区長様の有給休暇/高山正之

区長様の有給休暇/高山正之(ジャーナリスト)
2010年5月14日 VOICE

ロサンゼルスの人口は約400万人。市内の、たとえばワッツは暴動が付きものの黒人居住区だし、その南のコンプトンは名だたる犯罪地区。ここに車を停めて10分して戻ってみたら、タイヤはおろか、ドアもハンドルも力ーラジオもなくなっていたという話がある。 
 市の中心街の西側にはコリアンタウンが広がる。そこで万引きをした黒人少女を、店番の韓国女が撃ち殺した。ロサンゼルス暴動(1992年)の真の原因になった事件だ。
 
 ロス暴動は不良黒人ロドニー・キングを袋叩きにした白人警官が無罪になったのがきっかけだが、怒れる黒人たちが襲ったのは白人街ではなく、このコリアンタウンだった。街は4日間燃えつづけ、50余人が死んだ。その大半は襲った黒人と襲われた韓国人だった。どこに行っても嫌われる民だ。
 
 海岸沿いのサンペドロは夜ごとの黒人ギャンクの抗争で知られる。おかげでロス検死官事務所には、週末の3日間だけで平均22体の殺人遺体や変死体が運び込まれる。
 
 犯罪と人種問題が山積する巨大都市を仕切るのは、市長とたった15人の市議だ。市議の年間歳費は10万ドル(約1千万円)。市長も似たような額だが、ロス暴動のあと就任したリオーダン氏はそれを返上して年俸1ドルを通した。「この街が私を支えてくれた。そのお礼がしたい」と1ドルメイヤーは社会奉仕を就任理由に挙げていた。市議も会社なら課長級の安月給について同じく「社会奉仕」を口にする。
 
 俳優クリント・イーストウッドも同じころカーメルシティの市長に就任したが、年間歳費は市役所への通勤ガソリン代200ドルだけ。これが選挙で選ばれる者の共通した意識だろう。
 
 では東京はどうか。人口400万人のロスをモデルに単純計算すれば、人口1200万人の東京は都議45人で間にあう。一国の首都という立場を勘案してもまあ60人で十分だろう。日本人議員が米国人に劣るとも思えない。
 
 しかし現実は都議が127人もいる。歳費もロス市議の2倍を取り、おまけに意味不明の文書費だのなんだのの別封給料も取る。その点は首長の都知事も同じで、高額歳費のほかに派手に交際費も使いまくる。
 
 都民の苦痛は金遣いの荒い都知事・都議セットに加えて、23区などに別枠の首長と議員のセットを約40も抱えさせられていることだ。全部合わせれば2500人。ロスに比べると、じつに60倍にもなる。それが皆クリント・イーストウッドだったらまだ救われるが、誰一人、社会奉仕精神の持ち合わせはなし。民主党議員などは偽領収書まで使ってもっとカネをせびる。
 
 なかでも分からないのが区長の存在だ。区は都の出先機関で、独自の仕事といったらマンホールの蓋のデザインを決めることぐらい。昔のように都庁の任命で済むのに、わざわざ高いカネを掛けて選挙で選んでいる。
 
 そんな盲腸のくせに、たとえば文京区は560億円も掛けて超高層庁舎を建てた。赤ン坊まで入れて区民1人3万円を拠出させた計算だ。マンホールの蓋のために、なぜこんな豪奢な庁舎が必要なのか。
 
 その文京区長、成沢広修氏が厳かに記者会見を開いた。社会奉仕に目覚めました。区民へのたかりをやめて歳費を100円にしますというのかと思ったら「2週間の育児休暇を取って長男の育児に専念する」だと。その理由がふるっている。
 
「(育児休暇を取っても)キャリアロスにならないことを自ら示し、男性職員に育児休暇を勧めたい」
 
 ただでさえ暇な職員をもっと休ませるために自ら範を垂れる意味が分からない。これが記者会見するほど意味のある話と思い込む神経はもっと分からない。それで休んだ分のサラリーは当然の権利でとるという。区長様の有給休暇だ。
 
 半月休んでも仕事に支障がないという辺りは区長・盲腸説を裏付けた意味はあるとしても、こんなのを選挙で選ばせられる区民がなんとも可哀相だ。

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