【佐藤優の地球を斬る】思惑入り乱れ チェチェン情勢緊迫

IZA
【佐藤優の地球を斬る】思惑入り乱れ チェチェン情勢緊迫

日本では、ロシアの強権的支配によって、チェチェンの独立派が抑えつけられているという印象が強いが、実態はそれとはかなり異なる

北コーカサス土着のチェチェン人と19世紀後半から20世紀初頭にロシアから中東に亡命したチェチェン系移民との対立がある。1994~96年の第一次チェチェン戦争において、土着のチェチェン人武装集団と中東から駆けつけたチェチェン系義勇兵が連携してロシア連邦軍と戦った。第一次チェチェン戦争に、事実上、チェチェン独立派は勝利した。しかし、その後、チェチェン人の間で深刻な路線対立が生じた。

土着のチェチェン人はナショナリズムに基づいて行動した。すなわち、チェチェンが独立した国民国家になることを目標とした。これに対して、イスラーム原理主義のワッハーブ派の影響を強く受けた中東の義勇兵たちは、ナショナリズムに価値を認めず、国民国家の枠を壊し、コーカサスと中東、中央アジアを貫くイスラーム帝国を建設しようとした。そして、民族派の土着チェチェン人とイスラーム原理主義派の中東系チェチェン人が武装対立を起こすようになった。中東系チェチェン人はアルカーイダとつながる国際的ネットワークをもっている。土着のチェチェン人は守勢に追い込まれた

 ここにモスクワが巧みな介入をした。プーチン前政権は、「チェチェンがロシア領であることを認めれば、実質的な統治は君たちに任せる」とチェチェン人ナショナリストに水を向けたのである。イスラーム原理主義者に浸食されるよりはモスクワと手を握った方がよいと考えたのがカディロフ現大統領を中心とするグループだ。このグループは決してモスクワの傀儡(かいらい)ではない

イスラーム原理主義の武装勢力は、カディロフ政権にチェチェンを実効支配する能力がないという認識をロシア政府にもたせるように腐心している。そして、モスクワがチェチェンを直轄統治する方向に誘導している。そうなれば、「イスラームの館に異教徒であるロシア人が侵攻してきた」という危機感を煽(あお)り、中東の義勇兵がチェチェンに再び結集する流れをつくる

グルジアのサーカシビリ政権は、2008年8月の対ロシア戦争の敗北をどこかで挽回したいと考えている。「敵の敵は味方である」という論理に従って、イスラーム武装集団の反露闘争を目立たない形で支援する可能性がある
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