にざかな酒店

夏の魔獣1

というわけで、急にブラッディスト外伝。
話の種らしきものは去年あたりからあたためていたような気がしますが。夏場はしんどいですねえ。
という話ではなく、真面目な話です。
なぜだろう、心の何処かが空になったような、自分の感覚の何かが足らないという感覚。
妙に虚空の夢を見る。

あのグレイの事件からしばらくたち、世界的にだいぶ被害は被ったものの、村は何も変わりなくみんな日々を過ごしていた。はずだった。
なのに、この頃夜におかしなものが動いている気配がするという。
「また魔獣事件の関係じゃないだろうなあ。」俺の言葉にエルムが朝食でパンと一緒に出たサラダのレタスを突きつつ、いう。
「この辺、山の中でしかも村だから魔獣というよりはそこらの本当の獣な気もするけど。」
「なんか、俺の勘はそう言ってないんだよなあ」
「っていうか、だったらグレイからもらった魔王、ちょっと漏れてるとか」
「嫌な言い方するなよ。俺はこう見えてもちゃんと制御してるんだから」
「だから、魔王なんかもらうなっていうのよ」
って言ったってもろに成り行きなんだから仕方ない。
よのことはほとんど後からこうなりました、ってなもんだ。
「そういえば、マゼンダ遅くないか?」
マゼンダも、グレイの婚約者の墓参りから帰ってきて疲れたのか少しパターン、としていたがまたいつもの様子を取り戻しつつあるはずだった。
「あなたも朝遅くなってるから気づいてないだけで、姉さんもこの頃ちょっと朝遅いのよ。疲れてるんじゃない?」
んー、つっても、本当に寝覚め悪いからなあ。ロッドのこと笑えなくなってきたこの頃である。まあそのうち慣れるだろう。もともと狼だから普通に考えれば夜行性だし。
「で、今日はロッドのとこ行ってくるから、まあ適当にやってて」
「ああ、あの、お店やさんごっこな。麓の町に出張だっけ?行ってらっしゃい。」
そう、ロッドといえば、例の仕事もないそうでDIYが意外と得意だということで、家具屋でもしたらー、と言ったらまあそれだったら家にあるものとかで道具屋的なことをして、で、ついでに自分の作ったものも並べる、という方式にするか、まあでも実質商売はサラだな。あいつ愛想いいからいけるだろ、と本格的にやり出す方向になってきたので、サラがエルムに声をかけたのであった。
仲良くていいことである。
ロッドとエルムの仲がイマイチなのが気になるところだが、エルムとサラはもともと友達だし、うまくいくだろう。
っていうか、マゼンダの話に戻るが。グレイの婚約者の墓参りから帰ってきて、かー。変なもの連れて帰ってきてないだろうな。それも気になるところだ。

とりあえず、この頃の俺はこの村の本になりそうな文献を集めている。
さすが魔王退治の連中がそのまま現場に村を作ったような村なので文献というかそういうものは手に入るのだが、どれが何語かよくわからないし、結構持ってたおっちゃんたちもボケ入ってきてるし、うーんはっきり言ってこれは難航している。
でも、場所的に面白いし、ここにきたのも何かの縁で残せるものがあれば残したいというなんか妙なセンチメンタル入ってやり始めた仕事だ。
と、なんか気づくと本に囲まれて寝ていたらしい。
うと、と目をさますとなぜか急にマゼンダの顔があった。
「な、なんだ…?」
妙に熱っぽい眼差しで、なんというか、もろに押し倒されてるような体勢である。
姉さん、なんか急に、どうしましたか?
「エルス…。」
「っていうか、マゼンダ、熱、あるだろ。」
と、軽くおでこに手を当てると。
「うん、っていうか、暑い…。」へたん、と倒れてきた。
「暑気あたりかよ!!だったら普通に起こしてくれ、びっくりするから」
エルムが見たらめちゃめちゃ誤解するような状況ではあるが、ここは仕方がない。
「とりあえず、ちょっと退いて。はい、ちょっと散らばってるけど、ここ。」
と、なんとかベッドに誘導する。
「ごめん…」
「いいから休んでろって。夏だからエルム、氷は作りまくってたよな?」
「…そういえば、エルムは…?」
「こういう時に限って、お店やさんごっこだ。まあ一応俺がいるからな。で、これって、別に、その…」
「グレイとは、関係ないと思う…あの娘が、なんかしたのよ…」
「あの娘って?」
「……これ言ったら、私がおかしいって言われそうだけど…」
むごむご言ってるけど、今はなんか聞かない方が良さそうなので、いいから寝てろ、と台所へ氷を取りに向かった。
本当に暑気あたりだったら一日二日でなんとかなりそうなものだが、なんとなく、違う気がするのだ。

その夜も、獣の遠吠えがした。

参ったなあ。こういう時に、エルムもロッドもサラもいないのか。
せめてどっちかにしてほしいものだが…。
あの獣は、だれの獣だろう。あれ、この考え方、変か…?
まさかとは思うが。
俺の考えが正しければ、犠牲者は出してはならない。
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