にざかな酒店

とある演劇サークルの記 うまくやって余計に難しく

「さりちゃーん、ちょっとまちーや、君」の二話目。
ある意味変人度では円城くんの上を行くかもしれないのではないのでしょうか、さりちゃん。
と言っても円城くんと同じようにあまり自覚はないようです。彼女。
うーん、難航しそうですね、これは…。ある意味での自分探しのテーマには合いそうですが。
とある演劇サークルの記第二章 うまくやって余計に難しく

「うーさんって、朝弱いんだよね。授業とか大丈夫?ついていけてる?」
と、親切ぶったシロ先輩がうーさんにギャルゲ的展開をいきなり押し付けてくる、今日のサークルの開始時期であった。もちろん、私は「いえいえ、私、うーさんと同じゼミですから私がフォローできますから」というフォロー。
しかもよく考えたら、シロ先輩って学科(シロさんは薬学部、私たちは文系)違うじゃないの。
んっとに、うーさんみたいないい匂いのする女子にそれとなくギャルゲー展開望むなんて、男はこれだから油断できない。
でもシロ先輩は「まあそういうことなら、さりちゃんに見てもらえばいいかなっ」と物分りが良い人でもあった。もう少し押しの強い方が追い払いがい、あるんだけどな。ってまた私、キャラが違う。
とりあえずシロ先輩がちょっと円城さんたちと話しに言ったところで、私はコソコソとうーさんと喋る。って言うか、シロ先輩は顔も声もいいんだからしょうもない女子いっぱい寄ってくるでしょー?そう言うの、相手すればいいのに。ってあんまり言うとまた円城さんに「女子の女子目線から女子ってそんなもん」ってのが刷り込まれてるって言われるか。
「でもあれだよ、うーさん。民族的には男の人の家に行っただけでいきなりご飯食べてたら犯されてお嫁にされちゃうようなとこもあるんだよ?」
えええ、と驚いたうーさん。
「そうだよ、いい人とか悪い人とか関係なくてそういう風習のところあるんだから、男の人にホイホイついてっちゃダメ」
「え、えーと…シロ先輩は一応日本人だから大丈夫と思うけどー」
と、紅い顔でもにゃもにゃと言いながら、でもうーさんは私の目を見てしっかりと言った。
「それって、確か「本が好き、悪口言うのはもっと好き」のモンゴル族かなんかのお話だよね?」
「あれ、うーさん、あれ読んでたの!?」
思わず、口に出して言ってしまう。うーさんの指摘通り、私のセリフはその本がもとだった。
「うん、さりちゃんって意外と本読むんだね。今までそんな話題出たことなかったからー。さりちゃんは本読まない人かと思ってた」
ほのかに笑いながら、うーさん。
「そんなことないよ、私結構本読むよ?」
そういえば、そんな話題はしたことなかったかな。
「エッセイとか読む?ナンダロウアヤシゲさんの本好き女子のお悩み相談室とかも面白いけど」
「え、なに、その著者名…ナンダロウアヤシゲ?」
「そうそう、女子のお悩みに本で解答くれるって言う。南陀楼綾繁さんねそれとかー」
と言いつつ、ちょっと考えながら。
「斎藤美奈子の読者は踊る、とか。あほらし屋の鐘がなるってのもあるけど」
「あほらし屋の鐘がなる?」
「本のタイトルだけど、昔の大阪の言葉らしいの。面白いね、昔の言葉って」
へええ、面白そうだなあ。って、あれ、ラブコメ(ギャルゲ?)展開阻止したのにうーさんと仲良くなってどうするの、私…。いやいや、フレネミーとか、そんなん結局バレたらうーさんにもシロ先輩にも白い目で見られて両方からいじられて終わり、みたいな、そんな展開は絶対避けたいし。そう、今までせっかくいい子ちゃんでやってるのに、そんな実績崩したくもないしうまくやりきる演技力も自信ないし、あれ、あれ?ちょっと、これ普通に友達にならなきゃいけない感じじゃない?ええ?
ちょっとーお…。墓穴掘ってるじゃん。どっちにしても戻れない、みたいなー。もうー。
ちょっと、こう言うとこに、さらにむか、みたいな。
そんなことを言ってたら、円城さんが繭子さんに言っていた。
「なあ、東京オリンピックの頃から万博回想するとか言う話になってたからちょっと気になってたんだけど、東京オリンピックの頃には日本の女性は二人に一人が50代に突入してる、とか言う話になってるんだってよ。その辺も考慮して台本書いた方が良くないか?」
思わず口を挟む私。
「ああ、それって「未来の年表」の話ですよねー?私もそれは気になってました!」
「あ、さりちゃんも知ってたか。さすがだな。」
「そうなの?そうね、それは知らなかったわ…また台本書きなおさなきゃ」
「へえ、さりちゃんすごいな」と渋谷くんにも言われてつい、えへへ、となる私。
なんかこれはこれでいいような気もしてるけど、中途半端に浮いた心は地につかないまま。

その夜、私は寝床で言って見たこのセリフ。
私の役の「東京オリンピックは近いって言ったって、まだ起きていない事実だし。万博の頃まで想像できないまま。その頃まで私は生きていないかもしれないし」
未来はわからない。そのことにちょっと安心感と、不安感。
繭子さんの考えた私のセリフは不思議な居心地の良さがあった。
すぐ先もわからない世の中に、「ここまで」の未来の線引きをする、行事。
闇がやってくる。おやすみなさい。
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