ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

本多勝一氏にとっては残念だろうが、「古代人」の時代は、人間が現在よりはるかに病気に弱く苦しんだ時代だった(当たり前)

2024-01-23 00:00:00 | 書評ほか書籍関係

本多勝一氏は、著書『はるかなる東洋医学へ』の中で次のように語っています。なお引用文は文庫版で。


私自身を含めてわが家は医者による重大な被害に次々と襲われている。要するに誤診とか誤治(引用者注:「ごち」の振り仮名あり)による被害が実に多い。最初のそれは私の妹の死である。これはほとんど殺されたに等しいだろう。その「馬鹿医者の殺人療法」(父の言葉)によって、我が家がどれほど悲しみの長い日々に耐えなければならなかったことか。(p.9)

本多氏の妹さんは、疫痢になって、そして医者のよろしくない診療によってお亡くなりになったということです。以降その件が書かれています。

それはもちろん気の毒ですが、それらはだいぶ以前(戦前)の話だし、当時と比較すれば日本人は、医療事情も衛生事情も、また個々の国民の豊かさも、健康のための取り組みも、雲泥の差でしょうに。当時の医学を持ち出して西洋医学に批判的な認識を持つというのは、それはおかしくありませんかね。本多氏に限らず、本多氏のご家族他、ずいぶん現代医学のおかげで助かっているでしょう。たとえば疫痢に関しては、このような記事がありました。

>(*)えきり【疫痢】

幼児の赤痢で、下痢、嘔吐とともに顔面蒼白、手足が冷たいなどの循環障害や、意識が混濁したり、ひきつけたりするなどの神経系の障害のような中毒症状の強く現れたものをいう。特に3~4歳に多い。昔は肺炎と並んで幼児死亡の二大原因であったが、現在はほとんどなくなり、しかも抗生物質、輸液などで救命できるようになった。

Wikipediaの、「赤痢」の「症状」の項の、疫痢についての記述を。注釈の番号は削除します。

>疫痢(えきり)は細菌性赤痢の子供に起こる特殊な型を指す。高熱・激しい下痢などの典型症状に加え、痙攣・血圧低下・顔面蒼白・意識障害を起こし、短時間で死亡することが多い。発症のメカニズムはよくわかっていない。かつては乳幼児に多くみられたが、現在の日本ではほとんどみられなくなっている。

読売新聞の「医療大全」のサイトより。

> 疫痢は、小児にみられる細菌性赤痢の重症型で、循環不全(血圧の低下、意識障害など)を起こすなどで短期間に死亡します。しかし、どうしてそのような状態になるかは不明です。最近は疫痢をみることはほとんどなくなりました。

毛利子来著『よい親でなくとも子は育つ』より。

>戦争中から敗戦直後の混乱期までは、栄養不良、脚気、天然痘、腸チフス、発疹チフス、コレラ、赤痢、ジフテリア、百日ぜき、麻疹、日本脳炎、肺炎、結核などが猛威をふるい死者も多かったのですが、しかし、経済の高度成長が進むとともに、そうした病気の脅威は激減しています。

これらのうち栄養不良、脚気、天然痘、発疹チフス、コレラ、疫痢は、一九五〇年ごろから遅くとも六〇年ごろまでに、なくなったといってよい状態になってしまいました。そのほかも、今日にいたるまで発生はしているものの、患者数とり患率が激減するか、死亡率が激減した状態になっているのです。(p.122~123 段落の一字下げは省略、段落時にスペースを一行分あけました。また振り仮名は省略しました)

私が何を言いたいかというと、つまり本多氏の妹さんが亡くなった時代は、疫痢というのはこわくて危険な病気でしたが、戦後間もない時点で、そうでもなくなり、現在はほぼなくなった病気というわけです。上に書いたことを繰り返しますと、本多氏の妹さんが、医者のよろしからぬ治療で亡くなったのであればたいへん気の毒ですが、それは「西洋医学はいかん」とか現代医療を批判するような話ではないでしょう。むしろ本多氏が強く批判する「反自然」こそが、それらを打倒した大きな力ではないか。本多氏が気に入っているらしい「古代人」の時代では、非常に遺憾ですが、大勢の子どもが疫痢ほか感染症で亡くなったはず。本多氏は、そういうことをどれくらい認識しておられるのですかね?

本多氏は、彼が傾倒する境信一氏から治療(放置とどう違うんだか)をうけて回復した(境氏の治療の故かは不明)際、境氏から、


実に喜ばしいことに、わずか二回の治療によって、この不整脈は消えてしまった。しかしS先生は言う。―「これは私の力というよりも、患者たる本多さんの方によるところが大きいのです」

どういうことかというと、「信州の山ザル」たる私の身体はあまり「文明」に毒されていない。一種古代人に近い状態にあるので、東洋医学の側からすれば大変扱いやすく、単純だから効果も表れやすい、と。(p.47 段落は、スペースにて対応。段落の1字下げは省略)

などという論拠不明の与太を真に受けているのだから、本当にどうしようもない。こういうことをほざくような野郎は、完全な詐欺師、誇大妄想家と批判されたってしょうがないでしょう。

だいたい身もふたもない言い方をすれば、人間が長生きになったのは、上下水道の発達など社会インフラの整備です。それらのほうが、東洋医学よりもなによりも強力です。こんなことは知っている人間なら常識ですが、医者も(医療を重視したいため)あまり口にしない(苦笑)。上にある毛利氏が書いているように、経済の高度成長などが様々な感染症を撃退する最大の力なのです。

が、本多氏は、「古代人」とか「反自然」といったそれ自体には何の意味もないフレーズに心を奪われたのでしょうね。そういう風に本多氏の好むフレーズを口にする境信一氏なる東洋医学者を名乗る人物は、まったくひどい野郎ですよね(苦笑)。こんなくだらない(はい、はっきり書きます。きわめてくだらない与太です)ことを真に受けちゃうのだから、まったく本多氏のおめでたさもひどいものです。

古代人なんてものが生きていた時代は決して生活しやすいものではなかったし、そんなものをありがたがることはない。人間が長生きになったのは、本多氏が忌み嫌っているらしい「反自然」のおかげであるところが大きいわけです。本多氏は、そういうことをどれくらい認識しているんですかね? 非常によろしくない態度かと思います。

本多氏の東洋医学についてのデタラメな言説については、また記事を書きますので乞うご期待。


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2 コメント

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Unknown (nordhausen)
2024-01-30 20:23:29
倉本聰も、「現代文明」をかなり忌み嫌うところがありますからね。彼の代表作であるドラマ「北の国から」は彼の理想を投影した作品と言えますね。彼が提唱するように「現代文明に頼らず自然と共生する生活様式」がそんなに素晴らしいのか、と言えば大いに疑問ですね。そういう意味では、倉本も本多氏と共通するところがありますね。
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>nordhausenさん (Bill McCreary)
2024-01-31 21:33:03
そうですね。倉本も同じようなところがあるのでしょう。
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