背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

オモチャの指輪

2024年12月01日 16時20分57秒 | CJ二次創作
「アルフィン、ちょっといいか、入っても」
 ノックをしてドアの脇の「OPEN」のボタンを押す。と、アルフィンはルームウエアに着替えてベッドに腰かけていた。ゆるっと。
「なあに?」
 寝入りばなだったか。悪いタイミングで来たかなとジョウは恐縮する。
「いや、ごめん。昼の用件のことで聞きたいことがあってーーって、取込み中か」
 ベッドの上がキラキラしていることに気付く。よく見ると、指輪だった。石の部分がいやにイミテーションっぽく、部屋の電気をぴかぴか反射している。コレクション用のケースのクッションからいくつもの指輪を取り出して、シーツの上に並べているようだ。
「ああこれ。オモチャなの、オモチャの指輪」
 愛おしそうにそれらを見下ろし、アルフィンが言った。
 ジョウが目を細めた。
「きれいだな。よく、祭りの屋台とか、露店で売ってるやつだろう?」
 子供向けの玩具。自分にとっては、射的の景品とか珍しいカードとかに匹敵するもののはず。
「そうなの。あたし、小さい頃からこの手のオモチャ大好きで。キラキラしたのに目がなかったの。王室では外で買い物とかはご法度で、お母様とかにおねだりもできなかったんだけど。それでもね、見つけた時、ちょっとメイドさんとかにお願いして代わりに買ってきてもらったりしてたの」
 一つ、緑色の石のついた金の指輪を摘まみ上げて、懐かしそうに話すから、ジョウもそっと彼女のベッドの端に腰を下ろした。色んな形、色味のフェイクリングがある。男の俺の目から見ても可愛い。
 こういうのが好きだったっていうアルフィンの子ども時代は容易に想像がつく。に、しても……
「持ってきていたのか、これ。みんな。ピザンから」
 尋ねると、うんとちょっぴり恥ずかしそうにうなずいた。
「ここに密航するって決めた時、身体一つで行こうって思ったけど、これだけはね、【お守り】みたいなものだったから。何かあっても、これを見れば頑張れる、力をもらえるって思ったから、こっそり持ち込んだの」
「……本物の指輪じゃなくて、オモチャのを?」
 ジョウが訊く。
「うん。なんでかな、本物のね、宝石も一応一そろい買ってもらってたのね。国賓とか接待するために、王女として着飾るためにね」
 でも持ってきたのはこっちだったなあと呟く。自身の瞳が、指輪と同じだけ輝いている宝石みたいだとは自覚していない様子で。
「……アルフィンらしい」
 色んな意味を含んで、ジョウは言った。
「そうかな」
「ああ。君らしいよ」
 ふふ、嬉しそうに笑ってアルフィンは指輪を左の小指に嵌めた。すっと根元まで入る。
「子ども用だから、小指にぴったり。見て」
 手の甲を上にして、ジョウに見せる。その薬指には何も嵌められていない。
 ジョウは「似合う」と笑って言った。そして迷った末、
「ピザンに、ふるさとに帰りたいって思ったことはないか。アルフィン」
と口にした。
 クラッシャーの船に密航して、慣れない仕事、慣れない環境に身を置いた。辛い思いをしたときもあったはず。悩んだことも、きっと。そんなとき、ふとホームシックにかかったりしていないだろうか。戻りたいと思ったことはないか。アルフィンは一度も表に出さないけれども。
 ジョウの危惧をアルフィンは的確に察した。
 だから微笑った。
「ううん、一回もないわ、あたし」
「……こうやって【お守り】を開いていても?」
 今夜こうやってここで、私室でオモチャの指輪のコレクションを取り出して見ているということは、……そんなジョウの想いをアルフィンは打ち消す。
 彼の手に、そっと手を重ねて。その小指にはペリドットと見まごう美しい色身のアクリルの石が控えめに光る。
「うん。ジョウの側に居られるだけで、あたしは満足なの」
「……俺はまだ君に、何もあげられてない」
 ジョウは声を落とした。アルフィンのこの薬指にちゃんとした指輪を用意するのは俺だ。という自負はある。でも口に出して本人に伝えるまでには至っていない。
「どうして? もらってるわ、たくさん」
  アルフィンは首を傾げた。本当にそう思っている様子が、却って痛かった。責められている訳ではないのに。
「でも、」
と言いかけたジョウに、彼女は言った。
 船窓の外をそっと指さしながら。
「あなたには、たくさんもらったから。ーーキラキラしたもの。目いっぱい」
 ジョウが視線を向けた先には、漆黒の宇宙とそれを彩る無数の星々が散らばっていた。
 指輪と同じだけ、いやそれ以上に美しく瞬く、銀河の宝石。
 アルフィンが言う。
「宝物よ。ジョウがくれたの、たくさん。持ちきれないほど」
 ジョウと逢わなかったら、こんなにたくさんの星が宇宙にあるって、あたし知らなかった。ーーだから、お守り。あたしだけの。
 そう囁くから堪らなくなって、ジョウはアルフィンをぎゅっと抱き寄せた。
「ジョウ」
「いてて」
 抱いたタイミングで、彼の膝がシーツの上に置かれたオモチャの指輪をいくつか踏んでしまったので、思わず情けない声が洩れた。でも、抱いたアルフィンの肩は離さないジョウだった。

END

クリスマスシーズン突入ですので、それっぽいハートフルなお話をお送りできればと思います。

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