「清田二曹ってほんとうに三曹のことを愛してらっしゃるんですね」
各務くんが真顔で言うと、和哉さんはたまらずご飯をぶっと噴き出した。
飯粒が転々とテーブルに飛ぶ。そして激しく噎せた。
「だいじょうぶ?」
「だ、いじょうぶじゃな……。そ、そいつがいきなり、変なことを」
げほげほげほと咳き込む。大変。器官に入ったみたい。
私は彼の背をさすってやりながら言った。
「各務君、水取ってくれる」
「あ、はい」
大丈夫ですか。コップを渡しながら気遣わしげに言う。
和哉さんはその手からひったくるようにしてコップを受け取った。そしてがぶがぶ飲む。
「俺なにか変なことを言いましたか」
各務君は素できょとんとしている。
ようやく人心地ついた和哉さんが、ほうとため息をついてから改めて各務君をにらんだ。
「お前、唐突なんだよ、話がいつも。しかもなんだ、愛してるとか言うか日常会話で普通」
「だって、お二人を見てたら、自然とそう思ったから口にしただけで。不適切だったらすみません」
各務君はテーブルに並んで座る私と和哉さんを見比べて謝った。
「あー、不適切とかそういうんじゃなくてだな」
素直に謝られ、ばつが悪いのか、和哉さんはもう一口水を飲んだ。
私は助け舟を出す。
「各務君、ご飯おかわりいる?」
「あ、いただきます」
空になった茶碗をそっと差し出す。私は二杯目をよそってやった。幾分多めに。
食べ盛りの男の子を持った母の気分だ。各務君は今夜も気持ちいいほどの食欲を見せている。
「俺、清田二曹んちに呼ばれて飯食うの、大好きなんですよね。お二人見てると、俺も早くこういう家庭もちたいって思いますもん」
ありがとうございますとおかわりを受け取って、早速箸を動かす。彼の食事の所作は綺麗だ。そして出されたものは残さず食べる。
きちんと親御さんに躾けられて来たに違いない。そういう育ちのよさが垣間見えるところも好ましかった。
「上手ね」
私が言うと、
「お世辞じゃないですよ。本心です」
「分かってます。ところであなたもおかわり、いる?」
和哉さんにと訊くと、「うん」と即答。
好青年二人とともに、和やかに夕食は進んだ。
和哉さんは、部下をうちに連れてくるのが好きだ。
夕飯を食っていかないかと終業後気軽に声をかける。
急に一人二人連れ帰ってくるので、慌てて追加でおかずを用意ということもあった。スーパーに財布片手に駆け込んで。
が、今はもう突然の来客にも慣れた。
何もたいそうなものを作って振舞わなくてもいいと分かったから。和哉さんが部下に与えたいのは、料理というよりも「家庭的な雰囲気」なのだから。
地元を離れ、縁もゆかりもない駐屯地に派遣され任務に勤しんでいる若い隊員たち。彼らにせめて夕飯ぐらいはゆったりと食ってほしいんだと以前話してくれた。たまに和哉さんも自分で料理の腕を振るう。バーベキューとか、お好み焼きとか鉄板物が多い。そういう時はわいわいと大人数で呑んでくだけてにぎやかなことこの上ない。
和哉さんは言わないけれど、きっと部下の悩みや、相談事を聞いてあげたいという気持ちもあるのだろう。職場ではなかなか腹を割って話せないし、何よりその時間がない。
部下への気遣いはすごいと思う。私も今は部下を何人かもっているが、ケアの面ではやはり彼にはかなわない。見習わなくては。
そして、和哉さんが声をかけて誘う部下の中で、一番うちに来る回数が多いのが各務君だった。
最低月に一回は顔を出す。彼の直属の部下で、特に目をかけている子だ。
「各務君はいくつなの」
「二十一です」
もりもりとおかわりご飯を食べながら彼は言う。
「付き合ってる彼女とかはいるのか」
和哉さんが訊く。と、
「うーん、いるようないないような……」
なんとも煮え切らない返事が返ってきた。
私たちは目配せ。
「歯切れ悪いな」
「イナカに高校のときから付き合ってる子がいるんですけどね。なんだか最近、上手くいってなくて」
自然消滅くさいかな、このままじゃ。と、少し声のトーンが落ちる。
「遠距離なのか」
上官としてプライヴェートなことにそれ以上踏み込んでいいのかどうか、躊躇いながら和哉さんが尋ねた。各務君は頷く。
「はい。めちゃ遠距離ですね」
