Journal de Tsurezure

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イシュヴァールへ帰る(マルコー)軍に内緒で携帯電話を貰いました 9 書き直し

2021-06-22 20:36:12 | ハガレン

9話、後編を書き直しました、再投稿です。 

 

 先生、マルコー先生じゃないですか、講義が終わって夕食の買い物を済ませて帰ろうと考えていたときだ、声をかけられて驚いた、イシュヴァールの診療所で、お世話になっていたという言葉に思い出した。

 「セントラルに、こちらにいるなんて驚きました」
 「色々とあってね、今は、こっちで仕事をしているんだ」

 そうですかと頷いた男は、戻らないんですかと聞いた。

 「イシュヴァールにも医者はいるんですが、古い患者はマルコー先生に看て貰いたいという人もいるんです」

 男の言葉に勿論、帰るつもりだよとマルコーは答えた。

 「ただ、今すぐという訳には色々とあってね」
 「もしかして、今は軍医として、お仕事を、ですか」
 「ああ、色々とあってね」
 
 男は少し残念そうな顔になったが、セントラルで医者として開業している訳ではないと聞いて安心したようだ、だが、軍医として働いているのなら色々と大変だろうと思ったのだろう。
 男と別れた後、言い訳がましくなかっただろうかと思い返してみる、帰る気がないわけではない、講師として、それにノックスの療養所を手伝っている事もある、だが、こちらに来て、随分とたつ、やはり、一度は帰った方がいいのかもしれないと考えた。


 「で、帰るのか、まあ、長いこといるからな、家も空き家同然だったら泥棒が入っていてもおかしくはないだろう」
 「取られるようなものはないがね」
 「数日なら講師は俺が代わりにと思うが、先の事を考えるとなあ、大佐に相談してみるか」

 自分の講座の事は数日ぐらいならノックスが自分の友人が代わりを務めてくれるだろうが、だが、どれくらいの期間になるか分からないとすれば正直、迷ってしまい安易に頼むとはいえない、確かに長く、こちらにいすぎたかもしれないと今更のように思ってしまう。
 帰るとしたら、彼女に伝えなければいけないな(また、一人の生活に戻るのか)
 そんな事を考えると、帰る足取りが、わずかに遅くなってしまう。
 

 「なんか浮かない顔だな、どうした」

 「一度帰ることにした、大佐にも伝えてはある、後の事ほ頼めるか」
 
 任せろと友人の言葉にほっとするマルコーだが、ノックスは、んっという顔になった、何か気になる事でもあるのかと言われて、言葉を濁そうとすると、ネェちゃんには言ったのかと聞かれてしまい無言になる。

 「連れて行けばいいだろ、助手代わりにどうだ、俺のところでも手伝ってたしな、大丈夫だ、保証してやる」
 
 マルコーは首を振った、ここセントラルと違って自分の住んでいるイシュヴァールはド田舎といってもいい、何もないところなのだ、不便な事もあるだろう、そんな簡単に自分の都合で手伝い、助手代わりに連れて行くなどできないと呟く。
 すると、真面目だなあとノックスは笑った。

 だが、その数日後、イシュヴァールに帰るんですかと彼女から聞かれてマルコーは驚いた。
 まさか、話したのかと思ったが、生徒達の間で講座の規模が縮小され、講師の数が減るかも知れないという噂になっているらしい。
 
 「あー、そのいずれは帰ろうと思っているんだが、診療所も埃だらけだろうし」

 

 イシュヴァールに帰るかもしれないという噂、マルコーさんがいなくなるのか、だが、向こうで医者として仕事、診療所を開いていたのだから、いつかは帰る日が来てもおかしくはないのだ。
 だが、それを聞いて自分は、うーん、ショック、気落ちしている。
 二人で暮らしていて凄く居心地が良かったというか、良すぎたので、長く続いて欲しいなんて思ったけど、我が儘だと思ってしまうのだ。
 助手として連れて行ってくださいなんて図々しい事はさすがに言えない、かといって。
 ノックスさんのところで助手として雇ってもらおうか、でも息子さんがいるし、いや、その前に、この家で一人で住むというのもなんとなく気が引けてしまう。
 
