あれから数日が過ぎた、そろそろイシュヴァールに帰らなくてはと思うマルコーだが、その前に友人に会わなければと思っていた。
ここ数日、彼女は寝込んでいた、生理痛は個人差があるというが、ふと、本当に、そうなのかと思ってしまう、もしかして、何か他の病気、持病でもあるのか、だとするとノックスの、あの様子も納得できると思ってしまった。
現役で軍に勤めていたとき医者というよりは研究者として働いていたので病気の患者というよりは怪我人の手当をする事が多かった。
女性もいたが、女医が担当していたので女性の美容器の事については、それほど詳しいわけではない。
何よりも、珍しく友人の真面目な顔で話そうとしていたのが、気になっているのだ。
その日の朝、自分の顔をチラチラと見てくる事に気づいたマルコーは何かねと尋ねた。
「そろそろ、診療所に帰るんですよね」
「ああ、その前にノックスのところに寄って」
言葉が途切れたのは自分を見る表情が気になったからだ。
「どうかしたかね」
何か言いたげな顔つきに、マルコーは尋ねようとしたが、どう切り出せば良いのか分からない。
「顔色が、まだ具合がよくないんじゃないか、診せてごらん」
口を開けてとマルコーは言葉をかけた。
「喉が少し腫れているようだ(嘘)風邪のひきはじめかもしれないな、寒いだろう」
「えっ、風邪、だ、大丈夫です、でも、少し寒いかな」
「ほら、顔色も、ノックスのところで薬を貰ってくるから帰るまで寝ていなさい、いいかい、動き回ったり、出掛けたりしないこと」
少し驚いた顔になった彼女だが、素直にベッドに入る姿を見てマルコーは安心した。
午前中の診療が終わり、遅い昼食を食べていたときに尋ねてきたマルコーが真面目な顔つきだったのでノックスは少し驚いた。
だが、話をするにはちょうどいいと思い、コーヒーでも飲むかと声をかけたが、話があると言われて少し驚いた。
ネェちゃんは、まだ寝てるいるのかと聞くとマルコーは頷き、風邪だと呟いた。
「カゼ、生理なのにか、ダブルパンチだな」
「そうではないんだが、後でいい、何でもいい出してくれ、おまえさんのところ風邪に薬をもらいにきたということになっているんだ」
意味がわからないという顔をする友人にマルコーは、彼女は何か持病でもあるのかと切り出した。
意味が分からず、はあっ?となったが、話を聞いているうちにノックスは呆れた顔で友人を見た。
「見かけによらず悪徳医者だな、偽の診断かよ、ネェちゃんも気の毒に」
「多少、顔色も良くなかった、嘘は心苦しかったが」
多分、自分がマルコーに言ってやる、気持ちを伝えて振られることがないようにといったので、気になっているのだろう。
心配性だなと思いつつ、まあ、色恋絡みになると人間、特に女はなあと思ってしまった、しかし、丁度良い、今が、そのタイミングだと思いながら、ネェちゃんの場合、医者や薬でどうなるってことじゃねぇとノックスは話しはじめた。
「なっ、そんなに悪い病気なのか」
「いや、早合点するな、少し落ち着け」
どう説明するのがいいかとと思いながら、ネェちゃんは好きな奴がいるんだと話し始めた、ところが、失恋したら診療所を辞める事になるという話にマルコーは渋い顔をした、意味が分からないと。
「何か理由があるのか」
もしかして、相手はイシュヴァールではなく、セントラルに住んでいる、遠距離恋愛、頭の中で色々と考えてみるが、普段から恋愛とは縁遠いので、マルコーの場合、思いつくのもしれている。
そんな友人の顔をノックスはじっと見ていた、だが。
「なんか、変な事を考えてないか」
暇な主婦が昼間、よく見る、週刊誌、不倫ドラマの展開みたいなやつをと言われて、マルコーはドキリとした、だが、聞かずにはいられなかった。
「まさか、相手は既婚者、いや」
「今、退役軍人の事、考えてただろ」」
「ブラッドレイ、あの男には奥さんもだが、子供もいるだろう」
真面目人間の思考というのは、腹を抱えて笑い出したいところだ、だが、それをノックスはぐっと我慢した。
「あのなあ、大事なこと忘れてないか、ネェちゃん、バツイチだぞ、既婚者、不倫、泥沼一直線だ、そんなのは俺だってごめんだ」
「もし、断られて玉砕するようなら俺が預かって面倒みてもいいと思っているしな」
「彼女を、預かる、どういうことだ」
自分では告白できないから、代わりに、その男に聞いてやるとお節介をすることになったんだ、だから責任って奴だよとノックスの言葉にマルコーは?という顔になった。
「まあ、バツイチ同士だし気心もしれてるからな、息子に女ができたんだ、俺だっていいだろ」
「なんだ、それは彼女のこと」
「俺も結構、モテるんだよ」
そのとき玄関から、ただいまと男の声がした、息子が帰ってきたらしい。
帰り道、マルコーは、どこか憂鬱な気持ちになってしまった、息子が帰ってきたので話は中断となった。
今日の話はネェちゃんにも内緒だと言われて頷いたが、帰って彼女の前でどんな顔をすればいいんだと思ってしまう、足取りも重く感じられる。
病気でなくて良かったと思ったが、まさか、あんな悩みだとは思わなかった、正直、自分が苦手の分野だ、予想を大きく外れたのは嬉しい、だが、別の意味で気が重い。
ノックスは彼女の恋を応援しているようだか、駄目なら自噴が面倒をみるとか、軽く安請け合いしていないか。
それに、バツイチ同士という言葉が気になる、確かに、多少なりとも、気安さとか、そういうものがあるのかもと思ってしまう、だが。
今の彼女は自分の助手なのだ、それなのに。
ホテルまで、あと少しだった。
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