そしてイナカの名前を挙げた。ここからは本当に遠い場所だった。
「でも卒業して、三年も続いたんだろ。立派なもんだよ」
大概は一年くらいで破局するもんだがな。和哉さんが私に目を移す。
「脱柵はもう経験済み?」
和也さんに尋ねると、いいやと首を振る。
「こいつに限ってはまだだ。他のやつらは数人未遂をしでかした」
「なんです? 脱柵って」
きょとんとしている各務君に、和哉さんは「脱柵ってのはな」と話して聞かせた。
伝家の宝刀、脱柵哀歌を。
真剣に聞き入っていた各務君は、和也さんの話が終わってから、
「二曹も三曹も経験ありなんですね。遠距離恋愛の」
しみじみと言う。
「俺たちはその道のエキスパートだよ」
自嘲っぽく笑った。もうずいぶん昔のことのように思える。
あの頃の自分に愛おしささえ感じるほど。
各務君は神妙な面持ちで言った。箸の動きが止まる。
「俺は、隊の規律を破ってまで、脱柵してまで彼女に会いたいと思ったことはないです。就職して離れ離れになってから。いつも次の休みに帰るな、今度会えるのは、いついつな、って先の予定を伝えてた。律儀に、まるで義務みたいに」
沈黙が訪れる。
困ってしまって私が口を挟んだ。
「彼女は、何も?」
各務君は私を見た。
「会いたいって電話で泣かれたことはありますよ。何回か。でも仕方ないだろ、我慢してくれって言うしかできなかった」
「みんなが通る道だな」
慰めみたいに和哉さんが言う。しかし、各務君の表情は晴れなかった。
「俺の一番の問題は、遠距離がどうこうってのじゃなく、そういうところなのかもしれない。だから彼女にも愛想尽かされるのかもしれない」。
ぽつんと呟いた各務君に、和哉さんも私も何も言葉をかけてあげることができなかった。
「なんだか可哀相だったわね、各務君」
「そうだなあ。うかつに脱柵の話なんかするんじゃなかったなあ」
例の話を持ち出したことを珍しく和哉さんが反省している様子。話を広げるつもりで、彼の地雷を踏んでしまったと思っているのだろう。
「しようがないですよ。落ち込ませようとして話したんじゃないってことは、彼だって分かってますから」
「ん……」
当の各務君は今目の前でいびきを掻いている。あの後、見事に酔いつぶれたのだ。
ご飯を終えてからウイスキーを飲りはじめて。男二人に私も加わって、じったりと呑み交わした。各務くんがもっぱら話し、私たちは聞き役だった。
私は自分で言うのもなんだけど割と強いほうなので、真っ先にアルコールが回って寝入ってしまったのは各務君だった。
ソファでぐうぐう寝ているので、客用のふとんを持ってきて敷いてあげてそこに移した。和哉さんと二人がかりで。
「今夜は泊めるしかないな」
「はい。……若いですね」
あどけない寝顔を見ながら私が言うと、
「若いな。若いし、まだ危うい」
和哉さんが言った。
優しい目をして彼を見下ろしている。
「俺たちも昔はこんなだったんだろうな。こんな風に上官の目に映っていたんだろうなってこいつを見てると思う」
「ですね。うまくいかなくて、迷って悩んで、苦しんでましたね」
仕事も、恋も。
「続くと思うか? こいつ、イナカの彼女と」
和哉さんが訊く。私は黙って首を横に振った。
「だよな……」
和哉さんはそっとため息をついた。
「話を聞いていて思ったんです。きっと、彼女には新しい恋人ができている。じゃなかったら、他に好きな人は確実にいるなあって」
各務君の寝顔を見下ろしながら、私はそっと言った。
可哀相だけれど、きっとその読みは当たっている。
「女の勘か」
「というより、経験値からの推測です」
「脱柵してまで彼女に会いたいってやつが、最近減ってきたのは確かだよ」
「そうなの?」
意外な思いで、和也さんを見遣る。
「ああ。なんでだろうな。恋愛に夢中になる、なりふり構わなくなる若造が減ってる気がする」
上官としては喜ぶべきなのかな。そう呟いて複雑な面持ちを見せる。
「訓練がきつい、疲れた、明日も仕事がある。彼女と会うよりゆっくり身体を休めたい。そういう連中が多くなってる気はしている。ここ最近」
「それは、……憂うべきことなんじゃないですか」
由々しき事態だと思う。隊としては脱柵が減るのはいいことだけれど、男と女が真剣に付き合うことにおいては……。
