Journal de Tsurezure

雑多な日常、呟き、小説もUPするかもしれません。

いつの間にか取り残された男、父親ではなくなっていた

2022-06-07 12:28:35 | オリジナル小説

 久しぶりに書いた、少しざまぁ系のショートショートです。

 

 お父さんを呼んできて、母親に言われて子供は応接間に向かうとソファーに座ったままの父親は熱心にスマホをいじっている、まただと思いながらも子供は自分の感情を顔には出さなかった。
 多分、声をかけても気づかないだろうと思いながらも一応はと重いかける、だが、小さな声なので父親は気づかない。
 いや、気づいたとしても後から行くというだろう、いつものことだ。

 台所に戻って母にゲームだよと伝えると仕方ないわねという顔をされ、先に食べましょうと言われてしまった。
 母も最近では諦めてしまったのだろうと子供は思った。
 感心するのは父親の態度だ、飽きないというより病気だなんて思ってしまう(ゲーム依存症っていうのだろうか)
 そのくせ、ゲームの成績、レベルは良いとはいえない、それを知ったのは最近のことだ、暮らすの友人から教えて貰ったのだ。
 父親のやってるゲームは人気があるようで、クラスの生徒も数人がやっているらしい、しかもレベルは高い。
 最近はスマホ、携帯のゲームも課金制度が厳しくなり、登録するのも実名というところもある。
 
 「長くやっていて、このレベルなら辞めた方がいい、小学生で課金、中毒でネットで問題になったんだよ、表向きは隠しているけど、裏の掲示板で問題になっているんだよ、歯止めのきかない人間は行き着くとこまでいくから」

 友人から聞かされた話に凄いね、でも、自分が言っても無理だと思う、会社から帰ったらずっとゲームばかりしているよと話すと友人はしばし、無言になった後。

 「・・・・・・かもな」

 と呟いたのだ。

 

 母は、そんな父に愛情があるのだろうか、仕方ないと呟くが、それは一種の諦めのようにも感じられて、思ってしまったのだ、嫌だなと。
 そしてだんだんと、その感情は大きくなっていくが、もしかしたら最期まで行き着いてしまったのかもしれない、嫌悪というものに。

 「父さんのこと、好き」
 
 片手の数にも満たない年の頃に訊ねると母は笑っていたが、今は、その曖昧に濁す笑顔さえない、どうかしらと言われてしまっては返す言葉もない。
 子供の頃ならば、だが、今の自分はわかってしまったのだ、ああ、母も自分と同じ気持ちなのだと。

 久しぶりに祖父のいるマンションへ家族そろって遊びに出かけたのは久しぶりだった、来年は受験ということもあり、孫のことを心配したのだろう。
 

 「あれ、珍しいね、ご飯、食べるの、一緒に」

 息子の言葉に父親は不思議そうに、どうしてだと訊ねた、折角だからと祖父は出前の寿司をとってくれたのだ、そして父は当たり前のように食卓に現れたのだ。

 「だって、いつもスマホでゲームに夢中で一人で食べているじゃない、食べながらゲームしてるし」
 
 孫の言葉に祖父は驚いた顔で息子を見るとわずかに顔をしかめた、どういうことだと睨みつけるような表情になった。

 「祐介は、そんなにゲームが好きなのか」

 祖父の言葉に子供は頷きながら、ランクは高くないから課金ばかりしてるよと子供は笑った。

 「お寿司なら冷めないし、あっちで食べたら」

 父親の表情が変わったが息子は気にする事なく言葉を続けた。

 「仕事の鬱憤をゲームで憂さ晴らし、駄目人間なんて言われてるんだよ」

 息子の言葉に父親は初めて声を荒げたが、本当のことだよと平然とした顔で息子は祖父を見た。

 「クラスメイトが教えてくれたんだ、やめさせた方が良いって」
 
 父親は何か言いかけて黙りこんだ、それは視線を感じたからだ、自分の父親が、まるで、異物を見るような目で自分を。

 続けていたってレベルは上がらないだろうって言われているんだよ、ぐさりと胸に突き刺さるような言葉、小さな子供なら決して口にはしないだろう、だが、もうすぐ高校を卒業する歳だ。
 
