自衛隊はいつも悪者

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変見自在 オバマ大統領は黒人か/高山 正之

第三章 世界に憚る劣悪国家 自衛隊はいつも悪者 (p131-134)

 
今から半世紀前、東京五輪が行われたころの北海道の海ではソ連の警備艇が好きに日本漁船を捕まえ、乗組員を強制労働に使い、奪った船はソ連の漁民に払い下げていた。
 ソ連はロシアの昔からごろつき国家のままだった。
 強制労働の年季は五年くらいで、それが明けて抑留漁船員が帰ってくるのを一度取材したことがある。
 根室沖で拿捕された若い漁船員の留守宅では、抑留中に生まれた娘に、これがおとうだよと母が一葉の写真を見せていた。
 その傍らでおじいさんが「戦前はよかった」と道い目で昔話をしてくれた。

 南樺太がまだ日本領だったころだから、漁船はオホーツク海の奥の奥にも出かけた。
 それをソ連艦がハイエナのように襲ってくる。日本漁船は逃げる。            ゛
 しかし敵は船足が速い。あわや僚船が拿捕される、というとき忽然と黒い艦影が南に現れ、急速に迫ってくる。
 「我が駆逐艦だった。みんな歓喜の声を上げた。ソ速艦は逃げていった」
 すれ違う艦の舷側から水兵が手を振っていた。それが頼もしく、なぜか涙が止まらなかった、と。
 戦後、鮮やかな海軍旗をつけた駆逐艦は消え、ロシア人の海賊だけが残った。

 やがて自衛隊が生まれたが、戦前と違って肩身の狭い生き方を強要された。
 北朝鮮が攻めてきても自衛隊の車は交差点の信号は厳守、高速道でも料金を払わされる。そこらのパトカーだって私用でただ乗りしているのに。

 海はもっと肩身が狭い。海防を担う海軍艦艇はどの国でも自国領海では優先航行権が与えられる。
 当たり前だ。空母キティホークの右舷側(スターボード)から小さなイカ釣り船がやってきました。
 そしたら八万トン空母が右に転舵して釣り船を避けました、となるか。

 しかし日本ではその常識が通用しない。朝日新聞は「自衛隊は日陰者、特権など笑止、偉そうにするな」と執拗にいやがらせをしてきた。実にイヤな新聞だ。

 それで自衛隊も小さくなって生きてきた。東京湾に入った二千二百トンの
潜水艦「なだしお」もそうだった。
 気がつくとスターボードから小型の釣り船が接近してきた。
 艦長は朝日の言うとおり並みの船になって右に転舵し回避行動を取った。
 一方の釣り船の船長はでっかい潜水艦がきた、傍まで行って乗客に見せてやろうと思った。
 まさか国防を担う大きな潜水艦が小さな船のために転舵・回避行動を取るとは夢にも思わなかった。

 しかし潜水艦は右に転舵した。船長は慌てる。慌てすぎてありえない左への転舵をして、回避した潜水艦と正面衝突した。三十人が死んだ。

 「なだしお」は世界の軍艦がそうしているように胸を張って進めばよかった。しかし朝日の執拗な自衛隊いじめを受けて防衛庁の愚かな官僚が「制服組はただひたすら卑屈にしていろ」と命じていた。
 「なだしお」の艦長はそれで卑屈に行動し、それゆえに起きた不幸な事故だったが、朝日新聞はここで掌返しをする。

 卑屈に行動するよう自衛隊に強いてきた朝日はそれを一切論じないで「見張り義務違反」とか適当な因縁をつけて「やっぱり自衛隊が悪い」とやった。
 横浜地裁では馬鹿な裁判官がその朝日に乗って艦長を有罪とした。
 海難審判はちょっとましで、艦長より釣り船船長の過失を大とした。

 しかし最も大事な点、つまり国防の任にある艦艇の優先問題はここでも論じられなかった。
 房総沖で海自のイージス艦「あたご」と漁船がぶつかった。「なだしお」のときと同じく今度もスターボードから漁船がやってきた。
 
「あたご」は「なだしお」を教訓に無用な転舵を避けた。世界の常識に従い直進したら事故になった。

 朝日新聞は「目の前の漁船すらよけられないのならどうやって日本を守るのか」と勝ち誇れば、漁民も朝日に吹き込まれた通りに騒ぎ立てる。漁船の親子が居眠りしていたことを知っていながら黙っている。卑屈極まりない。

 だいたい国防の大切さを朝日が言うなどいかがわしい限りだ。そういうならその任に当たる艦艇が小船に遠慮するような手枷足枷を外すのが先だろう。
 日本の海の防人がどうあるべきか。与太新聞に踊らされる前に根室の老人の話をもう一度噛み締めたい。
(週刊新潮/二〇〇八年三月六日号)

*「イージス艦あたご事件」の高山さんコラムとMSN産経ニュースをPDFにしました。
コチラ

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