なぜアメリカの大統領は極端に若いのか?

シェーン・スノウ

なぜアメリカの大統領は極端に若いのか?

人生をスマートにカットするコツを学ぶ

平均就任年齢は55歳!

アメリカでは300年近くにわたって、ある奇妙な状態が続いている。どういうわけか歴代大統領が上院議員よりも若いのだ。
 
米国大統領の平均就任年齢は55歳。かたや米国上院議員に当選する平均年齢は、本書執筆時点の最新データによれば62歳。ちなみに下院議員は57歳だ。
 
大統領が議員より若いというこの現象は、ジョージ・ワシントンなど米国建国の父らが亡くなってから、今に至るまで続いている。高齢になってから大統領に就任した例もいくつかあるが、それでも平均就任年齢が60歳を超えたことはない。

 
本来、上院議員よりも大統領になるほうがはるかに難しいのだから、この統計はいかにも奇妙だ。そもそも上院議員は、大統領への“足がかり”と考えられてい る。だが、初めて連邦議会に進出する新人の上院議員でさえ、最近の平均年齢は56~57歳だ。上院議員が議席を手にする前に、大統領はトップに上り詰めて いることになる。

なぜ?若くてハンサムだから? そんな素人説明では筋が通らない。容姿だけで大統領になれるくらいなら、なぜ若くハンサムな上院議員が生まれないのか。大統領選挙と連邦議会議員選挙のデータを見ると、若者の投票率が原因というわけでもない。

成功は加速する

高齢者の権威が薄れたと言っても、歴代最年長のレーガン大統領が就任したのは1981年だから、どちらかといえば最近の話だ。その後継となった ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は64歳で就任。歴代4位の高齢で、むしろこの2人で平均年齢は引き上げられている。選挙制度の意図的な変更や選挙運動 資金の法律改正にもそれらしき理由は見つからない。大統領選の敗者も平均年齢は当選者と変わらない。
 
連邦政府の下院議員、上院議員を経て、副大統領、そして大統領という4段階の出世コースを律義にコツコツ上ったのは、歴代大統領(現行のオバマ大統領は第 44代)のうち、リンドン・B・ジョンソン、リチャード・ニクソン、アンドリュー・ジョンソン、ジョン・タイラーのわずか4人しかいない。そもそも連邦下 院議員出身者さえ歴代大統領の半数強に過ぎない。

さらに興味深いのは、政界のトップに上り詰めるのにかかった期間だ。最年長大統領上位10人は、平均して9年間、連邦議会議員を務めている。高齢の大統領は、一般に連邦政界の階段を四半世紀かけて苦労しながら上ったと思うかもしれないが、実は違う。
 
上院や下院での議員経験年数で見ると、ほとんどは大統領の座をつかむまでに連邦議会議員(州議会での経験を除く)として平均約7年過ごしている。また、地方政治も含め、議員経験がまったくないままホワイトハウス入りした大統領も5人いる。

米国大統領の座は世界でもとりわけ大きな成功と言えるが、米国に昔から伝わる立身出世の鉄則には当てはまらない。まるで出世の階段(ラダー)を自ら発明したかのようだ。

歴史を見ると、急成長する企業、名物社長、一夜にして有名になった映画スター、ベストセラー商品などは、アメリカ大統領と同じパターンをたどってい る。成功への1つの階段を普通に上るのではなく、あざやかな手法で新たなルートを発見したかのような動きをし、ライバルを一気に出し抜いているのだ。

成功への階段を攻略する行動を、筆者は「ラダー・ハッキング」と呼んでいる。

「小さな成功」を積み重ねる

カール・ウェイク博士は1984年に学術誌『American Psychologist』に投稿して話題を集めた論文の中で、「小さな成功それ自体はさほど重要でないように見える。しかし、小さくても重要な仕事で成 功を積み重ねていくと、支持者を増やすとともに敵対者を遠ざけ、その後の提案に対する抵抗を抑え込むパターンが見えてくる」と指摘している。「小さな成功 を達成すると、次の小さな成功を呼び込む方向に動き出す」のだ。
 
さらに、成功への“階段の切り替え“と“頭の切り替え”が重要となる。事例を見てみよう。

かつて携帯電話市場は電話会社に牛耳られていたが、世界で売れ行き絶好調のスマートホン「iPhone」を売り出したのはパソコンメーカーだった。
 
任天堂は元々花札メーカーからスタートした。タクシーの配車業務やインスタントライス販売、ホテル事業など手掛けた後、急速に立ち上がった米国のビデオゲーム市場で成功の階段にたどり着いた。
 
作家のジェームズ・パターソンは、累計2億7500万部を売ったベストセラー作家だが、文学の世界に入る前は広告会社の役員だった(むろん、ベストセラー には、マーケティングのノウハウが生きている)。数々の受賞歴のある女優ゾーイ・サルダナは、バレエダンサーから映画スターに転身した(最初の役どころは バレエダンサーだった)。

エンターテイナーや有名人が「一夜にしてスターダム」にのし上がることがあるのは、こうした仕組みがあるからだ。自分の古巣で懸命にがんばりつつも、別の分野で階段を見つけて一気に駆け上がり、人々を驚かせるのだ。
 
このような“階段の切り替え”は、企業の成長を加速させやすい。軸足を移し、ビジネスモデルや主力製品を切り替えて上向いた企業は、従来の道にとどまり続けた場合と比べて、はるかに大きな成果を上げる傾向にある。
 