その現象はさびしいことなんじゃないだろうか。とても。
「だよなあ」
今度は深々と息をつく。急にいくつも年を取ったように見えた。
「まあ、今夜は俺たちも寝もう。こいつも潰れたことだし」
和哉さんが言うと、ちょうど各務君がううんと寝返りを打った。タイミングを見計らったような寝返りに、私たちは笑みを漏らす。
「いい子ね、素直で」
「ああ。見所あるよ」
また連れてきていいか、と尋ねる。
私は笑った。
「今まで一度も私の許可なんか取ったことないじゃないですか。殊勝なこと言わないでいつでもどうぞ」
「ありがとう」
そう言って和哉さんは微笑んだ。
寝室に入って明かりを消すと、和哉さんは私を求めてきた。ごく自然に。
私はさすがに「今夜はだめ」と固辞した。だって、ふすま一枚隔てたところに各務君がいる。
酒をくらって寝入っているとはいえ、今夜はいくらなんでもまずい。
それでも和哉さんは収まらなかった。
「今夜はなんだか高ぶって、眠れそうにない。抱かせてくれ」
脱柵のこととか話したから昔の想いが蘇ってきたんだよ。そう言ってキスを浴びせてくる。
「でも、各務君が」
「あいつは起きないよ。大丈夫」
何を根拠に。そう言い掛けた口を塞がれる。
「……もう、こんなになっちまってる」
和哉さんは囁いて、股間を私の身体に沿わせた。身長差があるので、彼のものがお臍のあたりに当たる。
パジャマの上からでもはっきり分かる。屹立して存在を誇示している。
「しんどいの?」
私はふすまの向こうを気にしながら尋ねた。手でなぞってあげる。
和哉さんがあごを引く。
「かなり」
「……口でしてあげる」
今夜はそれで我慢してください。そう言って、私は彼の前にひざまずいた。
パジャマと下着を引き下ろす、布擦れのかすかな音でさえ、気になった。
(つづきは冊子で)
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各務くんが真顔で言うと、和哉さんはたまらずご飯をぶっと噴き出した。
飯粒が転々とテーブルに飛ぶ。そして激しく噎せた。
「だいじょうぶ?」
「だ、いじょうぶじゃな……。そ、そいつがいきなり、変なことを」
げほげほげほと咳き込む。大変。器官に入ったみたい。
私は彼の背をさすってやりながら言った。
「各務君、水取ってくれる」
「あ、はい」
大丈夫ですか。コップを渡しながら気遣わしげに言う。
和哉さんはその手からひったくるようにしてコップを受け取った。そしてがぶがぶ飲む。
「俺なにか変なことを言いましたか」
各務君は素できょとんとしている。
ようやく人心地ついた和哉さんが、ほうとため息をついてから改めて各務君をにらんだ。
「お前、唐突なんだよ、話がいつも。しかもなんだ、愛してるとか言うか日常会話で普通」
「だって、お二人を見てたら、自然とそう思ったから口にしただけで。不適切だったらすみません」
各務君はテーブルに並んで座る私と和哉さんを見比べて謝った。
「あー、不適切とかそういうんじゃなくてだな」
素直に謝られ、ばつが悪いのか、和哉さんはもう一口水を飲んだ。
私は助け舟を出す。
「各務君、ご飯おかわりいる?」
「あ、いただきます」
空になった茶碗をそっと差し出す。私は二杯目をよそってやった。幾分多めに。
食べ盛りの男の子を持った母の気分だ。各務君は今夜も気持ちいいほどの食欲を見せている。
「俺、清田二曹んちに呼ばれて飯食うの、大好きなんですよね。お二人見てると、俺も早くこういう家庭もちたいって思いますもん」
ありがとうございますとおかわりを受け取って、早速箸を動かす。彼の食事の所作は綺麗だ。そして出されたものは残さず食べる。
きちんと親御さんに躾けられて来たに違いない。そういう育ちのよさが垣間見えるところも好ましかった。
「上手ね」
私が言うと、
「お世辞じゃないですよ。本心です」
「分かってます。ところであなたもおかわり、いる?」
和哉さんにと訊くと、「うん」と即答。
好青年二人とともに、和やかに夕食は進んだ。
和哉さんは、部下をうちに連れてくるのが好きだ。
夕飯を食っていかないかと終業後気軽に声をかける。
