ガンはじめました〜笑って泣いて神頼み〜

大腸癌・ステージⅣと出会ったアラフィフおばちゃんのちょっと変わった日常ブログです。

急展開(part.5)

2020-12-30 15:59:46 | 日記

押していた診察が終わって現れた診察医は、白髭をたくわえメガネをかけた年配の男性医師でした。
私が立ち上がってご挨拶をすると、先生はテヘペロばりに愛嬌のある表情で椅子に座るよう促してくれました。

『やっぱり、横になって聞く?座ってるだけでも相当痛いでしょ。
よく来てくれましたね。お待たせしてすみませんでした』

大事なお話です。
私は座って聞くほうを選びました。

『医院長先生、紹介状はこちらです。それから猫野さんについてなんですけど…(ry』

私から受け取った紹介状を男性医師に渡す春菜さん。
カルテと私から聞き出した情報を元に私に関することを医師に説明していました。

えー!医院長先生直々に診察すんの!?
…てか、この方が医院長先生なんだ!?!?

『なるほど…そうでしたか。大変でしたね。
んー、そうだなぁ。じゃあ、採血やCTなど他の検査も交えて詳しく調べていきましょうか。
…と、その前に栄養剤の点滴からね。大分、身体が衰弱しちゃってるので。
あと、念の為、PCRも受けときましょう』

猫野ピ〜ンチ。
PCR検査といえば、少し前に必要不可欠な場合を覗いては実費になったと報道されていました。
手持ちのお金は循環器内科での検査を想定してやや多めに用意していましたが。
ここは設備の整った大きな病院です。
クリニックより料金設定は割高。
受けなければならない検査だけでおいくら万円になることやら。
また、ありがたく頂戴したコロナの特別給付金と一緒に、一度家でやり繰りの計算をしようと、絶妙なタイミングで銀行から根こそぎおろしてしまっていたなけなしの貯金は自宅でお留守番中(泣)
これでは、病院にATMがあっても帰りに払って帰ることが出来ません。
この身体で歩いて一旦帰り、また戻る。
もしくは、後日、病院側が指定する期限内に診療が無くても払いに来るかの二択です。
家族を亡くして傷心しきっている遺族にもしっかり請求書が即日発行されるくらい病院のお家計って早いんだよね(苦笑)
無い袖なら振りようもないけれど、払えるものはさっさと払ったほうが身のためです。
後回しにしても気が休まらないしねぇ…。
描かれた二択の脳内シュミレーションに頭がクラクラしてきました。

『PCRって実費になりましたよね…。それは必ず受けないとダメなんでしょうか?
特に風邪のような症状は発熱くらいしかないんですけど。
確か数万円はかかるじゃないですか~?高いなぁ…』

私の複雑な思いとは真逆な笑顔で医院長先生が手前勝手なボヤキ交じりの問いかけに丁寧に応じてくれました。

『猫野さんの場合はね、保険効くよ。一桁削れるから安心して受けて下さい。
あなたは基礎疾患があるし、PCRの症状も発熱だけじゃない。息切れもしてるからね。
それに、医師が必要と判断して受けて貰うんだから実費のケースには当たりませんよ。
生活保護などにも言えることですが、受けるべき人がちゃんと受けなきゃ。そのためにPCRも国が改正したんですから』

二十歳で親が遺した会社の借金を抱え、長いこと昼夜問わず働いてきた私にとって、お金の尊さは十分身にしみています。
完済済みな今もその感覚は変わらず。
人様のお金となると尚更です。
ズボラなようで、変なところはやたら慎重な私。
行政のサポートは敷居が高く、気遅れするものでして…とてもとても
恐れ多いっていうのかな。
限界の境界線が分からなかったんですよね。
休職してからも貯金を切り崩しては雇って貰える限りバイトでも内職でも当たり前にしていましたから。
必死になればなるほど意地ばかりが育ってしまっていて。
ついついケチケチして、我慢をし。
身体を追いやり過ぎれば本格的な社会復帰とはかけ離れてしまうんだということを見落としていました。
生活の質を落とせずお金に苦労する人よりはマシだろうと。
そんな生活を続け過ぎて自分から抜け出せなくなっていたのです。



そういや、その昔。
まだ出会った頃、当時二十代だった同居人・しおちゃんによく言われていたっけ。

「仕事もいいけど、働くのにも身体が資本だよ〜?」
「あはは(苦笑)病院には通院してるから大丈夫だってば」
「も〜。若いうちだけだよ、そんな風に言ってられんのは!」
「じゃ、若いんだから今は言ったっていいじゃん(笑)」
「だから今はね。でも、おばちゃんになって倒れたって知らないもんね〜だっっ」
「そう意地悪言わんでよ。発作なんか日課みたいなもんだから、平気平気」

若者の皆さん。
今は今でこんなご時世だし、若者だからといって苦はあるでしょうから猫おばちゃん言っとくね。
大人が“あっという間”って感じるのには、ちゃんと経緯があるのよね。
充実してようがしてまいが段々と本当に日に日に時が経つのを早く感じるようになるの。
早く感じる時間の中にも得られるものがたっくさん詰まっていたりするんだ。
後悔の無い人生など早々ないから難しく考えなくていいんだけども。
身体は正直だからね。
両極端な生活にならないようにしましょ。
自分を大切に出来ない人は、他人(ひと)をも大切に出来ないのです。
大切な人のため。
自分自身のため。
くれぐれも病院にさえ行っていればいいとか私のような過信をしないようにして下さい(苦笑)

以上。



その後、やはり医院長先生はお忙しい方らしく、誰かに呼ばれては部屋から出て行き、なかなか病気に関する話が進まない状況が続きました。

急展開(part.4)

2020-12-30 13:52:04 | 日記
選ばれし者だけがそのダンジョンの扉を開けられるという伝説の鍵(?)。
その鍵を持つ春菜さんが、いとも簡単に黒い鉄格子と扉を開け中に案内してくれました。

おぉぉぉぉぉ〜!

