にざかな酒店

とある演劇サークルの記 本番一週間前からの日記

反省しています。
ここまでラブコメにする気は無かった。オーアールゼット。
とりあえずやっと本番まで行きましたよー。
ってことで、次回からは語り手を変えて次の話に行こうかな、とか思案。

あ、割と重要な補足説明。
円城くん、「割と本番前なのにぼーっとしてる…?」ように見えるのは自分用の日記からの抜粋と振り返りだからです。本番前で忙しすぎて自分用の日記なんてまともにかけない状態なのを無理にそれだけで振り返ろうとしてるからなのでした。
むしろ彼の演出ノートは割とびっちりな書き込みですよ!
本人そのようなことは一言も言ってませんけどね。
ではそれでよろしく。
あ、追記でおまけの反省会を追加しました。うっかりちょっとだけのつもりだったのに長くなってしまいましたよ。
とある演劇サークルの記 本番一週間前からの日記。

あー、終わった、本番。やりきった虚脱感でいっぱいだ。
っていうかちょっとやらかしてしまったけどな。
とりあえず何も考えられない。ので、一週間前からの日記を見て振り返ろう。

その日、なんとなく通しをしていてちょっと俺は不満があった。
「うーん、ちょっと場転(場面転換)がうまくないよな。ちょっとダンスでも入れるか」
それを聞いていた渋ちんはダンスちょっとかじっていたのできらり、と目が光ったのである。
「ニトニトニート!みたいなちょっとしたやつで」
「あー、それならつまみ食いの話だからイトイトイート!って続けたらどうですか」
「ニータンニータン!ふう!あ、いいかもしれんな。ちょっと振付やって見てくれるか。」
やる気になった渋ちんはそれはそれは華麗なダンスを見せてくれた。が。
「…あのな、渋ちん。それ、かっこいいけどブレイクダンスは普通の人できんやろ。もうちょっと簡単な振り付けないか?」
「あー…そうですね、じゃあ…」
「ああ、でもこれ最終の場面転換でニート探偵の復活を匂わせるシーンあるだろ。あそこで使えるよな、多分」
その演出じゃなんか華麗に復活をするみたいだが、演劇のリアリティはあるようでないからいいか。
「そうですね!やった、俺の見せ場」
渋ちんは喜んでいる。が、そのあとの振り付けもなんかちょっとレベルが高かったので、繭子あたりがついていけるか不安だ。
「んー…振り付け、ねえ。いっぺんみんなにやらして見てできそうな人に教えてもらうか。」
と、みんなで適当に踊ったところーーー。
「おかしいな。なんで音響と照明がそんなにダンスの出来がいいんだ」
奴ら演技できないのに。
勿体無い。
音響音田三姉弟(双子の姉、響子、紀世子、と一つ下の弟良夫)が三姉弟のチームワークもあって見栄えがいいのは置いといて、照明だ照明。
あの伝説的演技できないうーさんがなぜそんなにダンス上手いんだ。
ほらほら、女子に人気になっているではないか。
「んーじゃあ、うーさんみんなにちょっと教えてくれるか。」
と、なったが思った通り繭子がちょっと遅れ気味。小夜香さんと藤村さんは役柄上の理由で逃げた。
「さりちゃんは最初から登場するからー、できれば下手なとこから始まってだんだんうまくなる演出ができたらいいんだけど」
渋ちん、無茶振り…!!
下手な演技が一番難しいんだぞ!?
健気に頑張るさりちゃん(実は結構踊れるので下手な演技が下手)ともともと下手な繭子たちを尻目に、あれ、今日これだけで一日終わりそうじゃないか?と危惧を覚える俺。
そしてその通りになった本番一週間前。
「照明のプランが進まないじゃないですか!!」
うーさんちょっとキレてた。シロさんが俺が一人で進めとくよ、と寂しい声。
にとにとにーと、いといといーと、にーたんにーたん、ふう!
の声はうーさんやシロさんや音響三姉弟も参加だ。無駄に豪華。

で、その、繭子がまだ足を引っ張ってるので時々うーさんに引っ張っていかれる。
ああ、いらんこと言うたな…。
音響の方に振り付け頼んでた方が良かったかもしらん。
うーさんは教え方上手いんだがなあ…。
しかし俺と繭子のシーンが進まんじゃないか。
なんか煮えきって俺は「繭子のダンスは藤村さんで代打!」(顔似すぎだし)と言ってしまった。
繭子は意地になって私がします、と怒っていた。

さらにアクシデント発生。
基礎練中に体育会系のサークルのやつに見つかって、「おいこら本田ー!お前有酸素運動息止まってんじゃねえか!」とさらに繭子のダメ出し。
って言うか、繭子って一応最後まで踊れてたのに(小夜香さんとか時々最後まで踊れない)基礎練になってなかったのか、むーん…。
やっぱり体育会系が見たらわかるんだな、そう言うの。
でもこれでまた繭子がさらわれていった。
だから、二人のシーンは。

