ざまぁ系オリジナル小説です、突発的に書いた読み切りです。
男は自分の容姿に自信があった、大抵の女なら平民、貴族、どんな女でも夢中にさせることができると、十代、二十代の頃はよかった、顔の良さに子爵、男爵令嬢は自分が愛想良く微笑みだけで、簡単に恋に落ちて体を預けてきた、だが、それだけだ。
一晩限りの事もあったし、長く続く事もあった、だが、三十近くになると男自身、内心焦りを感じていた。
「あら、お一人なの、どうして貴方みたいな人が」
特定の恋人がいない、独身だと知ると若い令嬢達は喜んで自分の周りに集まってくる、だが、中には目を細め、いぶかしむような表情で見てくる女もいた、まるで、何らか問題があるのではと品定めをするような目つきでだ。
貴族の端くれといってもいい身分なので領地などは持っていない、だから婿入りをしなければと焦りがでてきた、両親はいない、自分が頼れるのは金だ。
そんな自分に縁談が舞い込んできた、相手は申し分のない身分の女性だったが、問題なのは太っている、貴族令嬢とは思えない容姿だった、だが、結婚した、金と爵位の為に。
好きなだけ使える金は底が尽きるという事はない、貴族の中でも選ばれた者だけが住むことを許されるような館で、衣装も何もかも別格だ、これが自分の本来の居場所なんだと勘違いした男は女遊びに手を出した。
貴族は、こういうことには厳しい、太っていても女だ、妻にはばれないようにと男は工作をした、ところが。
「旦那様がお呼びです」
その日、メイドに呼び出された男は妻の父親に呼ばれて緊張していた、結婚したとき挨拶をしただけであまり話した事もない、遠方に住んでいて娘の事をよろしく頼むと殆ど来る事はない、一体何の用だろう。
「娘とは仲良くやっているかね、まあ、自分の趣味に忙しくて、あれはふらふらしているんだろう」
妻の趣味、そんなものがあったのかと男は驚いた、巨体を揺らすようにして朝から出掛けると丸一日、泊まりで帰ってこない事もあるが、自分には都合がよかったので男は何も言わなかった。
「あれは商売というか、仕事、金を産むという行為が好きでね、私の祖父も才能があった、受け継いでいるのだ、この屋敷も財も全て、あの子が成したようなものだ」
男は驚いた、まさか、自分の妻に、そんな才能があったとは知らなかった。
「だから、私はサポートに徹しているんだよ、娘が自由にのびのびとできるようにね、今日来たのもその為なんだが、これを見てくれたまえ」
テーブルの上に並べられた紙の束、それは男の浮気の証拠といってもよかった、ホテルの領収書、写真、相手の女の事まで念入りに調べ上げている、体が、全身が震えた。
「最初の一、二回は、まあいいんだよ」
それはどういうことだろう、義理の息子の不貞を怒っていない、気にしていないということだろうか、娘が嫌いで別れたくて遊んでいるならいいんだと言われて男は言い訳の言葉を口にしようとしたが、義父はいいんだよと笑った。」
「君は、これを私や娘が調べたと思っているのかい」
「どういうことです」
この調書は昨日送られてきたんだ、男は驚いた、正直心当たりがない、別れを切り出したことで自分を恨んでいる女はいるかもしれない、だが、ここまで念入りに調べ上げることは可能だろうかと思ってしまう。
「君の付き合っていた女性、全員とはいわないが」
写真は綺麗に撮れている、不自然だと思わないか。
「まさか、君たちを別れさせるために、こんな手を使ってくるとはね、感服したよ」
娘には今まで求婚してくる相手が大勢いてねと言われて、えっとなった、あの容姿で、白豚なんてものじゃないぐらい肥え太った女性に結婚を申し込む男がいるのか。
「相手は侯爵以上の身分が多くて中には王族縁もいてね、断るのは全部私の仕事、大変だよ、それで今後のことだけど、娘は君の事を気に入っているんだよ、君はどうだね」
