術
あっという間に1月、2月と過ぎ去り、明けて今日から弥生三月。年を経るにつれ、まさに「一月往ぬる、二月逃げる……」と強く実感するようになってきました。そうだとすれば、今月も気がつけば『三月は去る』となるんでしょうね。

でも今月はそうなるとちょっと困ることがあり、それは当倶楽部の一大イベントとして開催する『つばき展』で、その準備を本格的に始めなければなりません。

とはいえ、今年は例年と比べ、椿だけでなく春の花の咲き方が違うように感じているのは私だけでしょうか。たとえば『梅香る』や『梅の花』というと二月の時候の挨拶ですが、京都ではようやく梅の花が見頃になってきました。この数年はもう少し早く咲き始めていたように思います。でも、陰暦ならちょうど2月を迎えますので、梅の花が咲く本来の時期なのかな。先月下旬に立ち寄った妙顯寺の境内に祀られている慶中稲荷の「左近の梅」もそろそろ見頃となりそうです。

左近の梅


慶中稲荷は、古くは京都御所で御所鎮護の守護神として祀られ、慶中大菩薩とも呼ばれるそうで、その後こちらに移されたようです。古くは「願い事は必ず叶えてくださる」と篤く信仰され、宮中の女官たちに崇敬されていたそうですね。御所に謂れがあるためか、左近の桜ならぬ左近の梅としてこの紅梅が、右近の橘とともに植えられています。参道にも白梅と紅梅が植えられ、白梅のほうが毎年咲き始めが早いようです。

参道傍の白梅


そして、妙顕寺の大本堂や方丈の西隣には塔頭が建ち並んでいますが、その並びの一番南側で寺之内通に面した場所に寺之内幼稚園があり、数本の椿の木が植えられていますが、有楽椿だけが数輪の花を咲かせていました。

有楽椿


梅の花の咲き始めが遅いだけでなく、椿の花も咲き始めが遅い……というより蕾をつけている木が今年は少ないと私の目には見えます。これは京都だけなのか全国的な現象なのか把握していませんが、庭木として椿を育てている方に聞くと、昨秋のうちに蕾を落とした木もあるとのことでした。おそらく生理的落蕾なのだと思いますが、昨年8月の戻り梅雨のような長雨が原因なのか、それともこれまで続いた天候異常等の積年の影響が重なったのかわかりませんが、椿になにがしかの負担が掛かったのかもしれません。

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ということで、いまのところ花が咲いていないだけで蕾がたくさんついているのであれば心配はないのですが、花が咲いていないのではなく蕾がついていないとなると今月下旬の「つばき展」をどうするか、ただ準備するだけでなく例年とは違う展示内容も考慮しながら動かなければならなくなりそうです。


このような展示風景でなくなる?(昨年の展示風景。過去記事より再掲)


アンデルセンの「絵のない絵本」のように「つばき(の花)のないつばき展」でも楽しんでもらえるのなら助かるのですが、そう言うわけにもいかず、じつは「三月は去る」では困るというのは、こういった理由もあるからなのでした。あ、お月様に聞いてみたら「私の話を展示しなさい」とでも、何かヒントを教えてもらえるかな?

お月様といえば月光椿(卜伴椿)も好きな椿のひとつですが、こちらの花も咲いている姿も今年は見ていないなあ……

月光椿(卜伴椿)の花(過去記事より再掲。下鴨神社にて2020年1月撮影)
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「光琳の梅」と「軒端の梅」

2022-02-16 19:34:55 | 歳時記・文化・芸術
下鴨神社(賀茂御祖神社)の近くを通ったので立ち寄ったところ、ちょっと早いかなと思いながら輪橋のたもとに植えられている「光琳の梅」の開花状況を確認してみたら、咲き始めていました。



江戸時代の画家である尾形光琳が描いた国宝の「紅白梅図屏風」のモデルとなった伝わる梅です。ただ、そっぽ向いて咲いている姿が多く、正面から観賞できる花は数輪だけ。咲き姿で「まだ早いから、もう少し先出してからのほうがいいよ」とでも伝えているのでしょうか。

ふと思い出し、足を伸ばして行ってみたところはこちら。東北院です。和泉式部ゆかりの「軒端の梅」が植えられていますが、咲いているかどうか……



咲いていました。こちらも数輪だけですが、光琳の梅よりはたくさん咲いていました。この後、もうひとつ「八房の梅」はどうかなと思って東本願寺の別院である真宗大谷派岡崎別院まで行ってみたのですが、本堂の整備工事中のため入ることは叶わず。残念なり。

和泉式部ゆかりの「軒端の梅」は、寺町京極の繁華街にひっそりと佇む誠心院と、嵯峨釈迦堂で知られる清凉寺にもあるのですが、双方とも白梅ではなく紅梅らしいのですが、一度確認しに行ってみたいと思っています。
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氷上の雪の星? それとも雪の花?

2022-02-08 18:44:45 | 歳時記・文化・芸術
寒気がずっと居座っているのか、寒い日が続く京都です。数日前にお隣の滋賀県米原市では観測史上第1位の積雪を記録したと新聞記事等で取り上げられていましたが、京都市内も積もるほどではないものの、ちらほらと雪が舞い散ることもあります。

昨日の月曜日に、前日から続く同じような空模様の早朝にカメラを持って散歩していたところ、立ち寄った本満寺の本堂前に据え置かれている蓮鉢の水も氷が張るほどの寒さで、時折雪らしいものがちらついていたためか、氷の上を見てみると……



まるで星、それとも花? これこそ雪華でしょうか。舞い落ちた雪(だと思います)が蓮鉢の氷上できれいなフラクタルな図形を描いていました。こちらはまさに雪片曲線を描いていると言えるでしょうか。



蓮も夏の早朝に花開くように、蓮鉢の上では雪も早朝に花開くのでしょうか。こちらは右上が欠けていて、ちょっと残念ですが、きれいな模様です。



物理学や理論化学をしっかり学んでいれば、おそらくこのような模様ができる理由を氷の上に落ちた雪が融解してできた融液や凝固潜熱等でわかりやすく説明できるのでしょうが、三角関数でつまづいたことで初等力学すらちんぷんかんぷんで物理学を敬遠していた身としては「さっぱり、わやや」です。

でも「きれい!」と鑑賞する心と目は持ち合わせているようなので、それでよしとしましょう。今の季節、降雪や積雪といった厳しく荒々しい姿を見せつける自然ですが、このような神秘を見せてくれることもありますので、皆さんにお裾分けいたします。
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