技術系ベンチャー企業についてまとめた「スタートアップ・ゲノム・レポート」の2011年版によれば、「1回または2回の方向転換を経験したベンチャー企 業は、そうでない企業と比べて、売上が2・5倍、ユーザー獲得率が3・6倍に増える一方、未熟なうちに事業拡大で失敗するケースが52%少ない」という。

歴代アメリカ大統領の「前歴」

歴代大統領のおよそ3分の1は、わずか数年という短期間で政界の頂点に立っている。大学で政治学の学位を取るよりも早いのだ。彼らは大統領の座をつかむ前に何をしていたのか。

・ハーバード・C・フーバー……慈善家→商務長官→大統領
・ウイリアム・H・タフト……検察官→判事→フィリピン総督→米陸軍長官→大統領
・ドワイト・D・アイゼンハワー……バター工場工員→米陸軍大尉→大将→第2次世界大戦時の連合国軍最高司令官→大学学長→大統領
・ジョージ・ワシントン……農場経営者→大陸会議代議員→大陸総司令官→大統領
・ウッドロウ・ウィルソン……大学総長→州知事→大統領
・エイブラハム・リンカーン……州議会議員→弁護士→下院議員→弁護士→大統領
・ジョージ・H・W・ブッシュ……会社経営者→州知事→大統領
・ジミー・カーター……米海軍→ピーナッツ農家→上院議員→州知事→大統領
・ロナルド・レーガン……俳優→州知事→大統領
・バラク・オバマ……弁護士→州議会議員→上院議員→大統領

まず目に付くのは、誰一人として同じ道をたどっていない点だ。慈善家や大学学長、俳優もいる。その多くは政治にも長けていたが、彼らはただ上へ上へ と出世街道を突っ走ったわけではない。政界以外のさまざまな分野で成功の階段を上り、最後に大統領への階段へ飛び移っている。階段を切り替えることで、い わゆる下積み生活を迂回し、「もっと大きくもっと良く」のサイクルを加速したことは明らかだ。単に総督や慈善家というだけで、大統領に迎えたいと思う有権 者はいないだろう。

「シナトラの法則」

ニューヨークという街は、世界中から人が集まってくる。フランク・シナトラが「この街で通用するなら、世界のどこでも通用するさ」と名曲「ニューヨーク・ニューヨーク」で歌うように、人は“力試し”のためにこの街にやってくる。
 
実際、ニューヨークは、芸術だろうがビジネスだろうが、あらゆる分野に挑む者たちのグローバルな尺度になっている。「ニューヨークで弁護士をやっていたの なら、優秀に違いない」と。ニューヨークで最低の弁護士だったとしても、そんなことは関係ないのだ。「ニューヨークで通用するなら、世界のどこでも通用す るさ」と評価されるのである。 これを本書では「シナトラの法則」と呼んでいる。

大統領候補に対する世間の関心は、政治家としてのキャリアの長さではない。元ジョージ・H・W・ブッシュ大統領顧問で大統領の歴史に詳しいダグ・ ウィードは次のように説明する。「リーダーとしての資質です。世論調査によれば、大統領候補に一番に求められるのは、『強くて決断力のあるリーダーシッ プ』です」。
 
きわめて短期間で大統領の座をつかんだ候補たちは、シナトラの法則をうまく生かしてリーダーシップを印象づけていたことがわかった。例えばワシントンは陸 軍司令官、ウィルソンは大学総長、レーガンは州知事(そもそも役者からの転身)を務め、リンカーンに至っては新党を立ち上げ、全体の利益を優先させる謙虚 さを貫いた。
 
ドワイト・D・アイゼンハワーは連合国を率いてヒトラーと戦い、勝利に導いたが、それ以前に選挙で公職に選ばれた経験がない。だが、大統領選では対立候補 の5倍に上る選挙人を獲得して圧勝している。「この街(ここでは「第二次大戦」)で通用するなら、世界のどこでも通用するさ」というシナトラの法則が見事 に有権者を動かしたのである。

これが「スマートカット」だ

さまざまな分野を渡り歩く階段の切り替えは、選挙でプラスになったし、実際の仕事にも大いに役立つ。立派な大統領になるためには、「とっさの判断力が不可欠」と前出のウィードは指摘する。

かたや上院議員や下院議員は、一般に形式重視のピラミッド社会の中で下積み生活に耐え、昇進競争を戦う。議員の世界は一足飛びに大出世を遂げるわけにはいかない。「議員をめざす人間は、とにかく着実に駒を進めるしかない」とウィードは説明する。
 
でも、大統領は違う。はたしてどちらに学ぶべきだろうか?

もはや昔ながらの出世の階段を上るような時代ではない。それは政治の世界に限らない。ビジネスしかり、教育やエンターテインメントの世界でも同じだ。従来の成功への道のりは時間がかかるだけでない。競争力や革新力を発揮したくても、現実味に乏しいのだ。

“下積み主義”を捨てて、真の成果主義に軸足を移すことになるのだから、悪い話ではない。だが、そこで成功するには、これまで以上にハッカー流の発想と起業家型の行動力が求められる。単にがむしゃらに働くのではなく、賢くスマートに働く必要があるのだ。

ベンチャー企業が急成長するのも、歴史ある企業がさらに成長を遂げるのも、同じ理由による。こうした人々や企業は、成功への階段(ラダー)をいかに あざやかに攻略(ハッキング)するかを常に考えている。それこそがまさにラダー・ハッキングであり、スマートカットの重要な戦略の一つである。

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