急に一人二人連れ帰ってくるので、慌てて追加でおかずを用意ということもあった。スーパーに財布片手に駆け込んで。
が、今はもう突然の来客にも慣れた。
何もたいそうなものを作って振舞わなくてもいいと分かったから。和哉さんが部下に与えたいのは、料理というよりも「家庭的な雰囲気」なのだから。
地元を離れ、縁もゆかりもない駐屯地に派遣され任務に勤しんでいる若い隊員たち。彼らにせめて夕飯ぐらいはゆったりと食ってほしいんだと以前話してくれた。たまに和哉さんも自分で料理の腕を振るう。バーベキューとか、お好み焼きとか鉄板物が多い。そういう時はわいわいと大人数で呑んでくだけてにぎやかなことこの上ない。
和哉さんは言わないけれど、きっと部下の悩みや、相談事を聞いてあげたいという気持ちもあるのだろう。職場ではなかなか腹を割って話せないし、何よりその時間がない。
部下への気遣いはすごいと思う。私も今は部下を何人かもっているが、ケアの面ではやはり彼にはかなわない。見習わなくては。
そして、和哉さんが声をかけて誘う部下の中で、一番うちに来る回数が多いのが各務君だった。
最低月に一回は顔を出す。彼の直属の部下で、特に目をかけている子だ。
「各務君はいくつなの」
「二十一です」
もりもりとおかわりご飯を食べながら彼は言う。
「付き合ってる彼女とかはいるのか」
和哉さんが訊く。と、
「うーん、いるようないないような……」
なんとも煮え切らない返事が返ってきた。
私たちは目配せ。
「歯切れ悪いな」
「イナカに高校のときから付き合ってる子がいるんですけどね。なんだか最近、上手くいってなくて」
自然消滅くさいかな、このままじゃ。と、少し声のトーンが落ちる。
「遠距離なのか」
上官としてプライヴェートなことにそれ以上踏み込んでいいのかどうか、躊躇いながら和哉さんが尋ねた。各務君は頷く。
「はい。めちゃ遠距離ですね」
そしてイナカの名前を挙げた。ここからは本当に遠い場所だった。
「でも卒業して、三年も続いたんだろ。立派なもんだよ」
大概は一年くらいで破局するもんだがな。和哉さんが私に目を移す。
「脱柵はもう経験済み?」
和也さんに尋ねると、いいやと首を振る。
「こいつに限ってはまだだ。他のやつらは数人未遂をしでかした」
「なんです? 脱柵って」
きょとんとしている各務君に、和哉さんは「脱柵ってのはな」と話して聞かせた。
伝家の宝刀、脱柵哀歌を。
真剣に聞き入っていた各務君は、和也さんの話が終わってから、
「二曹も三曹も経験ありなんですね。遠距離恋愛の」
しみじみと言う。
「俺たちはその道のエキスパートだよ」
自嘲っぽく笑った。もうずいぶん昔のことのように思える。
あの頃の自分に愛おしささえ感じるほど。
各務君は神妙な面持ちで言った。箸の動きが止まる。
「俺は、隊の規律を破ってまで、脱柵してまで彼女に会いたいと思ったことはないです。就職して離れ離れになってから。いつも次の休みに帰るな、今度会えるのは、いついつな、って先の予定を伝えてた。律儀に、まるで義務みたいに」
沈黙が訪れる。
困ってしまって私が口を挟んだ。
「彼女は、何も?」
各務君は私を見た。
「会いたいって電話で泣かれたことはありますよ。何回か。でも仕方ないだろ、我慢してくれって言うしかできなかった」
「みんなが通る道だな」
慰めみたいに和哉さんが言う。しかし、各務君の表情は晴れなかった。
「俺の一番の問題は、遠距離がどうこうってのじゃなく、そういうところなのかもしれない。だから彼女にも愛想尽かされるのかもしれない」。
ぽつんと呟いた各務君に、和哉さんも私も何も言葉をかけてあげることができなかった。
「なんだか可哀相だったわね、各務君」
「そうだなあ。うかつに脱柵の話なんかするんじゃなかったなあ」
例の話を持ち出したことを珍しく和哉さんが反省している様子。話を広げるつもりで、彼の地雷を踏んでしまったと思っているのだろう。
「しようがないですよ。落ち込ませようとして話したんじゃないってことは、彼だって分かってますから」
「ん……」
当の各務君は今目の前でいびきを掻いている。あの後、見事に酔いつぶれたのだ。
ご飯を終えてからウイスキーを飲りはじめて。男二人に私も加わって、じったりと呑み交わした。各務くんがもっぱら話し、私たちは聞き役だった。
