ジョウはふっと目を覚ました。
いつの間にかベッドで眠っていたらしい。アルフィンのふくよかな胸に顔を埋めて、幼い子供のように。
自分の頭を優しく撫でる手を感じた。顔を上げると、青い目が見つめていた。
「アルフィン……」
吐息をつくようにそっと彼女を呼んだ。
「すまん、眠ってた?」
「いいのよ。ぐっすり気持ち良さそうだったわ。もう少し眠る? それとも起きて何か食べる?」
簡単なモノなら温められるわよ、と彼の額に唇を落としながら囁く。その間もアルフィンは彼の癖の強い髪を無意識に指先で弄んでいる。ジョウはうーんと唸ってもう一度アルフィンの胸に頬を置き直す。すべすべでなめらかな乳房。この世でこんなにも柔らかいものが存在するなんて、ジョウはアルフィンと恋人同士になってはじめて知った。
頭がすっきりしない、朧がかかったようだ。眠りが濃霧のように幾層にも重なって白く思考を覆っている感じがする。
「疲れているのね。このまま眠って」
「いや……腹も減ってるんだ。久しぶりに君の作った飯が食いたい」
ラザニア、キッシュ、ミートパイ、グラタン、……リゾットもいいな、あさりの。あああれはクラムチャウダーか。
好物の料理の名前が次々と彼の口から出てくるからアルフィンはかすかに笑った。
「ミネルバでは誰が料理を作ってるの。当番制?」
「輪番制。でも、俺もタロスも皆目料理の腕はない。君がよく知ってるとおり。リッキーは俺たちより幾分ましっていう程度かな」
聞いてアルフィンは吹き出した。
「早くアルフィンの手料理食いたいなって、キッチンに立ちながら毎日思ってたよ。タロスとリッキーも、復帰を待ち望んでる。アルフィン戻って来ねえかなあって」
ジョウはすり、と彼女の乳房に唇を寄せて小声で囁く。
アルフィンは、旦那様が再び愛撫の気配を漂わせ始めたのを感じ、胸を大きく上下させた。彼の頭を抱きかかえるように押し包み、
「あたしも早く戻りたいわ。あなたと、みんなのところに」
唄うように言う。
「……あと4か月くらい?」
鼻先を乳房の間にうずめながらジョウが尋ねる。
「出産まではね。でも、子育てはしばらく陸でしなきゃならないから……。赤ちゃんが立ち上がるぐらいまでは、こっち(アラミス)かな」
と、言うことは復帰は早くとも一年半後か。ジョウは黙った。 でも、文句も言えない。
アルフィンはそんな彼の胸の内を的確につかんで、よしよし、とさらにジョウの頭を撫でた。
「しょんぼりしないの。元気な子を産んで、身体をもとに戻してまたミネルバに乗るから」
アルフィンは今安定期に入ったところ。身ごもったことが分かって、ジョウは彼女をいったん船から降ろして自身の故郷で過ごさせることに決めた。
できれば、一緒に暮らしたかったが……。母子の安全のため、致し方ない。
今は束の間の帰郷。仕事に片を付けて三日だけスケジュールに空きができたので、とんぼ返りを覚悟して強行軍でアラミスに舞い戻ったのだった。
アラミスの自宅に到着するなり、ジョウは愛しい妻を抱擁した。そして、取るものもとりあえず、寝室へと向かったというわけだ。
もちろん、アルフィンの身体に負担がかからないように、細心の注意を払って愛したつもりだ。(医師の指導も受けていた)
「うん」
頷くジョウを見て、大きな子どもね、まるで。長子が下の子ができると「子ども返り」する現象に似てるのかしらと思う。うっすら笑って、
「やっぱりご飯、用意するわ。食べた後、ちゃんと寝るといいわ」
「ん」
支度してくるわね。アルフィンはもう一度彼にキスを贈って、ベッドから抜け出た。ガウンを羽織って、階下に降りていく。その足音をジョウはベッドにもぐりこみながら聞いた。
「ーーお前、……服ぐらい着ろ」
一階に降りていく途中、父親とばったりでくわした。
トイレにでも起きたところだったか、ダンは、パジャマ姿だった。あきれ顔で階段途中で足を止めたジョウを見上げている。
ジョウはやべ、と焦ったが後の祭り。上半身裸で下はスウェットのような適当な衣服を身に付けただけの、だらしない姿だった。ふわああと欠伸をしながら腹を掻いて降りてくるところを見とがめられたのだ。
ダンは、やれやれと大げさに首を振って自室に引き取って行ってしまう。
ジョウは昨夜深夜、自宅に駆け付けて、アルフィンとあれやこれやした一部始終をいまの一瞥の間に父親に悟られたことを察し、一人赤面するのだった。
END
こちらでは、ジョウの帰郷を書きました。笑
お里帰り出産というより、アラミスで産ませるんじゃないかな、彼はと思いまして。。。。同居と相成りました。(笑)
浅草寺のおみくじは他と比べてかなりの確率で凶が入ってるんですよね。。。私も引いたことあります。まあ凶が出たってことはあとは上がるだけですから。素敵な週末だった様でそちらも楽しませていただきました。