前作で喋らなかったのは役柄と同じような人格が読者に投影されているだろうな、っていうのを計算してそうしたんですが、まあ二章ではそれをトントンと潰していく効果を期待しております。
そんなわけで続きでどうぞ。
とある演劇サークルの記 第二章 少女漫画に疲れた私
私は後(うしろ)さり。
この後って苗字を背負っただけで本当に後ろ向きみたいで私はすごく嫌だ。
いやだ、と言っても苗字や名前は生まれた時から自分についてるもので、嫌でも自分の体の一部のような気がしている。だから、余計に嫌なのだけども。
嫌なのだから、できるだけいつも前向きに振舞ってきた。
時々、「いい子ちゃんぶりっ子」とかそんなことも言われるけども、呪いを打ち消すにはそうするしかなかったのだ、とそう思ってやってきた。
なるべく明るく、人の気に触ることは言わないように。
そう思ってやってきたのに、なんだかそれが最近崩れかけてるような気がする。
こないだは「うーさんが遅刻多い」なんて思わず、シロ先輩にチクっちゃったし。
その話でうやむやのうちにうーさんはカモミールティーもらってたりして。なんかちくっと。それ違うでしょう、みたいな。いら、とかむか、とか封印してきたはずの感情が頭をもたげたり。
それと、繭子さんはおさげを解いて眼鏡を外すと実はかなり可愛い少女漫画体質の女だ。
こっちにも、かなりのイライラムカムカ。
少女漫画なんて、漫画だけのものではないの。
いや、それもちゃんとその場面を見せて意外と可愛い、と言われるならまだ納得する。
そのおさげも眼鏡もとってないのに、実は意外と可愛いことに気づかれるなんて。ものすごく納得がいかない展開がこの間発動した。
「それにしてもさ、円城くんって繭子さんと相談ばっかりして、やらしくなーい?部室でいけないことしてたりするんじゃないのー」
と、鏡花さんが昼の休憩時間にいきなりのネタフリをかました。
ああ、この人こういうことすぐにいうからなあ…。
「部室でいけないことって、鏡花さん。それしてたら多分匂いでわかると思うよ。」
静かないい声で、シロ先輩。いい声の割に言ってるセリフが随分とあれだ。
「そおかなあー、わかんないよー?」
でも、なんかちょっと鏡花さんちょっと頑張れ。的な気持ちが。
「ニート探偵終わってからあの子たちずっといい雰囲気じゃん」
と、そこに昼休憩にご飯を買いに行ってた円城さんが戻ってくる。
「ん?どうしたんだ、みんな。変な顔して」
シロさんはだいぶ気まずそうな顔をしてたが、鏡花さんはグイグイ、と。
「円城くんってさー(略)」
「ええ?まあ、繭子がいいって言えばそういう展開もあるかも知らんけどな…でもおいそれとは手を出せんだろ。社会的なこととか、相手の人生とか思うとさ」
紅い顔で、ちょっとお茶を飲みつつごまかしつつ彼は言った。
でた、理想論。
そんなこと言ってる間に繭子さんはしょうもない男に寝取られて(以下略)
あ、あれっ…?
私、なんか思ってることが、キャラ違う!!
「そりゃそうだよ。やるのは案外簡単だろうけど、相手と結果があることだからね。」
と、シロさんも理想論の肩を持つ。
「えー?」
と鏡花さんは不満そう。
「っていうか、昼間にする話題かよ。とは思うんだけどな。あの、ヤリサーとかどう思う」
「円城さん!?」
この展開にはほぼ全員がどうしちゃったの、という声をあげた。特に渋谷くんが一番声が大きかった。何をお昼ご飯を悩んでいるのか、まだ繭子さんは帰ってきていない。
「あれだろ。そりゃそんな卑怯なことするなんて、男として許せない、よな?」
いきなりのネタフリに、まあ、とか、うん、とかみんな微妙な展開。
「だけどあれってそんな卑怯なことをする下地っていうか、そんなことする男の中には「所詮女なんてそんなもん」っていう思想があると思うんだ、俺は。つまり「所詮女なんて」の思想を女も植え付けてるんだよ。そういうことだと思う」
「はあ、つまり、そういう世の中を作ってるのは男だけじゃないってことですか」
「まあそういうことだろ?そういう卑怯なことをする男にも母親はいるんだぞ」
はああ、とシロ先輩がため息に似た相槌を打った。
さすが円城さん、と言わんばかりに。
「だから、繭子はそういうのとは逆っていうか、その、まあ…」
ゴニョゴニョになっているけど、彼は「俺にとって大切な女だからな」と続けた。
どうしよう、この少女漫画は。
っていうかなんでそう思われるような女が私ではないわけ?
私だって、私なりに一生懸命頑張ってるし、それなりに可愛くないわけでもないし、それなりにいい女であると思う。
と、そこにくだんの繭子さんと、そう言えばいないなと思ってたらうーさんと音響三姉弟も一緒に帰ってきた。
「あら、どうしたのみんな。」
「ああ、ええっと…」と、シロ先輩がどうにか場をつくろうとする。
「円城くんが繭子さん大切なんだってーよかったね、ヒュー」
と、鏡花さんが美味しいまとめの部分だけ言ってからかう方にあっさりと流れた。
「な、何言ってるの!?円城くんの、ばかっ」
軽くグーでパンチされて笑う(しかない)円城さん。
この理想論と、展開。いらいらする。
「あ、え、えと、えとね。さりちゃん、この間次回作の話してなかったっけ」
なんとか話題を転換しようと思った繭子さんが私にそんな話を振る。
「ああ、えっと、夏休み、ですか?」
「うんそう。やっぱり東京オリンピックの季節から万博を振り返るっていうか、そういう想像を広げていく方向に持って行こうと思って。ちょっとさりちゃんも今までとは違う感じの役に挑戦してもらおうと思うんだけど」
「今までと違う感じ、とは?」
「うん、ちょっと後ろ向きなんだけどね…今回もさりちゃんヒロインで」
後ろ向き。また、後ろ向きか。でもヒロイン。
今回も私のヒロインということは…ならば、舞台の上は私に文句がない。
だったら、もう少しこの状態に付き合えるだろう。
私、頑張る。
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