私は自分で言うのもなんだけど割と強いほうなので、真っ先にアルコールが回って寝入ってしまったのは各務君だった。
ソファでぐうぐう寝ているので、客用のふとんを持ってきて敷いてあげてそこに移した。和哉さんと二人がかりで。
「今夜は泊めるしかないな」
「はい。……若いですね」
あどけない寝顔を見ながら私が言うと、
「若いな。若いし、まだ危うい」
和哉さんが言った。
優しい目をして彼を見下ろしている。
「俺たちも昔はこんなだったんだろうな。こんな風に上官の目に映っていたんだろうなってこいつを見てると思う」
「ですね。うまくいかなくて、迷って悩んで、苦しんでましたね」
仕事も、恋も。
「続くと思うか? こいつ、イナカの彼女と」
和哉さんが訊く。私は黙って首を横に振った。
「だよな……」
和哉さんはそっとため息をついた。
「話を聞いていて思ったんです。きっと、彼女には新しい恋人ができている。じゃなかったら、他に好きな人は確実にいるなあって」
各務君の寝顔を見下ろしながら、私はそっと言った。
可哀相だけれど、きっとその読みは当たっている。
「女の勘か」
「というより、経験値からの推測です」
「脱柵してまで彼女に会いたいってやつが、最近減ってきたのは確かだよ」
「そうなの?」
意外な思いで、和也さんを見遣る。
「ああ。なんでだろうな。恋愛に夢中になる、なりふり構わなくなる若造が減ってる気がする」
上官としては喜ぶべきなのかな。そう呟いて複雑な面持ちを見せる。
「訓練がきつい、疲れた、明日も仕事がある。彼女と会うよりゆっくり身体を休めたい。そういう連中が多くなってる気はしている。ここ最近」
「それは、……憂うべきことなんじゃないですか」
由々しき事態だと思う。隊としては脱柵が減るのはいいことだけれど、男と女が真剣に付き合うことにおいては……。
その現象はさびしいことなんじゃないだろうか。とても。
「だよなあ」
今度は深々と息をつく。急にいくつも年を取ったように見えた。
「まあ、今夜は俺たちも寝もう。こいつも潰れたことだし」
和哉さんが言うと、ちょうど各務君がううんと寝返りを打った。タイミングを見計らったような寝返りに、私たちは笑みを漏らす。
「いい子ね、素直で」
「ああ。見所あるよ」
また連れてきていいか、と尋ねる。
私は笑った。
「今まで一度も私の許可なんか取ったことないじゃないですか。殊勝なこと言わないでいつでもどうぞ」
「ありがとう」
そう言って和哉さんは微笑んだ。
寝室に入って明かりを消すと、和哉さんは私を求めてきた。ごく自然に。
私はさすがに「今夜はだめ」と固辞した。だって、ふすま一枚隔てたところに各務君がいる。
酒をくらって寝入っているとはいえ、今夜はいくらなんでもまずい。
それでも和哉さんは収まらなかった。
「今夜はなんだか高ぶって、眠れそうにない。抱かせてくれ」
脱柵のこととか話したから昔の想いが蘇ってきたんだよ。そう言ってキスを浴びせてくる。
「でも、各務君が」
「あいつは起きないよ。大丈夫」
何を根拠に。そう言い掛けた口を塞がれる。
「……もう、こんなになっちまってる」
和哉さんは囁いて、股間を私の身体に沿わせた。身長差があるので、彼のものがお臍のあたりに当たる。
パジャマの上からでもはっきり分かる。屹立して存在を誇示している。
「しんどいの?」
私はふすまの向こうを気にしながら尋ねた。手でなぞってあげる。
和哉さんがあごを引く。
「かなり」
「……口でしてあげる」
今夜はそれで我慢してください。そう言って、私は彼の前にひざまずいた。
パジャマと下着を引き下ろす、布擦れのかすかな音でさえ、気になった。
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ムリ無茶はだめですっ!長引くしっ!!!!
この二人もいいですね~。
待つ楽しみもありますから、ゆっくりで!!!!
無事コルセットも外れました~
ご心配お掛けしてすみません。
ウォーキングくらいからリハビリしてもいいよとお許しが出たので、ぼちぼち社会復帰します(笑
どうも有難うございましたv