※小説風味でお送りいたします。
ふと目が覚めた。
いけないいけない。本を読みながら寝入ってしまったようだ。
時計を見る。もう7時を回っていた。
もう暗いので、戸を閉めようと外へ出た。
「あ、そうだ。離れの窓もあけるか」
思いついたが吉日とばかりに足早に一昨日蜘蛛の巣を除去した離れの入り口へと向かった。新たな蜘蛛の巣が出来ていないことを祈って。
「おー涼しいなあ。面倒だけど、こっちで寝たほうが涼しいかも」
自室の窓を全開にした後、隣室へ向かう。
隣室の窓も開けようかどうか迷いつつカーテンを開くと、小さな虫が数匹窓に突撃するように飛んでいた。瞬間、虫たちがいる窓を右へスライド。
「どうする……こいつら、上手い具合に外に出せないぞ」
虫が苦手な私には少々きつい。
そうだ、掃除機。掃除機くんがいる!
すたこらっささと自室へ掃除機を取りに行き、さあ、吸おう!
「……おいこらてめえ、コードが足りないじゃないか?」
早く奴らを始末したい私にとって、かなり不愉快な事態だ。
私はどうにかしてコードを上手い具合に窓の前まで導き、どうにか吸い始めた。
ついでなので、窓枠の上も吸う。中々倉庫なので汚れている。
端にまとめたカーテンをあげる。
「!!????」
――は!?蜘蛛の巣!?
なんと、蜘蛛の巣登場。
私は凍りついた。
しかし、今は強い味方の掃除機お姐さんがいる。
大丈夫大丈夫!勝てるよ、この戦い!
恐ろしいほど緻密な蜘蛛の巣を吸い尽くす。
緻密すぎて丈夫なのがなんとも辛い。簡単には吸われてくれないのだ。
「ちくしょおおおお……」
もう涙目である。
誰か助けて状態。
そして私は気付いてしまう。
よくよく見たら窓の下部にまたもや緻密な蜘蛛の巣が。
それはもう緻密な餌を大量にゲットした、いわば保存食用の倉庫。
「うわああああ……」
錯乱しつつも蜘蛛と、いや蜘蛛の巣と戦う。
掃除を始めたら最後。やり終えないと気がすまないのだ。
最終的におそらく表情に富んでいると思われる私はどこかに消え、スパイダーズウェブを処理するだけのただの松波がそこにはいた。無表情すぎる。
「…………」
何故こんな事態になってしまったのかというと、窓の鍵がかかっておらず、揺れやなんやらで窓に隙間が2㎝ほど出来ていたためだ。
そこにここぞとばかりに蜘蛛が住み着き、家出騒ぎ後全く離れに近づかなかったため私もその非常事態に気付けなかった。
そして、蜘蛛は保存食を蓄え続けていたのだった……。
「後はさっき逃げた蜘蛛だけだな……」
口元がにやりと笑う。目が虚ろだ。
自分でも少しはおかしくなっている自覚があった。
私が右のカーテンを揺らすと、あっさり蜘蛛が姿を現す。
『み、見つかった……!』
そんな声が聞こえたように思う。
私は迷いなく掃除機を向けたが、すぐ見つかると思わなかったがために反応鈍く取り逃がしてしまった。
ちっ、心中で舌を打つ。
もう一度、揺らす。今度は狙いを定めて。
『す、吸われるっ!?』
「さようなら!」
……敵は消えた。
私は疲れ切った笑みを浮かべる。
だが、手早く周辺に散っているごみも吸い上げ、周囲を整え、蜘蛛の巣やらなんやらで汚れたカーテンを涙目で取り外し、ついでに古いスリッパをいらないものとし袋に放り込み、一息ついた。
そしてその後、倉庫にあるものを漁り、心穏やかになった後に居間へと舞い戻った。
父にその話をしたら、鼻で笑われた。彼は知らないのだ。あの惨状を。
ある意味、心的外傷を負った私、松波鏡良であった。
※ノンフィクションでお送りいたしました☆
※タイトルの英語は『あれはこたえた……!」という意味