左手に部屋。
中央に真っ直ぐ伸びる廊下。
右手は自販機。
はい。
至って普通に院内の光景が目の前に広がっています。

猫野のドキドキptが80下がった!

待合室のあった建物と同じく本館らしいのですが、中の形が特殊なようで。
ここまで来るには外から回って来るほうが早いんだとか。
部屋にまで鍵がかかっていたようです。
部屋らしい部屋に入れると思うと、やっと診察に近付いた気がしました。

中は10畳ちょっとはあったかなぁ?
リクライニングのベッドはベッドに見えないようなマッサージチェアに似た感じで。
二台ほど設置されていました。
あとは、キッチンがあって。
デスクと椅子があって。
デスクの上のパソコン周辺はホコリ知らず。
しばらく使われていなかった部屋にも見えませんし。
古くもなく、特段綺麗でもなくな無難な部屋が何故鍵付きなのか…?
初めのうちは分からず、その謎に少しモヤモヤしました。



『ここに座ってて下さい。ごめん、今、先生はまだ午前中の診察が押してて2人診終わったら来るから。ごめんね。』

春菜さんはお詫びが口癖になっているようでした。
何回も謝りながら、車椅子から椅子にのそのそと移る私の後ろで準備をしている模様。
私は出して頂いた理科室にあるような丸椅子に座って、辺りの様子を見回しつつ、鞄の中からお薬手帳と受付から戻されていた紹介状を取り出し備えました。

『だけどね、猫田さんだったっけ?』
『“猫野”です(苦笑)』

振り返ると春菜さんはフェイスシールド・厚めの手袋と足袋・エプロン・やや防護服よりは見劣りするビニール製のつなぎの完全装備姿になっていて、私は眼を見張ってしまいました。

そっか…。
炎症が起きていて感染症の可能性があるかもしれないということは。
コロナにせよ何にせよ。
今の自分は誰かに何かを移してしまう疑いがあるんだと、改めて実感しました。
鍵付きの部屋に通された謎が解けた瞬間でした。

『あぁー、ごめん。ごめんごめん。猫野さんね。
それにしてもあなたさ。食事も水分もずっと摂れてなくて痛みで眠れてもいなかったんだって?』
『はい…。』
『ごめんね。辛い時にこんなこと言うのあれなんだけどさ。
ダメだよ〜、もっと早いうちに病院に来るか救急車呼んで貰うとかしないと』
『はい…すみません』
『ご家族には連絡したの?』
『いいえ。両親は他界していて兄が唯一の肉親なんですけど、今は連絡が着く状態にありません』
『そうだったの…ごめんね。じゃあ、お一人暮らしなんですか?』
『いえ、長い間友人と二人暮らしだったんですけど、兄の居ない間、兄嫁一人じゃ心配なので一時的に家で預かることにしたんです。
三人暮らしが始まった矢先に私がこんな風になってしまって…。
二人にはさっき待ってる間にメッセージで連絡しました』
『へぇ〜。珍しいメンツだね。あ、ごめんなさいね…なんか根掘り葉掘り聞いちゃったみたいで(汗)
でもね。あなたの事情もあるかもしれないけど、人の心配してる場合じゃなかったの。
下手したらあなたここに来る前に死んでたかもしれないんだから』

え?
えぇぇ?
マジですか!?

診断は先生じゃないと出来ないからと、詳しいことは教えてはくれません。

『ごめんね。今ってさ。貧困な人も増えてるし、孤立して誰にも相談出来なくて我慢しちゃう人も居たりで助けたくても助からない人が多い時代になっちゃってるのよ』
『分かります。うちも私が仕事を休職してからカツカツで行政の相談窓口を調べたことがありましたし、自分のケアを見て見ぬフリするしか無い人たちのことをセルフネグレクトと呼ぶこともそういった記事を呼んで知りました』
『そこまでしてたならそういう人たちとあなたとは違うと思うけどさ。
それでも我慢し過ぎだよ。痛みに強いのは良いようであまり感心出来ませんからね!
あ、余計なお説教しちゃった。ごめんね。気を悪くしないでね』

ぶっちゃけ、気を悪くするどころか泣きそうになるくるぐらいウルッときていました。
お仕事とはいえ、話してみようと思える空気を与えて下さったわけですし。
だけど、全ての事情を話すことは、相手にとっては言い訳になってしまい兼ねません。
誰のせいでもない。
厄介な病を抱えているとすれば、それは私が私を後回しにした結果。
甘んじて受け止めようと思いました。