にざかな酒店

とある演劇サークルの記二章 少女漫画に疲れた私#2

ってことで、あんまり乗ってきたので一気に仕上げてしまいましたがな。昨日に二話目が上がってて今日二、三話目を上げているので読み飛ばしの無いようにお願いしますー、よろよろ。
なんとなくだいぶ作者的には「描いてしまった感」のある内容。
まあでもだいぶ積み上げてきたから、意外性はそんなに無いかーな?
では続きでどうぞ。
とある演劇サークルの記第二章 少女漫画に疲れた私#2

はああ、と私は部室でため息をついた。
今日なんかみんな用事とか言ってたかなあ…?誰もこないんだけどーお。
だいたいうーさんも私と一緒に授業終わってんのになんで私と別行動なのよー。気づいたらいなかったわよー。どうなってんの。またシロ先輩がアプローチしたかー。っとに。
しかし、うーさんなんて本当に勝ち組女子よね。
肉食女子気取ってあちこち玉砕してはスカタン扱いされる鏡花さんなんかに比べると草食系っぽくておとなしくはあるけどなんて言うか、愛に関して感受性が高いよね。彼女は。
もうちょっと忘れない程度にシロ先輩がアプローチするだけで十分幸せそうだし、なんか全然ガツガツしてなくてさあ…。少女漫画の究極系を地で行ってやがりますわー。
ああ、もう疲れすぎて自分にキャラが違うとか言うツッコミもするのも疲れるわ。
少女漫画は身近でやられると究極系に疲れる。
私も実はその、異性とは経験がないのだけども、うーさんとは事情が全然違いすぎて、うん。
どっちかと言うと私は鏡花さんよりなのだ。
それはどう言うことか。
逆に情が多すぎて一人の人とそこまで親密になることがなく、もう次に行っていると言うか。
ふわふわと安定感がないと言うか。実はそんななのだ。
だからこう、やっぱり小夜香さんには嫉妬しない、とか鏡花さんはどうでもいい、と言うかそう言うのはそこらへんからきてるのだ。ぐったり。
そっか、だから余計うーさんとか繭子さんとかそう言う人たちにイラムカするのだね…はああ。
って言うかな、いっそ彼女らが彼になる男子と一線を超えてくれたらこんなにイラムカせんかなあ…とも思うのだけども。ああ、ダメダメ。想像力の限界。
って言うか、この想像(妄想)なんかちょっとおかしい?う?むーん…。
おかしいなんてもんじゃないぞ。
…うん、なんでシロ先輩役が私なの。

ありえへんありえへんありえへんありえへんわっ!!

あかん、こんなこと思うなんて本当にあかん、おかしい!コンビニで氷買ってきて氷水被るわ!
と、椅子からガバッと立ったところで、ドアのところに気配。
「うーさん!?」
このタイミングで、と思ったが、実は泣き濡れた鏡花さんだった。
「えええええ~ん、さりちゃん~また失恋したよーう」
またかっ。と、ピキっとしつつも一応妄想が飛んだので、私は愛想笑いを浮かべて相手をする。
「えーと、今度は誰に?」
「って言うかー、まーた夢に元彼が出てきてー、なんでまた出てくるのー」
人がまともに話を聞こうとしてるのに、だんだん支離滅裂な話になってくる。
私は人がよく相槌を打つのに頑張っていたが、もうなんと言うか非常にうっとおしくなってきた。
「あー、はいはい、えっと…で、夢のお告げの通りに別れるつもりが逆に相手から別れようって言われたんですね?」
つまり要約するとそう言うことなのだが、話し方から三倍くらいはその話してる。
ずっと同じこと繰り返してるし。もう。
悪いけど女の腐ったようなの、とかこう言うのを言うのだぞ。あーもー女々しい、うっとおし~。
「もー男なんてやだー」
「はいはいはい…」っとにもー、なんで誰もこないの。助けてくれ。
「あ、いっそさりちゃんよくない!?いい子だしーえへへ」
と言って抱きついてきたので「っだあああああ!!そんな情けない百合は認めん!百合舐めんなっ!!」と鏡花さんを突き飛ばしてしまった。は、と気づく鏡花さん。
「そんなこと言わないでよーうなぐさめてようー」なんでまた抱きついてくるんだ。
でも、なんかおかげで色々思い出した。そう、そうだったのだ。
あの時、私の初恋の先輩が亡くなったこと。そのことを繭子さんに伝えてレクイエムにと今回の舞台へと繋げようとしたこと。初恋の先輩はうーさんみたいなタイプの女の人だったこと。
な、なんてこと…!
と、ワナワナしながら鏡花さんに抱きつかれていると、そこに円城さんと渋谷くんが目を丸くして私たちのことを見ていた。
「あのな、いつまでもこないと思ってたら。今日は会場の下見だぞ」
「って言うか、何してんの。鏡花とち狂ったのか」
「!!」私はもう、なんと言うかもうなんとも言えずに鏡花さんと円城さんと渋谷くんを全員跳ね飛ばしてその場を駆け出した。
「え、さりちゃん!?」
「鏡花、お前なあ…!」
渋谷くんが怒ってる声が後ろから聞こえる。