 「ゲーム依存症どころじゃない、廃人になるよって、でも、そうなったらどうするんだろう、ね」

 息子に笑顔を向けられて父親は黙りこんだ。

 「母さん、別れたほうがいいよ」

 離婚した方がいいよと言われて夫は妻を見たが、だが、自分の方を見る事もなく、妻は言った。

 「そんなことより、食べましょう、お吸い物が、茶碗蒸し、冷めてしまうわ」

 父親は、このとき初めて妻を見た、そんなこと、だと。
 夫に対して、いや、息子の言葉を責める事もしない妻に夫である男は文句を言おうとした、だが、言葉が出てこない。

 「そうだな、食べよう」

 この話は後だと言わんばかりに、自分の父親の言葉に息子と妻が箸を取り、食事を始めた。

 食事をする気分ではない、父親から名前を呼ばれても男は目の前の光景を見ていることしかできない、三人は自分の家族、の筈だった。
 だが、今、自分の目の前で食事をしている彼らはどうだろうか。

 「どうした、祐介」

 父親に名前を呼ばれ、そちらを向くと自分を見る視線に男は逃げるように顔を背けてしまった。
 自分が、これから先どうなるのか、どうなるのか、仕事から帰って気晴らしに始めたゲーム、できることなら逃げてしまいたい、(ゲームの世界に)。
 そんな事を思いながら箸をとり、食べようとした、だが、そう思っただけで、男の手は動かなかった。
 
 これから先の事を考え、震えていたからだ。

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苛められていた女子高生が前向きになるストーリー

2022-03-01 18:00:58 | オリジナル小説

 歩道橋の上から走る車をのぞき込んでいるとき声をかけられた、顔色が悪いわ、良かったら家へ寄って行かないという言葉にうなずきながら、不意に涙がこぼれそうになった。
 見ず知らずの老婦人の言葉に思わず頷いてしまったのは、今思い出しても不思議だった。
 
 あなたが飛び降りるんじゃないかと思ってしまったのよ、だから声をかけずにいられなかったの。
 アパートの一室で出されたお茶を飲んでいると涙がぼろぼろと出てきた。
 

 言葉が、こぼれるように口から出てしまった。

 「学校に行くの、毎日が嫌で辛くて、どうしようもなくて、死ぬしかないって思っていたんです」

 見ず知らずの他人だからこそ、言っても構わないと思ったのかもしれない、涙が止まらず、ただ、泣き続けた。

 「あなたに似た人を知っているの、その人も学校で虐められていたわ」
 
 学校、虐め、その言葉に何も言えない。

 「非道いことをされていたわ」

 どんなイジメをと言いかけて思わず口を閉じた。

 「持ち物を隠されたり、悪口、裸になれって言われて、頭から水をかけられたり、ある日、男子生徒に乱暴されてね、我慢が限界にきていたのね、それで」
 
 老婦人はそれ以上何も言わない、少しばかり寂しそうな笑顔を向けられて言葉に詰まってしまった。

 「我慢できるなんて思っていると自分だけでなく、周りも不幸になってしまうわ、あなたのお母さんは、泣いているあなたの顔を見たことがあるかしら」
 
 言葉の代わりに首を振ってしまった、心配をかけたくないから、知らせていない、だが、目の前の老婦人は知っているかもしれない。

 
 「人は弱いけど、強くもなれるの、お友達はいる」
 「クラスの人は皆、知らないふりを、だから先生も」
 「よくないわねぇ」
 

 まるで子供を叱るような口振りに思わず吹き出しそうになってしまった。

 
 老婦人は自宅近くまで送ってくれた、時々、軽く右足をひきずるので、もういいですと言うと、ふふっと笑った。
 そして、突然、道の真ん中でタップを踏みはじめたのだ。
 驚いたのも無理はない。