義父は肩を竦めて、そんな事はいいんだよと笑った、その時、ドアをノックする音と執事が顔を出した、お嬢様がと少し上気した声だ、だが、入って来た女性を見て男は驚いた、黒髪の美女の姿に息を飲んだ。
「お父様、ご機嫌いかが、旦那様も元気そうで」
声をかけられて、この美女は自分の妻なのかと驚いた、いったいどういうことだと、ここ数ヶ月、会っていなかったダイエットをしていたとしても変わりすぎだろう、すると女はあれは変装ですわと笑った。
仕事柄、初対面の相手には有効だというのだ。
「実は私宛に封書が送られてきましたの、旦那様も見ますか」
そういって出された数枚の写真は女性が男と交わっている姿だ、女の目線は、何故かこちらを見ている、そして女の顔は知っていた、男が今まで相手をしてきた女達だ。
「あなたの夫は、こんな男ですよって、だから別れなさいということでしょうか」
「だろうな、多分、おまえの求婚者だろうが、結婚したら諦めると思ったら、こういう手を使うとは流石だ、どうするね、別れるかい」
旦那様は私と別れたいですか、妻がにっこりと笑いかけてくる、その笑顔は今まで自分が出会った、どんな女よりもどきりとした。
「それにしても君も脇が甘い、近づいてくる女の正体も見破れずに乗せられるとは、で、手続きは私かい」
お願いしますわ、お父様と言われて父親は平民、庶民の離婚と違って貴族になると色々と面倒なんだといいながら視線を男に向けた。
君はどうしたいと聞かれて男は我に返った。
「自分は別れるつもりはありません」
夫の言葉に妻は真顔になったが次の瞬間、ぷっと吹き出した、本気なのと。
「こんなものを見せられても今の生活を続けようと思えるなら、あなたって本当におもしろい人ね」
「別れなくてもいいんじゃないか、この様子だと」
妻と義理の父親の言葉、その意味がすぐにはわからなかった、だが、はっとした、自分は、もしかして(・・・・・・かもしれない)
「求婚者達は結婚したからといって諦めるような人達ではないんだ、男だけではない、中には遠国の女王もいてね、娘の商才に惚れ込んでいて是非とも国に来て欲しいと言っている、できるなら自国で結婚して永住して欲しいというくらいだ」
何故、自分と結婚したのかと聞くと、人妻の肩書きが欲しかったという言葉が返ってきた、夫がいると商談にも好意的に見て貰えるのと笑いながら言われてしまった。
「でも、近づいてくる女の正体も見抜けないとは思わなかったわ、高級でもない、そこそこの娼婦との手管に引っかかるなんて」
間抜けだと言われているようだ普通なら腹が立つはずなのに言葉が出てこない。
ここで妻と離婚、別れたら自分の未来が想像できなかった、結婚して数ヶ月が過ぎて、すっかり馴染んだ贅沢な暮らしを捨てられるのかと聞かれたら、どう答えるべきなのだろうか。
自分の好きに自由にして構わないんだといわれても、今更だ、どうせなら残り少ない時間、贅沢の限りを尽くして、だが。
娼館での刃傷沙汰など珍しくはない、男が妻に隠れて通っていたことは調査の結果、明白だ、しかも女は薬で頭がおかしくなっている、まともに会話ができないだけではない、女の体には無数の傷、暴行された後がはっきりと残っていた。
女は男の腹をナイフも何度も突いたらしい、よほど酷い目にあったのだろう。
自業自得だよ、あんな綺麗な奥さんがいながらと周りは噂した。
「一週間か、早いな、おまえの求婚者達は情熱的というか、凄いな」
「私、お金の方が、仕事や商売の方が楽しいです」
半年したら、また結婚できるぞと言われて美女は、考えてみますわと笑いながら窓の外を見た。
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