シカゴ、Goodman Theatreのユージン・オニール第2弾、HAIRY APE(毛猿)
わお、凄いものを観てしまった…私は、(ワケが分からなかった)DESIRE UNDER THE ELMSよりも、絶対こっちを評価します。
この作品は、セリフ部分の割にはオニールのト書きが多いのが特徴。演者の表情や動きにまで細かい指示を与えていて、表現手法の細部にまで拘って作られたものと考えられます。
舞台は大西洋航路の定期船の火夫たちの部屋。皆、厳しい労働で顔は薄汚れて、荒々しい姿をしている。そんな環境の中でも、よりよい未来のために懸命に生きているヤンクと、何も期待しないことに一つの解決を見たパディの対立から始まります。
ヤンクのように覚醒していることが、かえって人間を破滅に導くという話は、どことなく「氷人来る」にも見られたような気がしますが。NYの5番街ばかりでなく、労働運動の集団にさえも自分の「居場所」がないことを実感した彼は、やがてセントラル・パークのゴリラの檻の前に行き…
ストリーだけ追っていると、ちょっと自然主義的な感触ではありますが、実際の舞台は究極のexpressionismに貫かれていて…完全に圧倒されました! まず、開演前から定期船のエンジン音を表す「低重音」がズンズン響いてくるし、フロアのギャラリー部分に設定された火夫室の閉そく感と言い、炉の赤、石炭の黒、シャベルの金属音…台詞も、場によっては、今風のラップ音楽になっているのですが、全く違和感がないのです。
突然話は飛びますが、音楽ライブや舞台を見ていて、照明の具合によっては舞台上の人がやけに「猿顔」に見えてしまうことがありませんか(?)それで、人間は猿だったんだな…と妙に納得したり。このプレイを観ていると、何故かそれを思い出してしまいました。(しょうもないことですが)
ヤンクの役をしたのはジョン・バインズというシカゴをベースにしている俳優だということですが…なんでこんな凄い人がいるんでしょう?この人、本当に猿に見えたり、また人間に見えたりするんですよ。
新聞評では、社会的不平等を告発している作品という前提で論じているものが少なくありませんでした。(そう来ますか)勿論、それも重要な(カツ分かりやすい)テーマでしょうが…ヤンクのような人間は、社会的覚醒以前に、環境と個人の物理的な力関係がベースにあって、そこからさまざまな観念が生まれてくるのではないかと思えるのですがね。「社会変革への願望」というのも、そういう観念の一つにすぎないのでは?実際、パディのように(ヤンクと同じ環境にいても)流れに身を任せることの方に、より秀でるようになる人間もいるわけで。
原作とは異なる独自のアレンジもありましたが、液体、粉、クリームそして刃物…それぞれの「素材」の使い方も計算し尽くされています。演技が始まると、たちまち観客はあらゆる感覚を支配されてしまって…そして、劇中のどの一瞬を切りとっても、舞台上に示されているすべての要素の関係性が説明できるような、全く隙のない舞台でした。
Bravo!
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