 「何、あれ、年寄り、ババアかよ」
 「こんなところで、ストリートダンス、変なの」
 「でも、ちょっと」
 

 数人の通行人の言葉は最初のうちこそ、馬鹿にするような嘲笑の言葉だった、ところが、だんだんと無言になっていく。
 若者のようにキレのある早い動きではない、それなのに老婦人の一挙一動、動き、伸ばされた手足に視線が奪われてしまうのだ。
 観客となった人達は老婦人の一挙一動を見逃さまいとするように瞬きさえ惜しんでいたのかもしれない。
 
 
 ダンスが終わると周りから聞こえる拍手の音に老婦人は、にっこりと笑い会釈をした。

 
 「ああ、あの、凄く上手で、素敵で、ダンサーですか」
 
 驚きのあまり、ありきたりの凄いという言葉しか出てこない自分に老婦人は笑うだけだ。
 もしかして、足をひきずっていたのもと聞こうとした彼女は、このとき自分が泣いていることに気づいた。
 
 「元気が出たかしら」
 「は、はい」
 「じゃあ、特別に、教えてあげましょうか、さっき話した女の子のこと」
 
 ドクン、心臓が何故か激しく高鳴った、もしかしてと思ってしまった。
 いいえと首を振った、代わりに、名前を教えてくださいと聞いてしまった。
 不思議な事に少し前まで、ぼろぼろと泣いていたのに、今は目の前の出来事、老婦人の踊ったダンスのこと、驚くようなものを見たという興奮と事実に体も頭も、全てが奪われていた。

 

 「あー、また陰気臭いのが来たよ、やめればいいのに、学校」

 美人で気の強いと言われるクラスの女子、彼女の一言に教室内はいつもなら、嘲笑や賛同する声が聞こえる筈だった。
 ところが。

 「あっ、いたー。よかったー」

 突然、入ってきた男子生徒に教室内はしんとなった、それというのも男子生徒があまりにも他の生徒と違っていたからだ。
 金髪なのはハーフかクォーターのせいだろうか、顔立ちも少し日本人とは違う、男子生徒は教室内を見回すと、ああーっと声をあげた。

 「初めまして」

 ずかずかと教室内に入ってきた男子生徒は窓際の席、立ったままの女子生徒を見つけ近寄ると右手を差し出した。
 握手を求めていることに彼女は驚いた、ところが、続いてもう一人、女性とが教室内に入ってきた。
 長身で人目をひく美少女といってもよかった。

 「も、もしかして、昨日の、あれ本物なの」
 「言っただろう、一度でも見れば十分だよ、あっ、自己紹介します、彼女は」
 
 女生徒は邪魔よといわんばかりに美少年を押し退けると、呆然としている彼女の手を取り、握手を求めてきた、まるでアイドルのような美少年、そして長身の美少女に教室内の生徒達は驚いたように呆然と、この様子を見ていた。

 
 
 大手新聞社の一室だった。

 「おい、どういうことだ、これ」
 「間違いない、彼女だ」
 「だって、顔が」

 変装だと男が呟いた。

 「どうせ、この映像もすぐに消される」
 「何故です、動画サイトでしょ、拡散されたら削除なんてされたって」
 
 返事の代わりに男は若い記者を睨んだ。
 
 「いつ日本に帰ってきた、死んだなんてデマかよ、これ、誰が取った、いや、もう、遅いか、ああ、くそっ」

 ばんっと机を叩いた男は制服姿の女子高生、映像に目をとめた。

 「インタヴュー、できたら、いや、ああ、ジレンマだ」

 悔しさの滲む言葉に、そばにいた若い記者は不思議そうな顔をした。
 
 「もう一度、見て、確認しましょうよ」

 若い記者はパソコンのキーを叩き、先ほど見せられた動画をもう一度、再生しようとした、ところが。

 「あれ、おかしいな、さっきは何ともなかったのに」
 
 削除されましたというメッセージに若い記者は、不思議そうな顔になり、他のサイトにupされているかもしれませんと先輩の記者に声をかけた。

 「無理だ、印、中、露、富豪の国のサーバーだろうが、今頃は、全部消さてる、徹底しているからな、彼の国は」
 「どういうことです」

 わけが分からないと若い記者に中堅の記者は、ついてくるかと声をかけた。

 