 その日、デートしないかねとニコニコと笑いながら声をかけられた。
 講義が終わって、夕方までは時間があるしぶらぶらと、本屋にでも行こうと思っていたのに。
 元気がないねと言われて、そんな事ないですよと言いかけるとにっこりと笑いかけてくるので妙な気分になってしまった。

 「それは地図かい、で、どこか旅行にでも行くのかい、ああ、イシュヴァールか、少し遠いね」
 「な、なんですか」

 地図をただ、開いていただけなのに、何故と思ってしまった。

 「ははは、当たったかな」
 「ブラッドさん、その、遠いんですか、イシュヴァールって」

 そうだねぇという返事の後、軽く髭を撫でながら、汽車で数日かかるね、その後はと続く言葉に女は肩を落とし、遠いんですねと小声で呟いた。
 
 「一緒に行けばいいんじゃないか」

 ブラッドレイの言葉に、ムムッと困った顔になった彼女はわずかに顔を伏せた。

 「図々しい事、言えませんよ、無職でプーですよ」
 「随分と殊勝な事を」 
 「おまけに居候ですから、三重苦ですよ」

 それは大変だと笑うブラッドレイだが、恨めしそうな視線に気づいた。


 一度、家へ、イシュヴァールへ帰るという話を伝えると大佐の顔は渋いものだったが、反対される事も引き留めもなかったことには正直、ほっとした。
 自分が帰ると事を知った講座の生徒達は、困惑と戸惑いの表情を浮かべだか、以前よりも講義を受ける姿勢に熱が入ったことは喜ばしいことだった、しばらくはノックスが引き受けてくれるらしいが、新たな後任を検討中だというひとでほっとした。
 もしかしたら、セントラルに戻ってくることはないかもしれない、ふとそんな事を考える。
 近い距離とはいえないし、イシュヴァールで診療所を再開するとなったら、こちらへ戻ってくる事もあまりないだろう、その事は話しておいた方がいいだろう。
 

 月末には帰るよと伝えると、あと一週間しかありませんよと驚いた彼女は奔走した、イシュヴァールでは手に入らない食材などを買い込み、小型の電化製品を送るように荷造りをして、あっという間に数日が過ぎた。

 「困った事があったら連絡しろよ、変な遠慮するんじゃねぇぞ」
 「ああ、色々と世話になった」
 
 駅のホームで友人の言葉にマルコーは頷いた、おまえの家は電話がないよなと言われて田舎だからと言葉を続けるとノックスは頭をぽりぽりと掻きながら、ポケットから取り出したモノを手渡した。
 何だと不思議そうな顔になったのはいうまでもない。

 「携帯電話だ、トランシーバーよりも性能がいい」

 軍の一部の人間が開発に携わっている、キンブリーの生徒が提案したらしいと聞いて驚いた。

 「あっちの世界では一般的らしいな、ただ、今の段階では音声だけを伝えるのが精一杯というところだ、着いたら連絡してくれ、イシュヴァールーまではかなり距離があるだろう、使Lなら、こんな便利なモノはねぇ」
 「軍が作る、いや、開発しているということか」
 
 ノックスは小声で民間だと呟いた、出資は退役オヤジで表向きはキンブリーだと。

 「おまえさんがイシュヴァールに戻ると性能を試せるからな試験的に、だが、これは内緒だ」
 
 軍に内緒でというが、ばれたらまずくないのだろうか、すると、あの男も色々と考えているんだろう、講師を辞めたら軍から離職するつもりだなと聞いて驚いた。

 「マルコーさーん」

 その時、自分を呼ぶ声がした、荷物を抱えて彼女が向かってくる。

 「これ、汽車の中で食べてください、ローストビーフにカツサンド卵とハムとミックスサンド寝飲み物は紅茶に珈琲、フルーツジュース」
 
 一人で食べるには沢山過ぎないかと驚くとイシュヴァールまで遠いし、帰ったらお腹が空いて、作る気にもならないだろうと聞いて納得した。

 「着いたら連絡してくださいね」
 「ああ、数日かかるな、田舎だから、手紙が届くのも」

 ああ、また妙な言い訳がましい事をと思いながら汽車に乗り込む、窓の外から友人と彼女の姿を見ると妙な気持ちになった、長くこちらにいたせいかもしれない、こういうのをセンチメンタルな気分というのだうろか。
 汽車が走り出すと自分が思ったよりも寂しいと感じていることに、改めて気づいた。

 

 


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