で、なんか本番前なのに次回作の話で揉める鏡花とさりちゃん。
「あのね、恋文の技術の女の子が主人公版とかいいと思わん?いい加減にラブコメしたいしー」
「私、高校にやった演劇のリメイクがしたいです。2020年の夏休み、みたいな」
っていうかお前らは現実逃避か。それとも逆に肝が座っているのか。
「っていうか、みんなの好きなものちょっとずつやってオムニバスにしたら」
とは繭子の言葉。

あんまりそんなことばっかり起こるので、俺は繭子に「お前はピーチ姫か」といった。
カンカンになって怒られた。
繭子に失礼な夢を見た。

夢のせいか、体がやたらだるいと思ったら熱が出てた。って言うか、熱のせいだったのか、と思った。
ぼーっとしつつ、繭子と二つ三つ会話した。
繭子は何か言っていた。
「なあ、渋ちんー。俺繭子に膝枕なんかされてなかったよなあ」
「…円城さん、頭でも打ったんですか?」
本気で熱が出てるらしい。
俺はどうやら、どこかおかしい。

ここから二、三日記憶がない。
そして本番がきた。熱は下がったもののまだどっかおかしい。
でもなんとなく本番ってやつはなんとかなるもんで、話がコトコト進んでいく。
リアリティというよりも、箱庭の何かを思い出させる。
俺たちはある意味脚本のロボットなのだ。
そして、さりちゃんの両親の和解のシーン。
俺は思い余って繭子に抱きついてしまった、誰が何を思ったのか、そこで幕が降りてくる音がした。
だめだ、今動いたら、おかしいラストになってしまう。
小夜香さんの意味深なセリフは幕の前に小夜香さんが登場して放たれた。
エンド。

っていうか、幕閉じたの誰だよ!と後から俺は騒いだが、みんなにまあまあまあ、と諭されてしまった。なんかシロさんとか渋ちんあたりが怪しい気はするのだが。まあいい。
「でもいい終わりでしたよね」
「ねえ」と笑い合う、うーさんと小夜香さん。
「まあ若干さりちゃんの話というよりお父さんとお母さんの話が入りすぎてた気もするけど」
「でも家族の話だもの。家族って元は他人なんだってところから始まるから、そこがうまかったわね、円城さん」
なんか女子連から褒められると悪い気はしない。
「でもさりちゃんも良かったわよー」
「えへへ。元祖子供女優ですから」
「あ、そうだよ、このクラブ子供役できるのが二人しかいないよ、見た目的に」
「ほんとだ」
「渋ちんは?ちょっと無理?」
「一応声変わりしてるからなあー。」
この、箱庭だった空間にいたものたちが一気に生の人間に戻る、本番あとの瞬間が、俺は一番好きだ。人生で一番充実した金曜日を思わせる。
「あー、繭子。悪かったな」
「別に…悪くなんて、その」
「繭子にしては歯切れ悪いな。いいんだぞ、嫌だったらーーー」
と、そこまで言ったところでベリっと渋ちんとシロさんに引きずられた。
「そういうのは、後で二人でやっていただけません?まだ一応打ち上げあるから」
「なんだよ?」
「あー、円城さんわかってないんだなー」
なぜか、一同笑いに包まれる。
もう、と繭子が赤い顔でため息をついた。終。

本編で語られなかった本番うっかりエピソード、というか反省会

1、渋ちんが最後の場面転換の踊りをうっかり音楽の長さ以上に伸ばしてしまった(乗りすぎた)これは音響が気を利かせて音楽をちょっとだけリピートしてごまかした
2、鏡花がスポットのところまで行くまでの間からセリフを始めてしまった
3、さりちゃんが他のキャストの演技に見とれてしまって幕のところから出て行くのが遅くなった、途中変な間ができた
4、繭子がうっかり、えん…とか言いかけてしまった
5、小夜香さんの最後の出番がうっかりなくなりかけた(誰のせいだ、誰の)
6、藤村さんのダンスの振りが途中逆になった
7、照明のサスの色間違えてた 若干怪しい色のサスだった
8、音響がうっかりラスト変わったために曲間違えた のに誰も気づかない曲セレクトだった、というか元々ラストシーン用に二つ候補があったうちのもう一つと間違えたのだ。(これはなかなかミスなようなミスでないような高度なミスである)

