駅のホームを歩いていたら、お年寄りのお婆さんを見かけた。
腰が直角に曲がり、杖をつかないと歩けない。
顔は前を向けず、下を見ながら少しずつ進んでいた。
時間は丁度帰宅ラッシュ。
ホーム内は急ぎ足の社会人で溢れていた。
ケータイでメールを打っている若い男だろうか。
そのお婆さんにぶつかった。
お互い転ばないまでも、お婆さんはよろけていた。
若い男は、ぶつかった相手を見ることもせず、
とりあえずな感じで頭を下げ、去っていった。
見ていられなかった。
お婆さんの側に駆け寄り、どこまで行くのかを尋ねた。
曲がった腰を一生懸命に戻し、不思議そうな顔で私を見上げた。
「この時間帯は人混みで危ないので」
と説明し、もし同じ方向ならご一緒しませんか、との旨を伝えた。
なるほど、と頷いた顔をして、お婆さんは行き先を告げてくれた。
たまたま私と同じ駅が目的地だったので、
それでは一緒に、と伝えて二人で帰ることにした。
来た電車は急行。
車内がすし詰め状態になるのは目に見えていたので、
お婆さんに聞いてみた。
「お時間急いでますか?もし大丈夫なら、比較的空いている次の電車で行きましょう」
お婆さんはにっこり微笑んで言ってくれた。
「全然急いでないので・・・こんなお年寄りを気遣ってくれてありがとう」
不意に涙が出た。
急行は見過ごし、次の電車で比較的ゆったりと帰ることが出来た。
改札を出て、お婆さんに手荷物を返す際、
「本当にありがとう」
と、曲がった腰を更に低くしてのお辞儀を頂いた。
余りにも恐縮で、こちらもただただ頭を下げるばかりだった。
その後、バスに乗ってお婆さんは去っていった。
考えることは色々あったが、
出来たことはとても良かった。
田舎に帰って、祖母に会いたくなった。