ああもう色々思い出して語りすぎて疲れたわ。疲れた疲れた疲れ探偵。
相変わらずの物騒モードで失礼しますー、はいー。
では続きでどうぞ。
疲れ探偵 真後ろ殺人(未遂)事件
探偵が電車を待っている。電車の乗客はまばらの一番のメインの通勤ラッシュの方々とは関係のない時間帯、つまり昼。電車とはいえ地下鉄なので昼でも暗く、照明も大人しめ。気分程度に壁画のようなものが描かれているがやはり若干の閉塞感。
(あんまり好きじゃないんだよなあ、地下鉄…いっときはかなりお世話になったけど)
と探偵はブツブツ思いつつ、吹き抜ける冷たい風を感じている。
その時、反対側の乗り換えのフォームからやって着た派手な金髪の若い男が列の一番最後に並び、事件は起きた。
なぜか彼の前に立っていた女がいきなり刃物を持ち出したのだ。
探偵は完全に電車の方を向いていたので、気づけば男と女が取っ組み合って包丁を奪い合っているのである。
「な、なんだこの女!!やめろって!」
「あんたがやめなさいよ!!返して!」
ちょっと待ちーや、なんだその展開。と探偵は二人の間に割って入る。もう既のところで男の方が彼女を刺すところだった。
「ま、待ってくれ、君たち。君たちはそのー…痴情のもつれかなんかなら、もっと別のところで」
ゼエゼエと息を吐きつつ、探偵はそのように聞いた。
「痴情のもつれとか、こんな知らん女とかとねえよ!」
「じゃ、じゃあなんでいきなり包丁とか出てくるのかな…?」
「新手の通り魔じゃねえの!?」
「女の人の通り魔ってそうそういないもんだけど。もうちょっと毒殺とかそんな…」
「じゃあ誰か殺しに行く最中だったとか、そんなんだろ」
と、男二人が取り上げた包丁を持ってああやこうやの言っている間、くだんの彼女は放心気味だった。
「えーと、お嬢さん。解答は?」
「ええっと…私、またやってしまったんですね。私、どうも知らない人に真後ろに来られると人格が変わってしまう病らしいんです」
そ、そうきたか、と探偵はがっくりと肩を落とし、彼女を観察した。
見たら女はだいぶ大人しそうなちょっとふっくらとした可愛らしい顔の女性だった。行ってても三十代くらいで、服装も派手さは全くなく、普段着だが事務服のような紺色のワンピースで化粧もほとんどしていない。
「どういうこと?」
「何がコンプレックスだったのかはわかりませんが、昔私は後ろから抱きついてきた高校時代の恋人を知らずにボコボコにしてしまいました。それが最初で、あとは古本屋で本を見てる私の後ろに来た人にうっかり空手チョップを食らわせてしまったり」
「っていうか、そんなやばい奴が何包丁持ってんだよ」
ふざけてんじゃねえぞ、と若い男。
「電車もそろそろ来そうだし、俺このまま乗ってっていいか?とにもう。俺急いでんだよ」
「いやいやいや、君。当事者がこのままいなくなってどうするんだ。」
「いーよ別に。事情適当に聞いとけよ。それより俺は彼女に会いに行くんだからな!」
犬に噛まれたくらいよりも軽い扱いである。いいのか、それで。
そのうち、ゴーと音を立てて電車がやって来た。だいたい電車って銀色ボディだよな。となぜか若い男が呟く。
「ま、いいから適当にやっといて。んじゃーなー」
被害者があまりに軽いノリであっさりと電車に乗って行ってしまったため、残された遠巻きに見てた集団と当の加害者含め、全員ポカーン、と口を開けてしまった。
「えーとー…刃物はなんで持ってたのかな」
「これは、そのー…うちの包丁、だいぶきれなくなってたから…いいやつなんです、この包丁。堺の名産品の、特にいいやつなんです。」
うっとり、じゃないよ、君。
君やっぱちょっとやばいやろ。
「ええと…みなさん、彼女どうしましょう。ほっといていいと思いますか…?」
ちょっと困った探偵はポカーン集団を眺めてそろそろと聞いた。
「まあ、でも俺らもちょっと急いでるし。これで10分遅刻した」
と中年のスーツの営業マンらしきおっちゃんがいう。
「肝心の被害者がいなくなっちゃいましたからねえ…」
と初老の男性。
「ちょっと起訴しようにも、被害者がねえ…」
「まあいいんと違う?私も真後ろ立たれたらちょっと殴りたくなるときあるし」とおばちゃん。
「っていうかなんか駅員さんもいてないし。」
「うーんー…まあ、いいことにするか…そうそう、どうせなら、君でっかいリュック背負って歩きなさい」
納得はいかないがとりあえず探偵は犯人にアドバイスをする。
「でっかいリュックならまだクッションになるだろ」
「ああ、それは気づきませんでしたね」
「荷物もできるだけいつも重くしておけば動きも鈍くなっていいんじゃないかな」
「なるほどー」
「と、こんなもんでいいですか、みなさん。」
「ってかまた電車きたでーみんなのろや。」
「ま、そゆことで」
と、みんなぞろぞろと電車に乗って行き、結局加害者は不起訴になったのであった…。
若干の「これでいいのか」感を残しつつ事件は終わる。
(とりあえず…目当ての駅に着いたらゆっくりコーヒーでも飲むか…)
疲れるなあ、はあ。と出口の見えない地下を走る電車の中で探偵はため息をつくのであった。
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