以上、他にもちょこちょこありそうだったが反省会で本人の口から出たのはこれらのうっかりだった。本番の魔力である。
まあ、俺の「本番前に熱出した」は割とみんなから突っ込まれてしまったが。
いやいや、あれは四日前くらいだっただろ。ちゃんと演出も頑張ったし。
「まあみんな頑張ったな、お疲れさんー」
「わーい」
みんなビールではなくジュースとお菓子(それも部室)で乾杯である。
だってこのサークル、微妙に貧乏なんだもん…。
人によっては「学生はバイトしてたら本業できないから!」ってことでバイトも許してもらえてないのがいるし。割と女子連はそうなのである…。両親が金持ちで結構なことではあるが。
「本番終わると帰ってきた感があるよなー」
「ほんとほんと。意外と本番の時って平静な自分と役の自分との解離に苦しむっす」
「あの時間の流れは不思議だよなー。あるよな、本番時間」
「なのに渋谷くんてば踊りすぎたんだ」
とシロさんは笑う。まあ、あそこ照明もちょっと苦労してフォローしてたもんな。
「なんか絶対一つはやらかすわよねー…」
「まあでも小夜香さんが一番のハプニング巻き込まれ?」
さりちゃんがお菓子をつまみつつ、小夜香さんに話を振る。
「いや、別に私の出番いらなかった気もするけども」
控えめに小夜香さんはジュースに口をつけた。
「えー、でもラストの語り良かったよ?「この二人からもう一つ新たな不思議が生まれようとしています。この二人と、この親子関係からもう一つの世界がつながれようとしていますそしてそれは…次の機会に、また語られることでしょう」あれってニート探偵の誕生の予告だよね」
「まあでも次はやるよ、ラブコメを!!」
バーン、とバックに花を咲かせつつ?鏡花が言う。
みんなは知らないふりをするのに必死であった。
「なんでー、ラブコメー、ラブコメー」
ぷうぷうと怒りつつ、両手を振る。
「あのー、ガチのラブコメはちょっと…ねえ」
「小夜香さんにヒロインやれなんて言ってないじゃないー」
「あら?…えっと、自意識過剰かしら」…とほんのりと赤くなる小夜香さんに鏡花は「そんなに可愛くしてもヒロイン役はやらないわよー」とツッコミを入れる。
「待て待て待て、なんでお前が脚本書くこと前提なんだ」と慌てて渋ちんがさらにツッコミを入れた。
話が全くわかってないシロさんとうーさんは「鏡花さんラブコメ書くの?どんなの?」と聞く。
「いやいやいや、今鏡花の脚本出してきてもしゃーないから、シロさん、あとで説明するから」
と、渋ちんが言った。鏡花が指を舐め舐めしながら言う。
「あのねー、今ブログ用に描いてるのはメイド探偵」
「メイド刑事か!?パクリじゃねえか」
「でも女装」ニンマリ。と笑う鏡花。
「おいいい!!」
「ほらな、こんなこと言うからな、こいつ」
「うーん、キャラは立ってそうだけど、なんと言うか…ちょっと…濃いなあ」
困った顔で、シロさん。その横であんまりうーさんがわかってなさそう。
「ええっと、お屋敷とか出てくるのかな?」
「…メイド喫茶だと思うなあ…」
「事件が起こるならお屋敷じゃないですか?先輩」
いやあ、そのー…。説明が難しくて面倒臭い。
やっぱり鏡花は鏡花だ。近くの小夜香さんと藤村さんは知らないうちに小夜香さんの彼氏の話になっている模様。
「ヒロイン役なんかやったら彼がうるさいわよ、文月さん」
「セリフ多そうだし困るしね。どう?また繭子さんヒロイン役やったら」
「私!?またってどう言うこと!?」
「案外本当にすごい少女漫画が出来上がるかもよ?」
「やめてよ、恥ずかしい…」
「って言うか。鏡花の脚本なんか採用しませんからな?」と、渋ちんが変な日本語になってる。
「万が一円城さんが味をしめて少女漫画採用するって言ったら俺やめるから」
…その言い方もなんだかなあ。
「でもなんだっけ?次はさりちゃんがリクエストあるんだろ。それにするんじゃないのか」
「「2020年の夏休み」ですね。あの夏に、何があったか的な青春もので」
「それでいきましょう、それ、面白そうだわ。ちょっと「未来の」夏休みってことでちょっとファンタジー入れられそうだし」
「なんだかんだ言って女子はファンタジー好きだよなー」
「オムニバスにするんじゃなかったのー」
「ま、どのみちまた脚本は繭子だし」
さらっと言ったセリフに全員一瞬停止した。
「え?なんかおかしいこと、言ったか?」
「いやいや、なんもなんも」「えーえ、何も何も」
「みんな、なんかおかしいぞ」
「本当、おかしいわよ、みんなーそこはオムニバスで私も書くのよ」
がくっ。と、そのセリフにみんながくずおれた。
渋ちんがか細い声で、「止めてください円城さん…」と言った。終わり。
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