入口で36℃後半だった熱がたったの1時間で待機中に38.9℃まで上がってしまった猫野を見るに見兼ね、看護師の春菜さんの往復が激しさを増していました。
『辛いよね。待たせてごめんなさいね。』
『いえ、慌ただしいお時間に急遽押しかけることになってしまって…こちらこそすみません』
『ううん。気にしないでね。本当にごめんね。
猫野さん、私に着いて来て下さい…っていうか、ちょっと待ってて』
何、これ?プロポーズ!?
これがめっちゃ好きな人に言われるシチュエーションだったら。
黙って着いて行くも良し。
健気に待つも良し。
頭に花の咲く女子たちのご馳走の完成ですな(笑)
私が女子で無い年齢なのはさて置き。
他にも看護師さんの姿はあれどやっぱり今日(きょうび)人手不足なんですかね。
車椅子を取りに行っていたらしい春菜さんが猛スピードで戻って来ました。
脳内ぱーりぃーぴーぽーな私だけど、実は初対面から慣れるまではわりと大人しく見られる人見知りです。
高熱のイリュージョンと口数の少なさが春菜さんに気を遣わせているような気がしました。
私を乗せた車椅子は、診察室…では無く。
なんと、最初に洗礼を受けた入口を出てしまいました。
ちょ、どこ行くねんっっ(汗)
すると入口に居た検温担当の職員さんが小脇に箱を抱えながら私たちを追いかけてきました。
『すみませ〜ん。ちょっといいですか?』
『あなたねぇ?ちゃんとしてくれないと困りますよ!』
突如おっ始まったバトルに猫野はポカーン…。
話を聞いていると何となくですがその理由が分かりました。
・職員さんは私たちが一旦外に出たので念の為、持ち込みのマスクを取り替えて欲しく、新しいマスクを箱ごと持って来て下さったということ
・春菜さんは、私の体温が極端に違っていたため、職員さんのミスで別の患者さんと間違えたのではないかと心配していること
お二方共、それぞれのお仕事を全うしているからこそのバトル。
だがしかし。
敢えてここは上から言わせて頂きます。
患者の前でアカンよ、君たち。
『この方(猫野のこと)ね、すっごく熱高かったんだよ!?分かる?辛いの』
『あー、はい。すみません、でも…』
『“でも”じゃない。全然分かってないじゃないですか!』
熱くなった春菜さんの圧勝です。
けれども、辛さを分かって頂けるのならば、さっさと診察を受けたいところ(苦笑)
『あのー。お話し中、失礼します。私、大丈夫ですから。次はどちらに行けばよろしいですか?
それと、マスクありがとうございました』
フフフ。
ぶった切ってみました。
医療現場はただでさえ大変でしょうからね。
ピリピリするだろうけども、職場で気まずい人を作っちゃうとストレスは倍増してしまいます。
たとえその場で自分の正義を貫けてもそうなってしまうとそののちに裏目に出たりもしちゃうからメッ!メッ!
我に返った春菜さんがちゃっちゃと職員さんを追い払うように背を向け、職員さんも真新しいマスクを手渡し終えると軽く会釈をして入口のほうに戻って行きました。
『ごめんね。ごめん、ホントごめんなさい。
まったくねぇ。猫田さんの辛さも分かんないとかやんなっちゃうねぇ』
名前、間違っとるがな。
『コロナで病院も大変そうですからやむを得ないこともあると思いますけど、看護師さんのお仕事はいた仕方ないじゃ済みませんもんね…』
『そーなのよ!あいつら、毎日何見てんだか!あんなのと一緒くたに医療従事者扱いですから。
まぁ…私ら看護師のことはともかくだけどさ、あの人たちだって患者さんとも直接やり取りしてるんだから、流れ作業で検温してりゃあいいってもんじゃないじゃないですか〜。
あ、ここだここだ。猫野さん、こっちね。今、鍵開けるから待ってね』
病院をグルッと回り込むように進んだところに謎の扉を発見(驚)
扉の手前には黒く塗られた鍵付きの鉄格子があり、まるで囚人でも居そうな物々しい雰囲気に包まれていました。
大腸癌宣告まで程遠くタイトルと全く関係の無いエピソードが続いており、的外れですみません。
私的にとっても印象深かった出来事なので備忘録に残しておこうと書きました。
見ず知らずの人の日常に垣間見えるその方たちの人間らしさ。
良いところだけじゃない。
悪いところだけでもない。
私はそういった人に見る風景が好きです。
この病院に居た期間は短かったのですが、どの方も人らしくとても素敵な方たちでした。