潜入捜査官ハサウェイ『聖人画』 ③

「潜入捜査官ハサウェイ『聖人画』」は「オックスフォードミステリー　ルイス警部」のファンフィクです
潜入捜査官ハサウェイ『聖人画』①②の続きです
読んでいない方は→①
読んでいない方は→②

「オックスフォードミステリー　ルイス警部」はAXNミステリーで放送しているドラマです→こちら
ホームページにキャストの説明がないのでざっと説明しておきます。
ジェームズ・ハサウェイ：このファンフィクの主人公。オックスフォード署ではルイス警部とバディを組んでいる、30代後半の長身でハンサムな刑事。かつて神父を目指して勉強していた。





　聖人画の搬出の日、ロビンは朝早くから聖堂で絵を眺めていた。まるで恋人との別れを惜しむように。
　ロビンは聖堂から運び出される絵をハサウェイと一緒に見送ったあと、おずおずと申し出た。
「神父様、今度描く聖人画のモデルになっていただけませんか？その…趣味の絵ですけど…」
意外な申し出にハサウェイが返事をしかねていると
「あ、お仕事の合間に…えっと、ポーズをとってもらったりするわけじゃなくって、手とか顔とか部分的に描かせてもらうだけでいいんです。ダメですか？」
ハサウェイは長身でたいがいの人は彼よりも背が低い。小柄なロビンは彼と話をしようとすると見上げることになり、この時は特に上目づかいでおねだりをする子どものようだった。そんなふうに見つめられると断ることもしづらくなってしまう。
「では仕事に支障がない程度に。」
ハサウェイはしてやられたように感じた。それでなくてもロビンの目はどこか引き込まれるような不思議な力を持っている。

　次の日からロビンは昼休みの時間になると聖堂に現れハサウェイの顔や手のクロッキーを描いたり、デッサンをしたりするようになった。モデルをしながら暇つぶしにハサウェイはロビンと話をしていた。
「この町には生まれたときから？」
ハサウェイの質問はどこか刑事の臭いがする。
「いえ、数年前に引っ越してきました。」
「へえ、じゃあその前はどこに住んでいたんですか。」
「いろんなとこです。A町B市それにC市とかD市、E村なんかにも住んでました。」
「ずいぶんといろんな所に住んだんですね。イングランド中を知っていそうだなあ。」
「そんなことないです。僕はそんなにいろんな所は知らないです。」
ロビンはそれ以上話をしたくないという感じだった。

　ハサウェイとロビンの会話は取り留めもなくいろんなところに飛んだ。好きなバンド、映画、車、子どもの頃にした遊びや好きな女の子のタイプまで。このとき彼は始終答えづらそうに話していた。答えもどこか現実味の無いものだった。白い手とか慈悲深い微笑とか。ハサウェイは彼がまだ恋をしたことがないのではないかと感じた。

　その日のロビンは機嫌が良くてハサウェイの顔を入念に描いていた。ハサウェイがロビンに話しかけるために彼の方を向くと
「あ、こっち見ちゃダメです。そうそうあっちを向いて。」
どうやら横顔を描いているらしい。
「子どもの頃から絵を描くのは好きだと言ってましたよね。」
ハサウェイはそっぽを向きながらロビンに話しかける。
「聖人画を描き始めたのはいつごろからなんですか。」
「8歳くらいのころには教会で見た十字架のキリストを描いたりしてました。12くらいのころかな、図書館の画集に聖人画がいっぱい載ってるのがあるのを知って、夢中になってそれを写したなぁ。」
「じゃあ相当描いたんですね。お気に入りの聖人画とかあるんですか？」
「はい。聖セバスティアヌスの殉教が一番好きなテーマです。」
ロビンの頬は薄らと赤くなった。
「実は神父様をモデルに描きたいと思ってるのは聖セバスティアヌスの殉教なんです。」
そう答えるロビンはハサウェイを直視できない。顔を見ないで必死に紙の上で手を動かしている。もしハサウェイが彼の挙動を見ていたら彼が何を考えて描いているのか知りたがっただろう。しかし彼はロビンの方を向いていない。
「聖セバスティアヌスの殉教は痛々しいですよね。体中に矢が刺さって。」
以前見た聖人の絵を思い出し、ふと気づいて言う。
「まさかあんな恰好をしろとは言わないですよね。」
「まさか！神父さまに聖セバスティアヌスと同じポーズをとっていただこうなんて考えてません。」
ロビンの顔が一瞬で真っ赤になり、照れているというよりは怒っているように語気が荒くなった。
「そんなこと考えないでください！」
スケッチブックを手荒く閉じ、さっさと鉛筆類を仕舞うと逃げるように帰ってしまった。
　ハサウェイはロビンの態度の急変に唖然とするだけだった。







ランキングに参加しています
　←これをクリック
別タブで開くバージョン

　←これをクリック
タブが開かないバージョン