これは後から聞いたことだけど、その時円城さんはこう言ってたそうだ。
「渋ちん、そっちじゃなくて、これ持って、ゴーだぞ」
「え。ああ、これですか。じゃあ。すみません」

ああ、とにかく。家に。家に帰ろう。私以外、誰もいないけど。
今変態とか寄ってきたらすぐさまバチコンだからな!寄ってくるんじゃねえぞ!
と人を威嚇するオーラは出しつつ、いきなり降り出してきた雨を受け、よろよろと家までなんとか帰り着いた。
涙でそろそろ付き出してきた街灯の光が動物のように目の中で跳ね上がる。
「私って、そんな人だったのか…」
この自分探しは、かなり最悪な部類に入る。
見つけてしまった自分の醜悪さと、切なさと弱さ。
確かに、女子の先輩に惹かれてしまったのは一時的な気の迷いだったのかもしれない。別に男の人が嫌いとかじゃ、なかったし。でも彼女は亡くなってしまった。もう会えない。それがずっと私を縛り付けて、彼女を絶対にしていたのだ。その弱さ。
うーさんにも申し訳ない。勝手に彼女を投影して、勝手に傷ついていたのだ。私は。
って、誰。部屋のドアをドンドンと叩く音。
「さりちゃん、いる?」
ドンドンと言う音の割には、声は控えめだった。
「渋谷くん?でも、今誰とも会いたくない…」
「あ、それじゃ、これ。これだけ渡すように頼まれたから。今日の朝繭子さんから届いてたんだ」
え、何?と少しだけ開いたドアの間から、紙の束が差し込まれる。
「台本…」
「じゃあ、俺はこれで」と彼はそのままさっていこうとするので私は思わず
「待って!ちょっとだけ、行くんならお願いが」
「ん、何?」
戸惑っている彼に、私はまた場違いなことを言った。まあ今日はもうだいぶおかしいから気にしない。
「お酒買ってきて」
「はああ!?」彼は聞いたこともないような素っ頓狂な声を出した。「さりちゃん、呑むの!?って言うか何呑むの!」
「いいから、私とちょっと飲みなさいっ!」
なんだかしばらく渋谷くんはえー、とかはあー、とか言ってたが私の剣幕に押されて「わかった、何にするの?」と聞いてきた。
「河内ワイン!」即答した私に、彼は…。
な、な、に、よ、その顔は…泣いている乙女を前にして、今財布と相談しましたわね!
「わかった、買ってくるけど、一日に一本とか開けないように」
「言っとくけど、不適切な関係とかなしだからね」
「あー、もー、うーん」
「うーんとか言ってないで早く買いに行けーーー!」
なんかもうこうなると私も鏡花さんと変わらない気がするけど、まあいいか、のも。
不適切な関係とかなし、と言う私が釘さした通り、彼は本当に不適切なことはせずにうーさんのばかーとか(でもうーさんに関する記述はこれ以外してないはずだ)とか先輩がそもそもね、とか訳のわからない私の話を適切に頷いて聞いてくれた。渋谷くん、君、本当は天使やろう。
そんなことを思いつつ酔いつぶれて寝て、朝起きてその繭子さんの台本を読んでみると。
渋谷くんの役柄はなんと言うか、夢先案内人的な、導き手の役割だった。
あらまあ。
繭子さんてば、神様と相談して脚本書いてるんじゃないでしょうね。
それにしても、ちょっと大胆すぎたかもしれない。変な噂とか立たないだろうな。
知らぬ間になんだかスッキリとして翌日。
なんか鏡花さんに変な絡まれ方をして傷ついて家に帰ったと言う幸せな誤解をしていた一同が学校に行くと色々声をかけてくれた。ああ、残念ながら本当のことは言えないんだけどね…。
渋谷くんにしても話は聞いてくれたけどさっぱり意味はわかってなかったに違いない。
「ああ、さりちゃん、来ないかと思った…!」
うーさんなんかもう、抱きついてきてくれたし。わーい、シロ先輩羨めー。
やっぱりうーさんいい匂いするわ、スハスハ。うん、なんか、開き直って変態ですわ、私。
もう自分がわかったから、自分らしく生きるよ。
照明のうーさんに、舞台で照らしてもらう。
そして鏡花さんは言っていた。
「うん、やっぱりごめんね、さりちゃん、気の迷いだわー。4回生の先輩かっこいいのいるんだわー」
あなたはずっとそうしていてください。そんなわけでこっちも安心した。
そんなわけで一件落着、の演劇サークル。数日後。
「ね、渋谷くん、本番まだかな」
「ずいぶん楽しみにしてるんだね」
渋谷くんとは、なんとなくいい友達を続けている。
嬉しいよ、と私は上機嫌で答える。
「今日の太陽はスポットライトみたいだから」
(終)
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