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ようやく、完結させた

2022-01-21 11:03:13 | オリジナル小説

「だから最後は一人になった(夫)たった一人の男の犠牲の上に成り立つ、皆の幸せは、ここから始まっ た」
なんて長いタイトルだと思いつつ、昨夜、ハーメルン、pixiv、アルファに連載していたオリジナルを完結させました。
文字数としては三万と少し、だから長編という程ではないけど、中編には微妙だなーと思ってしまったわ。


細かい部分、ざまぁ夫を憎んでいるオザキの性別、夫の元友人、京介はどうなったのかという事はあえて細かくは書かなかったわ。
夫の元妻は義父と結婚、夫は死亡しているので法的には問題はない。
義父が最後に向けた視線の先にいた男、父は息子だとわかっていたのかというのは、和えて詳しくは書きませんでした。
これは少し前に呪術廻戦の映画を見たせいかもしれないなあ。
肝心な台詞は読者側に任してしまうのもありかと思ったのよ。

小説家になろうにもUpしているんだけど、こっちは内容を少し変えてUpしているのだが、まだ完結はさせていないのよね。
2話ぐらいで完結させる予定です。

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なろうとあるアファでは、少し変えてます

2021-11-19 09:49:21 | オリジナル小説

「一人の男の犠牲の上に成り立つ幸せとは 男(夫の浮気を妻は知らない) 復讐する者、義父と友人」
小説家になろう https://novel18.syosetu.com/n5825hh/

アルファポリス
「だから最後は一人になった(夫)たった一人の男の犠牲の上に成り立つ、皆の幸せは、ここから始まっ た」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/587918429/225562497

元は同じ小説ですが、アルファに投稿した後、なろうには加筆、少し描写などを変えてなろうにUpしています。
ブログに再Upする際もと思いましたが、今後、こちらの方には突発短編、二次などを投稿しようと思っています。

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女だった良子はいない、そして男達は真実を知る

2021-11-11 17:51:20 | オリジナル小説

 名前を呼ばれて振り返るが、久しぶりと声をかけられて怪訝な顔つきになったのも無理はなかった、知り合いではない事は確かだ。
 すると、その男は笑いながら尾崎、大学で一緒だった尾崎良子だよと笑いながら近づいてきた。
 まさか、本当に、学生時代に仲の良かった友人、いや、それ以上だと思っていた相手だ。
 
 あのとき、突然、大学を辞めると言い出したときは驚いた、理由を尋ねると、はっきりとした事を言わない、曖昧な口調で生活が苦しいとか、勉強はあまり好きではなかったとか、こんな話し方は、正直らしくないと思った。
 何か、他の理由があるのではないかと思ったが、翌日から大学にも来ない、アパートを尋ねると引き払った後で忽然と姿を消してしまった。
 彼女と仲の良かった女友達に話を聞こうとしても駄目だった。


 良子なのか、尋ねると相手が笑った、そのことに男はほっとした。

 「久しぶりの日本、昔の友人にも会えてほっとしたわ」
 「友人、なのか、俺は」
 
 そうだよと屈託なく笑う相手に男は呼びかけた。

 「なんで話してくれなかったんだ」
 「話すって、何を、終わったことだよ、随分と昔のことだよ、それに言えないでしょう」
 
 男は首を振った。

 短かったけど楽しかったよ、田舎から出てきて大学生活、バイト先とアパートの往復は大変だけど初めての事ばかりで楽しかったとオザキは笑いながら言った、あのときまではと。

 「皆で楽しく飲み会なんて浮かれてた、田舎育ち、世間知らずの女なんて遊び相手、いやオモチャ以下だよ」
 「良子、そんな言い方、やめてくれ」
 「あんたは、とっくの昔に、結婚して子供ができて、幸せになったと、そう思ってたのに、違うんだね」
 
