古い家屋を改装、修繕というので時間も思ったほどかからなかったし、費用も抑えられたのは幸いだった、一ヶ月あまりで自宅から少し離れているが街から近い一軒家を療養所に改装できたときは、マルコーはほっとした。
三人のドボジョはマルコーの作ったシャーペットを食べながら、次の仕事について話していた、診療所を建てたことで自信がついてきたのかもしれない。
「知り合いに内装とか家具の販売とかやりたいって人がいるのよ」
「キンブリー先生が、一度セントラルに戻った方がいいっていうけど、軍が何か言ってきたのかな、でも、アイザックさんは無関係だよね」
「ブラッドレイさんの養女にならないかって話、どうする」
三人は顔を見合わせた。
「受けた方がいいんじゃない、退役したけど偉い人だっていうし」
「そうだね、長いものには巻かれろって、キンブリー先生も言ってるよ」
診療所が新しくなって、街に近くなったことで通院も楽になったと患者達は喜んだ、だが、療養所だけではなく自宅のほうも少し修繕しようということとなり、新しく家具も購入した。
ところが、その日、運びこまれたものを見てマルコーは驚いた、浴槽は広くてシャワー付き、ベッドはダブルだ、運びこんで来た職人は首を振った。
職人の女房の病気は今まで医者にかかったが、症状はなかなか良くはならず本人も歳だからと諦めていた、そんなときだ、弟子入りした青年が自分の知っている医者に診てもらったらどうかと勧めたのだ。
青年は錬金術講座を受けた日本人だ、青年から看て欲しい人がいるといわれて、診察したマルコーは簡単な手術で妻の症状は改善するという診断を下した。
術後からしばらくして元々の抵抗力もあったのか職人の女房は周りが驚く程、元気になったのだが、しばらくしてマルコーが病院を改装することをキンブリー、ドボジョから聞いた青年は、そのことを自分の職場の上司に報告した。
すると、先生のおかげで女房が良くなったんですからと職人は知り合いの職人や業者にも声をかけた、そして療養所だけでなく自宅の方も古いようですから、手入れ、修繕をしてはどうですと申し出た
「遠慮しないでください、先生のおかげで女房のやつ、以前より元気になったんですから、参ってしまいますよ」
病院が新しくなって張り合いも出てきたのはいいことだ、やれる、できる範囲で仕事はぼちぼちすればいい、医者は自分だけではないのだからと思っていたが、セントラルから彼女が来て助手として働くことになったので多少なりとも気持ちが楽になった。
久しぶりに会った彼女は顔色もよくなかったが、しばらくして助手として働くようになると食欲が出てきたのか、食べるし眠るのも早くなった、いいことだと思っていたが、本人は太ってしまうとシチューをお代わりしながらマルコーを見る。
だが、ここに来たばかりの頃は、見た目からして明らかに良くなかったというと彼女は困った顔で自分を見る。
「とにかく健康で元気が大事だ」
頷く彼女の様子を見ながら、こういうところは素直でいいんだがと思いながら、夜更かしは厳禁だと付け加えた。
新しいベッドはシングルより少し大きめだ、凄く嬉しい、だが、助手とはいえ、居候のようなといってもいい自分がいいのだろうかと思ってしまう。
届け物をしてくれとノックスさんに言われたときは即答で引き受けた。
講座が終わってしまう事に不安があって、困っているとノックスさんが俺んとこで手伝いを飯と掃除、洗濯をしてくれと言われたので、それでもいいかと思っていたのだが、その後だ、色々と。
ノックスさんを軍医だと思って近づいてくる人間は男女ともども自分の存在を疎ましく思っていたのだろう。
軍医でも、そうでなくても何かうまみがあると思ったのだろうか、あのとき二つ名を持つ錬金術師とは懇意、友人らしい、だったらそのツテ、コネで。
(マルコーさんのことだ)
でも、イシュヴァールへ帰ったのだから。
マルコーさんはと、ここへ来て改めて思ってしまう、講座が始まった時も生徒達は、マルコー先生は色々と教えてくれて親切だ、優しいと言っていたことを思い出す、ベッドの上でゴロゴロしてながらノックスさんは元気だろうかと考えていると、何故か思い出した、おまえさん、マルコーといると顔がなあといわれたことを。
「なんですか、顔がおかしい、ヘンですか」
「いや、変なのは元からだ」
意味が分からなくて尋ねるとノックスは、そんくらいの方がいいんだとニヤニヤしていた事を思い出した
「マルコーさん、優しいですよね」
朝食の後の会話に、んっとなったのはいうまでもない。
「どうしたんだね、いきなり」
「少しぐらい図々しくてずる賢くなってもいいと思いますよ、どこかのオッサン並みに、その、講座がなくなる時って、何かあったんじゃないですか」
「あっ、ああ、まあ少しは」
まあ、そこは色々と、曖昧な返事をされた女はそうですかと呟いた。
「気になりますよ、生徒ですし」
「そうだな、今は助手だし、今度から何かあったらちゃんと話す、説明もするよ」
マルコーの言葉に、ほっとした気分になり、本当ですねと念を押す。
「男に嘘をつかれたり、騙されるのは嫌ですからね」
「おいおい、なんだね、その」
知らない人が聞いたら誤解するだろうと困った顔でマルコーは呟いた、だが。
顔、赤いですよと言われて、益々困惑したのはいうまでもない、だが、彼女の方も、そうですねと頷いたが、何故か、この時、ノックスのニヤニヤとした笑いを思い出して、互いにしばし無言になってしまった。
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