 男は首を振り、幸せだと呟いた。

 「尾崎良子に、やっと会えたんだ」
 「いいや、女だった良子は、もういない、こうして会いに来たのは、邪魔しないでって、言いにきた、それだけだよ」
 「あいつにか」
 
 頷く相手に男は近づいた。

 「俺にできることは」
 「気をつけろって言ってあげたら、友達だろう」
 
 自分の言葉は届かないのか、その場に膝をつく、そして地面に額を擦り付けると懇願するように男は叫んだ。


 
 「今夜は遅くなる、終わったら飲み会、で、遅くなったら会社に泊まるかもしれないから、親父のこと頼む」
 
 自分の言葉に妻は従順だ、少し、いや、微塵も疑っていない。
 仕事で遅くなるのは本当だ、だが、その後の飲み会は会社の同僚、仲間とではなく、二人きりだ、本当の事、それに嘘を少し混ぜることで真実味が増すというものだ。
 自分は学生の頃からモテていた、それは結婚した今でも変わらない、明らかに母親似なのだろう。
 父親とは大違いだ、母が亡くなってから何年だ、新しく女を作って再婚でもすればいいのに父は今も独り身だ。
 まだ、男じゃなくなる歳でもないのに、それほど母を愛していたということなのか、自分の妻と同じ、彼女も夫の俺一筋だ。
 最近の風潮ではないが、浮気の一つぐらいと思う、だが。
 
 (まあ、あいつに浮気する程の度量というか、ないな)

  

 「お待たせしました」

 待ち合わせの場所は公園のベンチだ、座っているとやってきたのは女性だった、オザキですと言われて男は驚いた。

 「変装ですよ、それで協力してくれるんですよね」
 「そのことだが、息子だぞ」
 「あなたは、そう思ってます、本当に彼はあなたの息子だと」

 友人に言われた言葉を、ここで、また聞かされるのかと男は女を見た。

 「あなたは奥さんが亡くなって随分とたつのに、新しく恋人を作ることも、再婚もしない、そんな、あなたのことをを亡くなった妻を愛していたからだと世間は思うでしょうね、でも、本当は」
 

 「不幸な女性の姿を見たいですか、ああ、違いますよ」

 不思議そうな顔で自分を見る男に、わからないんですかとオザキはふと視線を逸らした。
 男の表情がこわばるように固まった、誰の事を言っているか、わかったからだ。

 「ばれないと思っているんですか、浮気、いいえ、謝れば許して貰えるなんて思っているんでしょう、そして隠れて、また繰り返す、でも疑心暗鬼になり
ながらも彼女は許すんでしょうね」
 「そのときには」
 
 説得して別れるように、その方が互いの為だ、だが、男の言葉を否定するように別れませんよと、オザキは言った。

 「彼女は自分から言いません、別れるなんて絶対にです」
 
 断言するような口調に子供ができないんです、知らなかったんですかと言われて男は唖然とした、そんなこと二人は一度も行った事はない。
 言葉が出ない、返事ができないまま、無言になってしまった。
 どれくらい時間がたったろう、そう思った時。
 

 「ミサキさん、ですよね」

 手招きをする視線の先を見て男は驚いた、息子の嫁、彼女がいたからだ。

 
 

 「以前、同じ職場で働いて人でね、偶然、会ったんだよ、それでつい話しをしていたんだ」
 
 まるで、言い訳をしているような気分だと思いながらソファーに座り新聞を広げるが、記事を見ているわけでも、読んでいる訳でもなかった。

 「そうなんですか、あっ、お茶、入れましょうか」
 
 いつもなら、にっこりと、それなのに今は背を向けたままだ、どんな顔をしているのか分からない事に不安を感じてしまう。
 
 (顔を見せてくれ、笑っていて欲しいんだ)


 
 協力してくれますよねと言われて、はっきりとは断れないまま、迷っている自分がいた。
 先延ばしにして長引かせたたところで、オザキは仕返しをするのだろう、何をするのかわからない、だが、それで不幸になるのが自分だけではない、嫁の彼女だとしたら、あまりにも理不尽だと思ってしまう。

 その夜、遅く帰ってきた息子に男は部屋に来るようにと声をかけた、聞きたい事があると。

 

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